平井康三郎『幻想曲「さくらさくら」』の難易度と華麗な弾き方を解説
ときには明るい春の陽射しの中を、優雅に咲き誇る桜。
ときには静寂な月明かりに照らされながら、見事に輝く夜桜。
さらには、はかなく散っていく桜。

そんな多彩な桜の風情を、華やかなピアノ曲として仕上げられたものが、『幻想曲「さくらさくら」』。
日本古謡『さくらさくら』をモチーフにして、平井 康三郎氏によって作曲されました。

発表会で弾く人も多く、耳にしたら「一度は弾いてみたい!」と思える名曲です。
ピアノひとつで、琴や笛、和太鼓を華麗に表現させる、変化に富んだ幻想的な曲。
今回はこの『幻想曲「さくらさくら」』を取り上げ、難易度と弾き方をご紹介したいと思います。



楽譜はピアノピースが便利です。


■ 目次

平井 康三郎氏について

平井 康三郎氏について
『幻想曲「さくらさくら」』を作曲した平井 康三郎氏は、1910年、8人兄弟の三男として高知県で生まれました。
幼い頃から邦楽や伝統芸能などに囲まれた環境で育ち、家庭内にはバイオリンやオルガンもあったそうです。
1929年に東京音楽学校(現在の東京芸術大学音楽学部)に入学。バイオリンを学ぶと同時に、この頃から声楽曲を中心として創作活動も開始しました。

卒業後は研究科の作曲課程に進学。NHK専属の作編曲家であり指揮者、合唱連盟理事、日本音楽著作権協会理事、大阪音楽大学教授などを歴任しています。

作品は主に声楽曲が知られていますが、邦楽器のための作品にも取り組み、その先駆者であるとされています。

『幻想曲「さくらさくら」』の難易度は?

『幻想曲「さくらさくら」』の難易度は?
全音ピアノピースに記載されているこの曲の難易度は、中級のCとなっています。ツェルニーで言えば、30番後半あたりが弾ければマスター出来るのではないかと思います。

ただし技術的には中級であっても、冒頭でも触れたように、ピアノという楽器ひとつで多彩な楽器を表現しなければならないため、高度な表現力もかなり重要になってくる曲だと感じます。

そして何より、音が多い!
16分音符や32分音符がそこらじゅうに出てきます。
当たり前のことですが、譜読みの段階で、1音1音しっかり音を見ていかなければいけません。

また、パッと楽譜を見ただけではあまりわからないのですが、実際に鍵盤で弾いてみると手の小さな人には少々難易度が高いようにも思えます。
私自身が目一杯指を広げてやっとオクターブが届くほどの小さな手なので、指を広げて弾かなければいけない和音や旋律の部分が、全体を通して意外と多いという印象です。

そのため、これは手の大きな人にも共通して言えることですが、自分なりの弾きやすい運指を見つけるなり、瞬時に指を広げて的確にその音を押さえられるようにするなり、繰り返し繰り返し練習していく必要があります。

・・・と、ビビらせてしまいましたが、反復練習をすることで必ず弾けるようになるので、諦めないでくださいね!

『幻想曲「さくらさくら」』の弾き方を解説

『幻想曲「さくらさくら」』の弾き方を解説

幻想的な歌い出し:散りゆく桜の花びら

最初に8小節の序奏から華麗な「幻想曲」が始まります。(動画冒頭~0:27)
たった8小節の中に、pからsfffまでの強弱の変化があり、リズムは3連符から16分音符へと変化していきます。

冒頭に「Elegante(優美に)」とあるように、優雅で上品な雰囲気を出すように弾きましょう。

3小節目には「Allargando(アラルガンド)」という表記があります。意味は「だんだんと強くしながら遅く」で、リタルダンドとクレシェンドを組み合わせたように弾くということを意識しておきましょう。

ひらひらと散っていく桜の花びら
私はこの序奏部分を、はかなくも美しく、ひらひらと散っていく桜の花びらをイメージしながら弾きます。

「いきなり散るんかい!」

と思われるかもしれませんが、私はこの曲に対して、ひらひらと散っていく桜が、「かつてはこんな風に咲き誇っていたんだぞ!」と回想しているようなイメージを持っています。

曲に対してどんなイメージを持つかは自由なので、何か具体的な様子を想像してみてください。
それによって表現の幅がグッと広がりますよ!

桜の回想シーン:咲き誇っていたかつての姿

箏(あるいは琴)
9小節目からは、なじみ深い『さくらさくら』の旋律が紡がれます。(動画0:28~)
「Andante sostenuto」は、「アンダンテよりも少し遅めに」という意味です。そして「cantabile」は「歌うように」という意味。

ここからは『さくらさくら』の旋律を歌いながら、のびやかに演奏してください。
私は原曲の雰囲気を感じさせるために、ここからは箏(あるいは琴)の音色をイメージしています。
明るい春の陽射しを浴びながら咲く、満開の桜を想像して。


笛の音色
そして、23小節目の「Più mosso」からは、表情が変わります。(動画1:07~)
ここから私は、笛の音色を思い浮かべます。

右手の動きが少し速くなりますが、動きだけに集中せず、アクセントの付いている音をしっかりと意識して、「さ~く~ら~」と歌ってください。


29小節目から、また表情が変わります。(動画1:20~)
「Largamente」は「よりゆっくりと、豊かに」という意味なので、どっしりとした雰囲気を出してみましょう。


33小節目は右手と左手が同じ動きをします。(動画1:35~)
「Rapidamente(速く)」とあるように、転ばないように気を付けながら、高音から勢いよく下降してきます。
私は手が小さいので、右手は「5421 5421 5421 5321」で弾きますが、「5421 4321 5421 4321」と弾く方法も、自然な運指かなと思います。


太鼓
35小節目の「Tempo Ⅰ」からは、太鼓が現れます。(動画1:42~)
スタッカートの付いた音は鍵盤を下まで押さえ込まずに、軽快なリズムを刻んでください。


幻想的な夜桜
47小節目からは再び「さ~く~ら~」と歌い始めます。(動画2:11~)
それまでの旋律とは違い、壮大な雰囲気を出しながら弾きましょう。

私はここでは、幻想的な夜桜をイメージします。
転調してから歌い始めるこの旋律は、それまでの「さくら」の旋律とは違い、明るい感じというよりは妖艶な感じがするからです。


51小節目からは左手に旋律が引き継がれ、ますます盛り上がりを見せます。(動画2:20~)
ここでの右手は脇役!ここでの右手は脇役!!・・・以下同文。


桜の花びら
そして57小節目から再び右手に旋律が戻ってくるのですが、60小節目の頂点に向けてさらに勢いを増していきましょう。(動画2:33~2:43)
華麗に咲き誇っていたときを思い出しながら、今にも散ってしまいそうな桜の花びらが最後の力を振りしぼっているように、力強く!
ここのffで出し切ってください!

終曲:回想を終えて、再び散りゆく桜

散りゆく桜
61小節目からは、現在散りゆく桜の花びらの情景に戻ります。(動画2:44~)
咲き誇っていたかつての姿の回想を終え、ひらひらと散っていく様子を表現しましょう。

そして最後のpppで、静かにそれまでの余韻を響かせながら終曲します。

弾き方のポイントを復習しよう

『幻想曲「さくらさくら」』の弾き方についてご紹介しました。

私のオススメする弾き方のポイントは、

  • 自分なりに情景をイメージしてみる
  • どんな楽器を表現しているのかを意識して弾く
  • おなじみの「さくら」の旋律をしっかり歌わせる

の3つです。

じっくりと譜読みと片手練習を繰り返した上でこれらのポイントを押さえ、幻想的な曲に仕上げてくださいね!



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