ショパンの中でも常に人気投票上位を占めるのはバラード集でしょう。
ショパンは生涯の中でバラードを全4曲作曲しました。
今回は、その難易度とそれぞれの曲の弾き方を徹底解説していこうと思います!

それではまず、気になる難易度順位の発表です!

☆     バラード第2番 ヘ長調 Op.38
☆☆    バラード第3番 変イ長調 Op.47
☆☆☆   バラード第1番 ト短調 Op.23
☆☆☆☆☆ バラード第4番 ヘ短調 Op.52


わたしなりの体感なので、あくまで参考にしてくださいね。

人によって「難しい」と感じる点は違うので順位が変わることはもちろんありますが、おそらく4番は、一番分数も長く難しいと感じるでしょう。☆も一つ多めにつけてあります。


この曲を弾くには、教則本でいうとツェルニー練習曲50番に入っていないと難しいかもしれません。

ツェルニー30番でやろうとすると、譜読みはできても盛り上がるところでテンポアップができなかったり、オクターブの続くfで腕が限界になり、力強い音が持続できなくなってしまう可能性が非常に高いのです。

少なくともツェルニー40番の終盤に達している必要があるでしょう。
また、指の広がり等も考慮すると小学生(12歳以下)でこの曲を弾くのはとってもとっても難しいのです

そんな難しいと言われるショパンのバラード集ですが中身は魅力で溢れています。
「この曲を挑戦してみるぞ!」という方は各曲の魅力をしっかりと感じつつ弾いてみてくださいね!



■ 目次

バラード第1番ト短調op.23の弾き方

参考音源はこちら

最も人気のあるバラード?!

ショパン「バラード第1番ト短調op.23」ピアノ楽譜1
この何かが始まる予感を思わせる冒頭。
一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?

音楽的に歌う部分もあれば、激しくダイナミックにきかせる部分もある。
最後なんてとってもかっこいい!!!!
弾いていてとても気持ちよくなるこの作品は、バラードの中でも最も高い人気を誇っています!
ちなみにわたしもこの曲はとっても好きです!


ショパン「バラード第1番ト短調op.23」ピアノ楽譜2 (動画0:36~)

さて、まずこの曲の冒頭は先ほどの写真のようにLargoで始まります。
8小節ののち、上の楽譜のようなModerateに変化し拍子も四分の六拍子になります。
このとき重要なのはペダルの使い方!

右手の付点二分音符のメロディーをじゃましないように、四分音符を弾くわけですがこのときにペダルをべた踏みしてしまうとせっかくのメロディーラインがきれいに響かなくなってしまうんです。

なので、ペダルはスタッカートがついている9小節目からは踏まずに手でレガートするのが良いでしょう。

我慢、、、我慢、、、そして、、、!

どうしても盛り上がってくるとテンポも速くしたいし、fにもしたくなりますよね。
けれど、盛り上がり方が徐々に徐々にやってくるような曲では早まるのはNGです!

たとえばこの部分。

ショパン「バラード第1番ト短調op.23」ピアノ楽譜3 (動画2:00~)

36小節目です。
ここから、いよいよ盛り上がりのテーマに向って動き始める一歩。
けれど、動きが出てきたからと言って「よし!変わった!テンポ上げてくぞ~」ではありません。
何事もないかのように始まるのです。
その後も何もないかのように、、、、
そして聴き手が気付かないうちにテンポが上がっているように聴かせるのがポイント!


ショパン「バラード第1番ト短調op.23」ピアノ楽譜4 (動画2:10~)

今までの四分音符の動きが、やがてメロディーラインが二分音符に変化しています。
agitato(せきこんで)と表示がありますね。
ここで初めて動きをみせてもOK!


ショパン「バラード第1番ト短調op.23」ピアノ楽譜5 (動画2:16~)

そしていよいよ爆発!
sempre piu mossoでどんどん動きを出していってください。

あとはあのかっこいいテーマに入るのみ!
そのテーマは自信を持って自由にはばたくように表現してみてください。

拍の取り方もこの曲の聴きどころ

先ほどは前半部分のテンポの揺れについてお話ししました。
この曲の聴きどころのひとつにはテンポのほかにもう一つあるんですよ!
それは拍です!

いろいろな曲を弾いているとわかると思いますが、大抵は強拍は小節の頭に、弱拍はそれ以外といったイメージなのではないでしょうか?

しかしバラード1番の後半の楽譜を見てみると、わざと拍を変えるようにショパンはアクセントの位置を書いています。


ショパン「バラード第1番ト短調op.23」ピアノ楽譜6 (動画7:40~)

四分の四拍子の際に、普段は絶対に強拍にはしないであろう2拍目と4拍目です。

ここでのアクセントでより曲の動きを出すことができます。
ただし間違ってはならないのはペダル。
ペダルの位置を見てください。
ペダルは1拍目(拍頭)にきていますね!

アクセントの位置とペダルの場所をこうすることでダイナミックさと、曲想の動きをつけることができるんです!

バラード第1番のまとめ

とってもかっこよくて盛り上がるバラード1番!
曲の良さを生かすためには先ほどお話した二つの点に気をつけて練習してみてくださいね。

①テンポの変化は徐々に。気分ばかり上がりすぎて一気に速めたりしないこと。
②アクセントの位置をよく確認する!拍頭に強拍がくるとは限らない!

技術も曲想も難しいですが、自分も聴いている人ものめりこんでしまう魅力いっぱいの曲です!
是非がんばって練習して完成させてみてくださいね!

バラード第2番ヘ長調op.38の弾き方

参考音源はこちら


バラード2番はバラードの中では難易度が一番低いという結果でした!
他のバラードよりはやりやすい作品だと思うので、バラード初心者でしたらぜひ2番からやってみてください!

もちろん、簡単というわけでははくそれなりに技術も表現力もいるのでやりがいはとーーーってもありますよ!


さて、この作品を簡単にいいますと、「移り変わりの激しい気性」でしょうか。
とにかく、いきなり静かに始まったかと思いきや激しくなる。
激しさを増したかと思えばまた静寂に、、、

このコントラストが魅力でもあるのがバラ2なんです!

Presto con fuocoに注目!!!

一回目
ショパン「バラード第2番ヘ長調op.38」ピアノ楽譜1 (動画2:20~)

二回目
ショパン「バラード第2番ヘ長調op.38」ピアノ楽譜2 (動画5:28~)

Presto con fuocoと書かれているのは2回出てきます。

何も気にせずに聴いていたならきっと同じに聞こえるかもしれませんね。
右手のメロディーは同じ調で同じ音から始まりますから!

でも、注目すべき点は左手です。
一回目はラミシド。
二回目はラレミファ。微妙に変わっているんです!!!
わたしも弾く前まではまったく左の音の変化に気づきませんでした。


なぜ、ここで微妙な変化をショパンがつけたのか、ですが、、、
こちらの楽譜を見てください。

ショパン「バラード第2番ヘ長調op.38」ピアノ楽譜3 (動画6:08~)

ずっと♭1つで書かれていた楽譜が最後にきてイ短調に変わっています。
しかもこのAgitatoから終りまでずっとなぜかイ短調!

実はショパンはこのイ短調に変えるために少しずつ少しずつ変化をさせてきていたんです。
いくつも出てくる静かな主題と激しい主題は回を重ねるたびに少しずつ変化していることを把握しておいてくださいね。

そして、変化している音やリズムがあったら少しそこに気を配りながら弾いてみてください!

中間部をうまく弾く秘訣とは

あなたはショパンのエチュードをどのくらい進んでいるでしょうか?
全24曲すべて弾いた!というひとはいいのですがまだ数曲、、というひとにぜひおすすめの練習曲があります。
それは、op.10-7。

バラード2番のPresto con fuocoをうまく弾く練習としてとっても効果的なんです。
指は速く動かさなきゃいけないし、強弱もあるしでやることがいっぱいのPresto

もし、なかなか思うように弾けない人は、予備練習としてエチュードをやってみてはいかがでしょうか?

意外とそれですんなり弾ける場合もあります!
ショパンのエチュードと、バラードの併用練習はとっても力になりますよ。

「時間がなくてちょっと、、、」という人はPresto con fuocoはとにかくゆっくりから始めましょう。
かっこいいからといっていきなり速く練習しないようにだけ気をつけてくださいね!

バラード第2番のまとめ

一番簡単といっても、変化を上手につけていかなければならないのがバラ2。
弾くときは以下のポイントをおさえてくださいね!


①同じだと思う旋律でも多少変化しているかも?!変化を見逃さないように!
②Presto con fuocoはこの曲の難所。ほかのところ以上にゆっくりの練習を大切にしよう!


緩急をつけた聴いていてハッとするような演奏を目指して頑張ってくださいね!

バラード第3番変イ長調op.47の弾き方

参考音源はこちら


バラードの中で最も歌う曲で、繊細さが求められているといわれているのがこのバラード3番です。
わたしは、一番最初にこのバラードを弾きました。
しかも、受験の曲で!(笑)

「こんな大人っぽい曲、よく受験で選んだな~」と今では思っていますが、当時はこの曲の美しさに大変魅力を感じ、先生の反対を押し切って練習していました(笑)

今思えば、3番はバラードの中で唯一の物語性がある曲で、開放的な軽やかさはあるものの、内に秘めた内容は大人の曲でした。
それを中学生で弾くのは技術的には間に合っても、音楽の内面的なものでは不十分さがあったのかもしれません。

旋律の長さは、、、、?

旋律の長さに着目してみましょう。
八分の六拍子ですが細かく二つにとるのではなく、大きなまとまりで考えます。
この曲では、ほとんどが4小節ひとまとまりとして考えるのがベターでしょう。

次の楽譜は冒頭です。

ショパン「バラード第3番変イ長調op.47」ピアノ楽譜
ここまでで一つです。
これ以降も4小節ひと組で考えていってみてください。

よくやってしまいがちなのは「ミーファソラシドーファミー」のドとファの間に一息いれてしまうこと!
これは音楽がとまってしまうのでやらないように気をつけてくださいね。
それから、次も「ファミー」のあとにメロディーが左手に移り変わる個所。
ここでも途切れて弾いてしまうひとがいるのですが、一息でいってください。

息の使い方が大切な曲でもあります!
この曲はまるで歌曲のように心の中で歌いながら弾くとより美しく弾けるかもしれません。
その際は、息つぎに気をつけながら心の中で歌ってくださいね。

美しい曲。でも実は恐ろしい物語。

ショパンはアダム・ミツキェヴィチの詩を参考にしてバラードを作ったといわれています。
その中でもこの3番の物語は一番有名です!

とっても美しく、歌う曲なので「さぞかし物語もきれいなんだろうなぁ」と思いますよね?!
でも、実はそうでもない、、、というより結構こわいんです!

しかしテーマは愛。
愛は愛でも純愛ではなく、ちょっぴり愚かな愛なんです。


ある騎士が湖にいたところ、とっても奇麗で美しい娘に出会いました。
二人は惹かれあい、永遠の愛を誓います。
将来の仲を誓い合った二人ですが、そこへまたもや別の娘が現れるのです。
その娘もまた美しく、騎士はその誘惑に負けそうになります。

そしてその娘の誘惑に負けてしまった騎士は、その女性に湖の中に引きずり込まれてしまいます。
そして湖の中で騎士が見たものとは、、、、、!!

最初に永遠の愛を誓ったはずの娘でした。

そう、湖で出会った二人の娘は同一人物であり、水の精「オンディーヌ」だったのです。
そうしてそのまま騎士は溺死してしまい、物語は幕をとじます。


どうでしょう?
なかなかのインパクト大な物語ですよね。
こうした物語の背景を知ってから弾くと、騎士と娘の会話のようにきこえるフレーズも多々あるので探してみてくださいね。

バラード第3番のまとめ

とても美しい曲でわたしはこの曲が大好きです!
より美しく弾くポイントをまとめます。


①フレーズを確認して細かく拍をとらないようにする!
②物語を知った上で、会話のように(問いと答えなど)弾いて表現する!

バラード第4番へ短調op.52の弾き方

参考音源はこちら


この曲は、華やかさでいえば1番と似ている部分がありますが、内面的な深い情や感情の山を考えると4曲のバラードの中での最高傑作だと言われています。

わたしも最もバラードの中で憧れを抱いた曲でした。

重要なテーマを見逃すな!

ショパン「バラード第4番へ短調op.52」ピアノ楽譜1
この曲の冒頭で提示しているのが上のテーマです。

「ドファミ♭シ♭レー ドファミ♭シ♭レー  ド♭レド♭レ♭ミ♭ミ♭ミ♭ミー♭レド♭シド♭ラー」

きっとこの曲を聴いたらしばらく頭から離れないテーマですよね。
このテーマはずっと曲中で変奏を繰り返しながら出てきます。

たとえばここだったり。

ショパン「バラード第4番へ短調op.52」ピアノ楽譜2
ここだったり、、!

ショパン「バラード第4番へ短調op.52」ピアノ楽譜3


和声や調性を変えながら変奏しているので、ぜひ見つけてみてくださいね!
あえてここでは答えを伏せるので探してみてください!

そして、最初のテーマは聴いている人の頭にしっかり残るようにしなければならないので大切に弾くようにしましょう。



ショパンは変奏の天才といわれていたそうです!
なのに、あまりショパンの曲で「変奏曲」とついたものってないですよね?
実際20歳くらいまでの間で多くの変奏曲を作曲していたようなんですが、ショパンはタイトルにあえて変奏曲とは書かずに曲中に隠すようにして変奏をいれていたんです!

だからこの曲も例外ではありません!
ショパンがあらゆるところにちりばめたテーマをぜひ自分の力で見つけてみてくださいね。

意外なところにも隠れているかもしれないですよ。

時間のない時にやるべきところは、、、?

これくらい大曲になると一日に最低3時間は練習時間がほしいところです。
でも、学校の授業だったり仕事だったりでなかなかそんなにも時間のとれない人もいらっしゃいますよね。
そういった場合、有効な練習方法をとっていかないとなかなか上達しません。

たとえばいつも最初から始めていては、最初ばかりがうまくなって後半部分がおざなりになってしまいます。
しかもこの曲はどっちかというと後半にかけてぐんぐん難しくなっていくパターンの曲です。

むしろ時短練習は後半を中心にやっていくのがいいかもしれませんね。

特に後半でもコーダが最も難所!!
ここだけは本当にたくさんの練習時間を要する箇所になります。



たとえばコーダの左手部分。


ショパン「バラード第4番へ短調op.52」ピアノ楽譜4 (動画9:50~)

大きな跳躍はないものの、細かく速く動く箇所。
ここは一つでも指番号が違ってくると崩れてきてしまいます。
必ず一番最初に練習する時に指番号を決めてその指番号通りに練習を重ねていかなければなりません。

そして指番号が定着したらテンポをあげていくようにしてくださいね。



コーダも後半にさしかかってくると、さらなるテンポアップが求められます。


ショパン「バラード第4番へ短調op.52」ピアノ楽譜5 (動画10:02~)


accelerandoとありますね。
もう疲れてきたころだとは思いますが最後の力を振り絞るところでもあります。
ここでは、結構大胆に速くしてしまって構いません。
ただし右と左がずれてしまわないように気をつけましょう。
右と左がどのタイミングで合わなければならないかをしっかり覚えてください。

そうでないと次に出てくるこの部分、

ショパン「バラード第4番へ短調op.52」ピアノ楽譜6 (動画10:13~)

このユニゾンがずれると最高にださくなってしまうんです、、(笑)

このユニゾンを最初からビシッと合わせるにはその前段階から右左がしっかりあっていなければいけません。

ゆっくりの練習をしっかりしてくださいね!


もし「今日は時間がない!でもどこを練習しようかな。」と迷った時はコーダを中心に練習するようにするといいかもしれません。
限られた時間の中で有効な練習をしてくださいね!!

バラード第4番のまとめ

バラードの中でも最も難しいといわれ、さらに人気も高い4番。
挑戦曲となるとは思いますが以下のことに特に注意して取り組んでみてくださいね。


①曲のテーマを探してみよう!変奏して出てくるので見逃さないように!
②時間のない時はコーダの練習を優先する!右と左がしっかりそろうようにしてからテンポをあげる!


できあがったら立派な大曲の一つとなるでしょう。
簡単に完成できる曲ではないと思いますが頑張って練習してみてくださいね!

全体を振り返って

バラード全4曲を紹介しましたが少しでも良さが伝わったらうれしいです。
これらの曲はすべて難しく、ピアノを習いたてですぐに練習して弾けるようになるものではありません。

練習していると苦戦する部分も山ほどでてくるとは思いますが最後まであきらめずにぜひ挑戦してほしいと思います。
そして、一曲が完成したら、また一曲と増やしていってほしいと思います。
バラードを全曲マスターすることで新たな音楽性を見いだせるかもしれません。

わたしは20の時にすべてのバラードを弾き終えましたが、何度弾いても新しい発見があり、再び弾いてみたくなります。


ショパンを勉強する上でもバラードははずせない曲だと思うのでぜひ頑張ってくださいね!



ショパン「バラード」の無料楽譜
  • IMSLP
    Op.23(楽譜リンク)Op.38(楽譜リンク)それぞれ1878年、1840年にブライトコプフ・ウント・ヘルテル社から出版されたパブリックドメインの楽譜です。
    Op.47(楽譜リンク)Op.52(楽譜リンク)いずれも1879年にペータース社から出版されたパブリックドメインの楽譜です。
    本記事は以上の楽譜を用いて作成しました。


 ショパンのピアノ曲の記事一覧

 ピアノ曲の記事一覧