「きらきら光る、お空の星よ♪」の歌詞でおなじみのメロディ。
日本では「きらきら星」として有名なため、この曲も「きらきら星変奏曲」として日本で親しまれていますが、元々はフランスで流行した恋の歌「Ah! vous dirai-je, maman(ママ、聞いてちょうだい)」が原曲とされています。

この歌はいろんなパターンの歌詞が存在するのですが、娘がお母さんに、ねえ聞いて?と自分の恋の悩みを相談するものが多いそうで、実はおませな女の子の心を歌ったシャンソンです。

変奏曲とは、楽曲形式の一つです。

まず、メインとなるテーマが演奏され、その後にテーマのリズムを変えたり、音に飾りをつけたり、調性を変えるなど、テーマを基にした演奏が繰り返されます。そして多くの場合、ラストのフィナーレは全ての変奏の中で一番聞き映えがするように作られています。

「きらきら星変奏曲は」12の変奏から作られていますが、その一つ一つの性格を知ることで、格段にまとまりがあって統一感のある演奏をすることが出来ます。

今回は、中でも‘これだけは知っておくべき’変奏の極意について、お話ししましょう♪

難易度は?


まず、全音のピアノピースを確認してみると、D(中級上)になっていました。

同じDの曲の中では、譜読みの面ではとても弾きやすい方だと思います。一つずつの変奏曲も短いので暗譜もしやすく、積み重なるように練習していけるので、達成感もあり、楽しんで練習できます。

その一方で、玄人になるほど難しさを痛感する曲でもあります。

音数が少ないと弾くことは出来るのですが、単音で奏でられるメロディは和音の響きの手助けがないため、誤魔化しが効きません。つまり、音の粒を正確に奏でるテクニックを求められるのです。

そのため、Cの人からFを弾ける人まで、幅広いピアノ愛好家にとって挑戦することの出来る魅力を持ち合わせています。


「きらきら星変奏曲」は、

・譜読みをするのがあまり得意ではない
・少しずつ、達成感を味わいながら練習したい
・どちらかと言えば、指を細かく動かすのが好き

といったような方に向いているでしょう。
また、キャッチーなメロディから演奏すると喜ばれる曲でもあります!

全部弾くとなかなかのボリュームがあるのでちょっと…、という方は、発表会などに限らず、普段の練習の曲集のような感覚で、一曲ずつレッスンを受けながら日常の中で楽しむのもいいですね。

まずはテーマを覚えよう。

モーツァルト「「きらきら星変奏曲」ハ長調K.265」ピアノ楽譜1
変奏曲とは、上記でもお話ししてきたようにテーマがどんどんとアレンジされていく楽曲の種類のことです。つまり、テーマを熟知していることはバリエーション(変奏)を練習していく上でとても大事な感覚になります。

おすすめは、まず、テーマを暗譜で弾く、です。

右手のメロディからインスピレーションを受けた変奏は分かりやすいのですが、中には和声と呼ばれる音楽の流れだけがテーマと同じものもあります。ここの和音の種類はなんだ、なんて詳しいことは分からなくてOK!感覚としてテーマを身に染み込ませるのが重要です。

オリジナルを知ってこそ、アレンジが出来るというもの。
テーマを弾ければすべてが弾ける!…なんてことは少し言いすぎですが。笑
あながち冗談でもないのです。

12の変奏を紐解く!

それでは、12の変奏について、テーマから順番に演奏する際のポイント、イメージなどをご紹介します。装飾音符、音量などの指示は、基本的には全音ピアノピースと同様です。

テーマ

全体は四分音符で構成されていて、いわゆる「きらきら星」のメロディです。この曲がこれから幾度も変奏されていくので、肝心かなめ、簡単だからといって、パパッと弾き飛ばしてはいけません。一音一音を大切に奏でましょう。15小節目、23小節目にある装飾音符は、特に大切に!ただ速く弾くのではなく、きちんと独立した音で、3つの32分音符が聞こえてくるように心がけます。

Var.Ⅰ

(動画0:32~)

1つめの変奏に相応しく、星がきらきらと輝く様子が思い描けるようなバリエーション(変奏)です。右手の細かな16分音符の動きに意識をとらわれがちですが、左手の音符を大事に、付点八分休符をしっかりと休んで清潔感のある演奏をしましょう。

モーツァルト「「きらきら星変奏曲」ハ長調K.265」ピアノ楽譜2
2カッコの後に、左手が二分音符の小節から3回右手が山なりに降りてくる音の形があります。ここは意識して小指の音が擦れないように心がけましょう。

Var.Ⅱ

(動画0:54~)

モーツァルト「「きらきら星変奏曲」ハ長調K.265」ピアノ楽譜3
Ⅰの左右が入れ替わったような印象で、左手の片手練習を良く行いましょう。右手のタイが複雑に見えるかもしれませんが、伸ばす音、切る場所を確認してペダルを入れた時も濁らないように正確に弾くことが美しく響かせるポイントです。

音量はフォルテとしか表示されていないのですが、9小節目からはメッゾフォルテ、反芻する13小節目からはもう一段階小さくメッゾピアノで演奏し、17小節目からのテーマのメロディ演奏からフォルテに戻るとメリハリがついていいでしょう。

Var.Ⅲ

(動画1:16~)

モーツァルト「「きらきら星変奏曲」ハ長調K.265」ピアノ楽譜4
下から上に進む右手の三連符がお洒落な雰囲気を醸し出しています。Ⅱまでの16分音符の羅列から変わり、三連符の割り切れない小気味よさを楽しむように少し余裕をもって弾くと、それまでのバリエーションと場面が変わった表現をすることができます。

親指を使う三連符の連なりは手首が上がったり、肩が上がったりと身体に力がこもりがちなので、楽譜ばかりでなく手元に目線を移し、手首の高さ、身体がこわばっていないかも確認しながら弾いてみましょう。

また、右手の2音にかかったスラーとスタッカートのリズムを快活に刻むとよりコミカルな表情を出せます。

Var.Ⅳ

(動画1:37~)

モーツァルト「「きらきら星変奏曲」ハ長調K.265」ピアノ楽譜5
Ⅲと対になるように三連符が左手に羅列します。殆ど左右が入れ替わっただけなのですが、伴奏とメロディでは印象が結構違うのが分かるでしょう。

こちらも左手5小節目からの左手、スラー、スタッカートを軽快に、そして大事に弾いていくと安定感が出ます。個人的には三連符を見ていると星座を思い出すのですが、言われてみればそんな気もしてきませんか?笑。

夜空に光る星を辿るイメージで、音符を繋いでみてください。

Var.Ⅴ

(動画2:00~)

モーツァルト「「きらきら星変奏曲」ハ長調K.265」ピアノ楽譜6
テーマの後、流星群のように疾走してきたメロディが、一度落ち着きを取り戻します。静かな夜空にぽつぽつと星が光るように交互に音が進んでいき、たまに流れる流れ星の16分音符が単純ながらとてもかわいい場面です。

ここでは、しっかりと音量を落とし、八分音符のお休みを意識してペダルを入れすぎないようにしましょう。場合によってはなくてもいいかもしれません。

Var.Ⅵ

(動画2:22~)

モーツァルト「「きらきら星変奏曲」ハ長調K.265」ピアノ楽譜7
今度は左手から右手にかけて16分音符が移り変わっていく、流れる音の幅が特徴的な譜面です。さながらⅤで見えていた小さな流れ星が、一つ一つ大きく弧を描いて流れ出したような、そんなイメージでしょうか。

和音の3つの音をしっかりと揃え、ばらばらにならないように気を配りましょう。またスタッカートがついていないため、短くなりすぎないようにすることも大事です。

Var.Ⅶ

(動画2:42~)

モーツァルト「「きらきら星変奏曲」ハ長調K.265」ピアノ楽譜8
スケール(音階)を駆使した、勢いのある音型から始まります。ここまでくると、「きらきら星」のメロディはどこにいったのやら…?というところに入ってきますが。笑

和声進行といわれる音楽の流れが同じなので、これも立派なバリエーションです。ソナチネなどはスケールを組み合わせて作曲されているものが多く、譜読みの難易度はこのあたりを目安にするのも一つかもしれません。

様々な装飾を除いてあるという意味で、12のバリエーションの中でも実はシンプルなものとも言えます。

Var.Ⅷ

(動画3:04~)

モーツァルト「「きらきら星変奏曲」ハ長調K.265」ピアノ楽譜9
この曲で初めて、たった一つの短調です。♭が三つついた悲しい雰囲気を漂わせるバリエーションは、不穏な空気を感じさせます。急にフォルテになったりピアノになったり、不安定でこれまでとは異色。5小節目の左手には、スタッカートより更に短く切って弾く記号、スタッカティッシモがついていることも注目です。

フォルテになった瞬間に、単音の伴奏で鋭さのスパイスも加えましょう。また、怖さのような、色気のようなアンニュイさが唯一ただようおいしい場面です。ゆっくりと味わって弾くとよりメリハリのついた演奏となります。

Var.Ⅸ

(動画3:32~)

モーツァルト「「きらきら星変奏曲」ハ長調K.265」ピアノ楽譜10
初心に戻ったように、明るい調で分かりやすく「きらきら星」のメロディが出てきます。右手から始まり、左手が二小節遅れて出てくる追いかけっこです。Ⅷと同じ流れで、最後の二小節は急にフォルテが現れます。しっかりと6小節目までをピアノで抑え、急に驚かせるような気持ちで低音のオクターブを響かせましょう。

最後の二小節は特に、しっかりと良く聞こえるように確信を持って弾きます。次のバリエーションに動きがあり、再び16分音符が輝くので、その前のⅨは腰を据え、可愛いながらも堂々とした演奏をしましょう。

Var.Ⅹ

(動画3:53~)

モーツァルト「「きらきら星変奏曲」ハ長調K.265」ピアノ楽譜11
左右の手を交差しながら弾く、見た目にとても華やかなバリエーションです。

実際弾いてみると見た目よりも簡単で単純にもかかわらず、とても曲として綺麗なのが分かります。左手が交差して右手より上側の音を弾くときは、グロッケン(鉄琴)のような澄んだ音色を心がけましょう。

右手の16分音符は出来る限り小さく、メロディをかき消してしまわないように細心の注意を!ピカピカと星が光る情景が浮かんでくるよう、音に耳を傾けることが大事です。

Var.Ⅺ

(動画4:16~)

モーツァルト「「きらきら星変奏曲」ハ長調K.265」ピアノ楽譜12
短調のⅧと並んで特徴的なのがアダージョのⅪです。形としてはⅨのような追いかけっこが取り入れられ、テンポが落ち着き、のんびりと穏やかな気持ちをもたらしてくれます。

パッと見ると32分音符、更に64分音符や休符まで出てくるのでびっくりしてしまうのですが、弾いてみるとむしろ歌ってゆったり進むのが正解です。そんな中でも星らしさは忘れず、5~7小節目に出てくる下降する装飾音符は確実に濁らないよう、よく練習しましょう。

また、ゆっくり弾いているとどんどん中だるみしてきてしまいがちなので、9小節目の左手の刻みで遅くなりすぎないように少しだけ前めを意識することも忘れずに。フェルマータも決して焦ってはいけません。

モーツァルト「「きらきら星変奏曲」ハ長調K.265」ピアノ楽譜13
特に16小節目の64分休符!ここは左右の音が全く残ってないのを確認してから、右手で囁くように「ラソファミレ」と弾きましょう。

Var.Ⅻ

(動画5:37~)

モーツァルト「「きらきら星変奏曲」ハ長調K.265」ピアノ楽譜14
さて、ついにラストのフィナーレ!アダージョから一転して、再びテーマのメロディが垣間見える右手の和音や装飾音符を駆使した右手のメロディ、この曲の代名詞ともいえる16分音符の息つく間のない羅列と共に一気に最後まで駆け抜けます。夜空に無数の星が飛び交っているのが見えるようです。

右手に立て続けにくる装飾音符は無造作に弾き飛ばさないよう、しっかりと弾ける回数をいれてください。この飾りが雑だと、全体的に煩い印象になってしまいます。

モーツァルト「「きらきら星変奏曲」ハ長調K.265」ピアノ楽譜15
9小節目からは、もしかしたらこの曲一番の難所かもしれない…、と私が思っている、’左右対称の8小節’が待っています。何が大変って、左右、たった一音ずつしかない2音をぴったりと合わせるのが、本当にほんっとうに至難の業です!

最後の聞かせどころでもあるので、リズム練習などを繰り返してハマるようにしましょう。

狙いすぎは禁物?のモーツァルト


モーツァルトは、時に大人より子供の方が上手に弾く、なんていう話を聞きます。

それは他の作曲家に比べて、シンプルな音使い、曲の作り、華美な飾りつけがない作曲をしていることから、人間の欲望や欲求から遠い純粋でピュアな音楽を求めていた、あるいは彼自身がそういう一面を持っていたと言えるからです。

「きらきら星変奏曲」に関しても、激しい激怒やねっとりとした欲望など、どろどろとしたものは一切ありません。曲の中にあるのは、あくまでも自然に沸き起こる感情の表現ばかりです。
こうしてやろう、ああやったら上手くいくはず、なんて打算が演奏に滲んでしまっては、どんなにうまく指が動いていても何かが違う、ってなってしまうかも…?

譜面に書いてあること以上の事をしようとせず、忠実に、誠実に。裏を読まず、ただ自分の身体を通して表現する。

それが出来るのが、たくさんの事を考えてしまう大人より、無垢に曲と向き合える子供なのかもしれませんね!


まとめ

1、 まずは、テーマを覚える!
2、 12の変奏の性格を把握しよう
3、 ピュアな演奏を心がけて♪考えすぎはNGかも。

以上が「きらきら星変奏曲」にまつわる演奏のポイントでした。

きらきらとしたメロディ、皆さんもぜひピアノの音で素敵な夜空を♪

「きらきら星変奏曲」の楽譜








「きらきら星変奏曲」の無料楽譜
  • IMSLP(楽譜リンク
    本記事はこの楽譜を用いて作成しました。ペータース社から出版されたパブリックドメインの楽譜です。

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