ブルグミュラーと言えば、「25の練習曲」がとても有名な曲集です。

25曲、それぞれに親しみやすく、曲の雰囲気を想像しやすいタイトルが付けられていて、比較的一曲が短く、様々な曲調を一冊で楽しめます。子供は勿論の事、大人にもおすすめしたい作品です。



今回はその中から、第15番「バラード」を紹介しましょう。

「バラード」というのは数多くの作曲家が自らの曲のタイトルによく使っているので、なんとなくでも聞いた事がある単語ではないかな、と思います。「物語があるように作られた曲の形式」のことで、ブルグミュラーの「バラード」も最初は暗雲が立ち込めるような怪しさを漂わせたり、途中は明るい調でうって変わった情景を表してみたり。

作曲者本人がどのような物語を想像しながら書いたのかは、記されていないかぎり分かりませんが、それだからこそ、自由に演奏者が想像を膨らませ、オリジナルの物語を描けるのです。それが小説とは違った、音楽の物語「バラード」の良いところですね。

今回は、曲の紹介から、普段あまり追求することのない拍子記号8分の3拍子について、トリビア?的なお話もしちゃいます。

とても魅力的な一曲を、早速!紐解いていきましょう。皆さんの「バラード」練習のお役に立てたら幸いです。

■ 目次

難易度は?


「25の練習曲」の中では、中くらいです。

第15番「バラード」は発表会の場でも演奏されることが多く、第2番「アラベスク」はあまりに有名だから気が引ける、、でも第25番「貴婦人の乗馬」はまだ弾けない。そんな方に是非おすすめしたいです。

曲の始めから、右手に沢山の和音が見える+♭が3つ付いているという点で、ぱっと見た印象は難しそう…。

だけど、弾いてみれば三拍子を刻む感覚がとても楽しい!そして和音の動きは単純でも雰囲気がある曲なので、練習がはかどります。暗譜がしやすい点もいいですね。

また、ざっくりと番号の大きさ=難易度が通じる曲集ではありますが、和音の方が単音より得意な人というのは割と多いです。

例えば、第6番「進歩」、第10番「やさしい花」、第14番「優美」のように、和音は少ないけれど指くぐりが多い曲より、「バラード」は指の配置換えが少ないので、そういった点でも比較的演奏しやすいと言えるでしょう。

ミステリアスな不安感、解放された長調の表現が曲の聞かせどころです。


和音の弾き方に注意しよう

「バラード」はメロディが左手から始まり、途中、長調の中間部のみ、明確に右手がメロディになります。全体を通して、伴奏部分のほとんどが和音の曲です。

注目してもらいたいのは、同じ和音の伴奏でも違いがあるというところ。

(曲の冒頭)
ブルグミュラー「25の練習曲第15番「バラード」ハ短調Op.100-15」ピアノ楽譜1 (中間部)
ブルグミュラー「25の練習曲第15番「バラード」ハ短調Op.100-15」ピアノ楽譜2
意外と見落としがちな点で、右手が伴奏の部分の和音にはスタッカートがついていますが、明るくなったdolce(ドルチェ)の左手伴奏の和音には、スタッカートがついていません。

右手の和音伴奏は、胸をざわつかせるような、ミステリアスな雰囲気を。
左手の和音伴奏は、つかの間の安泰な心を表現している大事な要素と言えるでしょう。


和音のスタッカートは、音を押さえることよりもしっかりと切る事に意識を向け、耳で聞きましょう。

場合によっては、鍵盤の奥まで押さえず、指先で掴むようなタッチで弾いてみるのもいいかもしれません。だけど、音が擦れてしまっては本末転倒!

自分にとって、軽く音の粒の揃った和音を追求してみてください♪

また、dolceの場面でも左手伴奏にスタッカートはついていないものの、多少は軽快に可愛い感じの方が合います。テヌートがついているような重たい音にはならないように、くらいの心がけをしながら、重たくなりすぎないようにしましょう。

いずれの伴奏も、メロディをかき消してしまわないように弾くことが大切です!

どうして‘8分の3’なの?

ブルグミュラー「25の練習曲第15番「バラード」ハ短調Op.100-15」ピアノ楽譜3
「バラード」は8分の3拍子という少し珍しい拍で書かれています。25の練習曲の中でも、少ないですね。

拍子記号は分数の形で示され、1小節の中にどれだけの音符の長さを入れることが出来るかを表しているもので、分母(下の数字)は「拍の単位=何音符なのか」、分子(上の数字)は「1小節の拍数」を表しています。

つまり8分の3拍子は「1小節の中に8分音符が3つ分の長さの音符が入るよ!」ということなのです。ちなみに4分の3拍子は「1小節の中に4分音符が3つ分の長さの音符が入る」ということです。

この二つ、同じように3拍子。


Q. どうして4分の3拍子ではなく、8分の3拍子で書かれているのでしょうか?


それにはやはり、理由があるのです。

先ほどの生徒さんに質問をすると、よくこういった答えが返ってきます。

・速く弾いて欲しいから!
・基準を8分音符にすることで、16分音符を登場させやすくなるから

どちらも間違いではありません…というか、練習曲なのでそういった意図もあるのかもしれませんが、答えには少し足りないかな。

4分の3拍子と8分の3拍子、実は結構な違いがあるのです。


A. 4分の3拍子は3拍子で、8分の3拍子は1拍子。8分の3拍子なのは、「1小節を3拍ではなく、1拍として進むように弾いてほしいから」です。


…あまりピンときませんか?(笑)

8分の3拍子が1拍子?3拍子なんじゃないの?とお思いの方もいるでしょう!

更に、その理由を説明しましょう♪





曲には、一部の例外を除き、ほぼ拍子記号がついています。


4分の4拍子→4拍子
4分の3拍子→3拍子

定番のこれは分かりやすいですね。書いてあるそのままの感覚で、4分音符の拍がそのままの拍の感覚といえます(難解な曲になってくると、これに当てはまらないものもあります)


では、こちらはどうでしょう?

8分の6拍子→6拍子(♪♪♪♪♪♪)??
8分の3拍子→3拍子(♪♪♪)???

こちらは見ての通りの数え方をしていて、間違いではないですが…うーん、と言ったところ。

これが、あまり知られていない大きなポイントなのです。


実は、8分音符を分母に置いた拍子では、‘8分音符3つが1組’と捉えるのが、正しい拍子のとり方です。

つまり、8分の6拍子、8分の3拍子はそれぞれ、

8分の6拍子→2拍子(♪♪♪+♪♪♪)
8分の3拍子→1拍子(♪♪♪)

ということになるのです。

8分の3拍子は、1小節を1拍として捉え、演奏していく感覚です。

4分の3拍子は、①23、①23…と1拍目に重みがありますが、8分の3拍子は1拍目をあまり強調せず進んでいった方がスマートです。

…とはいえ。

そんな高度なこと、気を付けながら弾けないよ!なんて声も聞こえてきそうですが、知っているか知っていないかで大きく違うことを、これまでの生徒さんへの指導で感じてきました。

なので、とりあえず知っていてもらえたらOKです(笑)

両手が弾けたら、メトロノームを鳴らし、1小節1拍のカウントで練習してみるといいでしょう。

3拍で刻むのとは違った流動感を感じることで、ワンランクアップした演奏が出来ます。

音楽用語に注意しよう!

最後に、バラードの音楽用語を紹介しておきますね。

●テンポ表示
Allegro con brio(アレグロ コン ブリオ)です。「生気に満ちて速く」といった意味があります。

●音楽用語
  • misterioso ミステリオーソ(ミステリアスに)
  • cresc. クレッシェンド(だんだんと大きく)
  • dolce ドルチェ(甘く柔らかく) ★
  • poco riten. ポーコ リテヌート(少し遅く) ★
  • animato アニマート(生き生きと)
  • dim. ディミヌエンド(だんだんと弱く)
  • sf スフォルツァンド(その音を特に強調して) ★
楽譜の中の場所と照らし合わせ、書き込みをしてみましょう♪

そして、中でも★マークをつけた用語が書かれている部分は、特に注意してください。この曲の特徴である大切な表現です。


まとめ

1.ミステリアスな不安感の表現、解放されたドルチェを弾き分ける
2.右手と左手の和音伴奏に注意!
3.8分の3拍子を意識してみましょう



以上が、「バラード」の練習ポイントです。

ブルグミュラーの作った物語をぜひ浸って弾いてくださいね♪



「バラード」の無料楽譜
  • IMSLP(楽譜リンク
    本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1852年にショット・ミュージック社から出版され、その後シャーマー社により再販されたパブリックドメインの楽譜です。「25の練習曲」全曲が収録されており、第15曲「バラード」は20ページ目からになります。

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