家事をしていて、仕事をしていて、はたまた宿題を片付けている時などに、ふと口ずさんでいるような曲。
皆さんには、そんな曲がありますか?
いつの時代にも、日常の中で愛された曲がある―――。
今回は、昔の働く人たちに愛された「紡ぎ歌」を題材にした、エルメンライヒの「紡ぎ歌」の弾き方を考えていきたいと思います。
■ 目次
紡ぎ歌、難易度はどのくらい?
全音ピアノピースでは「A(初級)」の難易度で紹介されています。
ブルグミュラー(25の練習曲)も中盤まで弾いている方でしたら、易しすぎず、難しすぎずの難易度だと思いますので、挑戦するには持って来い!な1曲だと思います。
途中左手がメロディーになるところがありますが、それ以外はほとんど繰り返しの形です。
1ページ目の譜読みができたなら、3ページ目は弾けたも同然。
少しピアノに慣れてきた方には、安心しておすすめできる1曲です。
「紡ぎ歌」っていったいなぁに?
さて。それでは、タイトルとなっている「紡ぎ歌」について少し調べてみましょう。
紡ぎ歌。
辞書などで調べますと、「糸を紡ぎながら歌う民謡」と出てきますね。
いやまったくもってその通り。それ以外にありません。
ですが時代の流れの影響でしょうか。(少なくとも私にとっては)あまり身近に感じられません・・・。
気になったので、いろいろと調べてみましたら、今でこそ機械が発達し、糸車を使うことは少なくなりましたが、糸車をつかって糸を紡ぐことは、昔の女性たちにとっては大事なお仕事だったようです。
糸を紡ぐのは、大変根気のいる作業なので、歌を歌って気を紛らわしながら働いたとか。
なるほど。昔は糸を紡ぐお仕事というのは、とても普遍的なものだったのでしょうか。
さて、紡ぎ歌といえば、メンデルスゾーンも、「無言歌集」という作品の中で、「紡ぎ歌」というタイトルで曲を作っています。
メンデルスゾーンの生きた時代は1809-1847年。
また、のちの項目で紹介いたしますが、今回の「紡ぎ歌」の作曲者アルベルト・エルメンライヒも1816~1905年に生きた人です。
私は歴史に詳しくないので、あまり詳しくはご紹介できませんが、紡ぎ歌は、きっとこの時代に生きた人たちにとって、とても身近な歌だったのでしょうね。
エルメンライヒってどんな人?
作曲者アルベルト・エルメンライヒ(1816~1905)は、ドイツの宮廷劇場の俳優で、オペラの作曲もしていたという、多才な人だったようです。
・・・。
それ以上のことが、いくら調べても出てきません。
謎に包まれたエルメンライヒ・・・。
いつか、明かされる日は来るのでしょうか。
左手は糸紡ぎ機のように、機械的な音で
(動画 00:02~)
それでは楽譜に移りましょう。
まずは2小節、左手の前奏から始まります。さあ、お仕事の始まりですよ!
糸紡ぎ機を動かしましょう。
(動画 00:04~)
3小節目からは右手の登場です。
Leggiero(=レッジェーロ。軽快に、優雅に)の指示と、強弱記号pに従って、あまり大きすぎず(またこの後にfも控えておりますので)あまり音をうるさく弾いてしてしまわないようにしましょう。
最初の16分音符は、焦ってしまうと音が流れてしまったり、バラバラになってしまいますので、落ち着いてしっかりと音をあてていきましょう。
(動画 00:13~)
そして11小節目。少し様子が変わってきました。
Crescendo(=クレッシェンド。だんだん強く)です。
14小節目でいよいよf!そしてアクセントもついています。
ここの2音は、特別際立たせて弾きましょう。
(動画 00:20~)
18小節では、先ほどのようにfにはならず、poco riten.(=poco ritenuto。ポーコ リテヌート。poco=少し ritenuto=遅く 少し遅く)の指示があります。
右手の3音は、次の小節へつなげるような気持ちで落ち着いて弾きましょう。
ここで気を付けて欲しいことが1つあります。それは、18小節目の最初にある和音です。
よーく見てみると、この音の長さは「4分音符」です。そして、あとの3つの音は「8分音符」。
つまり2つ目の音である「ド」を弾いている時は、まだ「ミソ」の和音を弾いている状態です。
なかなか高度なテクニックですが、終わるメロディ(ミソ)も大切に。そして、次へとつながる新しいメロディ(ドシシ♭)の風を感じながら弾いてください。
さて、ここまで弾いてお気づきのことはありませんか?
そう!左手がずっと8分音符で似たようなリズムを刻んでいますね。
これはおそらく、機械的なもの――糸紡ぎ機の音をイメージしているものと思われます。
音楽をする上で、こうした言葉はあまり言われないかもしれませんが、ここはあえて「機械的に」弾きましょう。しっかりとリズムを刻むことを目標にしましょう。
オクターブがでてきたぞ!?
(動画 00:30~)21小節目からは、いわゆる中間部というやつです。
先ほどまで左手が担っていた機械的な部分を今度は右手が請け負うことに。
変わって、右手が歌っていたメロディラインは、まったくことなる形となって、左手が歌うことになります。
(動画 00:48~)
37小節目からは、またメロディと伴奏、攻守交代です。
一音目からオクターブが出てきましたね!
もし、手の大きさの問題などでオクターブを弾くのが難しければ、無理に同時に押さなくてもよいので、下の音を親指で弾いてから、上の音を小指で弾いてみてください。
どちらの音も大事ですが、どちらかというと小指で弾く上の音がより響くように心がけてください。
今日もお仕事、お疲れ様でした♪
(動画 00:58~)46小節目からは・・・あれ~?この形、見覚えありませんか。
冒頭と同じですね。左手は機械的に。右手は16分に気を付けて弾いていきましょう。
(動画 01:28~)
さて、冒頭と同じパターンを弾き終えて・・・いよいよ曲も終わりでございます。
最後の3小節で、糸紡ぎ機を触る手を休め、頑張って働いていた人たち(そして、ここまで弾ききった自分自身)にお疲れ様を言ってあげましょう。
まとめ
1. 難易度はA初級。少しピアノに慣れて来た人には安心して楽しめる1曲。2. 紡ぎ歌は昔の人たちが糸を紡ぐときに歌っていた歌のこと。
3. エルメンライヒ、まだ謎の多い人。
4. 左手は機械的に
5. オクターブは無理をせず、一音ずつ。
6. お仕事(演奏)お疲れ様でした♪自分も労わってくださいね。
エルメンライヒの紡ぎ歌。
とてもリズミカルで、弾いていても聞いていても楽しいこの曲。
ピアノを練習するうえでの、ステップアップとしても、そして発表会など人前で弾く曲としてもとても、大変おすすめの1曲です。
軽快さは必要ですが、それほど速く弾かなくても、楽しさが伝わりやすいのが、この曲の魅力だと私はそう思っています。
しかし、こうして記事を書くにあたって、いろいろ調べてみたり、弾いてみると、新たな発見があるものですね。
幼いころはただ単純に「にぎやかで楽しい曲だなぁ!でも中間部は嫌いだなぁ」と思って弾いておりましたが、歴史的な背景や、当時の生活などを知ると、この曲の見え方、聞こえ方などもかわってきそうですね。
私は、幼いころに思った「曲を弾いた(聞いた)時の第一印象」。にぎやかで楽しい。でも苦手な箇所は嫌い。
それも尤もだと思っておりますし、歴史が苦手ながらもこうして調べたうえで知った曲の背景。「おおよそ1800年代に、庶民が働く中で生まれた歌。それをモチーフに作られた曲」であるということ。
それを知れたことも、今後この曲を弾くにあたって、大きなヒントになったと思っています。
知らずとも楽しい。
知っていると理解が深まる。
曲って奥深いものですねぇ。
働くときの歌といえば、日本でも昔、田植えの時に歌った田植え歌などがありますから
何か作業をするとき、人と呼吸を合わせる時、気を紛らわせたい時。
国や時代が変わっても、人々にとって歌は身近なものなのかもしれませんね。
編集者による補足解説
曲の情報
- 曲名:紡ぎ歌(つむぎうた/ドイツ語:Spinnliedchen/英語:Spinning Song)
- 作曲者:アルベルト・エルメンライヒ(Albert Ellmenreich/ドイツ人)
1816年2月10日-1905年5月30日(89歳没)
俳優・作家・歌手・作曲家
- 曲の種類:ピアノ独奏曲/性格的小品
- 作品番号:Op.14-5
- 調:ヘ長調
- テンポ:Allegretto
- 拍子:4分の2拍子
- 区分:ロマン派
- 発表年:1863年(作曲者は47歳)
- 演奏時間:約1分30秒
- 7曲からなる小品集「音楽の風俗画(ドイツ語:Musikalische Genrebilder)」Op.14の第5曲
※この曲集には「易しめの性格的小品集(ドイツ語:Sammlung leichter Charakterstücke)」という別名があります。
「紡ぎ歌」の無料楽譜
- IMSLP(楽譜リンク)
本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1883年にロッテンバッハ社から出版されたパブリックドメインの楽譜です。