ショパンの『ワルツ第7番op64-2』、どこか物憂げだけど優雅な曲ですよね。ちょっとお洒落なバーとかで流れていそうな雰囲気です。「この曲が弾けたら格好良いなぁ」と憧れておられる方も多いのでは?
でもこの曲、楽譜をパッと見た段階で「何だか難しそう」という印象を持たれる方もいらっしゃると思います。でも大丈夫。しっかりといくつかのコツを踏まえて練習すればそれほど難曲ではないのです。挑戦しようかどうかとお悩みの方は必見です!
こんにちは、ピアノ弾きのもぐらと申します。「え、もぐら?」ととっさに思われた方々、そうです、もぐらです。畑の地中にいるのが大好きですが、ピアノを弾くのも同じくらい大好きなもぐらなのです。
世の中にはたくさんの生き物が暮らしておりますが、もぐらだろうが人間だろうが何だろうが、音楽を愛する心に生態の境界線なんて無いのだと本気で信じながら、日々楽しくピアノを教えております。
■ 目次
調の理解があれば難易度はそれほど高くない!
気になる難易度ですが、だいたいツェルニー30番程度を練習されている方であれば、充分挑戦して大丈夫かと思います。結論から申しますと、ものすごく難しいというわけではないです。
ただ、じゃあツェルニー30番だけがきちんと弾けるから大丈夫かと言われると、ちょっとそこは大丈夫とは言い切れません。というのは、調をしっかり理解できていないとこの曲は練習するのに少し苦労するからです。
ですので、どちらかと言うとツェルニー30番よりも、ハノンの練習曲集の音階練習がしっかりできているかどうかだと思います。
音階練習と申しましたがこれはあくまでも例えで、調を勉強できるものであればアルペジオの練習などでも構いません。とにかくこの曲を弾くには、まずは調を理解できていることが重要となってきます。
ちなみにこんなことを偉そうに語っておりますが、私自身がまさに調を理解しないままこの曲に挑んでしまった一人なのです。当然、マスターするまで大変な道のりでした。せめてこの曲に出てくる嬰ハ短調と変二長調くらいは前もって理解しておけば、あんなに効率の悪い練習にはならなかったはずです。
とにかくツェルニー30番プラス、調の理解もしっかりできていれば充分マスターできるということです。頑張っていきましょう。
全体的に繰り返しが多い構成になっている!
この曲はわりと場面の繰り返しが多く見られるので、構成としてはわかりやすいかと思います。場面ごとの曲の変化に注目しましょう。
まずはこちらの動画を聴いてみてください。
この曲をご説明するにあたって、以下の通り曲をいくつかのセクションに分けてみました。セクションごとにご説明していきますね。
セクションA(最初~0:43)
セクションB(0:44~1:07)
セクションC(1:07~1:48)
セクションB(1:48~2:11)
セクションA(2:11~2:53)
セクションB(2:53~終わり)
※カッコ内の時間は動画に沿った時間です。動画をよく視聴して曲の構成をしっかり頭に入れておくと練習しやすいかと思います。
上記の動画でもおわかりになるかと思いますが、この曲は最初の3つの場面、セクションA、B、Cだけ弾ければ、あとはセクションAとBの繰り返しですね。
ということは、ページの中のだいたい半分くらいをマスターしてしまえば、全部弾けてしまうということなのです。そう考えてみると、少し気が楽になりますよね!
では、さっそく各セクションについてご説明していきますね。
もぐら式!弾き方のコツ
☆セクションAの弾き方 ~臨時記号に気をつけよう~
いきなりですが、この曲で一番難解なのはセクションAだと私は思っております。「マジかよ~」と思われた方々、大丈夫です。最初に難しいところをクリアしておけばあとは楽だと考えれば頑張れます。
※「Tempo giusto」の意味は「正確な速度で」
「このなんかXみたいな記号って何?」と思いますよね。それは「ダブル♯」という臨時記号です。♯は「半音上げる」という意味ですよね。その♯がダブルになるので「ダブル♯」は「さらにもう一つ半音上げる」という意味です。つまりこの「ファのダブル♯」というのは鍵盤上ではソの音ということになります。
「じゃあソのナチュラルって書けばいいじゃん!」と思わず言いたくなってしまいますが、そこはグッとこらえましょう。私もグッとこらえてます。
で、その先にある、ナチュラルと♯が一緒になったみたいな記号は「ナチュラルでダブル♯を打ち消した上でこの音を半音上げる」という意味で、つまりこの音は普通にファの♯を弾くわけです。めちゃくちゃややこしいですよね。でもグッとこらえましょう。
ちなみに私は先ほど調を理解していなかったと申しましたが、その状態で挑戦した結果、いきなりこの冒頭の片手練習で一度挫折しております。
この曲は嬰ハ短調で始まりますが、そもそも嬰ハ短調って白鍵と黒鍵が入り交じっていて本当に弾くのが大変です。それにプラスしていろいろな臨時記号が出てくるので、調の理解がない状態で挑むというのはかなり無理があると私は思います。
挫折という切ない事態に陥らないためにも、調の理解という下準備は練習には外せない要素です。調をしっかり理解して、ゆっくりあせらず片手練習をしていきましょう。
このような部分では、主旋律となるフレーズを際立たせることが大事なのですが、それにはまず、どこが主旋律なのかを考えなければなりません。(0:12~)
でもこの譜面はわかりやすいです。音符に付いている棒が上向きになっている音符と下向きになっている音符とがありますが、棒が上向きのほうが主旋律です。
この部分の主旋律を際立たせるコツは、主旋律の音量を上げることよりも、棒が下向きの音符を控えめに弾くことに意識を向けたほうがいいかと思います。
というのも、主旋律は確かに大事なのですが、際立たせようとしてあまりにも主旋律に注目しすぎると、今度は全体的にうるさくなってしまうのです。音をよく聴いて、全体的な音のバランスをつかむことが大事です。
そして、左手は1拍目の音に重きをおきましょう。2拍目と3拍目はあまり音を大きくしないほうがすっきりとした響きになります。
ある程度両手が弾けてきたら今度はペダルを入れるのですが、このセクションAではうっかり踏み方を間違えると、不協和音の目立つ耳障りな響きになってしまいますので、ペダルを入れるときには、なるべく譜面に忠実に入れることをおすすめします。
☆セクションBの弾き方 ~ワルツのリズムを意識しよう~
さて、セクションBはセクションAよりもほんの少し軽快な雰囲気になりましたね。そして、ワルツ特有の雰囲気も感じられます。(0:44~)※「Piu mosso」の意味は「それまでより速く」
セクションBはこうして譜面を見てみると、各小節に似たような形をしたフレーズが出てくることがおわかりになるかと思います。この形のまま1小節ごとに、フレーズはだんだん音が低いほうへと下がっていきます。
この部分はスラー(意味:なめらかに弾く)を意識して、フレーズが途中で途切れないように弾きましょう。そのためには指の運びに注意することが大事です。
ここでは下がった音が今度はまた元の高さに上がるので、ちょっと抑揚をつけてみるのも面白いかもしれませんね。(0:49~)
この部分、私はかなり苦手です。うっかりしていると指がもつれてしまいます。指の運びの面ではなかなか弾きづらい部分なので、ここは念入りに片手練習をしましょう。(0:53~)
☆セクションCの弾き方 ~優雅にのびのびと弾こう~
それまで物憂げだった雰囲気が、セクションCでは打って変わって明るい雰囲気になります。そして調も嬰ハ短調だったものが、セクションCでは変二長調に変わります。※「Piu lento」の意味は「いっそう遅く」
このような場面ではスラーとタイ(意味:音をつなげる)に注目し、フレーズのどの辺りへ向けて盛り上げるべきかを、譜面を見ながら弾く前によく考えておきましょう。
そしてセクションCで大事なことは、ワルツのリズムを忘れてしまわないことです。というのもセクションCでは小節をまたいでの、やや変則的とも言えるタイが多いからです。
ここでワルツのリズムである3拍子の感覚を見失ってしまうと、いつの間にか自分が何を弾いているのかがわからなくなり、そうすると曲全体にメリハリがなくなってしまいます。
そして、私はこのセクションCを弾くとき、けっこう抑揚をつけたくなりますが、あまりにも抑揚をあれもこれもとつけすぎてしまうと旋律の流れが途中で止まってしまい、そうすると全体的にテンポが不安定になってしまいます。
まあ、このセクションCの弾き方やそれを聴いたときの感じ方は十人十色かもしれません。個性が一番表れる部分なので、けっしてどの抑揚のつけ方が正解とか不正解とかはありません。ですが曲の流れが滞ってしまうと、やはりどこか違和感が生じます。抑揚は適度につけましょうね。
この8連符はあまり難しく考えず、多少ここでテンポが落ちてもそれほど問題はないかと私は思いますが、あくまでこれも私個人の感想です。中には「いや、違うんだ」と思われる方もいらっしゃるかと思います。ここもなかなかに弾く人の個性が表れるところですね。(1:31~)
☆残りのセクションの弾き方 ~セクションAとBの繰り返し~
さて、セクションCまでのご説明が終わりました。お疲れ様です。残りの数ページはセクションA、Bの繰り返しです。順番は、セクションB(1:48~)→セクションA(2:11~)→セクションB(2:53~)となります。もうマスターできたようなものですね。
ただ、ここで1つだけ、曲の最後の部分についてです。
曲の最後というのは、つまりはセクションBの最後のことですが、この部分は特に右手は音を高く持っていきますよね。
そのときにこの部分を、曲の途中でのセクションBと同じように弾いてしまうと、何だか味気ない終わり方と言うか、とにかく淡々としすぎていて曲が終わっていく雰囲気がどうしても感じられなくなります。
私はいつも最後にこの部分で悩みます。誰かにこの曲を聴いてもらうとき、曲が終わると「あれ? 今終わったの?」と言われてしまうことがあるのです。
まあこのワルツ第7番の終わり方については、曲の構成上どうしても仕方がない部分もありますが、どうも私は納得がいきません。
どうしたらここを終わりっぽく聴かせることができるのか。まだまだ私も研究中ですが、今のところはなるべくちょっと大げさにリタルタンド(意味:だんだん遅く)を入れて、曲を静かに締めくくるようにしています。
でもこれがすべてではないので、いろいろ試行錯誤しながら「こうやって弾くと良い感じ!」と納得のいくような表現方法を自分なりに探ってみてくださいね。
要点を確認!全体的な弾き方のコツのまとめ
さて、ここまでご説明してきましたが、いかがでしたか?
ここでショパン『ワルツ第7番op64-2』の弾き方のコツを以下にまとめました。
1.調(特に嬰ハ短調と変二長調について)をあらかじめしっかりと理解しておく(特にセクションA、セクションC)
2.臨時記号を譜読みの段階でしっかりおさえ、片手練習を慎重に行う(特にセクションA、セクションB)
3.ペダルは楽譜に忠実に入れ、響きが濁らないようにする(特にセクションA)
4.中盤は長めのタイやスラーに惑わされず、ワルツのリズムを意識しながら弾く(特にセクションC)
以上の4つのコツを踏まえて、丁寧に粘り強く練習していきましょう。
最初のほうでもちらっと述べましたが、私は一度この曲で挫折しています。それは今思えば、コツもおさえずやみくもに練習していたせいでした。
ですが、譜読みや調の理解などの下準備をしっかりと行い、コツを踏まえて真剣にピアノに向かえば、挫折なんてものは簡単に回避できると私は思っています。
努力は人を裏切らないのです。
というわけで、練習頑張ってくださいね! 畑の地中から毎日応援してます。
by ピアノ弾きのもぐら
「ワルツ第7番Op.64-2」の無料楽譜
- IMSLP(楽譜リンク)
本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1894年にシャーマー社から出版されたパブリックドメインの楽譜です。「ワルツOp.64」全3曲が収録されており、Op.64-2は5ページ目からになります。
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