ショパン作曲スケルツォ第2番。強烈に耳に残る曲の出だしのあと、自由な空を飛ぶように発展する、大人気作品です。しかし、あまりにも鮮烈すぎる冒頭ゆえ、最初の輝きしだいで演奏を見極められてしまうことも多く、柔らかい音が持ち味のピアノ弾きさんには雰囲気が出しにくい、難易度が高い曲なんです。



今回は、フラグ立ちまくり!伏線張りまくり!のストーリー重視スケルツォの弾き方のご提案。
この曲の音色が出しにくいと感じてあきらめているピアノ弾きさん、ぜひ読んでみてください。
スリルあふれるスケルツォストーリーの弾き方を考えてみましょう!

予測不可能な進行

「スケルツォ」は、イタリア語で「おどけた冗談」という意味もあって、少し遊び心がある曲が多いのですが、ショパンのスケルツォの性格はシリアスです。
ところが、「えー!そうくる?」というような、意表を突く展開のしかたをするんです。

わたしが音楽高校の学生だった頃、クラスメイトのひとりが「にっぽぉーん!!ぶーんかこっか!ところてんところてん…」と、出だしのフレーズを替え歌つきで弾きだしました。まったく誰が考えたのか、奇想天外ですね。「日本・文化国家・ところてんところてん」って!
ところが、冒頭のメロディの音質と、言葉の響き、そして唐突さが絶妙にぴったりで、この練習法は学生たちの譜読みの時期に大流行したのでした!

「ところてんところてん…」

しょっぱなから、なんだこれは?と思いませんか?
一体何が始まるんだ?という出だしです。
ためしに「ところてん」って言いながら弾いてみてください。
ね?意外と音のイメージがつかめるでしょう?


ここをドライな質感で弾くこともできます。
ファにむかって上がっていく音型を生かせば、コミカルで乾いた感じが出せますね。
でも、じめじめした草むらのトカゲのように弾くこともできます。


たとえば4つの音を手のひらの中に閉じ込めるように弾くと、くぐもったような湿度のある音色になります。いつ走り出すのか分からない、ネズミや、トカゲの動きのようです。

この部分をオープンに弾くかクローズに弾くかで、コミカル系にもできますし、不気味な方向にも持っていけます。そして、実はここが、曲の一番最後への伏線にもなりますから、この得体のしれない一場面を、印象的に切り取ってくださいね!…そして

「にっぽーん!ぶーんかこっか!」


いきなりなんなのでしょう!想像を超えた鮮烈な響きです。
目が覚めるような、とはこのことですね。
ここも、騙されたと思って「にっぽーん!ぶんかこっか!」と言いながら弾いてみてください。
練習初期としてはなかなか良い雰囲気に弾けるでしょう?
「にっぽーん!」のところは、輝きに満ち溢れた硬質な音がほしいところですね。

こういう単音は、ボールを突くように弾き、ペダルにのせて音を飛ばすのが一番やりやすいですが、そのあとの、「ぶーんかこっか!」のフレーズも、実際にリズム通りにボールを突くことをイメージしてみると、弾きやすいです。

ボールを突く強さを○で表してみますね。
ボールを強く突けば、高く跳ね上がって、次に突けるまでに時間がかかります。
なので、「ぶーんかこっか!」の細かい動きのところは、地面に近いところで弾みをコントロールしながら突かなくてはいけませんよね。

    ↗↘
↗   ↘О↗↘。о 。
にっぽーーん  ぶーんか こっか!

こんな感じに。

「日本・文化国家」はいろんなバリエーションで出てきますが、もしリズム通りにボールを突くとしたら、どんな風に手首を動かしたり、強さ加減を調節したりするだろうかとイメージしてみると、いろいろな音型に対応できますよ。

そしてまた、ところてん、ところてん…と、陰の世界が覗きます。
一見脈略がない、予想不可能な進行にふりまわされて、聴き手が翻弄される感じが、ショパンのスケルツォのスリルです。
意表を突きながら、どうなるんだ?どうなるんだ?と聴き手を引き込んでいきたいですね。

「日本・文化国家、ところてん」を、駆け引きしながら繰り返し、やっと明るい場所に出ていきます!

さあ、飛翔のとき!

(動画0:44~)

ここは、聴き手もピアノも、弾いているわたしたちの味方になってくれるところです。
アルペジオに乗って、どこまでもどこまでも飛んでいきたいですね!
ここには、聴き手に予想外のスリルはいらないところですね。
もしスリルがあるとしたら、体感的に風を感じて飛んでいるスリルです。


メロディが単旋律になると、私たちはさらに演奏のストレスがなくなって、上昇気流に乗っていきます。
その後オクターブになり美しくボリュームを増しますが、こういうところでは手首を少しだけ高めにして、手のひらに音を集めていく感覚をつかむと、手のひらの中で2音、3音がよく混ざりますよ!
指先から鍵盤に力が落ちていくんじゃなくて、打鍵した瞬間に、音が手のひらを通って集まってくるような感覚です。


これは、伸筋じゃなくて屈筋を使って弾く感覚なんだそうです。最大5本で弾く和音を響きとして把握する感覚が持てて、ほんとうに音質が良くなるんです!
艶のある「おいしい音」が欲しい、こういう部分は、普段「手を丸くしてたまごを持つように」、という弾き方で音の粒をそろえている人も、ぜひ試してみてほしいです!

繰り返す意味

ここまでの展開が、じつはもう一度繰り返されます。
なかなかの厚みがあるここまでの物語が、忠実に2回。
これは…聴き手は意外性が欲しいところですよね!

たとえば、冒頭に出てきた「ところてん」の動き、もっと変えてみましょうか。
もう一度言いますが、ここは最後の隠しフラグを立てられる場所なので、どうぞ最後まで読んでから、どういうフラグを立てようか、じっくり吟味してくださいね!

再びやってくる飛翔のシーンでは、「またこの最高の景色を見ることができた!」という、再度体験できたことの喜びを出したいのです。たとえて言うなら、「高校球児が、1年生の時に先輩に連れてきてもらった甲子園の興奮」が、「3年生のキャプテンになって、再び甲子園のグラウンドに立てた感動」になるというところでしょうか。


曲の中の「繰り返し」は人生のいろんな場面の繰り返しなんです。
去年見た花火と、今年の花火では、なぜか美しさが違うと感じたこととか、卒業式の在校生側で見た桜と、卒業生として見た桜の花の感慨の違いなど、自分の記憶を掘りおこしていきましょう。きっと、思い当たることがあるはずです。
同じフレーズを弾いているのに、味わいがぐんと変わってきますよ!

想定を超えた展開部

そして、まさかこう来るとは!というような深い展開部がやってきます。


ここに聴き手にとってのドキドキがあるとしたら、深い世界が拓かれていく想定以上の美しさです。

(動画3:00~)

よく、ショパンの曲を弾く時に感傷におぼれないで、と言われますが、決められたテンポの中で感情を抑えて弾きなさい、という意味ではないと思うのです。
だって、ひとつひとつ表情がありすぎる音ですから。

この部分の、深い安らぎの中で花開いていく感じは、ひとつひとつの音が持っている情報を大事に、ゆっくりと味わいながら展開していけば、きっと説得力のある演奏になるはずだと思うんです。


とくにここのセンチメンタルなフレーズ(動画3:57~)は、最重要な伏線となって、このあとの最大クライマックスで聴き手を思い切り揺さぶりますから、「このシーンは覚えておいて!」という含みを持って、伝えたいですね!
そういう意味で、弾いている自分が酔いしれるわけにはいかないのです!
伝えることにパワーが使われるんですね。


意味のあるカメラワークで、重要なワンシーンを切り取っていきましょう!

334小節目(動画4:23)からは、分散和音の自由なふるまいを、きまりにとらわれない感じで弾けると、本来の「スケルツォ」らしさにつながっていくと思います。


ニュアンスよりスピードを優先して弾くのも疾走感が出ますが、一歩間違えば転がり落ちそうだという、弾いている私たちにとってスリル満点。わたしも若いころ、こういうleggiero(軽く)で全部を早弾きにして何度失敗したことか。もっと自由に、徐々にギアをあげていく感じで、私たちも遊んじゃいましょう!ところどころスタッカートがかったきらきら音が混じった、予想外に輝くラインにするのも聴き手の不意をつく軽さがでますね。
 
この版の楽譜には、右手のメロディにちょこっとスタッカートがついていますが、これは、いろいろ遊んでいいよというサインだと思います!
展開部ももれなく2回繰り返しますので、分散和音は毎回いろんなキラキラで遊べて楽しいところなんですよ。


そしていよいよ佳境に入っていきます。
476小節目からは、もちろん右手が一番の難所なんですが、左手が肝!

(動画6:32~)

わたしの場合は、左手ド♯→ド♯↓ド♯↓↓をガツーンと落とせると、次も底から湧きあがるように、左手が這い上がっていけます。
練習に胆力と時間が必要になるこういう場面で、単に弾きにくい移行部に取り組んでいると思うと、はやく通り抜けたいなあ~と思ってしまいますが、わたしは「ドラマの最後に爆破する壮大なセットを、この場面で空撮してるんだ!」なんて思いながら、練習モチベーションを上げています。
そうなんです、クライマックスまであと少しなのです…!


そんななか、弾いている側にとっては、むず気持ちいい聴かせどころなのが、先ほど鮮明に切り取ったセンチメンタルなシーンをドラマティックに再現していく展開。(動画6:43~)でもここばかりは、ちょっと抑え目をお勧めします!
なんといったって、ここはまだ「2つ目の伏線」でしかないのです。



真の頂点は544小節目から!(動画7:14あたり!) 

ミファ↑と上がり、手を伸ばしながら…落ちていく…!


序盤、脈略のない進行に振り回されていた聴き手は、飛翔するようなフレーズで一気に引き込まれ、展開部でこの世のものでないような深い美しさを体験します。
その美しさの思い出がある伏線となり、ここで一気に「あのときことはこのことだったのか!」と、聴き手はミステリーの結末が明らかになるのを体験しながら、と同時に墜ちて、飲み込まれていくのです!

秘密が明らかになった途端、落とす、というものすごいやり方で、聴き手を翻弄していくのです!。


しかし、まだ残る謎が…。

嵐が過ぎ去ったあとの再現部「ところてんところてん」…意味深な語尾の伸ばし方。


最大の伏線が回収された放心状態の中でも、最後まで答えが出きらない「ところてん」のフレーズについて、聴き手にもやもや感を感じ続けさせられるかどうか。
「ここはこんなものだな、また出てきたな」と思わせてしまうか…。
どうしても音の迫力に欠ける女性や小柄な人こそ、最後まで聴き手の想像力を味方につけてほしいのです。

そして3度目の飛翔のシーン。3度目の甲子園。たとえて言うなら「OBとして訪れる、懐かしく眩しい甲子園」です。日本を思い出しながら見た異国の花火かもしれないし、出勤途中にふと見上げた桜の花かもしれません。
長い時間が経った感慨がここにはあるのです。


…そして、長い物語の末に!

まさかのまさか!最後の最後で、冒頭のトカゲは龍となって現れました!


ここを華やかなコーダの始まりと聴かせることもできますが、今までもやもやを感じ続けた聴き手が、竜巻のようなうねりの中に風雲たる龍の姿を見つけ、ああっ!と驚嘆することもできるのです!
(動画9:13~のどこかにいます♪)

残像のように脳裏に残る、一瞬現れたあれは、なんだったのか…走馬灯のようなコーダを聴き終わるまで、最後の大きなミステリーを描いて見せることさえできるのです…!


どうでしょう、輝かしい硬音に悩む前に、幾重にも蠢くアイディアが湧いてきませんか!


これまでの提案をまとめてみます。

○予測不可能な進行で聴き手を翻弄しよう。→冒頭から、練り上げた伏線を張ろう。
○いままで翻弄されてきた聴き手は、爽やかな飛翔のシーンでぐっと味方になってくれるという心理をつかもう。
○繰り返すメロディは、人生の場面と重なります。より深い説得力を持たせよう。
○美しい展開部で、最重要なシーンを印象的に切り取って聴かせよう。
 →それが伏線となって、クライマックスではミステリーを解決しながら聴き手を飲み込む。
○クライマックス後も、残るもやもやを感じさせよう。
○最後に、冒頭のもやもやに大きな変貌を遂げさせ、余韻として残すこともできる。



ありとあらゆる伏線を張っておくことができる、ショパンのスケルツォストーリー。


もはや、弾き手が持っている音色はすべて、武器になります!


伏線の張り方は、あなた次第。


あなただけの物語で聴かせてみませんか!


「スケルツォ第2番」の無料楽譜
  • IMSLP(楽譜リンク
    本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1879年にペータース社から出版された楽譜です。

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