モーツアルトの音楽はやわらかく、シンプルで、優しげ。でもせっかく弾くなら、もっと心揺さぶられるような曲を弾きたいな、古典ってちょっとつまらないな、と思ってしまうピアノ弾きさん、お気持ちよく分かります!
今回はそんなピアノ弾きさんと一緒に、モーツアルトのソナタの魅力について考えてみたいと思います。

■ 目次

モーツアルトピアノソナタの難易度

ブルグミュラーの練習曲のあと、ツェルニーを併用しながらソナチネをいくつかやってみて、まじめな生徒さんだな~と先生に思われると、だいたい次に勧められるのが「ソナタ」ではないでしょうか。

けれども古典ソナタは、気持ちを込めて歌おうとすると、先生には「やりすぎてはだめ」と言われてしまうし、なんだか伴奏も単調です…。不遜にもこどものころのわたしは「たぶん一生、好きにも嫌いにもならないのがモーツアルトのピアノソナタ」だと思っていたんです。

技術的には大丈夫でも、魅力がよく分からない作品を自分のものにするのって、難易度が高いことですよね。

古典の弾き方の効果ってなんだろう?

わたしのピアノの先生が教えてくれたことは次のことでした。

  • メロディーは、副旋律よりもよく聴こえるように。
  • 上行系はクレッシェンド、下行系はディミニエンドに弾く。
  • フレーズは丁寧にまとめる。スラーの後の音は小さくしぼる。
  • スタッカートは切りすぎない。
  • 何の指示もないところはスラーやスタッカートをつけないで弾く。
  • そして歌いすぎてはいけません。

きっと「うんうん、わたしもそう言われてる!言われたことがある!」という方は多いのではないでしょうか。
しかし、幼かったわたしには、題名のついたかわいい曲や大人っぽい素敵な曲とは違って「そう弾くと、どういう効果が生まれるのか」が、ピンとこなかったのです。

ところが、ずっと大人になってから、先生が昔教えてくれたことと、音のイメージが偶然につながったのです。
とても個人的な話になるのですが、お話しさせてくださいね。

感情になる前の…


モーツアルトの音楽は、愛らしい素直な音が似合う、と言われますが、これは本当にその通りです!わたしは毎朝ちいさな子どもたちと関わっているのですが、3歳くらいの子どもたちの笑顔と、一斉に湧いた笑い声は、本当に「モーツアルトの音」みたいなんです。「花が咲いたよう」とはまさにこのことですね。

ですが、もしかしたら、もっと生まれたてのあかちゃんにヒントがあるのではないかなと思うことがありました。

さまざまなきもちの素

生まれたてのあかちゃんは、主に「快」と「不快」の感情しかないと言われていて、命に関わる「不快」を表現するために、大きく泣いて周りに知らせることは、生まれた時からできるのです。
泣いているとき以外は、だいたい「快」の部類の情緒を感じているのですが、可愛らしくきゃっきゃ♪と笑うようになるまでには、じつはけっこう時間がかかるのです。


生後3か月くらいまでは、人はそんなに笑いません。
ほんのり微笑んでいるあかちゃんの、うっすらとした「快」の気持ちのなかには、嬉しい気持ちの素、もの悲しい気持ちの素、興奮の素、安らぎの素、などなどさまざまな感情の素が、水彩絵の具をといたように混じりあいながら、やわらかい体に包まれているのですね。

生後半年を過ぎたころから、同じようにあやしていても、以前とは違うはっきりした意志を感じる目で、こちらを見てくれるようになります。笑ったり、欲しがったり、手を伸ばしたり。それで、生後3か月のころの、嬉しみの素、興奮の素、安らぎの素みたいな情緒が、こんな風な感情に育ったんだなあ!と思ったのです。


モーツアルトのフレーズには、自覚できないほど自然に、嬉しみの次の瞬間もの哀しかったり、興奮と安らぎが同時に含まれていたりして、感情がはっきり分化し人格のように統合される前の、「情緒」を感じるような気がするのです。

さまざまな経験からくる複雑な感情というよりも、おとなもこどもも、生まれた時からみんなが持っている、情緒の素のようなものが流れているんじゃないかな?と思ったのです。


嬉しみや高まりを感じるのが、高音に向かう音です。
得てして、そこには興奮が加わるので、少し大きな音になるかもしれません。

少しの悲しみや落ち着きを感じるのが、低音に置かれていく音かもしれないです。
それらは、沈静と馴染むので、少し小さな音になるかもしれません。

短いスラーには興奮の素と鎮静の素が入っていて、できるだけ2つの音の性質の差を出すと、興奮も鎮静も際立ちます。

スタッカートは、まだそれほど鋭い個人的な感情には結びついていない様子に感じます。
スラーもスタッカートもついていない音は、これからどうなるかわからない優しい刺激なので、音の素材だけを使いたいです。

繰り返すメロディは、これらの「情緒の素」を少しだけ成長させたいです。複雑な人の感情にちょっとだけ近づけてもいいかもしれない。

と、わたしは予想もつかないタイミングで、ピアノの先生が教えてくれた古典演奏の基礎と「音の情緒」みたいなもののイメージが結びついたのでした。

もう一度弾いてほしい曲

ソナタに挑戦できるくらいピアノを弾けるようになった時にこそ、ぜひもう一度、古典の原則を忠実に守って弾いてみていただきたい曲があるんです。


【モーツアルト作曲/メヌエット ト長調】

バイエル教本のころに弾いてみたことがあるかもしれませんね!
ソナチネやソナタを弾こうというピアノ弾きさんなら、すぐに弾けちゃいます!だからこそ「どう弾くか?」ということだけに集中できるのです。


メロディの方が、副旋律よりよく聴こえること。
高い音に向かうほど、興奮があって、大きくなる原則。
低い音に向かうほど、落ち着いて、小さくなる原則。
スラーは後の音を絞ること。
フレーズを丁寧に終わらせること。
スタッカートも丁寧に。何の表情もついていない音は何もつけないこと。


最初は弾きにくいかもしれませんが、じっくり向き合ってみると、さらっと弾き流すよりもちょっと面白くなってきませんか?

実際は興奮しないけど、「興奮の素」を感じないですか?
本当に悲しいわけではないのだけれど「悲しみの素」、わくわくするほど嬉しくはないかもしれないけれど「嬉しみの素」も、なんとなく感じませんか?

ソナタを弾くころになったら、もう一度簡単な曲に戻って「個人的な感情になる前の、音の情緒」を味わってほしいなあと思うのです。


次回は本題のソナタに入ります♪



「メヌエットト長調」の無料楽譜
  • IMSLP(楽譜リンク
    1878年にブライトコプフ・ウント・ヘルテル社から出版されたパブリックドメインの楽譜です。

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