ベートーヴェンの「月光ソナタ」はとても人気のある曲で、特に神秘的な雰囲気の第1楽章は知らない人の方が少ないぐらいではないかというほどの有名な曲ですね!

ベートーヴェンが数多く作曲したピアノソナタの中でも「悲愴」「熱情」とならんで三大ピアノソナタと銘打たれるほどで、内容的にも非常に充実した芸術性の高い作品でもあります。

バッハの平均律クラヴィーア曲集が「ピアノの旧約聖書」と言われるのと対比して、ベートーヴェンのピアノソナタは「ピアノの新約聖書」と呼ばれるほどピアノ芸術にとって重要な存在です。

私も自分なりに色々な作品をピアノで弾けるようになるに従い、ベートーヴェンのピアノソナタの魅力がどんどん増してくるというか、やはり避けて通ることができない存在だなと感じたことを記憶しています。

月光ソナタは総じて難易度が高いベートーヴェンのピアノソナタの中において、難易度の高い曲の一つですが、意外とマスターしやすい面もあり(その理由については後ほど取り上げていきたいと思いますが、、、)、是非マスターしていただきたい曲です!

ということで、この記事では月光ソナタの難易度と弾き方のコツについてご紹介したいと思います!

月光ソナタの難易度


月光ソナタは全音ピアノピースの難易度評価で難易度「E(上級)」と評価されています。難易度「E」と言えば、ショパンの幻想即興曲、リストの愛の夢などピアニスティックな表現が多用されるような、演奏技術を要する曲が多く存在する分類です。

月光ソナタが難易度「E」と評価されている理由はなんといっても第3楽章にあるということは言うまでもないでしょう。

Prestoのスピードで16分音符のアルペジオやトレモロを正確に弾きこなす技術、ダイナミックに音の強弱をつけ、レガートやスタッカートを素早く弾きこなす技術など、高いレベルでの演奏テクニックが要求される楽章です。

一方で、同じベートーヴェンのピアノソナタの中でも難易度「F(上級上)」に分類される「ワルトシュタイン」のような超絶技巧的な要素や、「ハンマークラヴィーア」のような膨大な技術的・表現上の課題があるわけではないので、ツェルニーやハノンなどの基礎的な技術をきっちり練習することでチャレンジできる範囲の難易度でもあります。

私はこの曲を高校1年生の時に演奏しましたので、ピアノ歴としては11年くらいでチャレンジした曲でしたが、その時に使っていた練習曲としてはツェルニーの40番を一生懸命弾いている頃でした(練習曲はあまり好きではなかったのですが、、、)。

CDなどでピアニストたちが弾く第3楽章を聴いて尻込みしてしまっている方がいれば、是非参考にしてみてください!
ちなみに第3楽章以外は難易度でいうと「B(初級上)」くらいではないかと思います。

この曲は第1楽章が特に有名ですので、第1楽章だけ弾きたいということであれば比較的気軽にチャレンジできる曲ですし、第1楽章から練習を始めて第3楽章で挫折してしまったとしても、有名な曲を弾けるようになったという意味での成果は残るといえます。

その意味ではチャレンジしておいて損のない曲と言えるかもしれませんね!

「月光ソナタ」第1楽章の弾き方


月光ソナタの第1楽章は、この曲が「月光」という名で呼ばれるきっかけとなった楽章で、神秘的な光景を聴く人に思い描かせるような、非常に特徴的な表現に満ちています。

ただ、実はこの曲はベートーヴェン自身が「月光」をモチーフとして作曲したのではなく、彼の死後、ルートヴィヒ・レルシュタープという音楽評論家が「スイスのルツェルン湖の月光の波に揺らぐ小舟のよう」と表現したのがきっかけで「月光」という愛称で呼ばれるようになったようです。

なので、第1楽章を弾く時の表現上のイメージとして必ずしも「月光」やそれを中心とした情景と結びつける必要はないと思います。

むしろ、第3楽章に控えている爆発的な感情的表現を念頭において考えると、月光ソナタのテーマはあくまでベートーヴェンの感情面を形式的に表現したものであるとも考えられ、そうすると第1楽章は内省的な感情を表現する楽章として捉えることが自然なように思えます。

なので、第1楽章を弾く際には、感情の揺れ動くさまを自分だったらどう感じるかを想像しながら弾くとよいのではないかと考えています。


次に、弾き方のコツについてですが最も大事にしたいのは、終始鳴り続ける三連符の存在感です。

ベートーヴェン「ピアノソナタ第14番「月光ソナタ(幻想曲風ソナタ)」嬰ハ短調Op.27-2第1楽章」ピアノ楽譜1
普通、このような伴奏の位置づけに当たる音というのは、メロディーに当たる高音部をサポートする役割なので、メロディーより目立たないように弾くことが多いと思います。

たとえば、リストの「愛の夢 第三番」の冒頭部分(以下、楽譜参照)を聴いてみると、出来るだけテノールの旋律部をはっきりと際立たせ、メロディーの外にあるアルペッジョは雰囲気を提示しながらメロディーを支える役割にあると言えます。

リスト「愛の夢第3番」ピアノ楽譜
それに対して、月光ソナタの第一楽章はメロディーというものは確かに存在するのですが、曲全体をけん引し特徴づける役割を担っているのはメロディーではなく、三連符の音型になっているように思います。

三連符の存在感がしっかり出ていないと曲全体がボヤっとした印象になってしまいますので、三連符の3つの音とも、あまり強弱をつけず明確に弾くようにしてください。

通常だと、このような三連符の音型は「強-弱-弱」あるいは「強-中-弱」というように1拍の中である程度明確に、強弱をつけることにより一拍ごとのまとまりやリズム感、ひいては音の立体感を与えることができます。

ただ、月光の場合には「強-強-強」か「強-中-中」くらいの感じで弾いた方が三連符の存在感が増し、より幻想的・神秘的な雰囲気を演出できると思います。(もちろん、一つずつの音をただ強く弾くだけでは台無しなので、三連符がひとつのまとまりに感じられるように!)

また、三連符の存在感というところでもう一点気をつけたいのは、ダンパーペダルの使い過ぎです。

ダンパーペダルを踏みすぎてしまうと三連符の音像がぼやけてしまいますので、メロディーに当たる高音部をペダルなしで歌えるように十分練習しましょう。

「月光ソナタ」第2楽章の弾き方


第2楽章は第1楽章の神秘的な雰囲気から一変して、明るい舞曲のような楽しい雰囲気で、この楽章が一番好きという方も結構いるのではないでしょうか。

実際、私もこの楽章が月光ソナタを演奏していて、一番心踊るというかピアノを弾く喜びを感じる楽章です。


第2楽章の特徴はシンコペーションを多用した躍動感あふれるリズム感です。このシンコペーションのリズム感を自分のものにできるかが第2楽章をうまく弾けるかどうかの分岐点になると思います。

うまく弾くコツは、三拍目から始まるメロディーでも、あくまでアクセントは第一拍目にあることを意識しズレ感を際立てることです。

たとえば、以下楽譜の赤枠部分(動画0:00~)「D♭→C→B♭→E♭」の4つの音からなりますが、あくまでCの音がこのメロディーの音の中心になるように弾くことが大事になります。

ベートーヴェン「ピアノソナタ第14番「月光ソナタ(幻想曲風ソナタ)」嬰ハ短調Op.27-2第2楽章」ピアノ楽譜1
あたまの音を強く入れたくなりますが、そうしてしまうとせっかくのシンコペーションのリズム感があまり感じられなくなってしまいますので注意しましょう。

また、たとえば以下の部分(動画0:51~)では、右手の赤枠の音はスフォルツァンドが指示されていますが、強さとしては10段階中の5、その次の左手の緑枠は8~9ぐらいで弾くようなイメージでしっかり1拍目にアクセントを持ってくるとよいと思います。

ベートーヴェン「ピアノソナタ第14番「月光ソナタ(幻想曲風ソナタ)」嬰ハ短調Op.27-2第2楽章」ピアノ楽譜2
リズム感を大事にするという意味でもう一つ重要なのは音の強弱です。

スフォルツァンドやフォルテピアノなどの一瞬強くする強弱記号がたくさん出てくる楽譜をみてもわかる通りですが、強い音と弱い音がめまぐるしく入れ替わるように弾くと非常にノリがよく聞こえます。

たとえば、上の楽譜にある青枠の部分(動画1:11~)では、ピアノで弱い音で弾く部分なのですが、枠で囲った上行の部分で一気にクレッシェンドを入れると緊張感とか面白さとかいろんな要素が出てきて、非常にノリがよい演奏になってきます。

wikipediaの解説によると第2楽章は「スケルツォ、もしくはメヌエットに相当する楽章」とされています。

まさにその通りで「右手の音たちと左手の音たちが楽しい舞曲をちょっと冗談でも言いあいながら戯れている」ような演奏を目指すと、聴いている人たちをひきこむような魅力的な演奏ができるでしょう。

「月光ソナタ」第3楽章の弾き方


月光ソナタの第3楽章はこの曲の中で最も難易度が高く、月光ソナタが難易度「E(上級)」に指定されているゆえんになっている楽章でもあります。

ただ、必要となる演奏技術はそれほど多くなく同じ技術的要素の繰り返しなので、各パーツ(上行アルペジオやトレモロ、分散和音、同音連打)を一つ一つ丁寧に練習することが大事ですよ!


おススメの練習法としては、上に書いたようなテクニックについてハノンで十分スムーズに演奏できるように練習し、それから実際の曲の練習をすることです。

必要なテクニックは身についているので意外とスムーズに最後までたどり着けるのではないかと思います。

次に、弾き方のコツですが、終始何か恐ろしいもの追われているような焦燥感や恐怖感を表現するために、ひと時も緊張感を和らげずに一気に弾ききることです。

(何か恐ろしいものに追われているような焦燥感という意味で、私はこの曲はシューベルトの「魔王」にとても似ているなと感じています。)

では、「緊張感を和らげずに」という点について、具体的にどういう風に弾くとよいのでしょうか。

たとえば、以下楽譜の赤枠の部分(動画0:59~)ですが、楽譜では「p(弱く)」だけが記載されていますが、スタッカートの切れを良くし、ほんのちょっとcrescendoとaccelerandoで弾いてみると切迫感や緊張感が非常に伝わってくることが分かると思います。

ベートーヴェン「ピアノソナタ第14番「月光ソナタ(幻想曲風ソナタ)」嬰ハ短調Op.27-2第3楽章」ピアノ楽譜1
他にも、中間部の以下楽譜の部分(動画3:33~3:57)も、一見落ち着かせるような部分ではあるのですが、「p(弱く)」の中で、絶えずcrescendo、decrescendoを繰り返すことで不安感をあおるような表現が見て取れます。

ベートーヴェン「ピアノソナタ第14番「月光ソナタ(幻想曲風ソナタ)」嬰ハ短調Op.27-2第3楽章」ピアノ楽譜2
このように全体的に劇的な第3楽章において比較的にゆるやかな表現になっている部分がちょこちょこあるのですが、そのような部分についても平板な表現をせず常に不安定な動きをすることで緊張感を醸していくことが重要です。

第3楽章を上手に弾くためのコツですので、是非意識してみてください!

「月光ソナタ」の弾き方と難易度まとめ


1.月光ソナタの難易度は「E(上級)」。第3楽章は高い演奏技術が要求されますが、第1楽章、第2楽章は比較的やさしい曲なので、第1楽章だけチャレンジすることもできる曲です。

2.第1楽章の弾き方のコツは、終始鳴り続ける三連符にしっかりとした存在感を与えること。そのためには、強弱のつけすぎとペダルの踏みすぎに注意して、明確に三連符の3つの音を出すようにしましょう。

3.第2楽章の弾き方のコツは、シンコペーションのリズム感を十分に出すこと。3拍目から始まるフレーズが多いですが、あたまの音にアクセントをつけるのではなく強拍である1拍目にアクセントをつけることを意識しましょう。

4.第3楽章の弾き方のコツは、全曲にわたって緊張感を緩めないこと。そのために、緊張感が緩みがちな部分についても、常に音の強弱やスピードコントロールで不安定な動きを作り出し、緊張感を維持しましょう。

以上、ベートーヴェン「月光ソナタ」の弾き方と難易度をご紹介しました。

是非皆さんもマスターしてくださいね!


The score of Liebesträume, S.541 (Liszt, Franz) By RSB [CC-BY-3.0], via IMSLP.


「月光ソナタ」の無料楽譜
  • IMSLP(楽譜リンク
    本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1862年にブライトコプフ・ウント・ヘルテル社から出版されたパブリックドメインの楽譜です。

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