ラフマニノフの前奏曲嬰ハ短調は「鐘」という愛称で有名なピアノ曲です。ラフマニノフはたくさんの有名な曲を作曲しましたが、この曲はモスクワ音楽院ピアノ科を首席で卒業した翌年に作曲され、熱狂的な人気を得たラフマニノフのファーストヒットです。
最近ではフィギュアスケートの浅田真央さんがバンクーバーオリンピックのフリースケーティングの曲に使った影響で、クラシックを聴かない人たちにも知られるようになりました。
ラフマニノフの魅力が詰まった素晴らしい曲ですので、広く知られるようになったのはとてもうれしいことですね!
クラシック音楽というと昔の音楽!というイメージを持つ方も多いと思いますが、この前奏曲嬰ハ短調はラフマニノフの自作自演による録音が残っています。Wikipediaでその録音を聴くことができますので、是非聴いてみてくださいね!
今回は、1890年代のロシアで熱狂的な人気を巻き起こしたラフマニノフの前奏曲嬰ハ短調の弾き方のコツと難易度についてご紹介します!
■ 目次
ラフマニノフ「前奏曲嬰ハ短調」の難易度
前奏曲嬰ハ短調の難易度は全音ピアノピースの難易度評価で「D(中級上)」です。
「D(中級上)」であればピアノを専門的に練習している人でなくても、基礎的な練習を積み重ねてコツコツ取り組めばいつかは弾けるレベルだと思いますが、この曲の場合は手の大きさが難易度を左右すると思います。
具体的には、10度(「ド」から1オクターブ上の「ミ」)を押さえられるか否かが余裕をもって弾けるかの目安になります。
ちなみにラフマニノフは非常に大きな手の持ち主で、左手は12度を押さえることができたと言われています。左手の小指が「ド」を押さえているときに親指は1オクターブ上の「ソ」を押さえているわけだから、すごい大きさですよね!
私はこの曲を大学1年生の時に弾きましたので、ピアノ歴としては13年ほどで弾いたことになります。経験年数としてはかなり長くなった時期に弾いたのですが、曲自体が短いということもあり、2か月くらいで一通り弾けるようになりました。
とても演奏効果が高く、演奏を聴いた人に圧倒的な印象を与えることができる一方、基礎的な技術がある人がしっかり練習すればちゃんと弾けるようになる曲です。そういう意味ではコスパが高い曲ともいえますので、是非マスターしたいですね。
上手に弾くためのコツ(1)-中間部のAgitatoは谷底に落ちていくイメージで前のめりに弾こう
前奏曲嬰ハ短調は、曲の最初に現れるA→G#→C#の3つの音からなるテーマ音型が繰り返される主題部(Lento)と、三連符が特徴的な中間部(Agitato)、情熱的に主題部を再現する再現部(Tempo I)により構成される比較的単純な楽曲展開をしています。
主題部や再現部はこの曲を動機づけたり、印象づけたりするために非常に重要な部分ですが、曲の中盤に現れるAgitatoの部分もまた、前奏曲嬰ハ短調がカッコよく聞こえるか、ただ音が大きいだけの曲に聴こえるかの分かれ道になる、とても大切な部分です。
楽譜を見てみるとわかりますが、このAgitatoの部分はTempo Iに戻るまでの全編にわたって下行するメロディーが続いているのが特徴です。比喩を用いて表すなら、まるで深い谷底に石が転がり落ちていくようなイメージです。
演奏の際にこのような印象を聴いている人に感じてもらうためにおススメしたいのが、転がり落ちる石のスピードがだんだん速くなっていくように、この部分のフレーズも前のめりにスピードアップしながら弾くことです。
ただ、Agitatoが始まってから終わるまで、ずーっとテンポを上げていくという意味ではありません。スピードアップする部分とスピードを元に戻す部分をしっかりと意識して弾く必要があります。
以下では具体的にどのようにスピードコントロールをするか楽譜と照らし合わせながら見ていきたいと思います。
Agitatoが始まった直後の上の部分(動画1:34~)については、赤枠で囲った範囲で下行するメロディーが何度か繰り返されています。
この部分については赤枠の始めから終わりにかけてスピードアップし、また次の赤枠に移るときにスピードを戻すという弾き方をすれば、全体のスピードは変わらないけど前のめりになって突き進んでいくような印象の演奏になります。
細かいフレーズのなかでテンポがかなり変わってくるので、ミスタッチがないようにしっかりと練習しましょう!
上の部分(動画2:04~2:17)は下行する音型がより長く続いていますので、下行の続く赤枠の部分について継続的にスピードを上げていくようにします。
そして、下行が終わり同じ音の高さの繰り返しになる青枠の部分では、転がった石がだんだんスピードを緩めるようにスピードダウンするように演奏し、最終的にTempo Iに戻すとよいでしょう。
以上のように、Agitatoの部分はスピードのコントロールを上手に行うことで、一段上の演奏効果の高い弾き方になると思いますので、是非試してみてください!
上手に弾くためのコツ(2)-腕や手をハンマーのように使って鐘の音を奏でよう
前奏曲嬰ハ短調は「鐘」という愛称で知られています。ラフマニノフが信仰していたロシア正教会の教会には重厚な和音を奏でる鐘がありますが、この曲はその教会の鐘の音色に着想を得た曲なのではないかと思います。
この曲を演奏する際には一つ一つの音が教会の鐘をたたいたような、「コーン」「コーン」という硬質な鐘の響きになるように弾くことが大切です。
硬質な鐘の響きをピアノで表現するためには、自分の指先が鐘をたたくハンマーのように硬いものになっていることをイメージしながら、指先をきっちり固め鍵盤を深く鋭くたたくのがコツです。
また、指先だけでなく手首やひじについても同様です。手首やひじについては、通常は柔らかくしなやかに使う方がよいとされますよね。
ただ、この曲の場合には手首やひじも柔軟に使うのではなく、一つ一つの鐘を腕というハンマーでたたくようにピアノの鍵盤を体の重みで押さえていくイメージで弾くのがよいでしょう。
その際、手の重みだけで弾くか、腕の重みにするか、体全体の重みで弾くかによって「pp(ピアニッシモ)」から「fff(フォルティシッシモ)」まである幅広い強弱のレンジを弾くようすれば、どのような場合でもきっときれいな鐘の音が奏でられるようになれますよ!
「前奏曲嬰ハ短調」の弾き方のコツと難易度まとめ
1.前奏曲嬰ハ短調の難易度は「D(中級上)」。習得のために要する練習時間に比べて、演奏効果が高く、コスパが高い曲といえるので、非常に是非マスターしたい一曲です。
2.中間部(Agitato)の下行するメロディーが連続する箇所は、谷底に転がり落ちるようなイメージで、下行メロディーに合わせてスピードを上げながら演奏することが迫力ある演奏にするためのコツです。
3.指先・手首・腕を鐘をたたくハンマーのように使うことをイメージして、モチーフである鐘の音を上手に出すようにしましょう。
以上、ラフマニノフの前奏曲嬰ハ短調の弾き方のコツと難易度をご紹介しました。みなさんも是非、このコツを意識しながら練習して、この曲をモノにできるよう頑張りましょう!
「前奏曲嬰ハ短調(鐘)」の無料楽譜
- IMSLP(楽譜リンク)
本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1915年にオリバー・ディットソン社から出版されたパブリックドメインの楽譜です。