演劇の台本って、見たことありますか?
小説とは違って、真っ白いです。
余白が多いから。(びっしりとメモが書き加えられるまで)
テーブルの上で光を反射します。
何が書かれているかというと、演劇の設計図です。
夢がありますよね!役者さんも、スタッフさんも、この設計図をみて、
全ての場面を作っていくわけです。
私はこれまで、数々の舞台に出演し、台本も書いてきましたが、
告白すると、台本の書き方を勉強したことはありません!
正直、ストーリーを考えるのが超苦手な私が、
台本を書くときに、ただ一つ、意識していることをご紹介します!
まずは、暗転!
自分が演劇を観に行って、まず一番に楽しみなのが「暗転」です!劇場が真っ暗になって、明かりがつくと何かがもう始まっている。
その場に自分もいるという不思議な感じ。
「暗転!」これはもう絶対に入れたい!
とりあえず最初に書いておきましょう。「暗転」と。
台本ってとてもシンプルで、「セリフ」と「ト書き(とがき)」が書いてあるだけなんです。
セリフは、「おい!」とか「ここはどこなんだ!?」とか。
ト書きは、「昼下がりの公園」とか、「並んでベンチに座る男女」とか、「ここで暗転」とか。
セリフ以外の大まかな設定や指示です。簡単でしょ?
「悲しみで作られた公園」みたいな曖昧な表現は、しなくて大丈夫です。
読んだ人によって印象が違うと、完成までの道のりが遠ざかります。笑
演劇は、体験してもらう!
多分、これが一番大事なことです!
「台本が書きたいけど、ストーリーが思い付かない」
大丈夫です!
「台本が書きたいけど、伝えたいことがない」
大丈夫です!
舞台を用意して、お客さんを呼んで、そこに出て行って、
お芝居するなんて、もう無茶苦茶なわけで。
演劇って、なんていうか、台風っていうか。
始まって、終わるのが良いんですよ!
何も無かったところに何かが現れて、ブワーーっと通り過ぎてまた何も無くなる。
でも確かに何かが起こったような気配というか、もう聞こえない音が残っているような。
あ!「夏草や 兵どもが 夢のあと」みたいな。
これが不思議なもので、台本がどんなによく練られたものでも、その場で「本当に起ったこと」しか、お客さんには見てもらえないんです!
ストーリーとして「起ったことにする」のは簡単なんですが、
「ここの話をちゃんと聞いてないと分からなくなりますよ」というのが、
見ていて本当につらい。笑
演劇は、一発本番!何が起こるか分かりません!
台本通りにいかないし、お客さんの反応に合わせてその場で完成させるって、
どうしたらいいんでしょう!?ストーリーに頼るのは無理ですって!
演劇は、現場で起きている!
突然ですが、「桃太郎」を演劇にしようと思ったらどうしますか?
じゃあ、「桃太郎」と、「犬、猿、キジ」との出会いのシーン。
「きびだんご」を渡していくだけだと、1分位で終わっちゃいます。
演劇というと、会話をしなきゃ!と思うかも知れませんが、
そうするとですね、、、
みんな余計なことを喋り始めるわけです。
自分が何者で、どこどこ出身で、こんな悩みがあって、鬼ヶ島に行きたいんだ!と。
演劇は、説得じゃありません!
言葉で、「仲間になったことにしちゃう」のは簡単です。
せっかくなら動きましょう。
「きびだんごを手渡す」ために、全力が出せるかです!
風を吹かせてみるのはどうでしょう?
犬「桃太郎さん、桃太郎さん、そのお腰に付けたきびだんごを1つ下さいな!」
雲行きがあやしくなり、強風が吹き始める
桃太郎「これから鬼ヶ島に、鬼退治に出掛けます。ついてくるならあげましょう!」
ちょっと、全力が出せそうじゃないですか?自然と、桃太郎の声も大きくなりそうです。
きびだんごを、次々にやって来る3匹の仲間に渡すために、ふらつきながらも、一歩また一歩と互いに近づいて、「きびだんごを渡し」「受け取る」。
全員の生まれ持った体が、それぞれ全く違うことも分かります。(それが、キャラクターです)
いよいよ雨が降り始めて、大きな木の下、皆で肩を寄せ合う。
そうして、「仲間になる」というストーリー以上の「何か」が生まれることを、願うしかないんです!
あとは、野となれ山となれ
シーンが出来ちゃえばこっちのもの。
知ってるストーリー
↓
演劇(シーン)に変換
これをいくつかやって、あとはシーンとシーンをつなぐために、ストーリーらしきものを考える!
演劇をやるために何かをするしかないわけで。笑
セリフは後からついてきます。
全部、舞台上にあるんですよ!重さも、軽さも、距離も、熱も。
ストーリーを刺激的にしても、なぜか演劇は刺激的にはなりません!
刺激は、役者さんの体を通してビリビリきますから、
それをそーっと、ストーリーやセリフで包んであげてください!
何か喋りたいことが沢山あるとすれば、それは伝えるためじゃなくて、
「もう喋れない!」と言うために喋るのです。
演劇に憧れを持ちつつ、普通の会社員をし、たまに演劇ワークショップなどに参加してお茶を濁しているうちに、ただのおばさんになってしまいました。
それでもたまに、演劇やりたいな〜、と思い、いっそ自分で台本を書いてみようか・・・と思いつつ、ストーリーが全然広がっていかず、挫折していたので、目から鱗の記事でした。
こういう考え方で、少しずつ蓄積していくしかないですね。
サマンサ さま
コメントをお寄せいただき、ありがとうございます。家森と申します。
私も現在、やむを得ない事情で演劇の現場を離れておりますが、やはり舞台への憧れは一生ものではないでしょうか。
つい先日、保育士を目指す方から「子どもたちに上演させる劇の台本が書けないんです」とのことで、ご相談を受けました。「起承転結が大事ですよね…?」とつぶやきながら随分と頭を抱えていらっしゃったのを覚えています。
私からは「あまり構成は気にせずに、シーンから作ってみては?」とご提案いたしました。たった一歩相手に近づくだけでも、お互いの関係が面白くなるのが演劇だからです。
関係というものは不思議なもので、例えば宮崎駿監督の「風立ちぬ」というアニメ映画の中では、主人公とヒロインとのあいだに起きる“モノの受け渡し”が繰り返し描かれます。相手が落としたもの、投げたものを必ずもう一人がキャッチする。そんなやりとりの中にこそ、この作品の核があるのだと私は思っています。
・帽子が風で飛ぶ
・それを相手に受け止めさせるには?
・走る汽車のデッキで出会わせよう
・汽車はどこへ向かう?
・デッキで挨拶を交わし、別れた二人がもう一度出会うには?
そんな風にしてお話を紡ぐ方法もきっとあるのでしょう。「風立ちぬ」はストーリーが破綻している…なんて声も多く聞かれますが、私は大好きです。いつか舞台の上で見てみたいものです。
サマンサさんの大切な気持ちをお聞かせくださり、ありがとうございました。私も今後の励みにして参ります。
家森
ご丁寧なご返信、ありがとうございます!
家森さんも、今は演劇休止中なのですね。
そうですよね、一生ものと思えば、関わり方も色々あることですし、つながっていることはできますね。
「シーンからストーリーを作っていく」というのも、目から鱗でした。
チャレンジしてみようと思います!