メンデルスゾーンの作品の中で一般的に知られている有名な曲と言えば、間違いなく「結婚行進曲」でしょう。

他にも「ヴァイオリン協奏曲」はよく知られていますよね。メンデルスゾーンのヴァイオリンコンチェルト、略して「メンコン」とも呼ばれています。



メンデルスゾーンは一般的にはそれ程知られている作曲家とは言えず、ピアノ曲に至ってはほとんど知られていません。

メンデルスゾーンのピアノ曲で知られている曲は今回取り上げる「無言歌集」の中の数曲や「厳格な変奏曲」、「ロンド・カプリチオーソ」くらいでしょう。

しかし、音楽界ではメンデルスゾーンは作曲以外のことでも高く評価されていて、音楽史では彼の功績が必ず書かれています。

メンデルスゾーンとはどんな人で、何をしたから高く評価されているのかなどに触れながら、「無言歌集」の難易度と弾き方について書いていきたいと思います。

メンデルスゾーンはどんな人なのか?


メンデルスゾーンのフルネームはヤーコプ・フェーリクス・メンデルスゾーン・バルトルディと言います。

メンデルスゾーンは1809年ドイツのハンブルクに生まれ、1847年ライプツィヒで亡くなりました。

彼はユダヤ人の家系でした。そのため迫害を受けるということがあったり、メンデルスゾーンの音楽や功績が一時は評価されにくかったりということがありました。

彼と同時期に活躍していた作曲家はシューマン(1810~1849)やショパン(1810~1856)などがいます。メンデルスゾーンはロマン派中期に活躍しました。

メンデルスゾーンの祖父は哲学者、父は銀行家でとても知的で文化的な環境に生まれ育ちました。

彼は4人姉弟で、第2子として生まれました。姉ファニーとはとても仲が良く、特別な存在だったようです。姉ファニーも作曲家やピアニストとしても活躍していたようで、歌曲などが残っています。

メンデルスゾーンは母からピアノの手ほどきを受けたあと、7歳頃からピアノをピアニストのベルガ―に習い、9歳で演奏会デビューしました。

10歳頃からは作曲をベルリン・ジング・アカデミーの指揮者だったツェルターに習いました。バッハについては特に勉強したようです。

その後、作曲と演奏活動をして、活躍します。活躍が認められ1835年には26歳にしてライプツィヒ・ゲバントハウス管弦楽団の指揮者に就任します。

それからは1847年38歳で亡くなるまで作曲や演奏活動以外のことにも力を注ぎました。

彼は音楽だけでなく、絵の腕前も相当なもので、絵が何枚も残っています。多才な人だったんですね!


音楽界に多くの影響を与えた

メンデルスゾーンは作曲家としても、もちろん評価もされていますが、それ以上に評価されていることが3点あります。

オーケストラ演奏水準の向上

1835年にメンデルスゾーンはライプツィヒ・ゲバントハウス管弦楽団の指揮者に就任します。そこで彼がやったことは演奏水準を向上させることでした。

また、よく演奏される作品ばかりを取り上げるのではなく、知られていない作品を世間に紹介するということもしました。

現在では指揮者が演奏する作品を解釈し、それを演奏者に伝えていきますが、当時の指揮者はメトロノームのような存在だったようで、正確なリズムを刻むということが仕事だったようです。

現在の指揮者のように指揮棒や手の動き、体全体の動き、目の動きで演奏者に指示を出すということがほとんどなかったようなのです。

指揮者というものを、ただリズムを刻むという存在ではなく、音楽解釈を演奏者たちに伝え指導していくという立場にメンデルスゾーンが変えていきました。

オーケストラの全体の音を客観的に聴けるのは指揮者だけです。その指揮者によって指導されるのですから、より良い演奏にならないはずがありません。

メンデルスゾーンはオーケストラの演奏水準を向上させたと同時に指揮者の立場も変えていきました。

音楽学校の設立

1843年にライプツィヒ音楽学校(現在のライプツィヒ音楽院)を設立しました。シューマンを作曲、ピアノの講師として招き、一緒に教えました。

バッハが再評価されるきっかけを作った

今では考えられないことですが、バッハ作品は当時ほとんど演奏されることがなくなっており、忘れ去られようとしていました。

メンデルスゾーンは小さい頃からバッハの作品に触れていたので、忘れ去られないように1829年に「マタイ受難曲」の復活上演をしました。

この作品が演奏されたのはなんと80年ぶりだったそうです。

この演奏がきっかけとなり、バッハは再評価されることになります。もしこの上演がなかったら、バッハは現在のように誰もが知っている作曲家ではなかったのかもしれません。

無言歌とは何か?


先ほども書きましたが、メンデルスゾーンのピアノ作品で最も有名なものは「無言歌集」です。

日本語では無言歌と訳されていますが、元のタイトルはLied ohne Worte(ドイツ語)となります。直訳すると「言葉のない歌」となります。

もうちょっと良い訳はなかったんですかね…無言歌って…

曲は歌うような旋律と単純な伴奏形でできています。この作品はロマン派の時代に流行っていた「性格的小品」(自由な発想で作曲された作品)のひとつです。

Lied ohne Worteというタイトルはメンデルスゾーンが使い始めました。その後もフォーレやチャイコフスキー、グノーがこのタイトルで作曲しています。

無言歌集は全部で48曲ありますが、いっぺんに出版されたわけではなく、8巻に分けて少しずつ出版され、各巻6曲ずつ入っています。
メンデルスゾーンは生涯に渡ってこの作品を作曲しています。

第6巻までは生前に出版されていますが、残りの2巻は彼が亡くなった後に出版されました。第5巻は親友だったシューマンの妻クララに献呈されています。

無言歌集にはそれぞれタイトルがついていますが、これは彼自身がつけたものと出版社がつけたものがあります。

メンデルスゾーンがつけたタイトルは3曲の「ヴェネツィアの舟歌(ベニスのゴンドラの歌)」Op.19-6、Op.30-6、Op.62-5と「デュエット」Op.38-6と「民謡」Op.53-5の5曲のみで、あとは出版社によってつけられています。

出版社によってはメンデルスゾーンがつけたタイトルしか書いていないものもあります。日本語訳についてもそれぞれの出版社で少しずつ違うようです。

無言歌集は歌詞のつかない歌というタイトルの通り、歌のような旋律に伴奏がつけられています。

構成としては、まず主要な旋律が出て来て、途中は変化したものや少し雰囲気の違うものが出て来て、また主要な旋律が戻ってくるという3部形式で作られているものが多いです。

無言歌集の全体的な難易度は?

メンデルスゾーン: 無言歌集/ヘンレ社/原典版

無言歌集の曲はどれも短く、聴いたときはそれ程難しく感じないと思いますが、簡単に弾ける曲でもありません。

短い曲の中にもいろんな要素が入っています。メンデルスゾーンは小さい頃からバッハの作品に親しんで来たからなのか、片手で2つの声部を弾き分けないといけない部分が多く出てきます。

これは左右の手のバランスを変えて弾くより難易度が高く、それぞれの指の力のバランスを考えて弾かなければならないということです。

親指側を目立たせるのは割とやりやすいですが、小指側を目立たせるのは訓練が必要です。

このように弾き分けるという要素などが入ってくるので、難易度としてはソナタが弾ける程度くらいでしょう。

「ヴェネツィアの舟歌」と「春の歌」の弾き方について

無言歌集の中で良く知られている2曲の弾き方について書いていきたいと思います。

「ヴェネツィアの舟歌」嬰ヘ短調Op.30-6




8分の6拍子の曲です。この拍子は他の拍子よりも動きのある拍子です。拍子を6拍でとるのではなく、2拍で大きくとれるようにしましょう。

左手は舟に揺られている感じや水の揺らぎを表現しています。ずっと左手は同じ伴奏形です。

一定のリズムをただ刻むのではなく、揺らぎが表現できるようにしましょう。1つずつ弾かないように気をつけて下さい。リズムによくのって弾かなくてはいけませんが、穏やかな動きにしましょう。

右手は旋律の動きをよく見ましょう。上行しているのか下行しているかどこが1番の盛り上がりになるのかをよく感じて弾きましょう。

1小節の中にクレッシェンドとデクレッシェンドが書いてあるものは、ニュアンスを表していると捉え、クレッシェンドをしようと必要以上に思わないようにしましょう。



(0:26から再生されます)

ここからどんどん和音が変化していき、右手の音が上がり盛り上がっていきます。左手は1拍目と2拍目の音が広がっていくのでスタッカートのようにならないようになるべく引きのばして弾くようにしましょう。



(1:05から再生されます)

PPのトリルはキツイですね。指をバタバタ動かさないようにしましょう。机の上で指をほとんど上げないで弾く練習をするのが良いかもしれません。弾こうとがんばらないことです。この部分のクレッシェンドは右手でしようとは思わず、左手で表現しましょう。

「春の歌」イ長調Op.62-6




この曲はメロディーと伴奏に分けてよく練習することがポイントです。

メロディーはスラーやスタッカートなど書いてあることをよく守って弾きましょう。これを守るだけで動きが出ます。

バスと装飾音符の伴奏部分のみの練習もしましょう。装飾音符の部分はバスの上に軽くのっけるつもりで弾きます。右手は左手の装飾音符より重くならないように気をつけましょう。

弾き方のコツとしては、指でがんばって弾かないことです。手首を少しひねるようにして弾くと良いと思います。

親指と人差し指を使ってシールをはがす時に手首を少しひねるようにしませんか?そんなイメージです。

この弾き方が出来るようになると、上から落として弾く弾き方ではないので、軽い音が出せるようになります。

この曲は全体に装飾音符が出てくるので、この弾き方をマスターするのは重要です。

伴奏形をよく聴いてそれにのってメロディーを歌うようにすると軽くて春らしい、ウキウキした感じが表現できると思います。

無言歌集はどの曲も短く、曲の特性上メロディーと伴奏がはっきりしているので、雰囲気を掴みやすいと思います。

今回取り上げた「ヴェネツィアの舟歌」や「春の歌」、この他にもよく知られている「狩人の歌」や「紡ぎ歌」から挑戦されるのも良いですし、まだまだ多くの曲がありますのでお好きな曲に挑戦してみて下さいね。

まとめ

◆シューマンやショパンと同時期に活躍していたロマン派の作曲家
◆「オーケストラの演奏の向上」「音楽学校の設立」「バッハの再発掘」の3点も音楽史的には重要
◆無言歌というタイトルはメンデルスゾーンが使い始めた
◆無言歌集の全体的な難易度はソナタが弾ける程度
◆曲の構成は3部形式が多い



「無言歌集」の無料楽譜
  • IMSLP(楽譜リンク
    本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1880年にペータース社から出版された楽譜です。「無言歌集」全48曲が収録されており、第12番「ヴェネツィアの舟歌」Op.30-6は23ページから、第30番「春の歌」Op.62-6は65ページからになります。

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