ブルグミュラーの18の練習曲はどの曲も親しみやすく、そして様々な技法を習得するにはまさにもってこいと言える曲集です。
そして、この『泉』という曲は18の練習曲集の5番目に収録されています。
ちなみに、よくレッスンで使用される練習曲集といえば、たとえばハノンやバイエル、ツェルニー等ですよね。
ですが、これは私個人の体験談と勝手な感想ではありますが、ツェルニー先生やハノン先生の練習曲ばかりを弾いていると、だんだんと退屈になってしまうというのが本音でもあります。先生方、本当にごめんなさい。
そして、ふと「もう少し違う練習をしたいなぁ」と思ったとき、私は必ずブルグミュラー先生の練習曲集を引っ張り出して弾いては「練習って楽しいなぁ」などと、独りでにこにこしてしまうのです。
ブルグミュラー先生の曲集はなぜ弾いていてこんなに楽しいのか。それはおそらくどの曲にも、必ずその曲の雰囲気に合った表題が付けられているからだと私は思っております。表題が付いていると、自然とその曲のイメージが湧きやすくなるような気がするのです。
そして、この『泉』という曲も音源をお聴きになるとおわかりになるかと思いますが、まさに泉のように音符が湧き上がってくるかのような印象を受けます。
「18の練習曲を弾いてみたい」、「レパートリーを増やしたい」という方は必見です。
【ブルグミュラー・18の練習曲集:全音楽譜出版社】
こちらは有名な全音楽譜出版社の楽譜です。
「もう持っているよ!」という方もきっとたくさんおられるかと思います。各曲の特徴が巻頭でわかりやすく解説されており、おすすめの一冊です。
こんにちは!ピアノ弾きのもぐらです。
今年は大変暑く日照りが長く続いていたせいか、どうやら畑のお野菜たちも大打撃を食らってしまったようです。
農作業を頑張っておられる畑の主さんのお話が聞こえてくるのですが、どうも特にキュウリやナスの出来ばえが今年はいまひとつとのことです。ちょっと残念ですね。
その代わり、暑さに強いスイカは当たり年のようです。
先日、地中でクーラーに当たりながら涼んでおりましたら、小ぶりではありましたが、なんとスイカが巣穴の中に転がり込んできて思わず舞い上がってしまいました。
やはり、今年のスイカは甘くてとても美味しかったです。
■ 目次
全体的に難易度はやや高いけれど大丈夫!
さて、本題に入りますね。
まずピアノ中級者の方の目線でお話ししてまいりますが、この曲は少し難易度は高めと言えます。
他の教則本を基準とした具体的な指標としましては、ツェルニー30番の後半あたりを練習中という方であれば充分弾けるほどだと思います。
そしてこの曲は全体的にざっくり見ると、譜面のボリューム自体はそれほど多くはないのですが、技術的には指の動かし方や力の抜き加減など、いろいろと注意をしていかなければならないところが多いように思います。
特に指の動かし方が独特なので、最初慣れないうちは苦戦してしまう方もおられるかもしれません。かくいう私も、かなり手こずった時期がありました。
この曲はちょっと大変なところもあるかもしれませんが、一つ一つの細かな技法を着実に習得していくことで曲全体が徐々に出来上がっていきますので、焦らずゆっくり練習していく気持ちが大切になってきます。
構成は全体的にわかりやすい!
美味しそうなスイカですね。
では、まずは以下の動画を聴いてみてください。
曲を解説するにあたって、この記事では一曲を以下のように各セクションに細切れにしています。一つ一つのセクションごとに順を追ってお話ししてまいります。
・ セクションA1(最初~0:20)※その後繰り返し
・ セクションB(0:43~1:01)
・ セクションA2(1:02~1:22)※その後繰り返し(セクションB、セクションA2)
・ セクションC(2:03~終わり)
※カッコ内の時間は動画に沿ったものです。動画をよく視聴して曲全体の雰囲気や響きの特徴などを予め捉えておくことで、練習効率もアップするかと思います。
この曲は先ほども申しましたが、難易度的にはやや高めではありますが、構成自体はとてもシンプルでわかりやすくなっています。譜読みの段階でしっかりと場面の変化等を把握しておきましょう。
もぐら式!弾き方のコツ
セクションA1 ~指の動きに慣れていこう~
セクションA1では、さっそく冒頭から印象的なフレーズが登場します。特に右手はこの特徴的な動きのまま、曲の最初から終わりまで進んでいきますので、しっかりと片手練習を徹底し、この独特な指の動きをしっかり自分のものにしていきましょう。
※ 『Andante grazioso.』の意味は『歩くような速さで優雅に』
※ 『dolce』の意味は『やさしく』
※ 『una corda』の意味は『左のペダル(シフトペダル)を踏む』
まずこの譜面をパッと見たとき、「何だか音符がたくさんあって難しそうだな」という印象を抱く方も多いかもしれません。特に右手の32分音符が何ともややこしそうですよね。
ですが、ゆっくりと片手ずつ弾いていけば何のことはありませんので「弾けないかも……」という先入観はなるべく取っ払っていきましょう。
そしてこれはこの箇所に限ったことではなくこの曲全体に言えることですが、大事なことは八分音符の主旋律をしっかりと際立たせること、そして手に力が入って途中で右手が疲れてしまわないように気をつけることです。
そのような意味では、この右手の動きはとても難しいように思います。何しろ主旋律を鳴らす指だけに力を集中させ、残りのオクターブの分散和音はとにかくさりげなく音量を小さく抑えつつ弾かなければならないからです。
そのため、いきなりこの右手を弾くのが大変だという場合は、まずはオクターブの分散和音だけを、手に余計な力を入れなくても弾けるようになるまでひたすら練習するという方法が効果的かと思います。
それに慣れてきたら、徐々に主旋律となる八分音符を加えた練習をしていきましょう。
また、オクターブの分散和音を弾くのが苦手という方は、一旦曲の練習を離れてハノンの教則本にある分散和音の音階練習を重点的に練習してから曲の練習に戻るというのも一つの方法です。
いずれにしろ自分の得意な部分と苦手な部分を考慮しつつ、自分に合った練習方法や教則本を選ぶことが重要です。
※ 『a tempo』の意味は『元の速さに戻す』
※ 『rallent.』は『rallentando』の略称で意味は『だんだん緩やかに』
※ 『dimin.』は『diminuendo』の略称で意味は『音をだんだん弱く』
※ 『riten.』は『ritenuto』の略称で意味は『そこから直ちに遅く』
上の譜面において1小節目の2拍目にある16分音符の主旋律は、右手と左手がばらけないように、特に両手練習に入ったときは気をつけて練習していきましょう。(0:17~)
この両手の旋律がばらけてしまうと、何だか一体感の感じられない響きになってしまいますので、細かいところではありますが見落とさずに大事に鳴らしていきましょう。
また、この箇所は譜面全体を見渡すと、構成されている音符がやや不協和音的ですので、ペダルを踏む際は音が濁らないように、どこにペダルを入れていくのが効果的かを譜読みの段階で予め考えておくことも大切です。
セクションB ~アクセントや起伏をつける程度に注意~
セクションBからは、セクションA1の響きというかフレーズが、形を変えて発展していきます。(0:43~)それに伴って和音の響きや臨時記号も徐々に変化していきますので、しっかりと臨機応変に対応していきましょう。
※ 『tre corde』の意味は『左のペダル(シフトペダル)を離す』
ここは『mf』の指示があるので確かに音量は上げても良いのですが、やはりあくまで右手は主旋律を際立たせ、分散和音は音量を抑えてさりげなく弾くことを変わらず心がけていきましょう。
左手に関しても、上の譜面において最初の一音はアクセントをつけても良いですが、これもやはり右手の主旋律の響きを阻んでしまわない程度に音量を留めておくことが大事になってきます。
つまり、聴いていて不自然に聴こえない程度の範囲で音量を調節していくことが必要であるということです。
※『sf』は『スフォルツァンド』と呼ばれ、意味は『その音だけ特に強く』
この箇所は曲の中で最も響きの起伏が大きい部分です。(0:52~)
ここはアクセントを表す表記がいくつも表れますが、全部同じような程度でアクセントをつけてしまってはメリハリに欠けてしまいますので、どこを最も強調させたいのかを自分なりによく考えてみる時間も大切です。
特に上の譜面における1小節目は、どの音に重きを置くかを考えるという意味では少し悩ましい部分かもしれません。
これは私個人の考えではありますが、この箇所の右手のアクセントというのは、ここだけ特別強く弾こうと無理に考える必要はないように思います。
というのも、右手の主旋律というのはそもそも最初から強調する役割を担っているので、ここへきてさらにアクセントを気にするまでもないように思えてならないからです。
つまり、ここで新たに意識的に重きをおくべくは、右手というよりもどちらかというと左手のように思えてくるのです。
特に上の譜面における左手にある最初の音は、先ほども少し触れましたが、ここでもやはりアクセントをつけるべき重要な音だと私は解釈しております。この1拍目を強調するか否かで、だいぶ響きに違いが出てくるかと思います。
セクションA2 ~手の状態をしっかり確認しよう~
セクションA2はセクションA1の繰り返しとなりますので、もうマスターできたようなものですね。(1:02~)先ほどのセクションBで曲の雰囲気に大きく起伏が出た後ですので、ここではその高揚感を鎮めることを意識しながら表現していきましょう。
そして何度も申しますが、あくまで音量は全体的に抑えることが大切です。
ちなみに、もしこのセクションA2に来た段階で手が疲れている等、練習をする上で何らかのつらさを感じるという場合は要注意です。
何らかのつらさがある場合は、大抵腕や手などに余計な力が入っているというサインです。つらさを抱えたまま練習を続けると最悪の場合、腱鞘炎につながるおそれも出てきます。
そのため、このあたりにさしかかったら自分の腕や手の状態を確認してみることが重要です。もしここでつらくなったと思ったら、練習を一旦中断して力が完全に抜け切るまで少し休憩しましょう。くれぐれも無理はしないように気をつけてくださいね。
セクションC ~最後の一音まで気を抜かない~
セクションCは曲の締めくくりとなります。(2:03~)相変わらず音量は小さく抑えつつ、主旋律を意識しながら穏やかに進んでいきます。終盤にさしかかったからといって気を抜かず、最後の一音まで丁寧に鳴らしていきましょう。
この箇所は、右手がちょっと弾きにくいと感じる方もおられるかもしれません。
特に、上の譜面における2拍目の最初で『レ』のオクターブの分散和音がいきなり『ミ』の分散和音に変化するところ等、うっかり見落としてしまわないように注意しましょう。
この曲の右手は始終ほぼこのような形のフレーズが続きますが、この一節の指の動きが意外と難しいように私は思います。
また、手が小さいという方にとってはこの部分がより難しく感じられるかもしれません。かく言う私も手がとても小さいので、今でもこの箇所にさしかかると音を外してしまうことが度々あります。
ここをスムーズに弾くポイントは、『ミ』の音の直前にある主旋律の『ド』の音を弾く瞬間に、薬指と小指の間を大きく開くように意識することです。
ただ、慣れないうちはそのように意識すると指の動きの反動で、『ミ』のオクターブの分散和音が大きくなってしまうかもしませんが、慣れてくれば徐々に自然と意識しなくても指が正しい音を掴めるようになってきます。
また、ここでも慣れていない段階では片手練習を徹底し、慣れてきたら初めて両手で合わせるようにしましょう。
※ 『dimin. e molto rall.』の意味は『音をだんだん小さくしつつ、より一層緩やかに』
この最後の箇所は、左手と右手が一つのフレーズとして聞こえるように、とにかく一つ一つの音の粒にムラが生じないように心がけましょう。(2:14~)
そして、上の譜面におけるフレーズの頂点にある和音は、指を鍵盤にそっと置くような感覚でなるべく音が硬くならないように鳴らすことが大切です。
また、ここはだんだんとフレーズが高音域へと上がっていくので、ついつい音を盛り上げてしまいがちですが、強弱の指示は「徐々に弱く」となっていますので、ヒートアップしないように音量をしっかり抑えていきましょう。
復習しよう!全体的な弾き方のまとめ
ここまで、ブルグミュラーの18の練習曲『泉』についてお話ししてまいりましたが、いかがでしたか?
ここで、全体的な弾き方のコツを以下にてまとめました。
- 主旋律の八分音符をしっかり際立たせ、細かな分散和音は音量を抑えて控えめに鳴らす(全体的に)
- 右手と左手の旋律が重なる箇所は音がばらけないように気をつける(特にセクションA1、セクションA2)
- アクセントや抑揚は、不自然に聴こえない程度につける(特にセクションB)
- 弾きにくい箇所は慣れるまで片手練習を徹底する(全体的に)
- 締めくくりは音量等、ヒートアップしないように気をつける(特にセクションC)
以上の5つのコツを念頭に練習をしてみてくださいね。
冒頭でも触れましたが、この曲は技術的にはやや難易度は高めと言えますが、その分きれいに弾けるようになると、もはや練習曲とは思えないような素敵な雰囲気を醸し出すことができる曲だと私は思っています。
そのような意味では、ブルグミュラー先生の練習曲の中でもこの曲は、どこか大きな可能性というか、とにかく表現をする上での伸びしろがたくさんある一曲にも感じられます。
また、この曲を練習する上で一番に学ぶべきことは、何と言っても一つ一つの音を丁寧にムラなく弾く技術です。
そして私は実際に練習をしてみて、この曲はその高度な技術を、爽やかに湧き出る泉の水をイメージしながら楽しくマスターできるという優れた作品なのだと実感しました。
ブルグミュラー先生の作品の素晴らしいところは、このように難しく思えるような技術を楽しく学べるところだと思いますので、ぜひその楽しい世界にたくさん触れてみてください。きっとピアノの練習がさらに楽しくなると思います。
それでは練習、頑張ってくださいね!畑の地中からスイカをかじりながら応援しております。
- IMSLP(楽譜リンク)
本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1900年にシャーマー社から出版されたパブリックドメインの楽譜です。「18の練習曲」全曲が収録されており、第5曲「泉」は9ページ目からになります。
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