ハイドンの『ソナタ第35番ハ長調第1楽章』は、弾いていると不思議と気分が上がってくる楽しい雰囲気の作品です。

これは私個人の感想ですが、例えばつらいことがあったときにこの曲を弾くと、何というか、心のモヤモヤが良い意味でどうでもよくなってくるのです。

この曲は、かの有名な全音楽譜出版社の『ソナチネアルバム1』にも収められておりますので「この曲、知っているよ!」という方もけっこういらっしゃるかと思います。

「ソナチネも良いけれど、ソナタにもチャレンジしてみたい!」という方は必見です。




こんにちは!ピアノ弾きのもぐらです。

最近はわりと晴れた日が続いていて、気分も清々しいです。

そういえばこの間、ふと巣穴から顔を出してみたら、ちょうど野菜の苗を植える作業をしていた畑の主さんと目が合ってしまいました。

すると、畑の主さんは深くため息をついて、植えるはずのジャガイモの種芋を一つ、私のほうへ投げてくださいました。

何となく、今年は畑の主さんと仲良くなれるのではないかという気がしております。

人間ともぐらがお互い幸せに共存できるようになる日は、そう遠い未来ではないのかもしれないなぁと思いました。

ピアノ初級者も親しみやすい難易度!


では本題に入りますね。

この曲が収められている、全音楽譜出版社の『ソナチネアルバム1』という曲集は、全体的に難易度は低めです。そのため曲集に収められているこの曲に関しても、ピアノ初級者の方々にとっては、難易度的にとても親しみやすい曲であると思います。

ちなみに具体的に教則本を基準にしますと、ツェルニー30番を練習されているという方であれば、難易度的にはちょうど良い作品であると言えます。

ですが私としては、この曲については簡単だと言えない部分も少なからずあるように思うのです。

というのは、譜面を見る限りではとてもシンプルで簡単そうなのですが、いざピアノに向かって練習を始めてみると、実は細かい注意が必要な箇所が随所にあるからです。

ですが、裏を返せばその分学べることもたくさんあるということですので、ピアノを弾いていく上で重要な技法、そして表現力を身につけるには、まさにもってこいと言える作品だと思います。

細かな調の変化を伴う独特な構成!


まず、以下の動画を聴いてみてくださいね。




この曲はソナタというよりも、個人的にはどちらかというと変奏曲のように思えます。
というのは、曲の大黒柱となるテーマがわりとはっきりしていて、そのテーマを中心に弾き方を微妙に変化させながら進行していくといった特徴があるからです。

そして、この曲の重要なポイントの一つとして、短いスパンで調が変化していくという特徴が挙げられます。

この曲の構成は、一般的なソナタ形式の型を破った独特な構成だと私は思っております。その独特な構成をしっかりと把握するためには、上記にあるような調の変化について、譜読みの段階でしっかりと分析していくことが大事です。

尚、この記事では以下のように一曲を細切れにして、セクションごとにご説明していきます。

セクションA(最初~0:41)
セクションB(0:42~1:20)
セクションAセクションBの繰り返し(1:21~2:39)
セクションC(2:40~3:35)
セクションD(3:36~4:09)
セクションE(4:10~4:44)
セクションF(4:45~終わり)

※カッコ内の時間は上記の動画に沿ったものです。動画をよく視聴して。曲の全体像を予め掴んでおくことで、スムーズに練習できるかと思います。

それでは、さっそく練習に入っていきましょう!

もぐら式!弾き方のコツ

☆セクションA ~一音一音にじっくりと向き合おう~

セクションAではさっそく軽快で明るい旋律が出てきます。

ここで重要なのは音符と休符の長さ、そして細かな指示記号をいかに見逃さずに丁寧に表現できるかという部分です。一音一音にしっかり気を配っていきましょう。

※ 『Allegro con brio.』の意味は『テンポを速く、いきいきと』
※ 『fz』の呼称は『フォルツァンド』で意味は『その音を特に強く』

この箇所には音符の上に、何やら逆三角形の指示記号があります。この逆三角形の指示記号は『スタッカーティシモ』という名前の記号で「スタッカートよりもさらに短く音を切る」という意味です。

この箇所で気をつけるべきところは、特に上の譜面の2番目と3番目の小節のように、右手にはスタッカーティシモがあるのに左手には何も付いていないところです。

これは弾く人によって解釈がいろいろあるので、どれが正解だとか不正解だとかは無いのですが、少なくともこの譜面の指示通りに考えると「右手は短く音を切るけれど、左手は四分音符の長さをしっかり保つ」という意味合いになります。

この部分を実際に弾いてみると、慣れないうちは右手と左手の音の長さを微妙に調節し違いを出すのは、意外と弾きにくいかと思います。

ですが、上記でも申しましたが人によっていろいろな解釈があります。なので「両手とも同じ長さで問題ないよ!」と解釈する人もけっこういます。

そこで私は「右手と左手の音の長さにそれぞれ違いを出した場合」と「両方同じ長さにした場合」の二つを実際に弾き比べてみました。

前者の弾き方だと、違いを出すことにより右手の短く切った音がより一層強調されて、とてもすっきりとした響きになりました。

そして後者の弾き方だと、音が両手とも同じように短く切ってあるため、両手で一つの和音を表現しているような雰囲気で、響きが華やかになったように感じられました。

このように音の長さ一つで聞こえ方もだいぶ変わってきますので、ここはあまり譜面の指示だけにとらわれず、自分の表現したい音を追求していくほうが楽しいかと思います。



今度は左手が3連符に変化しました。(0:09~)

ここは、両手共にフォルテ(意味:音を強く)になってはいますが、だからといって右手も左手もまったく同じような音量で弾いてしまうと、何だか響きにメリハリがなくなってしまいますので、フォルテはフォルテではありますが、左手は若干音量を控えめに弾くことをおすすめします。

また、3連符は手首や腕に余計な力が入ったまま弾いていると、だんだん疲れてきて音の粒が不揃いになったり、リズムが崩れてしまったりするので気をつけましょう。

もし途中で「疲れてきたな」と思ったときは一旦弾くのを中断して、軽く手首や腕などをマッサージしたりストレッチしたりして、余計な力を抜きましょう。
そして完全に手首や腕が柔らかくなったら、また練習を再開しましょう。



この箇所にある『S』を横にしたような不思議な記号は『ターン』と呼ばれる記号です。(0:23~)

この記号が付いた音は、その音を中心に考えて2度下の音と2度上の音の間をターンします。といっても、何だかいまひとつわかりにくいですよね。

つまり、実際に弾くときにはターンのついた音を中心にして、5連符のように弾くということなのです。

例えば上の譜面の1小節目、ターンのついている『レ』の音は、実際には『レ、ミ、レ、ド、レ』というように、5連符のような弾き方となります。

ちなみに、ここでは四分音符にターンがついておりますので、四分音符の長さの中にターンを収めて弾きます。
また、ターンは装飾音的に捉えてなるべくさりげなく弾くことで、軽快な響きになります。

ここでちょっと大変なのは、譜面の通り左手が3連符であるところです。

つまり、3連符を弾きながら5つの音の塊であるターンを弾くということになるのです。そうすると、両手練習に入った段階でつまずいてしまうこともあるかもしれません。

ちなみに私はこの部分を弾くとき、左手の3連符のことはほとんど考えず、なるべく右手のターンに集中するようにしています。というのは、この箇所の主旋律は右手であるからです。

これは私個人の経験ではありますが、この箇所の左手についてはあくまで補助的な役割だと捉えて、右手のターンをいかにスムーズに軽快に鳴らせるかという部分に的をしぼったほうが、練習効率が良くなるような気がします。

そうして練習を重ねていくうちに、徐々に左手の3連符も自然とスムーズに弾けるようになるかと思います。



このあたりから調がハ長調からト長調に変化します。(0:35~)

この箇所では符点八分音符や3連符など、いろいろな弾き方が出てきますので、混乱してしまわないよう、事前にだいたいのイメージを掴んでおくことが大事です。

特に上の譜面の2小節目と3小節目は、符点八分休符が出てきます。ここはきっちりと休む長さを守りましょう。

休符も表現の一つです。音符と同様に休符も適切な長さを守ることで、その後に出てくる音符をより一層リズミカルに引き立たせてくれます。

☆セクションB ~繊細さを前面に出そう~

セクションBは調号こそ付いてはおりませんが、実際の響きはト長調となります。(0:42~)
ここでは細かな場面変化にその都度しっかり対応していくこと、そして繊細さが重要となってきます。


この箇所の右手にあるオクターブの和音は、高音と低音をなるべく均等な音量で鳴らしましょう。(0:48~)
そして和音を構成するそれぞれの音がばらけてしまわないように気をつけましょう。

また、上の譜面における5小節目の一拍目はフレーズの区切りとなります。

さらに、この音にはスタッカーティシモが付いているので、この箇所は確かに軽く短く音を切るわけなのですが、だからといって音を短く切ろうとするあまり、そこだけ不自然に音が飛び出したり響きが硬くなったりしないよう、とにかく丁寧に鳴らしていきましょう。



この箇所は特に繊細さを意識しながら弾きましょう。音量もなるべく小さめに抑えることが大事です。(0:55~)

また、ここは拍をしっかりと心の中で刻みながら弾くことも重要です。拍の感覚を持って弾くのと持たないで弾くのとでは、聴こえ方も全然違ってくるのです。

もし拍を意識しないで弾いてしまうと、何を表現したいのかわからないような何とも中途半端な演奏になってしまうので、常に拍を数えながら弾く癖をつけることも大切です。



この箇所は先ほどの箇所の変奏ですが、ここではさらに強弱がついてきます。(1:00~)

フォルテ(意味:音を大きく)とピアノ(意味:音を小さく)が交互に出てきますが、どちらかというとフォルテに重きを置いた弾き方のほうが個人的にはしっくりくるかと思います。

ですがここは先ほどの箇所と同様に、あくまで繊細さを失わないことが重要ですので、フォルテはフォルテでも曲全体の雰囲気を踏まえた強さ、というように捉えていきましょう。

☆セクションC ~表現したい音をイメージしよう~

セクションCは、これまで楽しく明るい雰囲気だったところに少しずつ変化が出てきます。(2:40~)
この部分は曲の中で最も個性の出るところなので、ある程度弾けるようになってきたら、自分なりの表現方法も考えてみましょう。


ここでは一瞬ハ長調に戻り、そして上の譜面の5小節目で、やや不穏な響きの和音が入ります。

この和音の上についている、何やら不思議な形をした指示記号は『フェルマータ』と呼ばれる記号で『音を倍くらいの長さに伸ばす』という意味です。

そのため、この和音についてはしっかりと伸ばして、フレーズの区切りを強調させましょう。

そして上の譜面における5小節目の終わりから、突然ヘ長調に変化します。ここでも慌ててしまわないように、予め調の移り変わりを譜読みの段階で把握しておきましょう。



この箇所では、各3連符の一つ目の音をご覧頂くとおわかりになると思いますが、ここから半音ずつ上昇していきます。(2:59~)

そして、右手は長めのスラー(意味:音をなめらかに)がついていますので、フレーズが途中で切れてしまわないように注意しましょう。

一方、左手に関しては、ここでも音符と休符の長さをしっかり守って、音にメリハリを出していくことが大切です。



今までずっと主旋律は右手でしたが、上の譜面における1小節目の終わりからは、右手の各3連符にある一つ目の音に左手の四分音符を合わせたものを、主旋律であると捉えてみましょう。(3:01~)

そして右手の各3連符については、一つ目の音以外の音はなるべく控えめに弾くようにすると、旋律が良い感じに際立ってきます。

ですが、ある程度両手練習がスムーズにできるようになるまでは、上記のことはそれほど考える必要はありません。

それよりもまずは、すべての音の粒を均等に揃えられるようになることが先です。
そして、それがしっかりとできるようになったら、上記のような細かな工夫や自分なりの表現を取り入れていきましょう。



ここでは指示は特にありませんが、個人的にはペダルを少し入れても良いのではないかと思っております。(3:11~)

ですが、最初からペダルを入れた練習というのは、正直おすすめできないのです。

というのは、これはあくまで私個人の経験からのお話ではありますが、練習の初期段階でペダルに頼りきってしまうと、後々になってペダル無しで弾くことに、妙な抵抗感が出てきてしまうということもあるからです。

ですので、ペダルを入れるのは練習の最終段階がちょうど良いかと思います。そして、やみくもにペダルを多用せず、必要な箇所にだけ適切に入れていくことを心がけましょう。


※ 『adagio.』の意味は『テンポを遅く』
※ 『tempoⅠ.』の意味は『最初のテンポに戻す』

ここは、次のセクションへの架け橋となる重要な箇所となります。(3:22~)
ここはテンポの変化等、指示はありますがそれほど譜面に対して神経質にならなくても大丈夫です。

それよりも、自分なりの解釈で「こう弾きたい!」というイメージを優先させたほうが響きに味が出ますので、抑揚などけっこう自由につけてしまっても問題はありません。

ちなみに私は、譜面に特に指示はありませんが、だんだんと速度を遅めにする弾き方が個人的にはしっくりきます。

譜面にとらわれず、自分なりにいろいろな弾き方を試してみるのも面白いです。

☆セクションD ~臨時記号の変化に注目しよう~

セクションDも、なかなかに雰囲気の変化に富んだ場面となっています。(3:36~)
ここでもやはり、変奏という要素を感じられます。


この箇所では、曲の冒頭(セクションA)の旋律が1オクターブ低くなって登場しています。

ですが、かといって冒頭と同じように捉えてしまうのは、私個人の感覚ではありますが、どうしてもどこか違和感を覚えてしまいます。

というのも、この部分は単なる冒頭の再現部としての役割だけではなく、次の箇所で起こる雰囲気の変化を予感させるといった役割も、同時に兼ね備えているからです。

ですので、確かに譜面上は冒頭と似たようではありますが、次の展開が待ち構えていることを意識しながら表現することが重要です。


上記でも触れた「次の箇所で起こる雰囲気の変化」というのは、まさにこの箇所のことです。(3:52~)

この箇所で突然、今度は調がハ短調に変化します。

ここでは、前の箇所のハ長調とこの箇所のハ短調とのギャップをいかに明確に表現できるかがカギとなります。

そしてこの箇所の後、ハ短調がまたハ長調に戻っていきます。

ここは特に臨時記号の変化が目まぐるしい部分です。
そのため、できれば練習前に各調で定められている調号について、楽典の教則本等で軽く勉強しておくと練習もスムーズに進められるかと思います。

☆セクションE ~調は違えど再現部~

セクションEでは、セクションBがハ長調に変化して再現します。(4:10~)
上記にあるセクションBで気をつけるべきことを思い出して、練習していきましょう。


この箇所の譜面における1小節目の『ソ』の音は、上記でもお話ししました通り『ソラソファ♯ソ』という弾き方になります。

ここではターンの下に『♯』がありますが、これはターンを弾いたときに、五つの音の中で一番低い音に『♯』をつけるという意味合いになります。



この箇所における弾き方のコツについても、調は違いますがセクションBとほぼ同じです。(4:23~)
繊細さと音のメリハリを大切にして弾いていきましょう。

☆セクションF ~共通点を意識しよう~

セクションFまで来ると、だんだんと「ああ、これは前のあの部分の変奏っぽいな」というのが何となく掴めてくるかと思います。(4:45~)

この部分は特にセクションAの要素がたくさんありますので、セクションAと見比べると共通点がたくさんあります。

その共通点を念頭に置いておくだけでも、練習が随分と楽になるかと思います。


この箇所も左手のパターンといい、右手の16分音符といい、やはり上記の各セクションと、似たような形であることがわかります。

曲全体のパターンがだいたい掴めれば、もしかすると人によってはこのセクションFはあっけなく弾けてしまうかもしれません。

やはり、出てきた音符を何も考えずにその都度目で追うのと、予め譜面をしっかり読んで曲全体のパターンを把握しているのとでは、練習効率の面ではだいぶ差が出てきます。

すぐにピアノに向かいたくなる気持ちは本当によくわかります。かく言う私も新しい曲に挑戦するときは、お店で楽譜を購入する段階から「早く巣穴に戻ってピアノに向かいたい!」とわくわくします。

もちろん、わくわく感を持つこと自体はとても良いことなのです。

ただ、そんなときこそ少し我慢してたとえ10分でも20分でも良いので、少し机に向かって譜面とじっくり向き合ってみましょう。

するといろいろな気づきも出てきて、わくわく感もさらに倍増します。

机に向かう時間というのも練習と同じく大事な時間ですので、譜面の分析に関してもぜひ力を入れて取り組んでみてくださいね。

おさらいしよう!全体的な弾き方のまとめ


ここまで、ハイドンの『ソナタ第35番ハ長調第1楽章』についてお話ししてまいりましたが、いかがでしたか?

ここで、以下に全体的な弾き方のコツをまとめました。

  1. 音符や休符の長さに気をつけて、一音一音丁寧に弾く(全体的に)
  2. 3連符を弾く際は腕や手首に余計な力が入らないように気をつける(全体的に)
  3. 譜読みの段階で曲全体における弾き方のパターンを予め掴んでおく(全体的に)
  4. 調の変化に臨機応変に対応できるようにする(特にセクションAセクションCセクションD
  5. ペダルはある程度弾けるようになってから入れる(特にセクションC
  6. 拍をしっかり意識しながら弾く(特にセクションBセクションE

以上の6つのコツを念頭に、練習してみてくださいね。


冒頭でもお話ししました通り、この曲の難易度自体はそれほど高くありませんが、よく譜面を見ると学ぶべきことがぎっしり詰まった作品であることがわかります。

ですので、この曲をマスターするだけで、技術面でも表現面でもかなりの勉強になります。

また、この曲が収められている『ソナチネアルバム1』には、他にもいくつか、違う作曲家のソナタ作品もありますので、これを機に他の作品にも果敢にチャレンジしていくと、また新たな世界が広がってくるかと思います。

それでは、練習頑張ってくださいね!畑の地中から全力で応援しております。

byピアノ弾きのもぐら


「ソナタ第35番」の無料楽譜
  • IMSLP(楽譜リンク
    本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1900年以前にペータース社から出版された楽譜です。

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