ベートーベンの『ソナタ第20番ト長調op.49-2第1楽章』は、とても活発でいきいきとしたリズミカルな旋律が印象的な曲です。

さて、ベートーベンのソナタというとまず思い浮かぶのが、かの有名な『月光』や『悲愴』等かと思います。これら以外にも魅力的な名曲がたくさんあり、ベートーベンのソナタに強く憧れているという方も多いかと思います。

だけどベートーベンのソナタに憧れてはいるけれど、同時に「難しそう」、「何から挑戦したらいいのかわからない」と足踏みをしている方もおられるかもしれません。

まずはこの曲を機にベートーベンのソナタに触れてみてはいかがでしょうか?

ちなみにこの第20番は『月光』や『悲愴』等の大曲と比べると、それほど有名というわけではありませんが、初めてベートーベンのソナタを練習するという方にはまさにもってこいと言える一曲です。

また、この曲は音楽之友社の『ベートーベン・ソナタアルバム2』に収録されていますが、実は全音楽譜出版社の『ソナチネアルバム1』にも単体で収録されています。『ソナチネアルバム1』はピアノを学んでいる人の間では有名な曲集ですので、「この曲だけは知っている」という方もおられるかもしれません。

【ベートーベン・ソナタアルバム2:音楽之友社】



【ソナチネアルバム1:全音楽譜出版社】


上記でご紹介した曲集の他にも、ベートーベンのソナタはいろいろな出版社のものがありますので、ぜひお気に入りの一冊を探してみてくださいね。




こんにちは!ピアノ弾きのもぐらです。

最近、数日だけ涼しくなったときがありましたね。いきなり涼しくなったり暑くなったり、何だか身体がついていけないですよね。皆様はいかがお過ごしですか?

私はそろそろ秋が恋しくなってきました。カボチャとかサツマイモが食べたいです。秋は畑が一番活気づく季節なのです。また野菜もそうですが、果物も美味しいですよね。

皆様はどんな果物がお好きですか?

私は地中に暮らしておりますので、普段はなかなか新鮮な果物にお目にかかることができません。よく巣穴に柿が転がり込んできますが大抵は渋柿なので、今年は甘い柿が食べたいものです。

■ 目次

ベートーベンのソナタの入門!難易度はかなり低め


さて、本題に入りますね。

冒頭でも申しましたが、この曲はベートーベンのソナタに初めて挑戦するという方向けとも言えるくらい、難易度はかなり低めです。

教則本を指標に考えますと、だいたいツェルニー30番に入ったという方であれば充分弾けるくらいかと思います。

またこの曲はフレーズの特徴などを見てみると、あくまで個人的な印象ではありますが、たしかにソナタではあるけれど、同時に練習曲としての要素もたくさん兼ね備えた作品のように感じられます。

そのため、他の叙情的なソナタ作品に憧れているという方にとっては、少し物足りなさを感じられる部分もあるかもしれません。

ですがこの曲の奥深いところは、一見単純そうでいて実は弾き方の工夫次第で、いくらでも曲の聴こえ方を変えられるところなのです。シンプルに表現したければシンプルに、逆に華やかに表現したければいくらでも華やかな印象に仕上げることができます。

そのような意味では、難易度は低いですがたくさんの可能性を秘めている作品とも言えます。


変化を伴いつつ似たようなフレーズを繰り返す構成!

では、ますは以下の動画を聴いてみてくださいね。


ここでは弾き方についてご説明するにあたって、以下のように一曲を小さなセクションに細かく区切ってあります。

セクションA(最初~0:33)
セクションB(0:34~1:27)
セクションC(1:28~1:52)
セクションD(1:53~2:28)
セクションE(2:29~終わり)

※カッコ内の時間は動画の時間に沿ったものです。動画をよく視聴して全体の場面変化等を予め把握しておくことで、練習もよりスムーズに行えるかと思います。

この曲の構成は、けっこう似たようなことの繰り返しです。ただ、その繰り返しの過程で細かくフレーズの調が変化していくところも見受けられます。

そのため、譜読みの段階ではやみくもに譜面を目で追うのではなく、「ここはさっきのフレーズに似ているけれど調は違っている」というように、前に出てきた似たようなフレーズと比較しつつ、自分なりに発見をしながら譜読みをしたほうが、曲に対する理解もより深まると思います。

では、さっそく練習に入っていきましょう!

もぐら式!弾き方のコツ

☆セクションA ~音符の種類の違いでメリハリを~

セクションAは最初の一音から元気がみなぎってくるような雰囲気です。

ここでは、各音符のリズムにしっかりとメリハリをつけて弾くことが大切です。特に3連符に切り替わる部分は混乱しないように気をつけていきましょう。

ベートーヴェン「ピアノソナタ第20番ト長調Op.49-2第1楽章」ピアノ楽譜1 ※ 『Allegro ma non troppo』の意味は『活発に、あまり速くなく』
※ スラーが点線になっている箇所は「完全にスラーで弾くわけではないが、音のつながりは意識して弾く」という意味合いとなります。

この出だしの部分は、最初の一音(和音)に重きをおいて、そのすぐ後は少し控えめに弾くことでメリハリがつきます。

ですが、最初の1小節目を壮大に表現するという弾き方が良いという人もいますので、自分で弾いてみて「これがしっくりくる」と思う弾き方で大丈夫です。

また、上の譜面の4小節目にはトリルが出てきます。

このトリルはもちろん細やかに弾ければそれに越したことはないのですが、無理に豪華なトリルにしようとしなくてもここはそれほど不自然には聴こえないですので、音の数を極力減らしたシンプルなトリルでも充分魅力的だと私は思います。


ベートーヴェン「ピアノソナタ第20番ト長調Op.49-2第1楽章」ピアノ楽譜2 ※ 『dim』は『diminuendo』の略称で意味は『だんだん音を小さく』

この箇所の右手はとにかく一つ一つの音を優しく繊細に弾くように心がけましょう。(0:15~)

また、全体的に右手と左手の掛け合いのような弾き方をしますので、特に両手それぞれに出てくる休符の長さをしっかりと守ることが大事です。

ここで休符の指示を守らないと、ダラダラとした平面的な印象になってしまうので、休符も大事な表現の要素であることを念頭に置いて練習をしましょう。


ベートーヴェン「ピアノソナタ第20番ト長調Op.49-2第1楽章」ピアノ楽譜3
ここから3連符に切り替わります。(0:25~)
そして、ここで特に重要なのは左手です。

いきなり3連符に切り替わるので、最初はこの箇所の左手で戸惑うかもしれませんが、ここでいかに正確なリズムを刻めるかが旋律をリズミカルに鳴らすカギとなりますので、3連符に慣れるまでしっかりと片手練習を行っていきましょう。

そして、これはこの部分に限ったことではありませんが、3連符が出てくるところは左手、右手共にメトロノームを使用した練習をおすすめします。

メトロノームの1拍分に3連符がスムーズに収まるように練習を重ねていくことで、3連符そのものだけでなく同時に拍の感覚も体得することができるようになります。

☆セクションB ~細かな指示も大事に守ろう~

セクションBでは少し雰囲気は変化しますが、基本的にはセクションAの旋律と似たようなフレーズが登場します。(0:34~)

ただ、冒頭でも申しましたが、ここからは似たようなフレーズではあるのですが、調の変化が見られるようになりますので、臨時記号等を見落とさないように気をつけましょう。

ベートーヴェン「ピアノソナタ第20番ト長調Op.49-2第1楽章」ピアノ楽譜4 ※ 『legato』の意味は『なめらかに』

ここからは調号の変化こそありませんが、響きとしてはニ長調の雰囲気を感じます。
『ド♯』をうっかり見落とさないように弾いていきましょう。

またこの箇所は両手共になめらかに、旋律を歌うように鳴らしていきましょう。この部分は特に旋律に表情をつけやすいところですので、個性を出していくことも大切です。


ベートーヴェン「ピアノソナタ第20番ト長調Op.49-2第1楽章」ピアノ楽譜5
この右手はスラー(意味:なめらかに)とスタッカート(意味:音を短く切る)が交互に指示されています。(0:41~)

特にスラーのついた部分を弾く際は、スラーついた塊の最初の音に少しアクセントをつけるように表現すると、活発な印象になるかと思います。

ですが、上記はあくまで表現する上での一例です。表現には正解や不正解はありません。この例以外にも、どのように弾きたいのかを自由に思い描き、ぜひ自分なりの表現を追求してみてくださいね。


ベートーヴェン「ピアノソナタ第20番ト長調Op.49-2第1楽章」ピアノ楽譜6
ここからまた3連符です。(1:00~)
そして旋律が音階で進行していくので、ここは指がもつれてしまいやすい箇所でもあります。ここではなるべく譜面の指番号に忠実に弾くことをおすすめします。

また、ここからは3連符が左手と右手で交互に登場するので、拍を刻む感覚が崩れやすいところでもあります。セクションAでも申しました通り、ここでもメトロノームを使って練習をしていきましょう。


ベートーヴェン「ピアノソナタ第20番ト長調Op.49-2第1楽章」ピアノ楽譜7
上の譜面における1小節目の最初に出てくる八分休符ですが、これは次に出てくる二つの八分音符と合わせて一つの3連符と同じように読みます。(1:13~)
つまり「最初の一音が欠けた3連符」ということです。

また、そのすぐ後に右手に和音のスタッカートが出てきます。
ここは和音を構成する音の一つ一つがばらけてしまわないように気をつけましょう。

☆セクションC ~雰囲気の変化を味わおう~

セクションCから楽しい雰囲気が一変します。(1:28~)
冒頭は感傷的な雰囲気になりますので、雰囲気の変化を味わいながら情緒溢れる演奏を意識しましょう。

ベートーヴェン「ピアノソナタ第20番ト長調Op.49-2第1楽章」ピアノ楽譜8
この部分の響きはニ短調のような雰囲気ですね。
上の譜面における最初の和音はけっこうアクセントを強めに入れても大丈夫ですので、インパクトを大事に、重厚な響きになるように心がけましょう。

また、ナチュラル(意味:臨時記号のついた音を元の音に戻す)の指示が多いですので、一つ一つ見落とさないように気をつけましょう。


ベートーヴェン「ピアノソナタ第20番ト長調Op.49-2第1楽章」ピアノ楽譜9
この箇所ですが、右手は強弱の起伏をあえて大きく表現してみるとメリハリのあるドラマチックな響きになるかと思います。(1:39~)

また、ここでも八分休符の指示が所々ありますので、しっかり守りましょう。旋律を構成する上で休符とは音符と同じくらい重要であって、これは私の持論ではありますが、休符とは「音の無い音符」だと私は捉えております。

休符があることによって、旋律の中に絶妙な間が生まれ、それが曲全体の印象を左右するように思います。

☆セクションD ~譜面の類似点に注目しよう~

セクションDはセクションAの再現部という感じではありますが、かといってセクションAとまったく同じ繰り返しという訳ではありません。(1:53~)

譜面を見ておりますと、セクションDはセクションAセクションBの要素が加えられたように思える部分もあります。ですので、セクションAセクションBと比較しつつ譜読みをしてみるのもまた面白い発見があるかと思います。

ベートーヴェン「ピアノソナタ第20番ト長調Op.49-2第1楽章」ピアノ楽譜10
ここからいきなりハ長調の雰囲気に変わりますね。(2:05~)曲調の変化に乗り遅れないようについていきましょう。

そしてまた3連符の音階がここから始まっていきます。

3連符に限ったお話ではありませんが、音階というのは特に音の粒が不揃いになりやすいフレーズでもあります。そのため、音階を弾く際は3連符でも他の音符でも関係なく、まずは一つ一つの音を確実に鳴らすための練習を取り入れると効果的です。

その練習というのは具体的には、最初からなめらかに弾かずにまずはスタッカートですべての音を短く切りながら音階を弾いていくという方法です。このときの速度は無理のない程度で弾きやすい速度に設定しましょう。メトロノームがあればなおさら良いです。

この練習をしていくことで、徐々にどの指も均等な力で鍵盤を押すことができるようになってきます。そして、指の力が均等になることで音の粒もきれいに揃ってくるのです。

そして、音の粒が揃ったら今度は譜面通りの練習に戻るという流れになります。ちょっと遠回りで退屈かもしれませんが、このスタッカートの練習というひと手間がその後の練習効率をグッと上げてくれます。音階の練習で行き詰ってしまったときは試してみてくださいね。

☆セクションE ~堂々と締めくくろう~

セクションEも何となくセクションBの再現部のような雰囲気ですね。(2:29~)

また、セクションEは曲の締めくくりとなる箇所ですので、より一層堂々と壮大に弾いていきたいところでもあります。ですが、ここも表現は人それぞれですので、シンプルに弾きたいのであればそれはそれで一つの方法だと思います。

自分なりに締めくくりの方法を追求してみましょう。

ベートーヴェン「ピアノソナタ第20番ト長調Op.49-2第1楽章」ピアノ楽譜11
ここはセクションBではニ長調でしたが、今度はト長調の響きになります。

この部分に限らずこのようなスラーやレガートの指示があるような箇所は、指示こそありませんがペダルを浅めに入れても響きに伸びが出てきれいに聴こえます。

ただ、だからといってあまりにもペダルを多用してしまうと、音が濁ったりメリハリが消えてしまいますので、特に休符が目立つような箇所にはペダルはほとんど入れないほうが個人的にはしっくりくるように思います。


ベートーヴェン「ピアノソナタ第20番ト長調Op.49-2第1楽章」ピアノ楽譜12
ここからは終盤へ向かう3連符です。(3:16~)
ここでは一つ一つの音をわりとしっかり鳴らしても大丈夫かと思いますが、左手については右手の音がかき消されない程度の音量を意識しましょう。

また、右手と左手の3連符が重なる箇所は、とにかく左手と右手の音がばらけないように細心の注意を払いましょう。両手の音がきれいに重なると、とてもスマートで耳ざわりの良い響きになります。

復習しよう!全体的な弾き方のコツのまとめ


ここまでベートーベンの『ソナタ第20番ト長調op.49-2第1楽章』についてお話ししてまいりましたが、いかがでしたか?

ここで全体的な弾き方のコツを以下にまとめました。

  1. 三連符はメトロノームを使用して拍を意識しながら練習する(全体的に)
  2. 臨時記号を見落とさないように、旋律の中の細かい調の変化に注意する(全体的に)
  3. トリル等の装飾音は無理のない弾き方で良い(特にセクションA
  4. 旋律は歌うように鳴らし、情緒を表現する(特にセクションB
  5. 休符の指示も音符と同様にしっかりと守る(全体的に)
  6. 和音は場所によってはアクセントをつける等、工夫することでメリハリが出る(特にセクションAセクションC
  7. 似たようなフレーズでも違いがあるので、比較しながら譜読みをすると面白い(特にセクションAセクションBセクションD
  8. 両手に三連符が出てくるところは、両手がばらけないように気をつける(特にセクションE

以上の8つのコツを念頭に練習をしてみてくださいね。

冒頭でも触れましたが、この曲は練習曲の要素がある一方で、工夫次第ではいくらでも表現のバリエーションのある奥深い作品です。そのため練習の一つの通過点という一曲ではなく、ぜひ何度も繰り返し弾き込んで自分なりに分析してみてほしい作品の一つなのです。

また、この曲に触れることによって、ベートーベン先生の作品のまた違った一面を垣間見ることもできるのではないかと私は思っています。

私はこの曲に触れるまでは、ベートーベン先生のソナタに対して何となく「荒々しく激情的な作品」というような見解ばかり持っておりましたが、この曲に触れてみたら「こんなふうに優しい雰囲気の作品もあったのだな」と気づくことができました。

とにかく有名無名関係なく、いろいろな曲に触れてみることで、レパートリーだけでなく自分の中の創造性も広がっていくように思います。

それでは練習、頑張ってくださいね!畑の地中から盛大に応援しております。

byピアノ弾きのもぐら



「ソナタ第20番」の無料楽譜
  • IMSLP(楽譜リンク
    本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1920年にペータース社から出版され、その後再版されたパブリックドメインの楽譜です。

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