繊細で美しいピアノ曲を200曲以上も遺した「ピアノの詩人」ショパン。そんなショパンがテクニックの修練を目的に書いた全12曲からなるエチュード集は、とても難しく、同時に音楽的な魅力に溢れた作品集です。

ツェルニーの練習曲のように一つ一つのテクニックを学んでいくのとは違い、最初から高度なテクニックが要求されます。全曲を通じて言えることは、とてもしなやかな手首と腕の使い方の訓練ができることでしょうか。

私は高校1年生頃に始めてから(音大、大学院を卒業し)かれこれ10年ほどこの練習曲に挑戦していますが、未だ課題の多く残る難曲揃いです…

それでは各曲の特徴と攻略法を一緒に見ていきましょう!


『第1番 op.10-1』手が大きくないと無理!?アルペジオの練習曲


 
第1曲目から超難曲のため、いきなり挫折してしまった方も多いのではないでしょうか。ショパンのエチュードは1番から順番に学習することを目的に書いているわけではないので、あまりに難しい場合は後回しにしても大丈夫です!

基本的には広範囲に渡っての右手のアルペジオの練習です。


このように、冒頭からドからミに向かっての10度を中心にした動きで、手がつりそうになります。この曲を弾くためには、脱力して手首を柔らかく回転させ、ポジションを移動させることが必要です。

決してハノンやツェルニーのように指だけや根性で制圧してはいけません!

同じ種類のテクニックで曲が作られているとはいえ、極端に難しく危険な箇所がいくつか存在しますので、攻略法と併せて見て行きたいと思います。

(動画00:32-)

レ#がとても外れやすい場所ですよね。音程の縮まるシ-レ#の部分をいかに効率よく処理するかが鍵です。

攻略法その1「手首を時計回りに」
手首を時計回りに動かす場合は、小指の腹を黒鍵に対して斜めの角度で当てましょう。そうすることで鍵盤に触れる面積が増え、失敗する確率がグっと下がります。

攻略法その2「手首を反時計回りに」
意外だと思われるかもしれませんが、反時計回りでも優雅に演奏することが可能です。手をバタバタさせるのではなく、小指が親指をまたぐような動きをすることで、時計回りよりも完璧なレガート奏が可能になります。

(動画00:44-)

この上行形は手が大きいか、優れた柔軟性を会得しない限りは大きな壁として立ちはだかります。もちろん、本来の指使いに挑戦してゆっくり地道に練習することは重要なので是非頑張ってみてください!ご紹介した指使いは、どうしても手に負えない場合の最後の手段です。

右手が難しいこの曲ですが、一番大切にしたいのはハーモニーの動きです。右手と左手を1つの和音で弾き、ハーモニーの進行だけを美しく聴かせる練習もしてみてくださいね!

『第2番 op.10-2』最難度の1曲!3-4-5高速半音階の練習曲



ショパンの27曲ある練習曲の中でもop.25-6『三度のエチュード』、op.25-11『木枯らしのエチュード』に並び、3本の指の入る難曲です。ショパンが作曲した当時、「この曲を練習するなら側に外科医を抱えていなければならない」と云われたのは有名な話ですね。

右手が難しいのは一目で分かりますが、左手だけで軽快さを演出するのも忘れてはいけないポイントです!まずは左手から音楽を形作りましょう。


このように、強い拍と弱い拍を明確に演奏することで左手にも表情が出てきて音楽的になり、それが結果的に右手に余裕を与えることにもつながります!

さらに、右手の1,2指も加えた練習もしてみましょう。これでこの曲の骨格は出来上がります。

さて、肝心の右手ですが、和音を取り除いて3-4-5の指だけを使って音を揃える練習を徹底的にやりましょう!また、ツェルニーでも散々やらされて嫌になったリズム変換を加えた練習もたくさんやりましょう!

次に右手の2だけを加える。今度は1だけを加える。1と2の音を4分音符分保持して練習するなど、変化を加えて練習し続けることで徐々に弾けるようになりますよ。

『第3番 op.10-3』有名な「別れの曲」。歌い上げる練習曲



BGMや映画など、様々な場面で演奏される機会の多い有名曲です。ショパン自身、「これほど美しい旋律をこれまで書いたことがない!」と語っていたほどの美しい作品です。

とても美しいから弾いてみたい!と思ったら、意外に楽譜が音符で真っ黒になっていて尻込みされる場合もあるかと思います。見た目ほど技巧的には難しくないので安心してください。

この曲は主旋律、リズムの安定した伴奏、リズミカルな音型の3要素を伴っています。


この3つの要素をバラバラに、かつそれぞれを音楽的になるようによく練習しましょう。①は歌っているように聴かせ、③は遅いテンポの中でもリズミカルに、といった具合に、各部分のキャラクターを活き活きと描くことが大切です!

(動画02:36-)

このような細かいアーティキュレーションが書かれている部分は忠実に再現しましょう。高い音から低い音へ下がる場合は少しディミヌエンド、低い音から上がる場合には少しクレッシェンド、そしてスラーのおしまいの音にはアクセントを付けないといった基本を守ることが大切です!

『第4番 op.10-4』まるで嵐!様々な技巧を凝らした高速の練習曲



ピアノのコンサートやコンクールで見かけることが多いエチュードです。嵐のような曲想、派手な技巧と疾走感が魅力の曲ですが、テクニックの総まとめ的な要素があり、かなりハードルが高い曲だと言えます。

しかし、逆に言えば、1番や2番のほどの極端に難しい技巧は要求されないので、根気よく頑張っていけば弾けるようになります!


冒頭ですが、レ#からオクターヴのド#への移動が失敗しやすいポイントです。ここはソ#-ファ#-ミ-レ#と4つの音を弾きながらド#のオクターヴを弾きやすい最適ポジションへ手首と肘を移動させて乗り切りましょう。

この曲の厳しい雰囲気を保ち、演奏を容易にするためにも、8分音符の刻みを徹底的に磨き上げることが重要です。同じ形が右手にも出てくるので、8分音符だけを弾いて緊張感とテンポを維持する練習がオススメです!

(動画00:41-)

ここは右手が2声になって難しい部分ですが、左手で補助することで攻略できます。

(動画 00:41-先の動画の続き)

親指で音を保持しながら他の指で16分音符…これに見覚えはありませんか?第2番の練習方法でご紹介した方法が実際に演奏する形で登場しています!そもそもこの部分は第2番の応用と言えるテクニックを使用していますね。

直後には、今度は小指で4分音符を保持する部分がありますね。ここで難しいのは、親指がファ#を弾く時にポジションが不安定になってしまいやすいのです。なので、親指がベストなポジションへ行くように注意すれば安定させることが可能です!

(動画01:11-)

この箇所は特に困難というわけではありませんが、どうしても薬指のパワーが足りない場合はシ#を左手で弾きましょう。私はこの斬新な指使いをE.キーシンのライヴ録画を見て発見し、その演奏効果に衝撃を受けました!

(動画01:57-)

コーダのおしまいの部分ですが、ここも指が鍵盤を押しきれずにパワー負けしてしまうことが多い箇所です。両手とも、4つの音を全て同時に速く4回弾き、小指の音がとにかく際立つように強く練習しましょう。

さらにここでは4つの音のうち2音を親指が弾くので、無意識でも親指に振り回されていることが多く、その被害を一番受けているのは人差し指です!というわけで、人差し指の音量・ポジション・音色など、他と比べてどうなっているかチェックを欠かさないようにしましょう!

この曲はとても難しいですが、ステージでとても映えるカッコイイ曲です。ぜひマスターしましょう!

『第5番 op.10-5』タイトル通りの「黒鍵」練習曲


 
有名な「黒鍵のエチュード」です。タイトル通り、一曲を通して右手はほとんど黒鍵しか弾かない曲です。快活さ、華やかさ、軽やかさを際立たせるための練習曲だと言えます。

演奏効果が高いため、ぜひ皆さんのレパートリーに加えてほしい名作です!


さて、他の練習曲でも同じことが言えますが、この曲の核を握っているのは明らかに左手です!2-3小節目など、旗が上向きの8分音符はやや重め、旗が下向きの8分音符はやや軽めに弾くことを心がけましょう。これで軽さが演出できます。

練習の過程では、この旗の向きごとに抜粋して、右手と合わせて弾く練習も重要です!

テクニック的に難しい右手ですが、左に8分休符が書かれている部分に注意しましょう。左に音がない部分はテンポが走ってしまい易いのです。正確なテンポが刻めればそれほど難しい場所ではありませんよ!

(動画00:34-)

手の都合としては、音を4つで1ポジションなのに対し、リズム的には3つ若しくは6つで1つと捉える必要があります。そのため、リズムが犠牲になってしまい易い箇所です。かなりシビアに赤丸のポイントを意識して演奏することをオススメします!

(動画01:11-)

この箇所では、「jeu perlé(真珠が転がるように)」というタッチがとても良い効果を生み出します。手首を柔軟にし、指を手前に引くような動きで演奏します!

『第6番 op.10-6』旋律の練習曲



旋律を歌わせる練習曲で、手の技術的にはとても易しい作品です。


細かい16分音符は少し練習するだけで充分演奏可能だと思います。
 
これは細かい伴奏型の練習ではなく、息の長いメロディーを持続させるための作品です。なので、決して停滞することがないように注意して右手だけを聴かせる練習が不可欠です。

その上に左手のバスだけを加えて、最終的に伴奏型を加えることでテンポを安定させて演奏することができるようになります!

『第7番 op.10-7』トッカータ風、右手重音の練習曲



トッカータ的な性格の練習曲です。この曲は1-2の連打を起点にした重音という特殊なテクニックを使うため、この曲が苦手な人にとっては全曲中最も難しい曲にもなり得るようです。


私もこの練習曲には苦労させられましたが、指定されているよりも速いテンポで右の1-2のみと左手を徹底的に訓練することで乗り切りました。

また、右手の連打音を省いたメロディーが完全なレガートになるように、手首をできるだけ下げた位置で練習するのが有効です!

(動画00:25-)

この周辺では、左手の音がかなり跳躍するので、その移動時間が右手に影響を及ぼしてしまい易い部分です。手の都合ではなく、常に拍節感を意識するように気をつけましょう。

(動画01:18-)

最後の部分ですが、ここに到達した時には勢いもついているし、大体弾けているというケースが多いように思います。キャラクターとして、ここでは軽快さが求められますが、そのせいで音が抜けてしまうことが多いです。ですので、思っているより強めに弾くことが鍵になります!

『第8番 op.10-8』明快さ、軽快さの練習曲



ここまでの7曲の練習曲を見てきましたが、右手の練習曲の場合に音楽の進行をリードするのは左手、左手の練習曲の場合はその逆というスタイルで書かれています。


これは明らかに右手の技巧を鍛える練習曲ですが、左手は音楽の進行だけでなく旋律の役目も担っています。音楽的には左手が完全に主導権を握っていると言っていいでしょう。

基本的には同じ形の16分音符が続く曲なので、右手に関しては付点リズムによる練習を重ねることで充分攻略可能だと思います。

(動画01:38-)

右手に旋律的な要素が強く現れ、休む間も無く続いていくこの部分は、音の高さが頂点に達して切り返しになる部分で少しだけテンポを緩めて溜めるなどの工夫をすると弾きやすくなります!

(動画02:01-)

このようにユニゾンの最後のオクターヴ音程は、片手のオクターヴでとってしまう方が安全です。万が一ステージでテンポが上がり、左右がわずかにズレてしまう事態になっても、最後を片手で取っていれば帳尻を合わせることができます!

『第9番 op.10-9』仄暗い情熱を秘めた左手伴奏の練習曲


 
この曲はおそらく練習曲集の中で最も易しい作品の一つです。左手を柔軟にして、指一本一本で弾いていくのではなく、手首の動きを上手くコントロールして演奏することが重要です。

(動画00:51-)

このように5:6の数になっている部分は、速いテンポになると多少ルーズに弾くことが許されますが、一度はどこで音符を当てはめるか丁寧に確認してください。

最小公倍数の30等分に書き直して見ると、こういう数が合わない組み合わせの練習がしやすくなりますよ!高度な作品ではこういう書き方が多くなってくるので、一つの練習として取り組んでいただきたいです。

(動画01:41-)

pppとleggierissimoが組み合わされているこの部分は、極めて繊細な音色が要求されているため、そこに気を取られるあまり、拍節感を失ってしまいがちです。ここでも2拍子の意識をしっかり保ちましょう。

『第10番 op.10-10』華やかなオクターヴと変化の練習曲



スラーの位置、アクセントの位置に変化があることで多様なキャラクターを描き出している練習曲です。個人的には最も華やかな曲だと思っていて、アンコール・ピースとして持っていて損はないはずです!
  

冒頭のスラーのかかり方に注意して弾きましょう。拍子感を意識して!

(動画00:12-)

このようにすぐにアーティキュレーションが変化します。この箇所では、手首の柔軟性と親指を起点にした動きが重要となります。小さい音で、親指だけで軽やかに弾く練習をしましょう!

(動画00:17-)

全ての音がスタッカートの、最も軽やかに演奏するべき箇所です。ややスケルツァンド的な性格が見られますね!ここは、全体として鍵盤を手前に引っ掻くような動作で指を速く動かして演奏しましょう。

(動画00:23-)

ここからは転調しているので、左手のバスが白鍵になり難易度がグッと上がります。しかし、バスの音色を揃えるために、5の指はバスのみに使用することをオススメします!

(動画01:04-)

他のエチュードでも何度も注意喚起したことではありますが、ここでも右手の都合に振り回されず、左手が音楽の主導権を握っていることを忘れないでください。左手をリズミカルに!

『第11番 op.10-11』アルペジオが生み出す優美な響きの練習曲



いよいよ残すところあと2曲。Op.10の練習曲集も終わりが見えてまいりました。
 

第1番とは全く異なる種類のアルペジオ練習曲です。音楽を作るための練習としては、第3番「別れの曲」と同様、自由な指使いでメロディーだけでよく歌う練習が有効かと思います。

音が似ている箇所でもスラーのかかり方が微妙に異なっていたりするので、メロディーだけを練習することで間違った譜読みを回避できます。
 
テクニッック的にはとにかく手首を柔軟に保つことを目標とした練習曲です。このようなテクニックはF.リストの作品でも頻出し、またとても難しいので、ここで攻略しておくととても役に立ちます!

『第12番 op.10-12』 祖国への想いを込めた「革命のエチュード」。左手高速パッセージの練習曲



最後の1曲は有名な「革命のエチュード」です。愛国心の強かったショパンですが、自分がいない時に祖国で起こった革命が失敗したことを知り、そのショックを音楽で表現したのです。


テクニック的には完全に左手のための練習で、音楽的な主導権もほぼ左が握っていると言って良いと思います。

このように有名すぎる曲では、しばしば耳で覚えてしまっているために、譜読みが疎かになっていても気づかないケースがよく見られます。

なので、まずはスフォルツァンドとアクセントの音だけで音楽を推し進める練習をして、拍節感を確かめましょう。

(動画00:17-)

ここで休符の役割について触れておきたいと思います。このような場合、赤丸の8分休符は「息継ぎ」、そして青丸の16分休符は次の音へ向かう勢いを付ける役割があります。

これはほんの一例ですが、あらゆる作品を譜読みする際に、休符の細かな役割まで理解すると、より深く作品を理解することができますよ!(判断しきれない箇所があったとしても、まずは自分で考えることに意味があります!)

(動画00:52-)

ここからの左手は非常に難しく、音がかなり混濁しやすくなります。ポイントはゆっくりしたテンポで、最適なポジションを探しながら練習することです。マルカートな音が求められますが、決して指を高く上げずに、指先のテクニックを活用して演奏しましょう!


(動画01:30-)(動画01:34-)


細かいことですが、リズム的には全く同じでも、書き方を変えている場合にはその意味を考えることが大切です。

さっきご説明した休符の扱いと同じ考えでいくと、後者の16分休符には、次の音へ向かう勢いが秘められていることが分かります。

(動画02:19-)

つい見落としてしまうのが、赤丸をつけた箇所のスタッカートです。スモルツァンドの後にさらにソット・ヴォーチェが書かれている部分で、音が一瞬だけ際立ってすぐに消え去るイメージです。

こういう場所には、音楽的なセンスがハッキリ現れます!腕の見せ所です!このスタッカート1音だけの響きを追求する練習をぜひやって見てください!

弾き方のまとめと難易度順

ショパンの練習曲op.10の全12曲を解説してきましたが、全曲を通じてのテーマは「柔軟性」と「詩的な歌心」だったように思います。もうひとつ加えるなら「左手が音楽を作る」ということです。あらゆるショパン作品を演奏する上で、左手が特に重要ということはよく知られていますが、今回はそのことを再認識していただけたかと思います。

私たちピアニストにとって、ショパンの練習曲は最も難しく、最も愛奏すべき作品の一つです!いつの日かマスターすべく、一緒に頑張っていきましょう!

最後に、「エチュードop.10」全曲の難易度順を5段階で提案させていただきます。

☆      op.10-9 ヘ短調

☆☆     op.10-6 変ホ短調

☆☆☆    op.10-3 ホ長調「別れの曲」
       op.10-8 ヘ長調
       op.10-10 変イ長調
       op.10-11 変ホ長調
       op.10-12 ハ短調「革命のエチュード」

☆☆☆☆   op.10-1 ハ長調
       op.10-4 嬰ハ短調
       op.10-5 変ト長調「黒鍵のエチュード」

☆☆☆☆☆  op.10-2 イ短調
       op.10-7 ハ長調


「エチュードOp.10」の無料楽譜

ショパン「エチュード」全曲の弾き方と難易度順!の記事一覧
  1. 難易度最上級!ショパン『エチュードop.10』全曲の弾き方と難易度順! 2017年9月10日 ←閲覧中の記事
  2. 難易度最上級!ショパン『エチュードop.25』全曲の弾き方と難易度順! 2017年10月8日


 ピアノ曲の記事一覧