ピアノはどの楽器よりも幅広い音域を持ち、オーケストラにも負けない音量を出すことができる楽器です。1人でメロディーと伴奏が演奏できてしまうなど他の楽器にはできないことができます。

しかし、良いことばかりではありません。自分自身で音程を作り出すことができないのでポルタメントのような奏法はできませんし、音にビブラートをつけることもできません。音を出した後にも歌うことができる楽器はいいなぁと思ってしまいます。

ピアノソロの演奏では感じませんが、アンサンブルになるとピアノは弦楽器や管楽器に比べると音が冷たい、硬いという印象が残ってしまうなと個人的には思います。

楽器がどんな材質でできていて、音を出すときにどのような方法を取るのかによってそれぞれの楽器の音質も変わってきます。

このような楽器の特徴から得意な奏法と不得意な奏法があるように思います。その楽器しかしない奏法もあれば、共通して使われる奏法もあります。今回は多くの楽器で使われているトレモロという奏法について考えてみたいと思います。

■ 目次

トレモロとは何か。どんなものがあるのか

トレモロ(tremolo)とはイタリア語で震えるという意味です。奏法としては同じ音を反復させたり、2つの音を反復させたりします。ただ反復させるのではなく、通常かなり速く反復させることが多いです。

トレモロは大きく分けて2つのものがあります。1つは同じ音を反復させるというもの、もう1つは2つの音の間を反復させるというものです。

同じ音を反復させると言っても単音の場合や重音、和音の場合もあるので種類は色々あります。2つの音の間を行ったり来たりするトレモロも単音のものや重音と単音のもの、重音同士のものなど様々です。

トレモロは急速に反復させるのですが、ただやみくもに入れれば良いわけではなく、どのくらいの長さと速さでトレモロをするのかが、音符と、斜線の本数によって、楽譜に書かれています。

斜線の本数は音符のはたの本数と同じなので1本なら8分音符、2本なら16分音符の速さといった感じです。

全て楽譜に書いておくこともできますが、簡略化することで楽譜の見た目がすっきりしていいのではないでしょうか。トレモロをするときは何小節かに渡ることが多いと思うので演奏する側としてもいちいち音とリズムを確認しなくても楽譜をパッと見ただけで理解できるためこのような書き方はありがたいなと思います。

初めて見る場合は何だこれはと思われるかもしれませんね…。このような書き方があるということを頭に入れておきましょう!

トレモロの書き方や奏法について言葉と譜例で丁寧に書いてあるページがありましたので、貼っておきます。
https://xn--i6q789c.com/gakuten/ryakki.html

トレモロが得意な楽器とそうではない楽器


トレモロはピアノよりも打楽器や弦楽器、ギターなどが得意とする奏法です。

先ほどトレモロの種類のところで同じ音を反復させる場合があると書きましたが、この演奏方法はピアノの場合連打することになるので楽器的にはあまり得意な奏法ではないと思います。もちろん可能なのですが、楽器の構造上やや難しい部分があり、きれいに連打することはかなり難しいです。(私は連打するのが苦手です…。脱力についてもっと学ばなくては…。)

それよりも2つの音の間を行ったり来たりする単音のトレモロや重音と単音のもの、重音同士のものの方がピアノという楽器には向いています。容易に出来るという意味ではなく、ピアノの構造上こちらのトレモロの方がやりやすいということです。

弦楽器に比べればピアノの方が大変な奏法なのではないかと思いますし、コツがわかっていない人が弾くとめちゃくちゃ疲れると思います。コツさえ掴めばそれほど難しい奏法ではありません。(重音同士のものは難しいです。)

それぞれの楽器のトレモロを比べてみたいと思います。

打楽器(マリンバ)

ギター

弦楽器(ヴァイオリン)

同じトレモロと言っても楽器によってやはり違いますね!

ピアノのソロ曲でもトレモロは出てくるのですが、とても多い頻度で出てくるのが歌の伴奏です。合唱曲などにも出てくると思いますが、オペラの場合にかなり出てきます。

オペラはオーケストラが伴奏しますよね。オーケストラにはトレモロが割と容易にできる弦楽器が必ずいるため使われていることが多いように思います。もちろんそれだけの理由ではなく場面が変わるときや盛り上げたい時、嘆き悲しんでいる時などにトレモロを使うと喜怒哀楽を表現しやすいというのが大きな理由なのでしょう。

このオーケストラで演奏しているものをピアノ用に編曲するとトレモロがたくさん出てきてしまうのです。オーケストラとピアノの伴奏の違いを聴き比べてみましょう。

オペラ「蝶々夫人」ある晴れた日に(オーケストラver.)

(ピアノver.)

トレモロがどこに出て来たかわかりましたか?両方とも始まってすぐにトレモロがありますよ。オーケストラの方は弦楽器の皆さんが弓を細かく動かしていますよね!ピアノの方は左手が小刻みに動いていますね。

実はこれよりも前からトレモロになっているのでもっともっと長いんです…。


ピアノ譜の左手部分見て下さい!!ずっとトレモロ!!!まだまだこれで終わりではありません…。


この先がやっとあの有名な部分です。「ある晴れた日に」の動画もYouTubeにたくさん上がっていますが、だいたい先ほどの動画と同じところから始まっていることが多いみたいですね。

私はこの楽譜よりももう少し前から伴奏したので、このトレモロを全部弾くことになりました…。(この部分は2幕ですが1幕にもトレモロがたくさんでてきます。)腕が痛くなったりはしませんが、さすがにこれだけトレモロをすればちょっと疲れてきます。強弱などの変化もつけなくてはいけないので、割と大変でした。

オーケストラのものをピアノ用に変更してあるとこのようなことが多々あって、弾きにくかったり、とにかく大変だったり、どうやって弾けっていうんだ?ということもでてくるんです。

楽器が違えば得意な奏法とそうでない奏法が出てきます。管楽器はピアノと同じく同音のトレモロはとても難しいと思います。そして2つの音を行ったり来たりするトレモロもそんなに得意ではないのではないかなと思います。そもそも管楽器は速いパッセージの演奏になるととても大変そうですもんね…。

弾き方について


ピアノでのトレモロの弾き方はとても多くの動画がYouTubeに上がっています。検索してみて下さい。オクターブのトレモロの弾き方が多いようです。

ピアニストの森本麻衣さんの動画がとてもわかりやすいと私は思いましたので貼っておきます。

どの方もやはり指で弾かないで手首の回転で弾くとおっしゃっています。指をバタバタ動かして弾くとだんだん手首や肘に力が入り始めます。力の抜き方を分かっている方やトレモロの弾き方のコツを掴んでいる方は力が入ってしまっても途中で力を抜いて立て直すことができるのですが、多くの人は1度力が入ってしまうとそのままになってしまうと思います。

とにかく指だけを頑張って動かさないというのがトレモロを上手く疲れずに弾くポイントです!オクターブのトレモロでも重音と単音のトレモロでも全て基本は同じです。指で弾こうとしないことです。指先で弾こうとすると力みやすいので指をのばして指の腹で弾くようにすると力が入りにくいと思います。

手首の回転を使うというと肘を固めて手首だけを動かそうと頑張られる方がいるのですが、そうではなくて肘も連動して少し動かしています。手首だけが動いているように見えるかもしれませんが、肩から肘、そして手首が連動して動いているのです。

指はその音の間隔に開いているだけという感じです。指先は鍵盤を弾いているという感覚ではなく、肘や手首の動きによって鍵盤に当たっているという感じで、指先に意思はなく肘や手首に操られて弾かされているという感覚です。

緊張した時に手が震えたという経験が誰にでも1度はあると思うのですが、その時のことを思い出して下さい。自分では動かそうと思っていないのに勝手に手が左右に小刻みに動きますよね。あの状態がピアノのトレモロには理想的ではないかなと私は思っています。

トレモロは震えるという意味だと先ほど書きましたよね。覚えていますか?そもそも震えているような状態を表現するのに1つ1つの音が粒立ったがっちりした音が必要だと思いますか?

必要ではないですよね。盛り上げる場合にトレモロが使われていた場合であっても1つずつの音が大きく立派でなくたって全体としてみたら盛り上がって聴こえるというので良いのです。

いろんなパターンが考えられますが、場合によってはトレモロをしながらクレッシェンドしたいという時もあると思います。その場合は、最初をかなり小さくし、そこから盛り上げていくようにすればかなり大きな効果になると思います。

弱く弾きたい場合は手首の回転を小さくします。だんだんクレッシェンドする時は指をバタバタさせるのではなく、手首の回転を大きめにしていきます。さらに盛り上げたい場合には私は基本の弾き方は変えずに体の重心を前に持っていくようにし肘を少し上げて弾いています。そうすると指先に重みが加わりますので重みのあるトレモロになってくれます。

私の場合ブライダルの仕事で新郎新婦退場の場面で最後に盛り上がりが来るように両手ともトレモロをすることが多いのですが、その時にこの方法を取ります。そこまで盛大に盛り上げるようにトレモロを弾くことはそれほど多くないかもしれませんが試しにやってみて下さい。

力を抜くということに苦労される方も多くいると思います。私もとても苦労して来ました。先ほどの動画やこの記事などを参考にしながらコツを学んで頂けたら嬉しいです。

頭でわかっても結局は何度も練習してコツを掴んでいくしかありません。最初はゆっくり練習して下さい。だんだん慣れてくれると楽譜の指示通りのテンポで弾けるようになると思います。

しかしそれで満足してはいけません。練習の時にできても先生の前や本番で出来るとは限らないからです。緊張するといろんなところに力が入ってしまいます。そうした場合に上手く弾けないということが出てきます。そのための練習もしておいた方が良いと私は思うのです。

私の場合は逆に悪い弾き方もあえて弾くようにしています。本番の時はいつものようにリラックスして弾けるとは限りません。力んだ状態でも弾けるように手を慣らしておけば、どのような状態になったとしても対応できるだろうと考えているので、そのような練習も一応しておきます。

他の練習方法としては、正しい弾き方で普通に弾くけど楽譜よりも長くトレモロを弾いたり、反復する回数自体を増やしてみたりして部分練習をします。

このように部分練習の段階でわざと手数を増やしたり、負荷をかけたりして弾いておくと練習の方が大変なことをしているので楽に感じます。筋トレのような感じですね。

このような日々の積み重ねで弾けるようになっていきます。コツを知ることも大切なことですが、それを身につけるにはやはり努力が必要で、何度も何度も試していかなくてはいけないのです。コツを知った皆さん後は根気よく練習を続けていくのみです!がんばりましょう!!

まとめ

◆トレモロはイタリア語で震えるという意味
◆指で頑張って弾かないことがポイント
◆手首の回転を使って弾く
◆手首だけ動かすのではなく肘も連動させる
◆肘を固くしてはいけない



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