ベートーヴェンの三大ソナタというと「悲愴ソナタ」「月光ソナタ」「熱情ソナタ」です。
どの曲も大変素晴らしく、評価もされていて有名です。
今回は、ベートーヴェンソナタの「熱情」にスポットライトを当てて紹介していきたいと思います!
さて、熱情ソナタの難易度というとレベルとしてはかなり高いもの。
オクターブも多く出てくることからある程度指が発達している中高校生以上でないと弾くのは難しいでしょう。
また、教則本はショパンのエチュードあたりです。
ツェルニーはすくなくとも40番の後半くらいです。
特に三楽章の難易度が高いためです!
各楽章だけをピックアップして弾くのもよいですがやはりこの曲の良さを実感するためにはぜひとも全楽章弾いてください!
全部弾くとだいたい25分弱くらいなので結構大変ですが。。。(笑)
大曲なので一曲通して弾けるとレパートリーとしても融通が利きますよ!
参考動画はこちら!
ベートーヴェンと熱情ソナタ
作曲者ルートヴィッヒ・ヴァン・ベートーヴェンは、1770年にドイツのボンで生まれました。おもに活動していたのは当時音楽が大変盛んで有名な音楽家や愛好家たちが集まっていたウィーン。
ベートーヴェンが作曲したピアノソナタが32曲あるうちの23番目にあたるソナタです!
中期の作品の最高傑作といってもよいでしょう。
作曲された年は、1804年から1805年にかけてです。
ベートーヴェンの時代の初期のころは、まだピアノが完全に今の状態まで出来上がっていない「ピアノフォルテ」でした。
それに対して中期になると今のピアノの形が完成され、音域も広がりました。
この「熱情」は、そんな鍵盤の多さ、十分な音域を最大限に生かした曲です。
ちなみに、ベートーヴェンが「熱情」と名付けたわけではないんですね。
ベートーヴェンの死後に、出版社によってつけられたそうです!
きっと、最新のピアノをフルに活用され、燃えるような感情を表す曲から「熱情」と名付けられたのでしょう。
弾くときは、そのような背景も知っておくといいですね!
また、ベートーヴェンは耳が聞こえなかったというのは有名な話。
それでは、この「熱情」が作曲された当時はどうだったのでしょうか?
「こんなにもすばらしい曲、耳が聞こえない状態でなんて無理、、、?」と思うかもしれませんが、もうすでに病気の悪化が進んでいたころなんです。
それどころか、作曲の二年前に「ハイリゲンシュタットの遺書」を書いています。
日に日に悪化していく病気に絶望を感じていたベートーヴェンですが、それを乗り越えて作曲していく彼の思いや感情がつまった一曲というのが背景からも分かりますね。
のち、かの有名な「交響曲第五番《運命》」が作られるわけですが、どこかそれと似たような箇所が多く出てきます。
激しいだけではない、ベートーヴェンにしか出せない感情が音に出ている部分がたくさんあると思います。(特に1楽章の冒頭や3楽章の冒頭)
他の作曲家には出すことのできないベートーヴェンの音楽性もあわせて研究してみるとより面白いかもしれません!
曲の構成は
・一楽章 Allegro assai 八分の十二拍子 へ短調 ソナタ形式
・二楽章 Andante con moto 四分の二拍子 変二短調 変奏曲形式
・三楽章 Allegro ma non troppo-Presto 四分の二拍子 へ短調 ソナタ形式
のようになっています。
☆第一楽章の弾き方
「熱情」の一楽章は、聴衆を驚かせることができたらよいです。始まりは低い低音部から。
しかもピアニッシモで始まっています。
静かにおそるおそる、「何かが始まる?!」という予感を感じさせながら奏しましょう。
この冒頭は一楽章の第一主題になります。
しばらくの静寂の後、いきなり高音からフォルテで激しく下降していきます。(動画0:55~)
この対比をうまく弾きこなすことで、曲の良さが出てきます!
そしてこちらは第二主題です。(動画1:47~)
この主題は重要で、クライマックスにベートーヴェンらしい和声に変化して雰囲気が変わる主題です。
右が主導していくカ所になるので、よーく音楽にのって弾いてくださいね。
左が和音になってどうしても大きくなってしまうので、裏拍が飛び出さないように左手だけの練習も必ずしましょう!
第三主題がこちら!!(動画2:28~)
16分音符のオンパレード!(笑)
得意不得意が分かれる部分ですね。
ここはリズム練習に徹しましょう。
あくまでメロディーに耳を傾けることを忘れないでください。
「♭ラ ♭ラ♭ド♭シ♭ラ ♭ラ ♭ラ♭ド♭シ♭ラ ♭ファ ♭ファ♭ラ♭ソ♭ファ・・」
がメロディーラインになります。
右手だけでこのメロディーラインがうまく弾けるようになったら、次は左手も加えてみましょう。
左手が加わることで全体のバランスを崩してしまうことがあるので、ゆっくりで良いので一音一音しっかり耳で聴きながらバランスを調節してください。
これができたら、だんだんテンポアップしていってくださいね!
参考までに先ほどチラッとお話させていただいた第二主題のクライマックスの部分を貼っておきます!
Adagioのところからです。(動画9:48~)
臨時記号が増えて、和声が変わっているのが分かりますね。
ちなみに、わたしが一楽章で最も大好きな部分です!
ここに来ると、「あ~!8分の12拍子で大変だったけどやっててよかったぁぁ」という気持ちになります(笑)
一楽章では、大きく分けて三つの主題が転調を繰り返して出てきます。
完全なソナタ形式でできていますので、主題を感じながら弾いていってください!
それでは、二楽章へまいりましょう。
☆第二楽章の弾き方
これは二楽章の冒頭部分です。(動画10:41~)
二楽章は、変奏曲のようなつくりになっています。
テーマは上の8小節です!
テンポはアンダンテ。
「歩くような速さで」ですね。
歌いすぎるあまりテンポがゆっくりになってしまうのはNG。
眠くなってきます(笑)
弾いているほうも聴いているほうも(笑)
ある程度速さがあるほうが心地よいと思います。
また、四分の二拍子です。
はじめのうちは、1ト2トという拍を心の中で数えながら奏するとテンポがぶれずに弾くことができます。
わたしがこの曲を弾いたときに、冒頭のテンポのぶれについてわたしも先生にかなり口をすっぱくして言われました。
意外とテンポがぶれずに演奏するのが難しいところなので気をつけましょう。
さて、このテーマはのちにどのように変化するのでしょうか。
こうなります!!
メロディー部分が16分音符に変化しました。(動画12:06~)
この16分音符の中に大切な旋律が出てきます。
楽譜が手元にあれば、メロディーラインは必ず丸をつけて大切に弾くようにしてくださいね。
ヒントは一小節目で大切なのは「♭ラ♭ラ♭シ」
二小節目は「♭ラ♭ラ♭ラ♭シ」
ここは冒頭のテーマもふまえて考えてみてください!
曲が進むと、さらにテーマも変化します。
右手の16分音符がなくなり、再びメロディーを奏します。(動画12:40~)
その代わり、今度は左手が16分音符!
ここではしっかりと左手の練習をする必要があります。
強弱記号のsfでは、左手も音がしっかり響くように弾いてあげてください。
どんどん音域はあがっていき、イメージとしてはキラキラしているような雰囲気が出せると良いですね。
途中、フォルティッシモが出てくるところもあります。
そういったところでは、キラキラした華やかさが表現できるとすばらしいです。
そしてあがるところまであがったあとは一気に下降!(動画13:39~)
さあ、下降した先はどうなっているでしょうか。。。
冒頭のテーマに戻っていますね。
ここは、最初のテンポと必ず合わせましょう。
その前でかなり盛り上がるので、どうしても冒頭よりも速く弾いてしまう人がいます。
こうして二楽章が終わりらしく終わ、、、、、、、、らないんです(笑)
もう終わり3小節前くらいになったら気持ちは3楽章!!
終止だとおもったら、まさかの偽終止がきますからね。
フェルマータがついている二つの音はたっぷりと弾きます。
そして二つ目のフェルマータはフォルティッシモです。
完全に3楽章の始まりの踏み込む音なので、二楽章のきらきらしたイメージとは完全におさらばして雰囲気をガラリと変えましょう。
それでは、このタイトル「熱情」をあらわした大人気の三楽章へいきましょう。
☆第三楽章の弾き方
三楽章に入ると、とっても印象的な和音が出てきます。(動画14:46~)ここは、感情が爆発するような激しさを感じながら弾きます。
しかし、その後はすぐにPになっています。
この差がくっきりと出てくると絶妙ですね!
コツは5小節目にある八分休符。
ここの半拍の休みの間は、スッと息を吸って気持ちを瞬時に切り換えられるチャンスです。
そしてベートーヴェンらしさが出ているのが次のところです。(動画15:16~)
①
②
③
3回の転調を繰り返しながら、音域をあげていきます。
ここまでなら、ベートーヴェン以外の作曲家も作曲法として使うでしょう。
が、しかし。
ベートーヴェンはまだまだやっちゃうわけです(笑)
①’
②‘
③’
今度は右と左手とメロディーを入れ替えて出してきました!
何回も繰り返しやってくるあたりがベートーヴェンらしさ全開です(笑)
良い意味で、執拗・しぶとい。
悪い意味でくどい(笑)
わたしは好きですけどね!!(笑)
何度も繰り返されるこのフレーズは後々再び登場します。
荒波のように16分音符を表現しましょう。
基本的にずっと熱情的な演奏で構わないのですが、この曲中で一度だけ落ち着くような箇所があります。
それがこちら!(動画17:19~)
フォルティッシモで激しさが達したところで一小節間の休みを経てピアノに移り変わります。
やってしまいがちなのは、リット(ゆっくり)してしまうこと。
これはやってはいけないんです。
いきなりピアノになって気分も「落ち着きたい!」というのはわかるのですが、ゆっくりしなさいという指示はどこにも書かれていません。
あくまで、16分音符が8分音符に変わり、8分音符が2分音符に変わるという音符の長さで落ち着きを表現してくださいね。
むしろ、「落ち着く」というよりは「吹き上げる熱の前触れ」のような雰囲気かもしれません。
嵐の前の静けさを感じて弾いてください!
そして最後のコーダ。(動画19:21~)
ここはこの曲での腕の見せ所!!!
ここを失敗しては他がどんなにうまくいっても良い印象を与えることはできません。
プレストに入る前に「ピューアレグロ」とありますので、プレストに入る2小節前あたりではある程度テンポが定まっているとよいですね。
そして、たくさんの連符に疲れているとは思いますが最後の速さは妥協しないように!!
これでもか!というくらい速くしちゃってOKです(笑)
もちろん、指がまわらなかったら意味がないのですが、、、
とにかく指がまわるように猛練習する箇所です!
頑張ってください。
そして何度も出てくるこの左手。
ここは、感情がすべて噴き出したかのようにとにかく思いっきりこの上ない激しさで弾きましょう。
右より出してもらって構いません!
ただ、激しさの余り八分休符が長すぎたり短すぎたりしないようにだけ気をつけてください。
おわりに
紹介してきた「熱情」ですが、ベートーヴェンソナタの中でも最高傑作のひとつです。わたしも幼いころあこがれた曲でした。
速いしかっこいいし!!
一般ウケから、ツウの人まで万人受けする曲だと思うので是非全楽章マスターしてくださいね。
ちなみに、わたしは中1の時に三楽章だけを弾きました。
三楽章弾くだけでもくたくたで、練習終わりは汗だくだったのを思い出します。
その当時は、とにかくハノンみたいにリズム練習をして速く弾くことを目標にしていましたが、次にこの曲に取り組んだのは大学の時。
その時は全楽章取り組んだわけですが、全楽章取り組むことでこの曲そのものの良さや特徴が見えてきました。
一楽章と二楽章があるからこその「熱情」というタイトルだということも。
激しさだけを見据えて弾くのにはもったいないので是非余裕があれば内容も深く学んでいただけたら嬉しいです!
その時に文書などで知った心に響くその思いが、曲で表現できると良いですね!
それでは頑張ってください!
「熱情ソナタ」の無料楽譜
- IMSLP(楽譜リンク)
本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1862年から1890年の間にブライトコプフ・ウント・ヘルテル社から出版されたパブリックドメインの楽譜です。
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