ショパンの作品中、最も内容の充実した作品と謳われる名曲中の名曲です。一見ノクターンのような穏やかさを持ちますが、変奏に使用されている技術がどれも難しく、コーダは特にピアニストを悩ませる難題となっています。
ショパンの作品から、《バラード第4番》op.52に匹敵するだけの技術・内容とともに充実している傑作を挙げるならば、《幻想曲》op.49、《舟歌》op.60、《ピアノ・ソナタ第3番》op.58、《幻想ポロネーズ》op.61の4曲です。全曲をご存知の方でしたら、これらがいかに偉大な作品群かご理解いただけると思います。
いずれもショパンの作品の中では演奏時間が長い方で、やや敷居の高い作品であることは否めません。しかし、そこで描かれているショパンの深遠な世界を、一人でも多くの方に知っていただきたいと思います。
序奏部分
この最初の音をどのようなイメージで弾き始めるかを考えるだけでも悩んでしまいます。透明な音色、遠くから聞こえてくるような響き、何か大切なことを語り出すためのきっかけ…など人によって感じ方は様々です。
技術的には、最初のSoのオクターヴにアクセントが付かず、全体としてソプラノの音だけが美しく際立つことが理想です。2小節目にクレッシェンドとディミヌエンドが記号で書かれていますが、この場合はフレーズの揺れ動きを表しています。つまり、単に音量を変化させるという話ではなく、少し伸び縮みがあり、より歌心を感じさせる部分ということです。
主題
(動画:先の譜例の続き)まるで「語り」のような旋律がこの曲の主題です。バラード第4番はこの主題を変奏していくスタイルで書かれています。まず重要なのは伴奏なしで旋律だけを音楽的に歌わせることです。
ショパン作品で特に重要な要素として、左手の扱いが挙げられます。ショパン自身の演奏を聴いた人たちの記録によると、彼は旋律を自由なルバートで演奏するが、左手の伴奏は非常に規則正しく弾いていたようなのです。
和音のバランス感覚が要求される作品のため、見た目以上に左手が難しいと言えるでしょう。ポジションの移動を徹底的に練習し、一切の弾きにくさを感じないレベルまで弾き込むことが大切です。
(動画2:18)
pp部分の左手のレガートではペダルを使用しますが、ノン・ペダルでどこまでレガートに聴かせることができるかが完成度の鍵を握っています。親指の移動をスムーズにする練習と、バスの指返しを最小の動きでこなせるように練習しましょう。
(動画3:27)
ここからはかなり音が混み入ってくるので、まずはメロディーを浮き立たせることが重要です。手のポジションが微妙にですが高頻度で入れ替わっていくので、いかにスムーズに動けるポジションを覚えられるかが鍵と言えます。
各声部を分けて練習することは絶対に必要です。混み入った難しい部分ほど、個性の発揮できる部分ですので、自分だけの特別な表現を目指してください!ノンペダルで限りなくレガートに近づけて弾くことができれば技術的なゴールは見えてきます。
(動画3:58)
左のオクターヴをスムーズかつ自由に弾けるようにしておくと特に問題はない箇所です。問題は音数の多さによって響きがうるさくなりやすいことです。ペダルも必須の部分なので、このオクターヴはレッジェーロで弾くくらいでちょうどいいでしょう。
(動画4:07)
この箇所は力んでしまう人がとても多いです。和音を外して、上の音だけで美しいレガートで弾いて練習しましょう。それによってポジションが安定すれば自由に弾けます。また、左手が16分休符の後から出てくるので、リズミカルな要素があることを忘れないでください。
(動画5:45)
6度音程の速いパッセージはとても厄介です。ショパンのエチュードop.25-8、ブラームスの「パガニーニ変奏曲」op.35の第1変奏曲などが代表的な例です。
6度のコツは、下の音をいかに軽く弾くかにあります。特に親指が軽快に動かせるように工夫しましょう。親指は頑丈な指ですが、不適切なポジションにいる場合最も動かしにくい指です。親指のためにポジションを上手くとって、薬指、小指の旋律を浮き立たせましょう。テンポが速くなり過ぎないことも大切です。
(動画6:53)
細かい音が書かれていると弾き飛ばしてしまいがちですが、ここでは左右のハーモニーを味わいながら弾き進めましょう。極めて繊細な部分です。特に左手が疎かになりやすいのでppでよく練習しましょう。
(動画8:04)
ノクターン第1番op.9-1などの左手を彷彿とさせるような伴奏形です。左右の音数がここまで合わない場合はかなり自由に弾くことが許されています。しかし、左手の音程がかなり離れているせいで音が揃わなかったり、リズム的にも流れを損なってしまいがちです。
左手は徹底的な片手練習でレガートになる練習をしましょう。脱力とポジションの確保が重要な課題だと思います。また右手もレガートですが、音の粒立ちがよく聞こえるようにしましょう。なんとなくフワっと浮かせるような演奏も聴きますが、それではいつまでたっても安定しません。
(動画10:05)
この高度な作品をまとめ上げる重要な要素はテンポ・コントロールだと言えます。a tempoが書かれているのは注目すべきことで、ppの部分とfの部分のテンポは同じで、これらのテンポは冒頭の主題のテンポと同じはずなのです。
多くの演奏で冒頭は遅く、長い音符はさらに遅く、コーダだけ飛びっきり速い…というケースを耳にしますが、あれは完全な誤りです。自分のために勝手に弾く分には自由ですが、ショパンの音楽を奏でたいのであれば忠実に守るべきですし、全体に安定するのでとても弾きやすくなると思います。
この極めて難しいコーダを弾くには、すべての音符をゆっくり鳴らしきっていく練習が必要です。音が潰れてしまいやすいので、クリアな音質がキープできるように根気強くさらいましょう。
3度の上行は誰しもが苦労する部分です。力まず完璧に弾けるように練習することは必須ですが、ここは事故が起こるケースが多いので、多少ミスがあってもそのまま弾き進められるように体に覚え込ませることも重要だと思います。あとは6度と同様に、親指を軽く弾き、良いポジションへ移動することを徹底しましょう。
(動画11:21)
3連の連続になっている下降音型ですが、手の都合で「Re-Do-Ra-Fa」「Si-Ra-Fa-Do」という4つずつの拍節感になってしまう場合がありますが、必ず3つずつに聴こえるように練習しましょう。そうしないと、最後の最後で帳尻合わせをすることになってしまい、収まりが悪くなるのです。
まとめ
ショパンの最高傑作だけあって、一筋縄ではいかない難曲です。要点を挙げていきましたが、人によっては苦戦する箇所がまだまだ残っているかと思います。どの箇所を練習するときも、手のポジションとレガートに留意してください。「バラード第4番」の楽譜
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