やっぱりみんな大好き…ショパンノクターンop.9-2。甘くて切ないメロディに、思わずきゅんとするロマンチストのみなさん、「有名すぎるアイドル曲だからやめておこうかなあ…」なんて言わずに、頑張って中級からチャレンジしてみませんか?

自分の理想を追いながら、聴いている人にあたたかく受け入れられる弾き方について、考えてみたいと思います!




好きになればなるほど…?



この曲を聴くたび、心の柔らかい部分をきゅっと掴まれるよう、恋に落ちたみたい!と思っている方は要注意☆

実はあなたは、そんなに惚れっぽいわけではないはずです。
これだけ演奏動画にあふれた時代、とにかくたくさんの演奏をじっくり聴いてみてください!



たとえば、こんな演奏があります。







どれも素敵な演奏ですよね!



にもかかわらず、「とても素敵なんだけど、あの部分はあんまりピンと来なかったなあ」とか「素晴らしいのだけど、もっと違う演奏もある気がするなあ」なんて、思いのほかいろんな感想をもちませんか?



そうなんです、この曲は好きになればなるほど、実はとても強い自我と向き合うことになる曲なのです。




なので、外野のわたしはみなさんの理想像には触れないですよ~☆
自分の演奏を誰かに聴いてもらったときに「わたしとは違うけれど、あなたらしくていいよね!」と賛成してもらえるような、個性の整え方を考えてみたいと思います☆




歌手はどう歌うの?



ショパンのノクターン(夜想曲)は、イタリアのベルカント唱法の優美な歌をイメージして作曲されたといわれているのです。これをヒントに、ソプラノ歌手がこのメロディを「あー♪」などのヴォカリーズで歌った場合のことを考えてみますね。



これは声楽家の友人に聞いた話なのですが、イタリア歌曲歌手は、旋律のなかのちょっと高めの音を中心に考えて、声帯や腹筋の状態「ポジション」を決めておくんですって。



この曲でいうと、高い「ソ」のあたりを歌うポジションを作っておくと、最初の「シ♭」だけやさしく掬うように、柔らかく音をとって、通常位置の「ソ」からの高音は、適切な体の使い方で楽に歌えるのだそうです。



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ところが、最初の「シ♭」のあたりを中心に、声帯や腹筋の状態をつくってしまうと「シ♭、ソー↑」と、「ソ」をものすごく高く感じて音を取らないと、ソの音程の声が出ないのだそうです。



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ピアノに置き換えると、ピンクの帯の歌い方だと、少し粘着質にソ↑と上がる感じのイメージです。
水色の帯の歌い方だと、よりナチュラルで天国的になりそうです。



このように、メロディを帯のようにとらえてみると、大幅にはみ出た音とライン上に乗っている音が分かり、大きな流れの把握ができますね。



そのうえで、敢えてこの音は思い入れをたっぷりに弾きたい、といった細部に目を凝らしていけば、独りよがりになりすぎないで自然な流れで歌えると思います☆




撫でるような左手



次は、難しい左手です。

この左手は、右手がどんな表現をするにしても「汝これを助け、これを敬い」というように、右手の良き伴侶であってほしいですね。

または、感情豊かな右手の気持ちをいつでも分かってくれる、物静かな友人のようにね。








右手の自由な歌を常にあたたかく見守るように、撫でるように弾けたらいいですよね!





「滑らかに弾きたい」という目標にじりじり近づけていく作業は、すごく大変だけれど、コツコツ練習すれば必ず自分なりに上達していくもの。

…って、分かっているのだけれど…いったいどうやったら、この左手の地道な練習に耐えられるのー?




それには…?




ちいさなご褒美でやる気アップ!



これは、こどもたちの心を専門にしている臨床心理士の先生に教えてもらったことなのですが、ピアノの練習にもとても通じるので、ぜひご紹介させてくださいね☆



モチベーションを維持する方法の一つに、スモールステップというやり方があるんです。
やらなければいけないことを細かく分けて、やる気につながるご褒美要素を挟み込んでいくというものです!



まず、最初の4小節だけを見ていきましょうね~。
自分のベストの指使いを決めたら、最初の4小節の形と音を、指で覚えちゃいましょう。
4小節ならなんとかできそうじゃないですか?
2小節でもいいかもしれません。



本来なら曲の最後までとことん片手練習するところなのですが、やれどもやれども基礎練習って本当に嫌になっちゃうんですよね…。



なので、4小節(あるいは2小節)弾けた自分へのご褒美をすぐにあげちゃうのです☆
つまり右手をつけちゃうんですね!




ええと、正確にはつけたつもりかもしれません。
左手を弾きながら、ハミングなどで右手を歌ってみます♪



左手が止まっちゃったり、歌が途切れちゃったりするようだったら、両手で合わせたらもっと弾けなくなってしまうということですよね。
そういうときは、まだもうちょっと左手練習したほうがいいかな?



もし弾けそうなら、右手を合わせてみます。



メロディがつくと、「あー、弾きたかった曲を弾けているんだなあ~」と頭の中にドーパミンが広がりますよ~!




快楽物質はやる気を出します!!




そうしたらまた、次のフレーズの左手を指使いから練習すればいいのです☆




こんなふうに、ご褒美をあげながら徐々にできる範囲を広げていくと、モチベーションががくんと下がるのを防げるということなのです。






わたしは、子どもを2人育てながらピアノを弾いていますが、子育てがはじまってからの曲の仕上げ方は、完全にこの「ご褒美制」です。



仕事から帰ったら、ピアノが弾けるー!
きょうだいケンカをなだめたら、自分の時間がやってくるー!
よし今日はあそこまで両手で弾くぞ!って、わくわくしながら考えているのです。




ピアノの練習自体が日々のご褒美になるような、自分の乗りこなし方を見つけていけるといいですね!





サイクリングでやる気を作る



もうひとつ。やらなきゃいけない宿題から逃げたいわたしの子どもたちのことを考えていて知ったのは、今話題の「やる気スイッチ」はポチッと押すものというより、自転車をこぐようなものかもしれない、ということなのです。




まず、サドルに座る、のがおっくう。(教科書を出すのがおっくう)

そして最初のひとこぎが一番重い。(最初の1問目が一番イヤ)

がんばって車輪を回す。(なんとか解いてみる)

だんだん回転数が上がってくると、だんだんやる気が出てくる。
(次も似ている問題かも?やってみようかなあ。)


そして、漕ぐのがちょっと楽しくなってくる!
(子供部屋から静かな鉛筆の音が聞こえてくる…かもしれない。)



試験勉強や仕事でも、この心理を利用することができると思います。

やりたくない勉強も、やりたくない家事も、やりたくない練習も、ちょっとだけとっかかりを作った状態でおしまいにするんです。




明日の分の問題を読むだけにして、お気に入りの鉛筆を準備してから、寝る。

明日の洗濯物は、白いものと黒いものの仕分けだけしておいてから、寝る。

ピアノ練習の嫌な部分を、前の日にちょっとだけやりかけておいてから、寝る。

次の日に1から漕ぎださないですむよう、前日に少しだけ車輪を回しておくんですね。




この曲の左手練習は、今日やろうと思っていた部分+次の日の分を、ちょっとだけ練習し始めてから、終わらせてください。明日はこれをやるんだな、くらいで十分です。



次の日「ああそうだった、続きをやろうかな~」という気になります。
自転車の漕ぎ出しがない分、だいぶ気持ちが前向きになりますよ!






この左手パートには、それだけ、練習に心血を注ぐ価値があるのです!!






ショパンの言語



徐々に左右のアウトラインができてきたら、一番楽しくて悩ましい部分、ショパンっぽい詩的な即興感をどう表現するか?というところに取り組んでいけるようになります。



自分で1から研究するのもとても楽しいですが、いろんな演奏を聴いて発想を得るのもおすすめです!
人は、知ったことを材料にしないと想像ができませんからね。



ショパンのメロディってわかりやすそうで、即興的な表現の部分をいざ弾いてみると、とっても掴みにくいんですね。

うまく気持ちを語れている演奏を聴いて、なるほどなあ~と思うことが大事だと思うのです。



いったい何を表現しようとしているのか…初めて言葉を覚える子どもになったつもりで、ショパン言語のシャワーを浴びるといいと思います。




実はこのノクターンop.9は3曲組なんです。

前後のop.9-1,9-3もぜひぜひ聴いて、ショパンの詩的な飾り旋律を味わってみるのもお勧めです☆




(op.9-1 独特な飾り方がでてきますね)


(op.9-3 半音階の飾り方も、ショパンぽいですよね)



この2曲の間に挟まれていると思うと、op.9-2も、また感じ方が変わってきませんか?





op.9-2に戻ると、こういう詩的な遊び方がショパン独特ですよね。
もう一度参考演奏を貼ってみます。



(上記動画1:40から)

         ↑↑↑↑↑

どちらも、元は同じ旋律の即興演奏のような遊び心です。

         ↓↓↓↓↓


(上記動画2:34から)




もし…
自分で練習してみると、どうしても右手が「出かける直前にあわてて準備をしだす人」みたいになっちゃって…。



優しい友人の左手さんが(あんなにのんびりしていたんだから、もっと前から準備しておけばよかったのに…)と、退屈そうにぼやいているみたいになっていたら…。



ちょっとこの先を読んでみてください。






カデンツァのおすすめ



最初に書きましたが、この曲をイタリア歌曲のようにとらえると、この即興的な部分は、アリアについているカデンツァのようなんですね。



カデンツァとは、旋律の最後を歌い手さんの自由即興的に歌う部分です。
歌い手さんは、とーっても自由にカデンツァを表現するので、伴奏をしていると思わず目を丸くしちゃいます。



参考までに、これはオペラのカデンツァの例です。


(「カプレーティ家とモンテッキ家」より。ジュリエットが望まぬ結婚を嘆くシーンです。歌が始まるのは5:35から。)



カデンツァ風味な揺らし方は、6:30~6:36、7:05~7:10や、7:48からのところ。あと有名なのは7:57から最後のところです。

曲調はノクターンとは全く違っていてごめんなさいね。




でも、分かっていただけるでしょうか、凄く自由な旋律の扱い方。正確な拍やリズム通りには歌ってらっしゃいません。
歌では、こんなに自由な表現だってあるのですねえ!




わたしたちピアノ弾きも、肩の力を抜いて、時を忘れ、旋律をゆったりとくゆらせてみてはどうでしょうか。




ここはカデンツァの雰囲気ですよ、と表現するコツは、そこだけ急に遅くしないで、1、2個前の音の前振りから雰囲気を作っておくことです♪



たとえばソフトペダルを踏んでみたりして、部屋の明かりを1段落とすような雰囲気作りをすると、「ちょっと別の世界に入りましたよ」と感じられます。

ゆっくりと音が滑り落ちていくのも、それはそれでいいかも!?という気がしませんか?









クライマックスでアピール



さあ、クライマックスのオクターブです!
高音の小指は、ぜひぜひ薬指を織り交ぜてレガートな音を作ると、メロディーがより訴えかけてくれるのでわたしはおすすめします。



でも、意識しすぎて気持ちが込められないくらいなら、オクターブは1、5の指で、太くラインをつないでいっても、素敵☆



ここまで弾いてきてちょっとミスがあったとしても、クライマックスで「わたしこの曲大好きです!」と思いっきり訴えてほしいと思います!



ちょっと設定に無理がある映画でも、クライマックスが良かったら泣けちゃうでしょう?



ポジティブな気持ちは、きっと!聴いている人にもとてもポジティブな力で伝わるはずです!






そして、自分の作ってきた雰囲気やイメージをしっかりと回収して、曲をしめましょう。
自分が弾いてきた速さや雰囲気にぴったりのおしまいのつけかたを、聴かせてくださいね。




きっと、演奏から奏者の人柄が伝わる、すてきな時間になることと思います。







まとめ


・みんなにとっての愛され曲は、ひとそれぞれの好みがある。
 
・好みが違っても、受け入れてもらえるような自然さのなかで、主張してみよう。
(一定のポジションを意識する歌唱法のおすすめ)

・撫でるような左手の弾き方に心血注いで練習する、だけの価値があります!

・練習アイディア① スモールステップでモチベーションアップ!

・練習アイディア② 次の日のやる気につながるように、前日にとっかかりを作っておく。

・ショパン独特な詩的表現を分かるようになるには、言葉を覚える時期の子供のように、たくさんのショパン言語を聴いてみよう。

・素敵な言語をしっかり味わいつつ、自分の演奏に落とし込む工夫を。(カデンツァのおすすめ)

・クライマックスでは、思いのたけを表現しよう!(クライマックスが良かったら、感動につながる。肯定的な感情の発散はみんなに温かく受け入れられる)










万人に愛されすぎたために、人前で弾くには遠慮されがちな、ショパンノクターンop.9-2。
 

まるで、大人気アイドルに近づけないようですよね…。


でも、だいすき!と叫ぶのは、ファンクラブのみんなにとって楽しいことなのです。


好きな曲を弾ける喜びを、みんなで楽しみたいですね!



「ノクターン第2番Op.9-2」の無料楽譜
  • IMSLP(楽譜リンク
    本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1905年にペータース社から出版された楽譜です。「ノクターンOp.9」全3曲が収録されており、第2番Op.9-2は5ページ目からになります。