幼稚園、小学校の運動会。流れていた曲で覚えているものはありますか?徒競走やリレーの時に流れていたトランペットの曲――「ラッパ吹きの休日」を覚えている人も多いかもしれません。

この曲は日本でも運動会や街中などでよく耳にする名曲ですが誰が作曲したのか、その作曲家とは一体どんな人物なのか、演奏者はどんな気持ちで吹いているのか、そこまで知る人は多くはないでしょう。

そこで今回は元オーケストラ団員トランペット奏者の私がルロイ・アンダーソン作曲の「ラッパ吹きの休日」について解説していきたいと思います。どうぞ最後までお付き合いくださいね。
 
アンダーソン「ラッパ吹きの休日」

Winnipeg Youth Orchestras
カナダのユース楽団の演奏です

ルロイ・アンダーソンの評価

この曲の作者はルロイ・アンダーソン。まずは彼の作品が発表当時どれくらい評価されたのかをご紹介しましょう。

彼の初のヒット作で代表作の1つとされる「シンコペイテッド・クロック」。ルロイ・アンダーソンのオーケストレーションや陽気でキャッチーなメロディーラインは多くの人々の心を掴みました。なんと彼はこの曲でゴールドディスク賞を受賞。

ゴールドディスク賞はレコードやCDの売上枚数などに応じて与えられる賞でアメリカの場合少なくとも50万枚の売り上げがなければ受賞することができません。ポップミュージックではマイケルジャクソンの「スリラー」などもこのゴールドディスク賞を受賞しています。

更にこの「シンコペイテッド・クロック」はビルボードチャートで11位も獲得。ルロイ・アンダーソンはもはやアメリカのオーケストラで最もよく演奏されるアメリカ人作曲家だと言われていました。

「シンコペイテッド・クロック」


ルロイ・アンダーソンについて

ルロイ・アンダーソンは異色の経歴の持ち主です。ニューイングランド音楽院でコントラバスを学んたルロイ・アンダーソン。ニューイングランド音楽院はアメリカ最古の音楽教育施設で、最難関の音楽大学です。ルロイ・アンダーソンは学校を卒業後もダブルベース奏者として音楽活動を続けます。

その後彼はなんとハーバード大学に入学。大学では言語学を学びゲルマン語とスカンジナビア諸語に至っては博士号を取得します。ルロイ・アンダーソンは音楽家としての顔だけでなく言語学の研究員の顔も持っていたのですね。

大学院を卒業したルロイ・アンダーソンは再び音楽の道へと戻ります。ボストン交響楽団のマネージャーにハーバード大学の学生歌の編曲を依頼され、それを引き受けるのです。

そして幸運なことにその編曲された学生歌がアメリカの指揮者アーサー・フィードラーの目に止まります。フードラーはルロイ・アンダーソンのオーケストレーションの能力を絶賛。ルロイ・アンダーソンに自身の曲を作曲するよう勧めるのです。

ちなみにアーサー・フィードラーは読売日本交響楽団の指揮をしたこともありますね。

そうしてルロイ・アンダーソンが作曲したのが「ジャズ・ピッチカート」と「ジャズ・レガート」。

どんな曲か気になりますよね?聴いてみましょう!

「ジャズ・ピッチカート」「ジャズ・レガード」

同じ動画で聴くことができます!

とてもキャッチーなメロディですね。ルロイ・アンダーソンの曲は多くの人々の心を掴み、商業的な大成功を収めたと言っても過言ではありません。この2曲もルロイ・アンダーソンの代表曲となっています。

そんなルロイ・アンダーソンですが、その後はなんと米軍に入隊。朝鮮戦争の際には軍属として勤務をした経験もあります。そしてこの軍隊での経験が今回紹介する「ラッパ吹きの休日」につながっていくのです。

ラッパ吹きの休日について

ラッパ吹きの休日はルロイ・アンダーソンが「軍隊のラッパ吹きは決まった時間に信号ラッパを吹いているので、自由にラッパが吹けない。休みの日ぐらい自由にラッパを吹きたい」という思いを込めて作曲されました。

「ラッパ吹きの休日」という題名の曲ですが、トランペット奏者からするとずっと細かい音符を吹き続けなければならない曲で全く「休日感」がないため、嫌味を込めて「ラッパ吹きの休日返上」「休日出勤」などと呼ばれることもあります。

明るく活気に満ちたアップテンポの一曲。ちなみに原題は「Bugler’s Holiday」。Buglerの元になっているbugle(ビューグル、信号ラッパ)はバブルのないナチュラル・ホルンの一種でいわゆる私たちが想像する「トランペット」とは違います。

そのため邦題では「トランペット吹き」というよりも「ラッパ吹き」というのが正しいのですが、実際の演奏でトランペットが使われることから「トランペット吹きの休日」と呼ばれることも多いのですね。

演奏者はどんな気持ちで演奏している?

ここでは私の「ラッパ吹きの休日」演奏体験談を交えながらこの曲を解説していきたいと思います。

まず1:03〜の「タタタタ」のところ。聴いていて分かると思いますが、とてもリズムが速いですよね。演奏者としてはこの速さで吹くことも大変だったのですが、私がよく指導者から注意されていたのは「転ぶな」ということでした。

音楽の世界では速いリズムを演奏するときに、ちょうど良い速さを超えて更に速いリズムで演奏してしまうことを「転ぶ」と表現します。「タンタンタンタンタンタン」と演奏しなければいけないところを「タタタタタタ」と「おっとっと」と転ぶように前のめりの演奏になってしまうのです。


私はこの1:03〜の部分でよく「転んで」しまっていました。この曲はトランペットが主役中の主役なので、演奏するプレッシャーも大きかったですね。

それから1:46〜のメロディはとても綺麗で好きでした。交響曲だと2楽章や3楽章などはトランペットの出番が少ない曲も多いのでトランペットが主役で、こんな綺麗な和音を奏でられるのはとても嬉しかったです。

次に注目して欲しいのは1:46で男性が口を拭いているシーンです。この男性、どうしてこんな仕草をしていると思いますか?答えは簡単。口が疲れるからです。

トランペットは口を閉じた形でその僅かな隙間から空気を出してマウスピース(トランペットの口をつける部分)を振動させることで音を出しています。口を閉じた状態で僅かな息を出し続けることは人間本来の仕草ではないので、実はかなり疲れるんですね。

余談ですが私はトランペット奏者だった頃よく「口唇ヘルペス」になりました。「口唇ヘルペス」とは唇に水ぶくれのようなものができてしまう病気です。トランペットを吹いていたことが直接の原因かどうかは分かりませんでしたが、私の周りのトランペット奏者はこの「口唇ヘルペス」発症率が異様に高かったです!

この男性も口を少し休ませたくてこの動作をしたのかもしれません。私は彼の気持ちがとてもよく分かります。

そして最後に2:29〜の最後のファンファーレ。ファーストトランペット奏者にとっては高音のパートがあり中々きついところですが、最後のファンファーレのために力を絞ります。
私は当時ファーストトランペットとして参加したので「もう直ぐ終わる〜!!」という安心した気持ちでこのファンファーレを吹いていました。

まとめ

今回は交響曲でなく、クラシックをふだん聴かない人でも耳にしたことがあるであろう「ラッパ吹きの休日」を解説しました。ルロイ・アンダーソンは言語学者、作曲家、軍隊の兵士、と様々な顔を持つ珍しい作曲家でしたね。

この「ラッパ吹きの休日」は彼の代表曲として今も日本の運動会を盛り上げています。メロディーを知っている人も一度最初から最後までじっくり聴いてみては?

最後までお読みいただきありがとうございました。



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