今日はとあるオーケストラ曲のリハーサル練習。トランペットパートは曲の冒頭からスペイン風のカスタネットを思わせるリズムの刻みを奏します。単純なリズム伴奏ですが、この伴奏が木管楽器のメロディーを鮮やかに際立たせます。これが実に楽しい!
その後も様々な聴かせどころがあり演奏していてとても楽しい曲です。
曲は「スペイン狂詩曲」・・・「狂詩曲スペイン」はたまた「イタリア奇想曲」?
この辺がこんがらがりますが(?)リムスキーコルサコフの「スペイン奇想曲」です。
数々のオーケストラ作品の中でも、聴くだけでなく演奏すること自体が楽しいと感じる作品は数多くあります。難易度も難しすぎず、それでいて各楽器がソロやアンサンブルで活躍できるやりがいのある曲。やはり大きくは作曲家の楽器の使い方、つまりオーケストレーションの卓越さが影響しています。
私が個人的に数々の作曲家の中でオーケストレーションが卓越した人物を3人挙げするとすれば、フランスのラヴェルとイタリアのレスピーギ、そしてロシアのリムスキーコルサコフです。
今回ご紹介する「スペイン奇想曲」はリムスキーコルサコフの作品の中でも難易度はさほど高くなく、それでいて演奏するのも楽しい一曲です。
ヴァイオリンソロを中心にした鮮やかなオーケストレーションの、明快でわかりやすい曲となっています。ヴァイオリンソロが活躍する点では代表作である「シェエラザード」等と同じスタイルです。
様々な楽器が活躍するリムスキーコルサコフのスペイン奇想曲。今回もオーケストラのトランペット席からご紹介しましょう。
■ 目次
スペイン奇想曲作品34
フランクフルト放送管弦楽団による素晴らしい野外演奏。そこのあなた、モニターに映りましたよ。オーケストラ全ての楽器が活躍する場面があります。カスタネットやハープも聴かせどころがあります。そしてヴァイオリン協奏曲のようにヴァイオリンソロが所々で技巧的なソロを聴かせます。
ヴァイオリンだけではありません。クラリネットやホルン、ハープなどのソロも活躍します。
アルボラーダ(0:06~)
スペインの北、大西洋に面したアストゥリアスという所があります。険しい山が海に面しており、景色の大変美しい地方です。
このアストゥリアスに伝わるアルボラーダという舞曲があります。朝帰りの道化師が踊る舞曲ですが、ラヴェルの作品にも「道化師の朝の歌(Alborada Del Gracioso)」があります。
まさに道化師が踊るような楽しい旋律で始まります(0:06~)。この旋律がクラリネットのソロに受け継がれます(0:18~)。そしてヴァイオリンのソロ(0:58~)。この一曲目の最後は消え入るように終わります。
この曲のトランペットの楽譜はinAの調性で書かれています。B♭管で演奏するなら楽譜の音をすべて半音下げて吹けばOKです。難しそうに感じますがそれほど指使いは難しくありません。
変奏(1:19~)
ホルンの綺麗なアンサンブル(1:23~)。イングリッシュホルンのソロとホルンのソロの掛け合いも聴きどころです(2:41~)。その後も動画のようなロマンチックなスペインの夜を思わせるひと時が展開されていきます。
アルボラーダ(6:23~)
再びアルボラーダが奏されます。ヴァイオリンソロが活躍するなど、最初のアルボラーダよりオーケストレーションが華やかになっています。ここのトランペットの素早い三連符はカッコよく決めたいところです。最後は一曲目とは対照的に力強く全合奏で締めくくります。
シェーナとジプシーの歌(7:35~)
すかさずスネアドラムの激しいロール。そしてトランペットとホルンによるファンファーレ。この曲の一番の聴かせどころです。そしてヴァイオリンソロが同じ旋律で情熱的なソロを奏します(8:05~)。
ファンファーレの旋律によるジプシー風の音楽(8:43~)。そしてフルートの技巧的なソロから(8:56~)、クラリネット、オーボエ、そしてハープの魅力的なカデンツァソロへと引き継がれます(9:38~)。トライアングルがかすかに鳴っているのがポイントです。このいくつかのソロは、スペインの踊り子がソロダンスを踊っているようです。
フラメンコを思わせるトロンボーンの合図から雰囲気は一転して再びジプシー音楽(9:58~)。さらにここでチェロのソロ(10:51~)。これもスペイン風の魅力的なソロです。ジプシー音楽が盛り上がっていきそのまま最後の楽章へ!
アストゥリア地方のファンダンゴ(12:17~)
ファンタンゴといえばフラメンコの男女ペアで踊る情熱的なダンス。
トロンボーンの豪快な旋律から、フラメンコ風の明るい音楽が展開されます。スペイン風音楽といえばやはりカスタネット。ここからカスタネットの見せ所です。リムスキーコルサコフはスペイン人だったのか?と思えるほど効果的にカスタネットを使わせています。
トランペットが先程のジプシー風を奏し(14:13~)、トロンボーンのファンタンゴに受け継がれます。そしてクライマックスへ(14:38~)。ここから激しく加速していきます。まるでロシア音楽のような熱い盛り上がりをみせ最高潮になったところで曲を締めくくります。
聴く方も演奏する方も、熱くなれる素晴らしいオーケストラ曲です。
この曲も管楽器が活躍する曲なので吹奏楽でも人気があり、演奏される機会も多いです。
吹奏楽版
名盤
ネーメ・ヤルヴィ/エーテボリ交響合唱団
颯爽としたスピード感溢れる演奏です。特にラストのテンポの速さと盛り上がりは圧巻です。
シャルル・デュトワ/モントリオール交響楽団
非常に綺麗な音色です。急がず慌てず、曲の最後まで完璧なアンサンブルで演奏しています。特に途中の金管ファンファーレのアンサンブルは完璧です。
フェドセーエフ モスクワ放送交響楽団
スペインを題材とした曲ですが、ロシア音楽らしいゴリゴリした力強い音が聴きたい時はこちらがオススメです。各楽器のソロが素晴らしい盤です。
憧れのスペイン
19世紀後半あたりのクラシック音楽ではスペインを題材とした曲が様々な作曲家によって生み出されています。スペインらしい南国の情熱溢れる音楽が多くの作曲家に影響を与えました。このリムスキーコルサコフの「スペイン奇想曲」は魅力的なオーケストレーションもさることながら、スペインらしいカスタネットやギターを思わせるリズムが、巧みなオーケストレーションと共に用いられています。
特にアストゥリア地方のアルボラーダやフラメンコでおなじみのファンダンゴを中心に用いられていて、スペイン音楽の魅力を充分に発揮した曲といえます。
リムスキーコルサコフの代表的なオーケストラ曲はこの「スペイン奇想曲」の他に有名な「シェエラザード」と「ロシア復活祭」があります。どちらもヴァイオリンソロの活躍と色彩豊かなオーケストレーションが特徴的です。
「シェエラザード」ではアラビア風、「ロシア復活祭」はロシア風、そしてこの「スペイン奇想曲」はスペイン情緒溢れる作品となっています。この3曲はリムスキーコルサコフの作品の中でも特に素晴らしい3作ですが、その中でもこの「スペイン奇想曲」は明快で明るく、熱く盛り上がれるという点で最も親しみやすいのではないでしょうか。
初演を受け持った楽団員達から「この曲いいね!」と絶賛されましたが大いに頷けるエピソードだと思います。そしてこの名曲に初めて遭遇することができた楽団員達に「スペイン奇想曲」は献呈されたのでした。
- IMSLP(楽譜リンク)
本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1887年にベライエフ社から出版されたパブリックドメインの楽譜です。