ピアノを学んだことのある方ならブルクミュラー(ブルグミュラー)の名前を知らない人は、ほとんどいないのではないでしょうか?
「25の練習曲」という曲集名ではピンとこない方でも「アラベスク」や「狩」、「乗馬」というタイトルならわかるのではないでしょうか?
発表会などで弾いたりしませんでしたか?レッスンで習うだけでなく、発表会での曲としてもよく選ばれています。
ブルクミュラーのコンクールというものもあるんですよ!それだけブルクミュラーを弾いている人が多いということなのでしょうね。
今回はピアノを習うほとんどの方たちが学ぶであろう、ブルクミュラーの「25の練習曲」の難易度順について書いていきたいと思います。
■ 目次
ブルクミュラーの「25の練習曲」はいつ頃に学ぶ曲集?
ピアノの導入~初歩の教材はとてもたくさんの楽譜が現在出版されており、教材を選ぶのが大変です。しかし、選択肢が増えたことで昔よりもその生徒さんにあった教材を選ぶことができるようになりました。ピアノを始められる時期は生徒さんによってそれぞれですが、最も早い子で年少さんからでしょう。年少さんからだと鉛筆もまだ持てない子もいますし、右左がわからない子もいます。
小学校にあがるくらいまでは、このような理解度などに個人差がかなりあるので、導入に使う教材にはとても気を遣います。どの教材を使うかはその子にあったものを選ぶようにしています。
導入の教材にはいろんな特徴があって、1曲ごとレベルアップしていくものもあれば、1冊を通してあまりレベルが上がらず、ゆっくりのペースで学んでいける教材もあります。
それぞれのレベルにあった教材で導入は学びますが、導入~初歩の段階で最終的に目指すことは音が読めること、リズムが読めることです。どの教材を使ったとしても最終的にはそれができていればいいわけです。
だいたいの子が小学3、4年生頃には、ブルクミュラーの「25の練習曲」に進めるようになります。私のピアノ教室ではブルクミュラーの「25の練習曲」はみんな共通して弾く曲集です。
もっと早い段階で弾かせていらっしゃる先生もおられますが、私の教室では自分で楽譜を読めるようになってからでないとこの曲集には進ませないので、もしかすると弾かせる時期が他の先生方よりも少し遅いかもしれません。
数えて音を読むのではなく、文字を読むように見てすぐに読めるようになっていないと難しい曲はなかなか弾けません。
小さい頃に楽譜を読むということをしっかりやっていないと、譜読みが嫌いになってしまいます。曲が難しくなればなるほど、楽譜は難しくなり音数が増えていきますよね。
楽譜を読むことが嫌になると、結果としてピアノを弾くことが嫌になるのです。このような理由から私はまず音を読むこと、リズムを読むことに重点を置いています。
小学生になってからこの曲集を弾かせる理由はもう1つあります。
この曲集の前の教材には曲らしい曲というものがありません。つまり、生徒たちにとってこのブルクミュラーの「25の練習曲」が初めての曲らしい曲になるのです。
これまで習ったものとは違い、強弱などの表現をつけるように指示がたくさん書いてあるので、だんだん表現するということを学んでいけます。
そしてこの曲集の25曲には全てタイトルがついていますよね。そのタイトルによって曲について想像しやすくなり、想像を膨らませることができるので楽しいと感じるのです。
曲について想像して、表現をつけるというのは、小さな子にはできないことなので、ある程度そういうことが理解できるようになってから私は学ばせたいと思っているのです。
これがもう1つの理由です。
楽譜が読めるようになったらそれで終わっていた導入とは違い、テクニックを学ぶのと同時に少しずつ表現をつけるという次のステップに進んでいって欲しいと思った時に最適な曲集がこのブルクミュラーの「25の練習曲」なのです。
ブルクミュラーってどんな人?
実はブルクミュラーに関する資料というのはほとんど残っておらず、音楽辞典にも名前が載っていないんです…(彼の父親と弟も音楽家で2人の名前は載っています。)
なぜこんなにも有名な曲集の作曲家の名前が音楽辞典に載っていないのでしょう?
辞典に載るのは音楽史的に重要な役割を果たした人か、作曲技法の様式や時代の転換期となるような重要な作品を残した人だけなのです。
残念ながら、ブルクミュラーはそのどちらでもなかったのです。
少ない資料しかないのですが、わかっていることもあるのでブルクミュラーについて書いていきますね。
ブルクミュラーのフルネームはヨハン・フリートリッヒ・フランツ・ブルクミュラーと言います。1806年にドイツのレーゲンスブルクで生まれ、1874年にパリで亡くなりました。
ブルクミュラーの父親と弟は音楽辞典に名前が載っていると先ほど書きましたね。
彼の父(ヨハン・アウグスト・フランツ・ブルクミュラー)はオルガン奏者、指揮者として活躍し、音楽監督も務めた人でした。
そして弟(ノルベルト・ブルクミュラー)は作曲家、ピアニストとして活躍を期待されていましたが、26歳という若さで亡くなってしまいました。メンデルスゾーンが親友だったそうで、シューマンにも才能を認められていたようです。
ブルクミュラーはというと、ドイツでピアニストとして活躍していたようですが、その後パリに移りピアノ教師、作曲家として活躍したようです。
現在弾かれている曲集のOp.100「25の練習曲」、Op.105「12の練習曲」、Op.109「18の練習曲」は全てパリに移ってから出版されたものです。
この頃ピアノの人口はとても増えており、ピアノを教養として身につけようとする人たちが多くいました。
その人たちが練習するための曲集というのが求められていました。ブルクミュラーはその人たちのために、あまり無理せず、楽しみながら弾けて、でも練習になるという曲集を作りました。
彼は一流の音楽家にはなれなかったかもしれませんが、教育者としてはとても優秀な人だったと思います。
ブルクミュラーはピアノを学ぶ人達が何が苦手で、どういうことを練習させれば上手く弾けるようになるのかをよく理解していたと思うのです。
難しすぎないけど、すごく簡単なわけでもない。練習曲だけど、楽しんで弾くことができる曲にしているという、この絶妙な感じが現在まで曲集が残り、伝わっている理由なのだと思います。
「25の練習曲」の曲集名と各曲のタイトルなどについて
「25の練習曲」は実は省略された名前なんですよ。
原題は「25 Etudes faciles et progressives, composées et doigtées expressément pour l’étendue des petites mains」です。日本語に訳すと「小さな手でも弾けるように構成と運指を考えた、段階的に取り組める易しい25の練習曲」になります。
ブルクミュラーはドイツ人ですが、フランスに移ってから出版された曲集なので、フランス語の原題になっているのかもしれません。(全音版の曲集名は「25 LEICHTE ETÜDEN」となっています。「LEICHTE」とはドイツ語でやさしいという意味です。)
ブルクミュラーの作品は他にもありますが、この「25の練習曲」と呼ばれている作品が他の曲集よりも簡単な曲集ということになります。
多くの方がこの曲集を学ばれるとき全音版を使われていると思いますので、全音版について書きますね。
この曲集は25曲あり、全てにタイトルがつけられていますが、全音版のタイトル名が昔と今とでは少し変化していることを知っていましたか?
どのように違っているのかを見ていきましょう。
1.「La Candeur」 素直な心 → すなおな心
2.「L’ Arabesque」 アラベスク
3.「La Pastoral」 牧歌 → パストラル(牧歌)
4.「La Petite Réunion」 子供の集会 → 小さなつどい
5.「Innocence」 無邪気
6.「Progrès」 進歩
7.「Le Courant Limpide」 清い流れ → 清らかな小川
8.「La Gracieuse」 優美 → 優しく美しく
9.「La Chasse」 狩猟 → 狩
10.「Tendre Fleur」 やさしい花
11.「La Bergeronnette」 せきれい
12.「L’ Adieu」 さようなら → 別れ
13.「Consolation」 なぐさめ → コンソレーション(なぐさめ)
14.「La Styrienne」 スティリアの女 → シュタイヤー舞曲(アルプス地方の踊り)
15.「Ballade」 バラード
16.「Douce Plainte」 小さな嘆き → ちょっとした悲しみ
17.「La Babilarde」 おしゃべり → おしゃべりさん
18.「Inquiétude」 心配 → 気がかり
19.「Ave Maria」 アベ マリア → アヴェマリア
20.「La Tarentelle」 タランテラ
21.「L’ Harmonie des Anges」 天使の声 → 天使の合唱
22.「Barcarolle」 舟歌 → バルカロール(舟歌)
23.「Le Retour」 帰途(かえりみち) → 再会
24.「L’ Hirondelle」 つばめ
25.「La Chevaleresque」 貴婦人の乗馬 → 乗馬
曲番号、「原題」、旧版のタイトル→新版のタイトルのように並べています。タイトルが変わっていないものは、矢印(→)以降を空欄にしています。
タイトルだけが変化しているのではなく、昔の楽譜にはペダルの指示がなかったのですが、現在出版されているものにはペダルを踏むよう指示が書いてあります。
しかしこれは子供にとっては踏むのが難しいものが多いので、基本的にはつけなくていいと思います。ペダルを使った方がいい曲は後で説明しますね。
この他の変更点はメトロノームのテンポ設定です。全ての曲で昔よりも遅いテンポ設定になっています。
昔のテンポ設定はどの曲もとにかく速くて、こんなテンポで弾いている人いるわけがない!!という程速かったんですよ。新しいものは少し改善されていますが、まだ少し速いかなと個人的には思います。
メトロノームのテンポ設定はあまり気にしないでいいです。そんなことよりも強弱などの表現をつけることが重要です。
「25の練習曲」の難易度順
この曲集の難易度順について見ていきましょう。★ 1.「すなおな心」ハ長調 4/4拍子
2.「アラベスク」イ短調 2/4拍子
3.「パストラル(牧歌)」ト長調 6/8拍子
★★ 5.「無邪気」ヘ長調 3/4拍子
6.「進歩」ハ長調 4/4拍子
9.「狩」ハ長調 6/8拍子
16.「ちょっとした悲しみ」ト短調 4/4拍子
★★★ 4.「小さなつどい」ハ長調 4/4拍子
8.「優しく美しく」ヘ長調 3/4拍子
10.「やさしい花」ニ長調 4/4拍子
11.「せきれい」ハ長調 2/4拍子
15.「バラード」ハ短調 3/8拍子
18.「気がかり」ホ短調 2/4拍子
23.「再会」変ホ長調 6/8拍子
★★★★ 7.「清らかな小川」ト長調 4/4拍子
12.「別れ」イ短調 4/4拍子
14.「シュタイヤー舞曲(アルプス地方の踊り)」ト長調 3/4拍子
17.「おしゃべりさん」ヘ長調 3/8拍子
19.「アヴェマリア」イ長調 3/4拍子
20.「タランテラ」ニ短調 6/8拍子
21.「天使の合唱」ト長調 4/4拍子
22.「バルカロール(舟歌)」変イ長調 6/8拍子
★★★★★ 13.「コンソレーション(なぐさめ)」ハ長調 4/4拍子
24.「つばめ」ト長調 4/4拍子
25.「乗馬」ハ長調 4/4拍子
この曲集の全体的な難易度はあまり高くないので、★★から★★★★まではそれ程差がないと思って下さい。
それぞれの曲で練習のポイントは違いますが、ポイントを理解し、練習すれば弾けないということはありません。
私がペダルを入れた方がよいと思う曲は、7番「清らかな小川」、19番「アヴェマリア」、21番「天使の合唱」、24番「つばめ」の4曲です。
7番「清らかな小川」と19番「アヴェマリア」は譜面的には★★でもいいのですが、ペダルを入れるという点を考えて★★★★にしています。
ペダルを踏むというのは慣れるまでが大変で、最初はペダルに気を取られて指がおろそかになります。ちゃんと弾けるようになってから、ペダルを踏むようにした方が上手くいくと思います。
ピアノのペダルは基本的には音を弾いた後に踏む「後ペダル」です。踏み方に慣れるために、このような教材を使ってみるのも1つの方法だと思います。
「25の練習曲」の中でよく弾かれる曲のポイントについて
「25の練習曲」は弾かれる機会のとても多い曲集なので、曲の解説本が多く出ています。全音版には楽譜の初めの方に少し解説が書いてありますので、参考にされるといいかなと思います。しかし、最初からそれらに頼るのは止めた方がいいですよ!音楽は想像するものです。絶対の答えはありません。
曲のタイトルや曲調からいろんなことを自分なりに想像してみて、よくわかない部分が出てきたら、参考にするくらいの気持ちでいて下さい。
この他にも止めて欲しいことがあります。自分で楽譜を読む前にCDを聴きまくって耳コピのようにして弾くのも絶対に止めて下さい!!!
そんなことを繰り返していては、譜読みをほとんど自分でしていないので読譜力はつきませんし、表現も自分でつけていないので、曲をまとめる力もつきません。
初めは上手に弾けるかもしれませんが、途中で伸びなくなってしまいます。すぐに結果を求めないようにして下さい。
少しずつできるようになればいいのですから、焦らないように!自分でできるようにするということがとても重要なことなんですよ!!
さて、それぞれの曲の弾き方のポイントだけ書いていきますね。曲のイメージは自分で考えて下さいね。
1番「すなおな心」
この曲のポイントは長いスラーだと思います。小節ごとで音が切れないように気をつけるだけで上手に聴こえます。後は左手のクレッシェンド、デクレッシェンドをよくつけることです。
2番「アラベスク」
人気の高い曲ですよね。最初の和音は簡単なので速く弾いてしまいがちですが、そうすると自分の首をしめることになります。左手が弾けるテンポにしましょう。
16分音符を1つずつ弾かないようにしましょう。16分音符と次の8分音符までをセットで弾くように練習しましょう。
指を頑張って動かすのではなく、上から少し落とすようにして弾き始めて、8分音符のところでまた上げるように弾きます。鍵盤の上で弾くとどうしても力が入るので、まずは机の上で練習するようにしましょう。
3番「パストラル(牧歌)」
8分の6拍子に慣れましょう。これまであまりやって来なかった拍子なので、最初は少し違和感を覚えるかもしれませんね。8分音符が1拍になるということもしっかり理解しなければなりません。
右手のメロディーをかき消してしまわないように、左手の音量に気を付けましょう。左手は同じ和音を弾くので、速くなってしまいがちです。速くならないように同じ速さで落ち着いて弾きましょう。
5番「無邪気」
スケールの練習です。指使いに気をつけましょう。短いスラーの弾き方やスタッカートとスラーの弾き分けをこの曲で学びましょう。
6番「進歩」
こちらもスケールの練習です。「無邪気」と同じことがポイントになります。この6番「進歩」~8番「優しく美しく」はダ・カーポしなくてはいけません。同じことをもう1度弾かせることでより長く弾けるようにさせています。そして簡単な曲の構成を学ばせようとしていると思います。
7番「清らかな小川」
この曲のポイントは3連符の練習だけではありません。メロディーと伴奏を弾き分けさせる練習です。前半部分は右手の親指部分のメロディーを浮き上がらせて、残りは優しく弾きます。最初はオーバーにやってもいいので、力加減を変えて弾けるように頑張りましょう。
ペダルを入れた方が素敵になるので、できたらペダルを入れて欲しいです。
9番「狩」
初めての見開き楽譜になりましたね。この曲は明るくなったり暗くなったりしますよね。曲の中で長調、短調を学びます。それをどのように感じ、表現するのかがポイントです。
タイトルからいろんな想像を膨らませてみましょう。
14番「シュタイヤー舞曲(アルプス地方の踊り)」
3拍子と装飾音符の弾き方を学びましょう。1拍目が強拍になるということをしっかり意識し、2、3拍目が大きくならないように弾けるように練習しましょう。
15番「バラード」
左手がメインの曲です。粒をそろえて弾けるようにリズム練習が必要になります。
この曲は左手の方が動きがよくないことを理解させて、左手も右手のように動かす必要があることを自覚させたいのかなと私は思っています。
18番「気がかり」
リズムに注意な曲です。左手が1拍目になっていますね。この曲は左手の和音の上に右手の音がちょこんと乗っているようなイメージで弾かなければなりません。
右手が前に前に出てこないように気をつけましょう。
20番「タランテラ」
左手の伴奏形が途中で変わるので、そこに注意ですね。8分の6拍子の曲です。8分音符が3つセットということを視覚的にしっかり理解させながら、間を休みにしたり、2拍や3拍伸ばしたりさせることで、音楽に動きをつけています。
25番「乗馬」
この曲集の中で最も知られている曲だと思います。
短い曲の中にこの曲集の総まとめのように、音域を幅広く使い、3連符を弾かせるところ、スケールを弾かせるところなどが出てきます。
しかし同じ部分が何度も出て来るので、譜読み自体は簡単に出来るような構成になっていて、難しくて挫折するということはありません。
この曲を素敵に弾くポイントとしては、何度も出て来る最初の部分をいかに馬が走っているように弾けるかです。
どのようにするとよいかというと、1拍目に1番の重みを持ってきて、次に3拍目にまた少し重みを持ってくるように弾くんです。2拍目と4拍目は軽く弾きます。
2拍目と4拍目が重いと野暮ったい感じになります。弾き方によって曲の雰囲気はとても変わります。
スタッカートの仕方によっても違います。緩いスタッカートにすれば優しい馬にもなりますし、鋭いスタッカートにすると攻撃的な馬になります。
他にもテンポ設定でも雰囲気は変わります。少しゆっくり弾くと、牧場の感じになりますし、速く弾くと競走馬の感じが出ます。
どんな「乗馬」したいのかよくイメージして弾いて見て下さい。
ブルクミュラーは多分テクニックよりも、表現をつけて欲しいという思いでこの曲集を作曲したのだと私は思います。どの曲も自分なりのストーリーを作って、楽しんで弾いて下さい。音を鳴らすだけで終わらないようにして下さいね!
まとめ
◆ブルクミュラーに関する資料はほとんど残っていない◆ドイツでピアニストとして活躍し、その後パリでピアノ教師、作曲家として活躍した
◆「25の練習曲」は他のブルクミュラーの曲集よりも簡単
◆メトロノームのテンポ設定はあまり気にしない
「25の練習曲」の無料楽譜
- IMSLP(楽譜リンク)
本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1903年にシャーマー社から出版されたパブリックドメインの楽譜です。
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