ピアノを弾く人であれば、憧れる人も多い作曲家のひとりが、フレデリック・ショパン(Frédéric François Chopin/1810 or 1809-1849)でしょう。

多くの有名な曲を世に残しているショパンですが、その中には「練習曲(エチュード)」というものもあります。

ショパンの練習曲は、一般的によく演奏される作品10(1833年に出版)、作品25(1837年に出版)がそれぞれ12曲、そして作品番号なしの3曲(1840年に出版)の27曲からなっており、この『黒鍵のエチュード(Black Key Étude)』は作品10の中の5番目の曲です。

今回は、私自身若かりし頃から、弾きたくて弾きたくてたまらなかったこの超超憧れの曲『黒鍵のエチュード』について、難易度と弾き方の解説をしていきたいと思います。



ショパンの楽譜であれば、パデレフスキ版はチェックしておきたいところ!




全音から出版されている楽譜もとても見やすいので、オススメです!



■ 目次

この曲のどこが「練習曲」だと?!


「ショパンのエチュード(練習曲)」と聞くと、ピアノの経験のあるほとんどの人は『革命』、『木枯らし』、『別れの曲』、そしてこの『黒鍵』を思い浮かべるでしょう。
しかし、これらの曲はバイエルやハノン、チェルニーなどの練習曲とは違い、どれも極めて芸術的で、なおかつ美しい旋律が特徴の芸術作品ですよね。

ショパンはそれぞれの練習曲に、演奏するのに必要となる特定の課題を盛り込んだ上で、1曲1曲の作品に対して熱い情熱を注ぎ込み、美しくて芸術的にもたいへん優れたこれらの練習曲を作り上げたのです。

あまりの難しさに、「ピアノの魔術師」も思わず失踪?!


ショパンは「エチュード 作品10」を、あのフランツ・リスト(Franz Liszt/1811-1886)に捧げています。
リストといえば、『愛の夢』や『ラ・カンパネラ』でおなじみの、あのリストです!

リストはショパンよりも1歳年下であり、当時最高のピアニストとしての名声を得ており、「ピアノの魔術師」とも呼ばれていたほど。
そんなリストにショパンは完成したばかりのこの作品を見せたのですが、これはショパンからリストに宛てた挑戦状という意味も込められていたのかもしれません。

この「エチュード 作品10」は、さすがのリストでさえ難しくて初見では演奏できなかったそうです。
初見での演奏ができなかったリストは失踪し、再び姿を現したときには完璧に弾きこなしていたという逸話が残っています。
失踪している間、どこでどう練習していたのか気になります!

このときのリストの演奏があまりにもすばらしかったことにショパンは感動して、この作品をリストに献呈することを決めたと言われています。

このように、曲の背景を知った上で練習すると、曲に対してまた違った解釈ができておもしろいですよね!

気になる難易度は?


全音ピアノピースサイトに掲載されている『黒鍵のエチュード Op.10 No.5』の難易度は、上級上のFとなっています。
最高難易度の部類に入っているんですね!

ソナチネアルバムを卒業し、ソナタをある程度弾き進めた頃に取り組むのが、個人的にはオススメです。
チェルニーで例えると、40番終了辺りかなと思います。

この『黒鍵のエチュード』は、ショパンのエチュードの中では比較的弾きやすい曲に分類されています。
そうは言っても、「ピアノの魔術師」が失踪したほどなので、エチュード自体がかなりの難易度です。
あくまでも、「エチュードの曲においては弾きやすい」という意味ですね。

ですから、ショパンのエチュードに取り組もうと思ったら、まず『革命』や『別れの曲』、またはこの『黒鍵』から取り組む人が多いように感じます。

私自身は手が小さく速い曲が好きなので、『別れの曲』よりは『黒鍵』の方がずっと弾きやすいと思います。


弾き方を確認しよう

ショパン「「黒鍵のエチュード」Op.10-5変ト長調」ピアノ楽譜1
この曲は冒頭から「f」で、とても速いテンポで弾き始めます。(動画 冒頭~)
「Brillante」は「ブリランテ」と読み、「輝かしく」という意味です。
本当に、出だしから華々しさ満載の曲ですね!

この曲はペダルの使い方がとても難しく、ペダルの踏み方ひとつで印象が全然違ってきます。
個人的には、この曲を演奏する場合、ペダルはほとんどハーフペダルで踏むことをオススメします。(なんならクォーターペダルでも!)

ホント、ペダルは軽く踏み込む程度にしましょう!(もちろん、ガッツリ踏み込んだ方がいい箇所もありますが)
そして踏むときには、左手の1音目を2音目につなげるというくらいの意識で踏むのがいいと思います。
あまりにペダルを踏むと、左手がベチャーッと変に強調されてしまいます。

私はこの曲は、左手こそ大切なパートであると思っています。
右手は速いテンポで動き続けるのですが、そのためには左手をいかに軽く弾いて右手の動きを支えるかが重要であると思うからです。

そしてさらに重要なのが、強弱。
しっかりメリハリを付けて弾きましょう!

8小節目の「poco rall.(少しずつゆっくりと)」は、十分過ぎるくらい意識してください。


ショパン「「黒鍵のエチュード」Op.10-5変ト長調」ピアノ楽譜2
再び同じ旋律が繰り返されたあと、17小節目(上の楽譜では2小節目)からは新たな旋律が登場します。(動画0:17~)

ここは前の小節を意図的に遅くしながら弾く必要はありませんが、17小節目に入る直前に一呼吸置くような意識で弾いてみてください。

そして右手の高音の動きは、鈴が鳴っているようにきれいで可愛らしい音を出すように心がけましょう!

左手ので囲んでいる箇所は、「ラ♭~ラ♭~シ♭~ラ♭~シ♭~ラ♭~ファ~」の旋律にしっかり耳を傾けながら弾いてください。


ショパン「「黒鍵のエチュード」Op.10-5変ト長調」ピアノ楽譜3
21小節目からも先ほどと同じ旋律が出てきますが、ここでの左手は先ほどよりも少し強く、よりメロディーを歌わせるように弾きましょう!(動画0:21~)

そうすることで、聴く人によっては「あ!この人ちゃんと曲の構成を考えて演奏しとる!」と思ってもらえるかもしれません。(笑)


ショパン「「黒鍵のエチュード」Op.10-5変ト長調」ピアノ楽譜4
次に24小節目からの楽譜ですが、ここで気を付けて弾きたい音にをしてみました。(動画0:25~)

左手はどっしりと、右手は「シ♭~ラ♭~ソ♭」と頭の中で歌いながら弾きましょう。
特に右手は高速で鍵盤が飛びまくりですが、ここで音を外してしまうと、必ずバレてしまいます!

しっかりと的確に鍵盤を押さえることができるよう、指に動きを覚え込ませてください。


ショパン「「黒鍵のエチュード」Op.10-5変ト長調」ピアノ楽譜5
33小節目からの楽譜です。(動画0:35~)
「sempre legatissimo」は、「とてもなめらかに弾き続ける」という意味です。

ここでの「f」はしっかりと音を出し、盛り上げて弾くようにしましょう。
音の高低によって強弱が変わるので、強弱記号に気を付けながら意識して弾いてくださいね。


ショパン「「黒鍵のエチュード」Op.10-5変ト長調」ピアノ楽譜6
続いて41小節目からです。(動画0:45~)
ここで私が重要と思う左手の音に印をしました。

はメロディーを感じながらしっかり歌わせたいところ、はそのメロディーを支えるために重要な音です。
の音はよりも目立たないように弾きましょう!

さらに上の楽譜2小節目の左手「ミ♮~ファ」の箇所は、次の3小節目に右手で最初に弾く「レ♭」の音につなげる意識で弾いてください。


ショパン「「黒鍵のエチュード」Op.10-5変ト長調」ピアノ楽譜7
56小節目(上の楽譜1小節目)は、ほんの少しだけリタルダンドするような気持ちで弾くと、グッと雰囲気が出ると思います!(動画1:03~)

左手は軽く!右手の可愛らしい高速の動きを支えてください。


ショパン「「黒鍵のエチュード」Op.10-5変ト長調」ピアノ楽譜8
65小節目に出てくる休符ですが、ここは3連符の真ん中に出てくる休符であることを忘れないでください!(動画1:14~)


ショパン「「黒鍵のエチュード」Op.10-5変ト長調」ピアノ楽譜9
曲の最後には、左右オクターブで同じ音を弾きながら下降してくる怒濤の動きが出てきます。(動画1:36~)

しかし、手の小さな人でも恐れることはありません!
ただの純粋なオクターブです!
他の音が入っているわけではありません!
何度も何度も練習して指の開き方や動きを身に付けると、ミスタッチすることなく弾けるようになると思います!
実際私がそうです。

最後の聴かせどころなので、かっこよくキメちゃいましょう!

弾き方のコツをおさらいしよう

「エチュード 作品10」の中では易しいといわれている『黒鍵のエチュード』ですが、かなりの難曲であることに間違いありません。

この曲の弾き方のコツとしては、

  • 譜読みの段階ではとにかく楽譜に忠実に、音を正確に読む
  • 小節ごとの部分練習でみっちりと弾き込む
  • 随所に歌わせたいメロディーが出てくるので、意識しながら弾く

の3つをオススメします。

この曲をマスターできると、一目置かれる存在になれるかもしれません!
マスターできるまでの道のりは長いですが、最後まで腐らず頑張ってください!



「黒鍵のエチュードOp.10-5」の無料楽譜
  • IMSLP(楽譜リンク
    本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1880年にブライトコプフ・ウント・ヘルテル社から出版されたパブリックドメインの楽譜です。Op.10全12曲が収録されており、Op.10-5は16ページからです。
  • Mutopia Project(楽譜リンク
    最近整形されたきれいなパブリックドメインの楽譜です。Op.10-5のみ収録されています。


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