クラシックの名作曲家、ショパン。彼の作品の中でも特に人気が高いのが、「ノクターン作品9-2」です。
ゆったりとした三拍子の左手に乗せて、とても柔らかなメロディが少しずつ変奏を繰り返しながら流れていきます。誰もが一度は耳にしたことがあるといえる、ショパンの代表作でしょう。
ノクターンとは日本語で「夜想曲」と訳されますが、ここで問題です。
「夜想曲」とはどういう意味か分かりますか?
私は長年、夜に想う曲、という解釈をして、てっきり日付をまたぐ頃の深夜なのだろうと想像していたのですが、どうやら、明け方という説が有力らしいです。。笑
豪華絢爛に開かれた、社交界が終わる時間帯の音楽。つまり、盛り上がっていた夜を想う曲だということ。
そう言われてみれば、少し物憂げな雰囲気を感じるような気がしますね!
そんな情緒あふれる曲を演奏したいあなたに、大切ないくつかのポイントを伝授したいと思います。
難易度は?
一見、ゆったりとして技巧的なところは感じないのですが、ちゃんと弾きこなそうとすると実はなかなか難しい曲です。
右手のメロディはそうでもないのですが、左手の和音をどれだけ正確に譜読みして弾けるか。これが重要なポイントになりますね。
また、発表会では“必ず誰かが弾く”といっても過言でないほど人気の曲なので、時には選曲が被ってしまうことがあるかもしれません。
有名な曲を弾くということは、多くの人に間違いが分かってしまうということなのです!そういったところも、この曲の難しさです。
全音のピアノピースではE(上級)となっています。
同じEランクには、ショパンの有名作品が軒並み並んでいますね。好きな曲を選ぶのはもちろんいいですが、人前で演奏する予定がある場合は、自分の得意不得意を活かした曲目を選ぶと舞台映えします。
「ノクターン」は、難しい左手の和音をゆったり奏でていると上級者だなぁ、という印象をうけるので、ショパンの音を味わって演奏してみたい人に向いているでしょう。
指が速く動く人は「幻想即興曲」、手が大きい人は「軍隊ポロネーズ」などもお勧めです。
少しずつ変化する右手は「歌」
まずは、右手に注目して聞いてみましょう。
4~5分程度で演奏されることの多い曲で、何度も同じメロディが繰り返し出てきますが、少しずつ変化していっているのに気づいたでしょうか?微妙にトリルが違ったり、音が違ったり、回数を重ねるにつれてアレンジが加わっていきます。
音楽の歴史の中で、鍵盤楽器は伴奏だけをする存在だった時代がありました。チェンバロからピアノフォルテというピアノの前身の楽器に進化し、ペダルが楽器に備わったことにより、音の響きが残るようになって表現の幅が広がったのです。
結果、様々な作曲家がピアノの存在だけで完結する曲を作るようになりました。その中でもショパンは特に中心的な役割を果たした人物だったのです。
右手が声楽家のように歌うようなメロディを奏で、左手で伴奏を弾く。演奏中、奏者は一人二役、あるいは三役を演じます。
ショパンの曲は、「歌詞のない歌曲」であり、一人で奏でるアンサンブルとも言えるでしょう。
彼が‘ピアノの詩人’と呼ばれている理由が、お分かりいただけましたね。
そう思いながら「ノクターン」の右手をもう一度聞いてみると、右手という声楽家がアドリブを足しながらどんどん自由に歌っている風に聞こえてきませんか?
音が足されて難しくなっている、暗譜が…と思わずに、ショパンの遊び心を感じながら練習に取り組んでみましょう!
変化していくメロディが、おいしい聞かせどころです。
左手の譜読みは、指使いから。
左手の和音、正確にといわれても、少しずつ変化する音読みがすごく大変…。
分かってるけど、めんどくさい。難しい!
それがこの曲を断念してしまう理由の、ダントツトップです。
プロや玄人の方は、譜面の音だけではなく、和声と呼ばれる音の作りの仕組みを理解した上で、知識、耳から覚えていきます。しかし、専門的にかなりの時間を割いて学ばなければなかなか習得できるものではありません。
そこで、和音をしっかりと覚えるためにしてもらいたいことは、‘指番号を固定する’ことです。
弾きやすい指使いを決めて進めていくと、出来上がりの精度がまったく違います。たまに楽譜が綺麗なままの人がいますが、楽譜にしっかり書き込むのも有効です。
また、演奏技術のある先生に習っている人は、ぜひ、先生の指使いを教えてもらってください!本に記してあるものよりも、弾きやすく、自分にあったものを教えてもらえるかもしれません。意外と自分では気づけなかった、隣り合った和音に共通する音、覚えるきっかけなどが見つかる事も少なくないですよ。
恐らく、ノクターンに挑戦しよう、という人は、ある程度ピアノを弾いてきたという自信も出てきているので、とりあえず音を出して弾いていけば何とか形になる、という経験が積み重なってきた頃だと思います。
でも、このあたりで初心を思い出してみましょう!
慢心しないことも、ピアノが上達する一つのテクニックでもあるのです。
“ショパンのアクセント”を知っていますか?
アクセントってどういう意味ですか、と聞かれたら「その音を強く」が正解です。
学校でもピアノのレッスンでも、きっとそのように習ったと思います。私も基本的にはそう答えます。
でも実は、アクセントは作曲家ごとに弾いてほしいニュアンスが違う、というのを知っていますか?
ベートーヴェンにはベートーヴェンのアクセント、ブラームスにはブラームスのアクセント、そして、ショパンにはショパンのアクセントがあります。
作曲家の生い立ちや一生を知ることからその理由を見つけることが大事なので、ノクターンを演奏する時はショパンにまつわる伝記を読んでもらうとよりわかってもらえるでしょう。
今読んでくださっているあなたには、特別にショパンのアクセントについてお話ししますね。
ショパンは小さなころから体が弱く、虚弱体質だったと言われています。
自身のピアノの腕前は7歳でリサイタルを開くほど上手く、自分が作曲した曲を人前で披露する機会がとても多くありました。しかし、ピアノの技術や作曲の才能とは裏腹に、成長しても度重なる体調不良は年々悪化していき、39歳の若さでこの世を去っています。
実際にショパンの肖像画を見てみると、ほそおもてな男性であることが分かりますね。
つまり、「体力を使うような大きな音は出せなかった」ということです。
私も学生の頃、演奏活動をなさっていた先生に「ショパンのアクセントは、強い音がほしいわけじゃないの。“心を込めてほしいところ”につけてあるのよ」と教わりました。
アクセント=強い音を出す、という考え方は、教則本までのお話です。
なかなか文章でニュアンスを説明するのは難しいのですが、彼の曲はピアノの歌曲、というのを思い出して、ノクターンのメロディを声に出して歌ってみてください。
ピアノは鍵盤打楽器なので、強く押さえれば固く強い音がでます。しかし、声でアクセントをつけると、固くはなりませんよね?
そういった、柔らかいアクセントというニュアンスが、ノクターンに限らずショパンの多くの曲を弾く中で、大切にしたいポイントといえるでしょう。
最後の聞かせどころは、どう弾く?
曲がフィナーレへ向かうとても美しい場面をピックアップしてみましょう。
右手が同じ動きを繰り返す部分を、左手が無くなってラッキー!と言わんばかりに、機械のように速く動かしてしまう人がたまにいますが、それではもったいない!
音が少ないところほど、大切に演奏しましょう。
まず大切なのは、右手だけになる前、そしてフェルマータが書いてあるところです(画像参照)
なんの変哲もない音のように見えますが、ここが右手を引き立たせるために大切な土台になります。
しっかりとフォルティッシモにして、フェルマータの右手の♭シのオクターブと左手のレの3つの音が、あまり小さくなりすぎないようにしましょう。
弾いた後に、ペダルで伸びている音をよーく聞きます。とにかく耳で聞きます。伸ばそう、とするのではなく、響いている音に意識を向けましょう。そうすると自然なフェルマータが出来るはずです。
そして、その音の音量を超えないように、右手を“繊細に小さい音”で弾き始めましょう。
各所に心配りをしながら音を出すことで、速くなりすぎず、丁寧に美しい演奏に仕上がります。
最後の右手は、自分のテクニックや速さを見せつけるところではありません。
ああ、いい夜だったな…、と夜明けに想い耽る、心穏やかな余韻が詰まっているのです。
まとめ
1.一人で二役!右手は歌うように。2.左手の和音は、指番号を決めてから練習!
3.アクセントのところは、強くきつい音にしない
4.音をよく耳で聞いて、存分に余韻を引き出す
以上が、ノクターンの演奏ポイントです。
ただ楽譜の中に並んでいる音を弾くのではなく、その意味や作曲の背景を知ったことで、もっとノクターンという曲のとりこになって貰えたら嬉しいです!
また、生活環境によっては、毎日ピアノを弾けない人もいるかもしれません。
そんな時こそ、以下のことをやってみましょう!
・一人の人ではなく、いろんな人の演奏を聞く
・楽譜を見ながら、音を想像してみる
・テーブルの上で指を動かす
なども効果があります。
学校や仕事、日々の暮らしの中で練習を継続するのは根気のいること。
こうしなきゃいけない、という事はありません。自分にあった練習ペース、方法を見つけて楽しいピアノライフを送りましょう♪
「ノクターン第2番Op.9-2」の無料楽譜
- IMSLP(楽譜リンク)
本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1905年にペータース社から出版されたパブリックドメインの楽譜です。「ノクターンOp.9」全3曲が収録されており、第2番Op.9-2は5ページ目からになります。
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