ショパンの英雄ポロネーズは「ピアノ音楽」という広いジャンルの中でも、トップクラスに有名な曲の一つとして知られる曲ですよね。

英雄ポロネーズのあの有名なテーマについてはピアノやクラシック音楽についての知識が特にない人でも、一度は聴いたことがあるという人が多いのではないでしょうか。

私はヴラディミール・ホロヴィッツが弾いた英雄ポロネーズ(1945年の録音)を小学校1年生の時に聴いたことがきっかけとなり、ピアノの魅力にとりつかれてしまい、それ以降ピアノ練習にとてもよく励むようになりました。



まさに私にとってピアノの原体験ともいっても過言ではない曲ですから、自分で演奏するだけでなく沢山のピアニストの録音も聴いてきました。

幾多のピアニストがこの曲を録音してきた中で私が聴いたのは、アシュケナージ、ルービンシュタイン、ポリーニ、ミケランジェリ、ブーニン、ホロヴィッツ、辻井伸行などですが、私が一番好きなのはホロヴィッツの1971年の録音です。


(ホロヴィッツは英雄ポロネーズを1945年と1971年に2回録音しています)

歯切れがよく明快なポロネーズのテンポ、気品あふれる第一主題、勇壮さと切なさが切れ目なく自然に展開する中間部、完璧な正確さときらびやかな音響で聴く人をくぎ付けにするコーダ、まさに全編にわたって非の打ちどころのない演奏だと思います。

それまで、1945年版の力強さや勇壮さを前面に押し出した演奏しか聴いたことがなかった私にとって、この1971年版を初めて聴いたときには、感動を通り越し驚愕を覚えた記憶が今でも頭から離れません。

今回はピアノを弾く人であれば誰もが一度は挑戦したい素晴らしいピアノ曲「英雄ポロネーズ」を上手に弾くためのコツと難易度をご紹介します!

■ 目次

そもそも、ポロネーズってどういう音楽なの?


英雄ポロネーズのおかけで、非常に多くの人が知ることになった「ポロネーズ」という音楽ですが、そもそも一体どんな音楽なのか皆さんご存じですか?

「ポロネーズ」というのはショパンの祖国であるポーランドの舞曲で、「タンタタ/タッタ/タッタ」というゆっくり目な3/4拍子のリズムが特徴です。その起源については、諸説ありますが、宮廷の儀式や結婚式など祝祭的なイベントで用いられた音楽という性質に着目するとポロネーズがどのような音楽なのか想像しやすいかと思います。

また、ショパンが作曲した舞曲に関して「ポロネーズ」との比較という意味だと、他に「ワルツ」「マズルカ」が有名ですよね。

「ワルツ」はリズムでいうと「ズン/タッタ」「ズン/タッタ」という感じで、貴族のお屋敷で男女が手をとりながら、くるくる回っているイメージの曲ですね。日本語では「円舞曲」というピッタリな訳がつけられています。


もともとは民族舞曲から始まった形式ですが、都市の住民や宮廷での舞踏曲として用いられるなどで発展した音楽形式で「高貴さ」とか「洗練」という言葉がしっくりくる音楽です。

「マズルカ」はリズムでいうと一拍目に付点リズムを用い、二拍目、あるいは三拍目にアクセントがくる独特なリズムで、洗練されたワルツの形式と比べると「武骨さ」とか「民族的な」印象を強く受ける音楽です。


ちなみに、ショパンは同じポーランドの舞踊のポロネーズに比べてマズルカを圧倒的に沢山作曲しています(ポロネーズは全8曲に対し、マズルカは40曲以上)。

大曲がおおいポロネーズに比べ、小品をおおく作曲しておりショパンにとっては日常的な、気軽な音楽だったのだと思います。

ワルツが「高貴さ」「洗練」というイメージ、マズルカが「武骨さ」「民族的」というイメージをもつのに対して、ポロネーズは宮廷の儀式や戦士の行進から発達した舞踊曲で「勇壮な」「祝祭的な」「誇り高い」というイメージがピッタリくる音楽です。

今回のテーマである英雄ポロネーズも、金管楽器のファンファーレを想起させる華やかな音色、行進曲のような勇壮さが楽曲のいたるところに表現されています。

革命などの武力闘争がおおかった時代ですから、ショパンはこの曲に祖国ポーランドの華々しい未来を想う気持ちを込めたのではないかと考えてしまいます!

ポロネーズという音楽の形式や作曲背景に対する理解は、演奏を行う上でさまざまなアイデアにつながっていきます。ポロネーズにはショパン以外にもバッハやベートーヴェンをはじめとする、さまざまな作曲家の作品が残されていますので、是非、それらも聴いてみて楽曲に対する理解を深めていってくださいね!


ショパン「英雄ポロネーズ」の難易度


英雄ポロネーズの難易度は全音ピアノピースの難易度評価で「F(上級上)」。まさしく、難曲に分類され、演奏効果も抜群の曲ですので、幾多のピアニストたちが重要なレパートリーとしてこの曲を演奏してきました。

私もこの曲にチャレンジしたのは大学生の頃ですので、ピアノ歴でいうと15年ほどで弾いたことになります。私がチャレンジした中で最もむずかしい曲の一つです。

また、ショパンのポロネーズは全般的に規模が大きく難曲ぞろいですが、英雄ポロネーズは「アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズ」、「幻想ポロネーズ」と並んで最も難しいポロネーズの一つともいえるでしょう。

英雄ポロネーズの中でも特に難所といわれるのが、中間部の左手オクターブによる16分音符の下行の連続です。このオクターブを「弱音で」「粒をそろえて」「速度を一定に」演奏するのは非常に難しい(腕が痛い)!

この曲を弾けるようになれば「ピアノを特技としています!」と胸を張って言えますし、誰にでも自信を持ってピアノを披露できると思いますので、是非、粘り強く練習してマスターしてくださいね!

上手に弾くためのコツ(1)-ポロネーズのリズムを身につけよう


ポロネーズのリズムは「タンタタ/タッタ/タッタ」というゆっくり目の3/4拍子だということは先ほどご紹介したとおりです。以下の楽譜は「軍隊ポロネーズ」の中間部ですが非常に単純なリズムに見えますよね。

ショパン「ポロネーズ第6番『英雄ポロネーズ』変イ長調Op.53」ポロネーズリズムのピアノ楽譜
ただ、ポロネーズはもともと民族舞曲。楽譜に表しきれない独特なリズム感がポロネーズにはあります。ポーランド人ではない私たちが、この独特のリズム感をいかにうまく再現できるかというのが、ポロネーズの難所の一つです。

そんなポロネーズの難所をクリアするために私がおススメしているのが、1拍目のウラを16分音符2つではなく、「16分三連符の後ろ2つを弾く」イメージで少し2拍目に向かってタメを作ることです!(2拍目に向かってドラムのロールを入れるイメージです)

実際には私が言ったような形をそのまま弾くと、テンポが崩れてしまう部分もあるのですが、2拍目に向かってタメを作る意識で弾くことで平板なリズムから躍動感のあるリズムを作ることができますので、是非試してみてください!

上手に弾くためのコツ(2)-くり返し現れる主題には変化をつけよう


英雄ポロネーズの中で最も印象的かつポピュラーな部分は、当然のことながら主題部(サビ)ですよね。主題部はこの曲において合計4回出現しますが、全てを同じように演奏してしまうと、少し退屈な印象をうけてしまいます。

特に英雄ポロネーズの場合は響きのよい強音が曲全体を通して多く使われるため、サビの部分もずーっと同じように力いっぱい弾いていると、聴いている方がちょっと疲れてしまうかもしれません。

ですので、4回現れるサビの部分に関して、たとえば以下のように弾いてみるのはどうでしょうか。

1回目の主題:2回目の主題部に向けて音量は控えめに、装飾音もきっちり弾いて気品のあるイメージで弾いてみましょう

ショパン「ポロネーズ第6番『英雄ポロネーズ』変イ長調Op.53」1回目の主題のピアノ楽譜 (動画0:35~)

2回目の主題:この曲の中心をなす部分ですので、華やかな金管楽器のファンファーレをイメージして十分な響きを得るように力強く弾いてみましょう

ショパン「ポロネーズ第6番『英雄ポロネーズ』変イ長調Op.53」2回目の主題のピアノ楽譜 (動画1:13~)

3回目の主題:2回目の主題の繰り返しになりますので変化をつけてみましょう。たとえば音量を少し抑えたり、クレッシェンドやデクレッシェンドの付け方を変えたりしてみると意外な印象を聴いているひとに与えることができます。

ショパン「ポロネーズ第6番『英雄ポロネーズ』変イ長調Op.53」3回目の主題のピアノ楽譜 (動画2:37~)

ちなみに私が大好きな演奏として挙げたホロヴィッツの1971年版では、この3回目の主題が非常に特徴的でエレガントに演奏されています。

上の楽譜に該当箇所を記載していますが、ポイントとしては
・クレッシェンドを使ってドキドキ感を高める(①の部分)
・分散和音の分散度を上げつつペダルを厚めにして音のキラキラ度を高める(②の部分)
・主題の途中を弱音で弾き、聴いている人に一息つかせる(③の部分をp.で弾く)
など、とても効果的な演出をしています!

4回目の主題:長い緩叙部を抜けたあとのパートになります。コーダ(クライマックス)に向けてこの曲の力強い主題を再確認するため、2回目の主題をきっちり再現しましょう。

ショパン「ポロネーズ第6番『英雄ポロネーズ』変イ長調Op.53」4回目の主題のピアノ楽譜 (動画6:01~)

これまで書いた弾き方はあくまで一例なので、皆さんもいろいろな工夫をしてみて、様々な角度から主題の魅力を引き出してみてくださいね。

英雄ポロネーズの難易度と弾き方のまとめ


  1. ポロネーズというのはポーランドの舞曲の一つであり、「タンタタ/タッタ/タッタ」というポロネーズリズムが特徴。
    「勇壮さ」「祝祭的」なイメージを持つ音楽形式で、英雄ポロネーズもファンファーレのような華やかさと、行進曲のような勇壮さを合わせもった楽曲です。
  2. 英雄ポロネーズの難易度は「F(上級上)」。ショパンのポロネーズの中でもとりわけ難易度が高く、演奏効果も抜群ですので、数多くのピアニストがレパートリーに加えている曲です。
  3. 英雄ポロネーズを上手に弾くためのコツはリズム感。躍動感のあるポロネーズリズムを刻むために2拍目に向かってドラムロールをするイメージで演奏しましょう。
  4. 繰り返し現れる主題は、毎回同じように弾くと聴いている人は退屈してしまいます。変化をつけて、いろいろな角度から主題の魅力を引き出しましょう。

以上、英雄ポロネーズの難易度とうまく弾くためのコツをご紹介しました。みなさんも是非、このコツを意識しながら練習して、自分だけの英雄ポロネーズをモノにできるよう頑張りましょう!



「英雄ポロネーズ」の無料楽譜
  • IMSLP(楽譜リンク
    本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1881年にシュレジンジャー社とシャーマー社から共同出版されたパブリックドメインの楽譜です。


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