モーツァルトのピアノソナタ第8番(K.310)はモーツァルトのピアノソナタの中でも人気のある曲の一つです。

明るく華やかなイメージの曲が多いモーツァルトですが、この曲は珍しくイ短調のマイナーコードの曲であり、非常に劇的で悲壮感を感じる曲に仕上がっていることも人気の一つの要因ではないかと思います。

(モーツァルトのピアノソナタのうちマイナーコードで書かれている曲は、この曲と第14番(K.457)ハ短調の2曲のみです。)

モーツァルトはこのピアノソナタ第8番(K.310)を22歳のころに作曲しています。その時はちょうどモーツァルトの母アンナを亡くした直後であり、その悲しみがこの曲にも反映されているのかも知れませんね。

今回は、ピアノソナタ第8番(K.310)のなかでも特に聴きごたえのある第一楽章の難易度と弾き方について解説をしていきます!



ピアノソナタ第8番(K.310)第1楽章の難易度


ピアノソナタ第8番(K.310)第1楽章の難易度ですが、全音ピアノピースで出版されている曲ではないため、客観的に難易度を知る上で非常に役にたつ全音の難易度評価がついていません。

演奏の難易度については多分に主観的な要素が入ってくることをお断りしたいと思いますが、色々なインターネット上のサイトで難易度を評価しているものを見ますと、モーツァルトのピアノソナタの中では最難関ではないにしろ難しい部類に入るようです。

また、全音の難易度評価がついているモーツァルトの他のピアノソナタとしては、ピアノソナタ第11番(K.331)第3楽章(いわゆるトルコ行進曲)があります。

こちらは難易度「B(初級上)」ですが、比較すると第8番の第1楽章の方が一目瞭然に難しいと言えます。

私はこの曲を弾いたのは高校生くらいだったので、ピアノ歴としては12年程度です。同じころ弾いていたのは、リストの「愛の夢 第3番」やベートーヴェンの「月光」「悲愴」あたりで、それと比較すると簡単かな、、、という感じでした。

(もちろん、上記の曲に比べて難しいと感じる部分もあるのですが、全体的な評価としては若干難易度が低いということです)

上記、同時期に弾いていた曲については、難易度「D(中級上)」~「E(上級)」に該当する曲です。そのため、あくまで個人的な評価にはなりますが、仮に全音の難易度評価がついたとすると「D(中級上)」に分類されるものと推測します。

ピアノ協奏曲を弾くイメージで大胆にカッコよく弾こう!


これまで書いてきた難易度評価では「D(中級上)」と評価しましたが、この曲の難易度を押し上げている要因は全曲を通して動き回る16分音符のパッセージではありません。

もしそうであれば、指の練習を十分にすれば弾けるようになるのですが、この曲の難しさは、右手と左手を駆使して表現されるピアノ協奏曲のような構成にあります。

つまり、右手がピアノ、左手がオーケストラ(時によりその逆もあり)のように、時に別のメロディーを奏でたり、時に同じメロディーを呼応しあったりするような構成になっているため、それを弾きこなすのが非常に難しいのです。

ところで、ピアノ曲を分析する際には「オーケストラに置き換えてみたらどうなるか」「声楽に置き換えてみたらどうなるか」などピアノ以外の楽器による演奏に置き換えてみたらどうなるかというのをイメージすることがあると思います。

その点、ピアノソナタ第8番(K.310)ほどピアノ協奏曲に置き換えてイメージすることで、演奏の方向性を明確にできる曲もすくないのではないかと思うぐらい、この曲はピアノ協奏曲が持つ形式を含んでいます。

つまり、ピアノ協奏曲のような形式であることが難しさの源泉でもあり、また曲を分析する際の重要な糸口にもなっていると言えるでしょう。

以下では、ピアノ協奏曲をイメージした場合に、具体的にどのような部分がピアノ協奏曲のようなのか、そしてそれを演奏にどう反映していくかという点について、解説していきたいと思います。

古典派のピアノ協奏曲の構成要素は色々な方法で分けることができると思いますが、私は以下の5つで分けて考えています。

①「オーケストラのみが演奏する部分」
②「ピアノのみ(あるいは伴奏程度にオーケストラが参加)が演奏する部分」
③「ピアノとオーケストラが呼応しあう部分」
④「カデンツァ(ピアノ独奏部)」
⑤「ピアノとオーケストラが同じ音を出す部分(トゥッティtutti)」

ピアノソナタ第8番(K.310)の第1楽章を演奏するにあたっては、上記①~⑤を意識してイメージを膨らませ、ひとつひとつの音に反映していくというのが大事です。

それでは、具体的に①~⑤の部分を見ていきましょう。

第一主題(動画:開始~0:41)


冒頭の第一主題は「①オーケストラのみ」の演奏がイメージできます。右手と左手がそれぞれ第一、第二バイオリンの役割を担います。赤枠で示した左手の同音連打の和音はバイオリンのほかビオラなどの弦楽器が同音反復をしているようです。

そのため、楽譜上はスタッカートが記されていますが、あまり短く切ると弦楽器らしさが失われてしまうことに注意しましょう。

どちらかというと一つひとつの和音は少し重めにします。響きを出すためにハーフペダル、クォーターペダルぐらいの薄めにペダルを入れてもよいくらいだと思います。

また、青枠で示した終止も弦楽器特有の消えるようなデクレシェンドで弾くと雰囲気が非常によく出ると思います。

第二主題(動画:0:41~1:20)


続く第二主題は「②ピアノのみ(あるいは伴奏程度にオーケストラが参加)」の演奏がイメージできます。第一主題での重厚なオーケストラの演奏が一息ついたところで、(赤枠で示した)ころころと動き回るピアノの軽妙なパッセージが浮かびあがります。

また、それを支える(青枠で示した)バイオリンの控えめな伴奏が入ります。(私はバイオリンに聞こえますが、フルートでも面白いかもしれません)

そして、ピアノがほぼソロで演奏する部分に引き続いて、ピアノとオーケストラの掛け合いのような(緑枠で示した)多声的な部分が出てきます。

オーケストラの部分はオーボエなどの木管楽器が引っ張っていくイメージで、一定した音量と丸みを帯びたなめらかな音色で弾けるようになりたいですね。


その後、主題部の締めくくり(動画1:20~1:29)となり、ここは「⑤ピアノとオーケストラが同じ音を出す部分(トゥッティtutti)」のイメージです。ただ、まだ劇的な展開部を迎えていない中間の終止ですので、トゥッティとは言え、若干穏やか目に締めるとよいでしょう。

展開部(動画:2:58~3:51)


主題部が終わると、第一主題が転調されますが、ほどなく(赤枠で示した)劇的な展開を見せることになり「③ピアノとオーケストラが呼応しあう部分」が現れます。

雷鳴がとどろく嵐のような情景をピアノとオーケストラが渾身一体となって進んでいきます。(青枠で示した部分)


さらにピアノが演奏したところ(緑枠で示した部分)を、オーケストラがもう一度演奏する(紫枠で示した部分)呼応の表現を見ることができます。

ここは同じモチーフの繰り返しだからといって大きく音色や音量を変えるのではなく、ピアノとオーケストラが競いあうようなイメージで迫力満点に駆け抜けるのがよいでしょう。


展開部が完了すると再現部が現れます(動画:3:51~5:13)。再現部は展開部での劇的なやり取りをまだ引きずっているかのようです。

カデンツァ(のような部分)(動画:5:13~5:17)


非常に短く、また正式な意味でのカデンツァとは異なりますが、それまで続いていた細かいパッセージのやり取りが突然止まり、まるで独奏のようになるのがこの部分(赤枠で示したところ)です。

カデンツァのような部分なので、前の部分からテンポ通り連結されている必要はなく、むしろ、この部分にはいる前に一度静止を感じるようなぐらいに、しっかりと1拍目の音に飛び込むと、カッコよく聞こえると思います。

フィナーレ(動画:5:19~終わり)


古典派の典型的なピアノ協奏曲と同じように、カデンツァが終わると「⑤ピアノとオーケストラが同じ音を出す部分(トゥッティtutti)」により第一楽章は劇的に幕を閉じます。(赤枠で示したところ)

モーツァルトの時代にはピアノ協奏曲の編成はまだ決して大きなものではなかったため、大編成の交響曲のような壮大な音色はいりませんが、全ての音を寸分のずれなく演奏し、気持ちの良い和音の響きを出すことを目指しましょう。

「ピアノソナタ第8番(K.310)第1楽章」の弾き方のコツと難易度まとめ


1.ピアノソナタ第8番(K.310)第1楽章は全音での難易度評価はついていませんが、他のピアノソナタ等と比較すると「D(中級上)」程度の難易度に該当すると考えられます。
2.ピアノ協奏曲をイメージして楽曲を分析すると、イメージが膨らみます。具体的にはソナタ形式の各部分を以下の5つのピアノ協奏曲の構成要素に当てはめるとよいでしょう。

①「オーケストラのみが演奏する部分」
②「ピアノのみ(あるいは伴奏程度にオーケストラが参加)が演奏する部分」
③「ピアノとオーケストラが呼応しあう部分」
④「カデンツァ(ピアノ独奏部)」
⑤「ピアノとオーケストラが同じ音を出す部分(トゥッティtutti)」

以上、モーツァルトのピアノソナタ第8番(K.310)第1楽章の弾き方のコツと難易度をご紹介しました。ピアノを弾く楽しさだけでなく、ピアノ以外の楽器も含めて曲をイメージし演奏に結びつける「分析する楽しさ」を実感できる曲です。

是非皆さんもマスターしてくださいね!


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  • IMSLP(楽譜リンク
    本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1893年にシャーマー社から出版された楽譜です。

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