今回紹介する「パピヨン」はドイツの作曲家シューマンによって作曲されました。シューマンの代表曲といえば、「トロイメライ」でしょう。夕方になるとよく流れているあの曲です。

シューマンは文学が好きで「パピヨン」は作家ジャン・パウルの小説「生意気盛り」の最終章の仮面舞踏会の様子からインスピレーションを受けて作曲されたそうです。

双子のヴァルトとヴルトはヴィーナという女性に恋をしています。ヴィーナはヴァルトとヴルトのどちらに振り向くか仮面舞踏会で決めようというところから物語が始まります。

今回この記事では物語の内容よりも弾き方のポイントを中心に解説していきます。

■ 目次

「パピヨン」を聴いてみよう!


繰り返しを全て演奏すると15分ぐらいになります。繰り返しを全てカットすると12分ぐらいです。

ちなみにこの曲は雰囲気がコロコロ変わるので、私みたいに飽きっぽい方にもオススメです!


楽譜は、手頃なお値段だと全音のピアノピースの楽譜があります。



私がこの曲を練習したときは、ウィーン原典版を使用しました。(先生に「輸入楽譜にしなさい」と指定されていたからなのですが、全音でも十分です。)



難易度は?

難易度はツェルニー40番後半を学習中の方にオススメです。全体の難易度としてはそれほど難しくないので、コンクールなどで長い曲を弾くことになったら検討してみてもよいかと思います。

以下私の主観ですが、各曲の難易度順です。

★☆☆☆…ピアノ初心者の方でも弾ける

序曲
オクターブのユニゾンになっています。譜読みができればすぐに弾けるでしょう。

★★☆☆…ブルグミュラー25番程度

第3曲
両手オクターブになりますが、簡単なリズムなのでとりあえず通して弾く程度なら難しくありません。

★★★☆…ツェルニー30番程度

第7曲
オクターブが届く手の大きさの方なら、手の移動が少ないので弾きやすいと思います。

第8曲
両手がほとんど同じリズムなので弾きやすいと思います。

第10曲
同じようなリズムが続くので、通して弾くだけなら難しくないと思います。

★★★★…ツェルニー40番程度

第1曲
右手のオクターブの連続をスラーで弾けるようになるレベルとなるとツェルニー40番ぐらいになるかなと判断しました。

第2曲
冒頭のアルペジオをバッチリ決められるとかっこいいです!でもそのアルペジオが難しい!

第4曲
遅いテンポならそれほど時間がかからずに弾けるようになります。ただこの曲の指定速度は速いんです。速いテンポで弾きこなすとなるとそれなりの技術が必要でしょう。

第5曲
各声部を意識して、バランスよく弾けるようになるには時間をかけて練習をする必要があります。

第6曲
雰囲気が大きく変わるのですが、私が練習していた時はどうしても雰囲気が変わっているように聴こえなくて毎回レッスンでこの曲で止められて苦労しました。

第9曲
スタッカートの音の粒をそろえるのが難しかったです。

第11曲
私個人的に一番難しい曲です。装飾音がどうも軽やかに弾けなくて苦労しました。

第12曲
第1曲のメロディー、右手のオクターブの連続が再びでてきます。

練習のポイント、序曲〜第6曲

序曲(0:03~0:15)

最初のレの音をしっかり響かせましょう。

シューマン「「パピヨン(蝶々)」Op.2」ピアノ楽譜1
いろんな方の演奏を聴いてみるとスラスラと弾く方もいれば、たっぷりと弾く方もいます。いろんな演奏を聴いて自分のイメージに合う弾き方を探してみてください。

第1曲(0:15~0:52)

右手のオクターブが続きます。手の大きな方は5(小指)と4(薬指)の指を使って弾けると一つ一つの音が切れずにスラーで弾けます。

指使いの例
シューマン「「パピヨン(蝶々)」Op.2」ピアノ楽譜2
もちろん届かない方は全部5でも大丈夫です。全音楽譜出版社には3(中指)を使う指使いが書いてあるものもあります。

一つ一つの音を長めに押すよう意識をするとスラーに聞こえてきます。変なことを言いますと、ペダルを踏まなくてもスラーに聞こえるような弾き方を研究してみてください。

第2曲(0:52~1:19)

華やかなアルペジオから始まります。

シューマン「「パピヨン(蝶々)」Op.2」ピアノ楽譜3
この部分(0:57~)はスラーのつき方の違いを意識して弾きましょう。
ミ♭ラ♭、レ♭ド、ドファのところは跳ねる感じ、ファーラ♭ソーシ♭ミ♭ーレ♭シードラ♭のところはなめらかに繋げて弾きましょう。

第3曲(1:20~2:06)

両手ともにオクターブになります。
ドシンドシンという逞ましい音で弾けるといいですね。自分の体重を利用してfで演奏しましょう。

私は体が小さいので、弾く瞬間に腰を浮かせて少し立ち上がるような形で弾いてます。指先に自分の体重をかけるためです。

立ち上がるときに手すりにつかまったり、机に手をついたりしますよね。それを瞬間的にやっているような感じです。


第4曲(2:07~2:54)

可愛らしい曲です。この部分は全体的に軽い感じで弾きましょう。

左手の低い音はしっかり響いていれば強く弾く必要はありません。

シューマン「「パピヨン(蝶々)」Op.2」ピアノ楽譜4

第5曲(2:55~4:05)

右手のメロディーがいかに歌えるかがポイントになります。

私はこの部分の主旋律と副旋律が絡み合っているところがシューマンらしいなと感じています。

図のように各旋律を色分けするとわかりやすいですよ。

シューマン「「パピヨン(蝶々)」Op.2」ピアノ楽譜5
副旋律も素敵なので、それぞれの声部が繋がって聞こえるように意識して弾きましょう。

第6曲(4:05~5:07)

減7和音の衝撃的な響きから始まります。

曲の雰囲気が180度と言っていいくらいガラッと何回も変わります。

私がこの曲を練習していた時、先生から「女優になりきって、役になりきって!役をコロコロ変えて!」と言われていました。

雰囲気に合わせて顔の表情を変えたり、ものすごく大げさに弾いたりして、雰囲気がガラッと変わる感覚を身に付けるといいでしょう。(人前では恥ずかしいかもしれないので、最初は家で誰もいない時にやってみましょう。)

練習のポイント、第7曲〜第12曲フィナーレ

第7曲(5:08~6:00)

右手の繊細なメロディーと左手の美しい伴奏が特徴的です。

私はこの部分の左手はハープの音のイメージで弾いています。全体のイメージとしては、月夜に照らされた湖という感じで私は弾いています。

ただ小さい音で弾くのではなく、「遠くに聴こえる音を耳を澄まして聴いている」イメージで弾くと第7曲の繊細な感じを表現することができるようになります。

第8曲(6:01~7:16)

第1曲と同じように、1拍目が低いベースの音、2・3拍目が和音というよくあるワルツの形をとっています。

コンクールの審査員のお話でよく聞くのですが、日本は2拍子や4拍子の踊りが基本なので、日本人は自然と2拍子や4拍子が身についているようです。

しかしワルツのような3拍子の曲は日本人にとって馴染みがないので演奏させてみると下手なんだそうです。カタコトの英語って感じなのでしょうか?

左手の2拍目と3拍目を軽く弾くように心がけて弾いてみましょう。

また1~3拍目全て同じ速さではなく、演奏者にもよるのですが、3拍目を少し溜めて弾いている方が多いです。

これはワルツの拍子感によるもので、イチ・ニ・サン、イチ・ニ・サンと淡々とリズムを刻むのではなく、イチ・ニ・サーン、イチ・ニ・サーンと3拍目に少し重みがかかります。3拍目が次の1拍目に向けての準備という感じです。

この部分はいろんな方の演奏を聴いてどのように弾いているか参考にしてみてください。

第9曲(7:17~7:57)

3~7小節目の〇で囲んだ部分は力を抜いて、軽く手首を揺らすような感じで弾きましょう。

シューマン「「パピヨン(蝶々)」Op.2」ピアノ楽譜6
9小節目以降はスタッカートが続きます。スタッカートが続くと手首が固まってしまい疲れやすくなってしまいます。

シューマン「「パピヨン(蝶々)」Op.2」ピアノ楽譜7
こちらの記事でも紹介していますが、毬をつくような手首の動きで弾くと無駄な力が入らず弾きやすくなります。
https://shirokuroneko.com/archives/11637.html

第10曲(7:58~9:59)

最初から16小節目までは1小節を1つのまとまりとして大きな拍と捉えると堅苦しい感じにならず、ゆったりと弾きやすくなります。

この曲はメトロノームに合わせてしまうと。ずーっと同じ速さで音楽が進んでしまい、聴いててつまらない演奏になってしまいます。

特に25小節目からは同じような動きが続くので、停滞しやすく面白みがない演奏になりがちです。どこで盛り上げるか、どこからクレッシェンドを始めるか等、計算ながら練習しましょう。

第11曲(10:00~12:31)

最初の左手のラの音は、第3曲でも解説したように体重を利用して迫力のある音を出しましょう。

何回か出てくる右手の装飾音は軽く弾きましょう。

シューマン「「パピヨン(蝶々)」Op.2」ピアノ楽譜8
例えば29小節目の3拍目から30小節目(10:58~)なら、ララソソファファミミがメロディーなので、装飾音よりもよく聴こえるように力を調節しましょう。

32小節目(11:06~)にPiù lento(より遅く)と書いてありますが、のんびり弾いてしまうと動きが停滞して聴こえてしまます。

少し「前に前に」と進むような気持ちで弾くとメロディーの動きも出てくるのでオススメです。

シューマン「「パピヨン(蝶々)」Op.2」ピアノ楽譜9

第12曲フィナーレ(12:31~)

元気なファンファーレから始まって、第1曲のメロディーが再び出てきます。

その後、右手は第1曲のメロディーが、左手にはファンファーレのメロディーが流れて曲の終わりに向かいます。


終わりから数えて31小節目(13:51~)からラの音にアクセントがあります。このラの音は鐘の音を表しているようです。

出版社によっては楽譜に「この音は鐘の音を表している」と書かれている場合があります。

シューマン「「パピヨン(蝶々)」Op.2」ピアノ楽譜10
6回鳴っているということは6時でしょうか?舞踏会が終わって朝を迎えた情景を表したかったのかもしれません。

この鐘の音をコーンと響くように弾きましょう。強く弾くというよりは響く音を出すという感じです。

終わりから44小節目以降は全体的にフワ~と朝の光が当たりを包んでいくようなイメージでしょうか。はっきりした音というよりは、ペダルを踏んで少し音の輪郭をぼやけさせる感じに弾いた方が曲の雰囲気に近づきます。

まとめ

  • 各曲の雰囲気の違いを味わいながら弾こう
  • メトロノームに合わせすぎず、メロディーを歌うことを大切にして弾こう

この曲を通して弾くだけでも、最初のニ長調も含めて10の調性を経験することができます。「パピヨン」の雰囲気がコロコロ変わっている要因の1つにもなっています。

短い曲に区切れているので、初めて長い曲を練習される方にオススメです!好きな曲を探しながら弾いてみるのも楽しいですよ♪



「パピヨンOp.2」の無料楽譜
  • IMSLP(楽譜リンク
    本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1887年にブライトコプフ・ウント・ヘルテル社から出版されたパブリックドメインの楽譜です。

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