ショパンの『ノクターン第1番op.9-1』、この曲の特徴は何と言ってもあの哀愁漂う情緒的な旋律です。ショパンのノクターンでよく演奏されることが多いのは第2番ですが、この第1番というのもなかなかの名曲で、けっこう弾き応えのある曲だと言えます。
この曲はわりとゆったりとした曲調ですが、技巧的な部分もちらほら出てきます。「何だか難しそうで敬遠している」、「弾こうとしたけれどつまずいてしまった」という方々は必見です。
こんにちは! ピアノ弾きのもぐらです。
突然ですが、サツマイモがそろそろ美味しい季節になりましたね。私にとって秋の畑は、まるでパラダイスのようです。ちなみに私の好きなサツマイモの品種は『安納芋』です。秋野菜でスタミナをつけて、ピアノに向かう日々を送っています。
■ 目次
全体的に見ると難易度はそれほど高くない!
この曲は楽譜をパッとみると臨時記号が多いせいか、どうしても難しそうな印象を抱いてしまう方もおられるかもしれません。しかし気になる難易度はどのくらいかと言うと、意外にもそれほど高くはありません。具体的には、ツェルニー30番の後半くらいまでマスター済みの方であれば充分弾けるくらいだと言えます。
この曲は確かに苦手意識が生まれやすい曲であるかもしれません。しかし、苦手意識が生まれることはむしろ大切なことであると私は思うのです。
もっと言えば、苦手意識がなければ今より前には進めません。というのは「苦手なところがたくさんある」ということよりも「苦手な部分がどこなのかがわかっていない」ということのほうが問題であると思うからです。
これはピアノだけでなく、他のお勉強にも同じことが言えるのではないかと私は勝手に考えています。
というわけでまず行うべきことは、パッと譜面を見て何となく弾ける気がしない部分や「こんなの絶対に弾けるわけがない」と思う部分を徹底的に洗い出すことです。洗い出してしまえば、あとはそこを重点的に練習していくだけです。頑張っていきましょう。
緩やかで自然な場面変化が特徴的な構成!
この曲は劇的に場面がガラッと変わるという構成ではなく、緩やかに場面が移り変わるという形で曲が進行していくところが印象的です。曲の構成を考える前に、まずは以下の動画を聴いてみてください。
この記事では上の動画に沿って、以下ように一曲を細切れにしました。
セクションA(最初~1:16)
セクションB(1:16~2:59)
セクションC(2:59~4:00)
セクションD(4:00~終わり)
※ カッコ内の時間は動画に沿った時間です。動画をよく視聴して、全体の構成をしっかりと把握しておきましょう。
それでは、さっそくセクションごとにご説明していきます。
もぐら式!弾き方のコツ
☆セクションAの弾き方 ~臨時記号や連符も怖くない~
セクションAでは、まず冒頭にある調号や臨時記号を一通り確認しましょう。焦らず丁寧に譜読みをしていくことで、後々の練習の効率も上がるかと思います。※ 『Larghetto』の意味は『ラルゴよりも速く』
※ 『express.』の意味は『情緒豊かに』
最初の1小節は右手で入っていきますが、片手だからといって軽々しく弾いてしまうと、何だか第一印象から素っ気無い雰囲気になってしまいます。基本的に右手は他の部分でもそうですが、とにかく表情豊かに音を鳴らせるように抑揚をつけましょう。
また、スタッカート(意味:音を短く切る)とスラー(意味:音をなめらかに)が同時にある場合、意味合いとしては『音をあまり切り過ぎない』ということになります。この曲ではこのような表記が随所に出てきますので、見落とさないようにしましょう。
「この22連符って何だよ? こんな連符って有り?」と思われた方、わかります、私もかつて同じように思いました。そしてこの部分を、当時の私は一生懸命に左手と合わせるために電卓を持ち出して割り算をしていました。そう、左手の音一つに対して一体いくつ右手の音が入るのかという不毛な割り算です。(0:12~)
計算式は『22(右手)÷12(左手)』、当然すっきり割り切れません。だから不毛なのです。今となっては笑い話のようですが、そんなもぐらも現実にいたわけです。もちろん計算なんてする必要はありませんのでご安心を。
ここはとにかく何度も両手で合わせて慣れるしかありません。どちらかというと左手のテンポに右手を上手く収めるというイメージで練習しましょう。
※ 『con forza』の意味は『音を強めに』
※ 『smorz.』の意味は『だんだん遅く、消えるように』
この部分の強弱については、いろいろな解釈ができます。右手だけを強調すべきだと解釈する人もいれば、両手で強弱の変化を表すと解釈する人もいます。前者も後者もどちらが正解だとか不正解だとかはありませんので、自由に弾きましょう。(1:07~)
ちなみに左手ですが、基本的に左手は控えめに弾いたほうが右手の旋律が際立ちます。ですが、所々右手と同時に鳴る音がありますので、そこだけ少し強調してみるなどの工夫をすると旋律にまた違った味が出ます。
☆セクションBの弾き方 ~和音を繊細に~
場面が少し変わりました。セクションBでは左手はアルペジオがひたすら続き、そして右手は和音で構成されています。ここではそれほどの難所は見受けられませんが、大事なのはとにかく和音の鳴らし方です。決して乱雑な弾き方にならないよう気をつけましょう。(1:16~)※ 『sotto voce』の意味は『小さな音で』
上記でも申しましたが、セクションBには特に難所はありません。ですが、ある程度緊張感のようなものは必要です。というか私の場合はここにくると、自然となぜか緊張してきます。
譜面をよくご覧頂ければおわかりになるかと思いますが、ここでは大きな曲調の変化というのはなかなか見受けられません。「なんだ、変化が少ないなら簡単じゃん」と思われる方もおられるかもしれません。
しかし、私は劇的な変化が少ないところこそ抑揚のつけ方など気をつけるべきだと思います。というのは曲調の変化が少ないということは、弾く側にとってはある意味楽かもしれませんが、聴く側はどうしてももの足りなさを感じてしまうからです。
この部分に限らずセクションBでは、とにかく自分なりにどう旋律を鳴らしたいかというイメージを予めしっかり頭に置いておくことが重要です。
※ 『poco stretto』の意味は『少し緊張感を持って』
ここで気をつけるべき部分は、左手です。アルペジオの全ての音を鳴らそうとすると、どうしても響きがうるさくなってしまうので、この左手は各アルペジオの最初の音をほんの少しだけ強調するとすっきりした響きになるかと思います。(2:08~)
また、ペダルですがとにかく音が濁ってしまわないように、譜面には書かれていなくても、あるいは逆に書かれていても、自分で納得がいかない場合は無理に譜面に合わせる必要はありません。ペダルは表現の幅を広げるという目的で、適度に入れるようにしましょう。
☆セクションCの弾き方 ~独特な響きに耳を澄まそう~
セクションCでは少し雰囲気が変わったというか何かが進展したかのようにも感じられます。私個人としては、このセクションCはセクションBの変奏のように思います。ですが、解釈は人それぞれです。自分なりに譜面を分析してみましょう。(2:59~)この譜面を見ると、音符の棒が上向きのものと下向きのものがあります。いずれも右手で弾くわけですが、主旋律は上向きの棒の音符です。ですので、右手はとにかく主旋律が他の音に埋もれてしまわないように意識することが大事です。
案外この部分は気を遣います。というのは、左手だけなのである意味ごまかせないからです。この左手はなるべく一つ一つの音がはっきりと響くよう均等に鳴らしていきましょう。(3:25~)
ですが、私としてはこの部分は、なぜかいろいろ冒険したくなってしまいます。「今日はここであえてテンポを落としてみよう」とか「アルペジオ一つ一つに抑揚をつけてみたら面白いのではないか」などといろいろ試しています。自由にいろいろな楽しみ方ができるところもこの曲の魅力です。
※ 『sempre』の意味は『同様に』
ここから場面が変わる兆しが出てきます。この部分、特に左手の弾き方なのですが、上にある譜面をちょっと注意してご覧ください。よくよく見てみると、スラーの切れ目が以前と少し違っているのです。些細なことかもしれませんが、私としてはこの表記は何かを訴えているように思えてなりません。(3:51~)
この部分のカギになる音というのは、各アルペジオの最後の音だと私は解釈しています。ですので、ここではこの音を少し強調すると変化の兆しを表現できるかと思います。
☆セクションDの弾き方 ~微妙な譜面の違いに注目~
セクションDはセクションAの繰り返しのようですが、いくつか譜面に違いがあります。このセクションDというのも、私としてはセクションAの変奏というように解釈できます。(4:00~)※ 『rall.』の意味は『だんだん緩やかに遅く』
※ 『dolciss.』の意味は『優しく』
※ 『a tempo』の意味は『元の速度で』
ここで最初の印象的な旋律が再来します。ここで気をつける部分としては、どの音を強調すべきかという部分です。アクセントの指示が譜面にはありますが、少なくとも私はこのアクセントの位置にはいまひとつ違和感を抱いてしまいます。まあ、上記はあくまで私個人の感覚のお話ですので、全く違う意見ももちろんあるかと思います。
※ 『legatissimo』の意味は『一層なめらかに』
見事な20連符です。長いですね。
「別に言われなくてもわかるよ、もぐらじゃないんだから」と思う方のほうが大多数かとは思いますが、先ほどのセクションAの私のエピソードは気にしないでくださいね。当然、電卓は必要ありません!(4:12~)
この20連符はそれほど急いで弾く必要はないと思います。むしろ連符の最後のほうは抑揚を少しつけて、テンポをあえて遅くしてみてもそれほど不自然ではないです。速く弾き切ることよりも、どちらかと言うとゆっくり丁寧に弾いたほうが、聴く側の耳にも心地良いと思います。
※ 『accelerando』の意味は『だんだんテンポを速めて』
※ 『dim.』の意味は『だんだん弱く』
※ 『ritenuto』の意味は『急速に速度を緩める』
この終盤の右手は、終盤だからと言って気を抜くと和音が乱雑な響きになってしまいますので気をつけましょう。(4:48~)
そしてこの部分、和音がとても面白い響きだと思いませんか? 一見するとこの不協和音はこの曲には馴染まないのではないかとも思えます。しかし実際に弾いてみると、馴染まないどころかすごく良い味を出しているのです。
また、最後の2小節には『ピカルディの三度』が盛り込まれています。『ピカルディの三度』というのは、主に短調の楽曲の最後に盛り込まれます。少し難しい言い回しをすれば、『ピカルディの三度』というのは「曲で元々決められている調の主和音ではなく、同主調の主和音で曲を締めくくる」ということです。
つまり上記の理論をこの曲に当てはめて考えてみると、この曲は元々変ロ短調なのですが、この最後の2小節だけ変ロ長調になっています。
そして、変ロ短調の主和音は『シ♭、レ♭、ファ』で構成されています。一方、変ロ短調の同主調である変ロ長調の主和音は『シ♭、レ、ファ』で構成されていますよね。
上の譜面の終わりをご覧頂ければおわかりになるかと思いますが、変ロ短調の主和音ではなく、最後の2小節のみ変ロ長調の主和音が使われています。これこそが『ピカルディの三度』ということなのです。
もっとわかりやすくざっくりと言ってしまえば『ピカルディの三度』というのは、短調の曲を長調で終わらせるための一つの方法です。
哀愁漂う切なげな曲調の最後にこの『ピカルディの三度』が出てくると、何だかホッとするというか、とにかく私は何だか救われたかのような安心感を覚えます。和音というのは奥が深いですね。
要点を確認しよう!全体的なまとめ
ここまでショパンの『ノクターン第1番op.9-1』についてお話ししてまいりましたが、いかがでしたか?
ではここで、全体的な弾き方の要点を確認しましょう。
1、 臨時記号はしっかりと把握しておく(全体的に)
2、 右手の長い連符は左手に合わせるように心がけて、慣れるまで地道に練習する(特にセクションA、セクションD)
3、 曲調の変化がそれほど無いところほど弾く側の個性が出るので、自分の中でどう弾きたいのかを予めイメージしておく(特にセクションB、セクションC)
4、 和音やアルペジオの響きの中にあるちょっとした変化や表情を見落とさない(特にセクションB、セクションC、セクションD)
以上の4つのコツを踏まえて練習してみましょう。
また、この曲には速度表記や強弱表記がわりとたくさん書いてあります。ですが、必ずしもそれを全て守って弾くことだけが正しい弾き方というわけではありません。
確かに練習し始めの頃は楽譜の表記に忠実であるほうが無難ですが、ある程度弾けるようになって余裕が出てきたら、いろいろな弾き方を試してみることも表現力のアップにつながります。
譜面には正解も不正解もありません。この曲に限らず、いろいろな曲を自分のものにするためには、あえて型を破ってみるというのも時には必要なことです。試行錯誤しながら自由にピアノを楽しみましょう。
それでは練習、頑張ってくださいね。畑の地中から毎日応援しています!
by ピアノ弾きのもぐら
「ノクターン第1番Op.9-1」の無料楽譜
- IMSLP(楽譜リンク)
本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1883年にアウゲナー社から出版されたパブリックドメインの楽譜です。「ノクターンOp.9」全3曲が収録されています。
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