ブルグミュラーの18の練習曲『ジプシー(ボヘミアン)』は、曲集の中では4曲目に収められており、独特なリズムの中にこれまた独特な旋律が随所に見受けられる、何とも面白い曲想を持った作品です。

ブルグミュラーの練習曲の中でも、特にこの曲が収められている18の練習曲は、全体的にとても弾き応えがあり、単なる練習曲とは思えないほどの高い芸術性が垣間見えます。

「何だか18の練習曲って、25の練習曲と比べるとちょっと難しそう」、「取っ付きにくそう」と思われている方もおられるかもしれません。私も当初はそうでした。しかし、実際に練習を重ねていくうちに、いつの間にかこの曲集の魅力にすっかり惹き込まれていたという思い出があります。

特にこの第4曲である『ジプシー(ボヘミアン)』は、技術面はもちろんですが表現の面においても、学べることがとてもたくさんあるかと思いますので、ぜひチャレンジしてみてくださいね。


こんにちは!ピアノ弾きのもぐらです。

そうそう、新年のご挨拶がまだでしたね。
皆様、昨年は大変お世話になりました。今年も頑張りますのでどうかよろしくお願いします。今年もピアノでテンションを上げて、楽しい一年にしていきましょう!

そして皆様、お正月はいかがお過ごしでしたか?
私は巣穴の中でお餅を食べたり、蓄えておいた畑のお野菜でこっそりとチーズフォンデュなどを楽しんだりしておりました。

表現力の面では少し難易度は高め!


さて、本題に入りますね。

この曲は譜面を見るとおわかりになるかと思いますが、とても短い曲です。しかし、短いからこそ味気の無い演奏になってしまわないような工夫が必要です。

具体的な難易度としては、ツェルニー30番を練習中という方であれば充分弾けるくらいですが、それはあくまで技術面に限った指標でしかないと私は勝手に捉えております。

というのも、この曲を魅力的かつ印象的に演奏するためには、技術面だけでなく表現力も必要になってくるからです。表現力の面も考慮すると、難易度は必ずしも簡単であるとは言い切れません。

主題を軸にした構成になっている!

ピアノに向かう前に、まずは以下の動画を聴いてみてください。



この記事では一曲を以下のように、いくつかのセクションに小分けにしてご説明していきます。

セクションA(最初~0:16)
セクションB(0:16~0:52)
セクションC(0:52~1:16)
セクションD(1:16~終わり)

※カッコ内の時間は動画の時間に沿ったものです。動画をよく視聴し、曲の雰囲気をしっかりと念頭に置いて練習をしていきましょう。


そして譜面をご覧になると、最初に出てくる特徴的な旋律が主題としてこの曲全体の軸となり、随所に影響を与えていることがおわかりになるかと思います。また、リズムもある程度規則性が感じられます。

この主題の存在とリズムの規則性を意識しながら、曲の全体的な構成を把握しましょう。そして各場面における規則性の中にもまた絶妙な変化があります。その変化をキャッチすることで、いろいろな発見が出てくるかと思います。

それでは、さっそく練習に入っていきましょう!


もぐら式!弾き方のコツ

☆セクションA ~曲全体の大黒柱~

先ほどもお話ししましたが、冒頭にこの曲の主題となる旋律がさっそく出てきます。
主題というのは、この曲を弾くためには欠かせない、いわば曲全体の大黒柱のようなものです。

主題というのは、セクションAだけでなくこの後のセクションにも、変化を伴いながら度々登場します。そして、主題の面影を感じたとき「あ、この旋律は最初に出てきたフレーズ(主題)が変化して出てきたものだ!」という見方ができるのです。

練習をする中で、いくつ主題の面影を感じる箇所があったかを数えてみるのも面白いかと思います。

※ 『Allegro non troppo.』の意味は『あまり速すぎないで』

この旋律というのが、まさに先ほどお話しした主題というものです。

この部分のアクセントは、周りにあるスタッカート(意味:音を短く切る)がついている音を際立たせるといった解釈で弾くほうが、個人的にはしっくりくるかと思っています。

つまり、音量を大きくして強調するというよりも、どちらかというと音量というよりも、テヌート(意味:音の長さを十分に保つ)の要素を強調するといった解釈を私はしています。

ですが、音量で強調させたいという方もおられるかと思います。解釈はどちらでも構わないかと思いますが、もし音量で強調したいという場合は、旋律が不自然に聴こえてしまわない程度の音量に留めて弾くのが適切かと思います。


この部分では、さっそく左手に先ほどの主題が登場します。(0:08~)

ここでは主題に気を取られ、右手が疎かになってしまわないように気をつけましょう。
というのも、ここでは確かに主題が左手に登場するにはするのですが、どちらかというと響きとして重要なのは右手だからです。

右手にはアクセント、スタッカート、そしてスラー(意味:音をなめらかに)が次々と出てきます。この部分はしっかりと片手練習をしておきましょう。

特に右手にスラーがある一方で、左手はスタッカートで軽やかに弾かなければならないという箇所は、ついついスラーかスタッカートのどちらかにつられやすくなります。

そのため両手練習になったときには、最初はゆっくりとしたテンポで右手と左手の弾き方の違いをしっかり確かめながら慎重に練習することが重要です。

※ 『dolce』の意味は『やさしく』
※ スタッカートとスラーが一緒についている音は、ここでは『ノン・レガート』(意味:やや音を切って)と解釈します。

『fp』は『フォルテピアノ』と読み、『強くしてすぐに弱く』という意味になります。(0:13~)
この部分は先ほどのアクセントのお話しとは逆に、音量で強調させたほうがしっくりきます。

そして、急激に音量を弱めることでメリハリがつきます。常に先へ先へという意識で、目まぐるしく変化する指示記号に対応していきましょう。

☆セクションB ~違いを意識する~

セクションBは、セクションAの展開形のような雰囲気を持っています。(0:16~)
しかし、セクションAとの絶妙な変化というのも同時に持っているため、この部分はこの部分でまた違った表現をしていくことが重要になってきます。

※ 『delicato』の意味は『繊細に』
※ 音符についている逆三角形の記号は『スタッカーティシモ』といい、意味は『音を非常に短く切る』

この部分のノン・レガートは、直前のスタッカートやスタッカーティシモの弾き方によって、大体の音の長さを決めましょう。

私はこの部分がとても苦手でした。
ノン・レガートとスタッカート、そしてスタッカーティシモをそれぞれ区別し音を鳴らせるようになることは大変重要な課題と言えるのですが、これがまた難しいもので、なかなかそれぞれの弾き方の違いが上手く表現できず、当時は悪戦苦闘したものです。

ここも特に右手は片手練習を、余裕が出るまで徹底的に行いましょう。

この部分に限らず、音一つ一つの弾き方に違いを出すというのは、とても細かいことかもしれませんが、それこそがこの曲の表現における要になると言えます。

細かい配慮が積もり積もって、結果的に印象深く独創的な表現につながってきますので、大変かもしれませんが頑張っていきましょう。

※ 『rall.』は『rallentando』の略称で意味は『だんだん遅く』
※ 『dimin.』は『diminuendo』の略称で意味は『だんだん音を小さく』
※ 『a tempo』の意味は『元の速さに戻す』

この部分については、繰り返すときには指示記号に沿って臨機応変に表情をせわしなく変える必要があり、繰り返しが終わってまた主題へとつなげるときには、最初の雰囲気を再現する必要があります。(0:23~)

ここでは指示記号があるからといって、あまりにも大げさに抑揚をつけ過ぎてしまわないことが大切です。

というのも、抑揚のつけ過ぎで曲の流れが止まってしまうと、何だかとてもぎこちない演奏に聴こえてしまうからです。抑揚をつける際は、なるべく曲の流れに支障が出ない程度に留めておきましょう。

※ 『energico』の意味は『精力的に』

ここはセクションのつなぎ目であり、そして調が変化する部分です。(0:51~)

この次のセクションに入る直前でしっかりと気持ちを切り替えましょう。とにかくこの曲では早め早めの判断ができるように、次にどのような場面が待ち構えているのかを予め把握しておくことが大事です。

☆セクションC ~高らかに音を鳴らす~

セクションCでは調がハ短調からハ長調に変化します。(0:52~)
また、このセクションCではリズムの面でも変化が生じています。今までの特徴的で規則的なリズムとは少し違い、ここではわりと自由度が高いという印象です。のびのびと弾いていきましょう。

※ 『legg.』は『leggero』の略称で意味は『軽やかに』

この箇所では装飾音が現れます。この装飾音は、力を入れずにとにかく軽くさりげなく弾くことで、主となる音をより際立たせることができます。

また、ここではペダルの表記も増えてきます。ですが、これは全体的に言えることですが、この曲は特にスタッカートがとても特徴的ですので、ペダルは極力浅めに踏むほうが無難であると私は思います。あるいは、あえてまったくペダルを入れないという選択肢もあると思います。

練習していた当時、私はここでペダルについて随分と悩みました。そして「そもそもなぜスタッカートとペダルが一緒に出てくるのだろう」という疑問もありました。
これはあくまで私個人の推測ですが、あえて自分で解釈する重要性を、もしかするとこの箇所は訴えているのではないかと思っています。


ここで3連符が出てきました。(0:56~)
もしかするといきなり3連符が出てきて、混乱してしまうという方もおられるかもしれません。私は実際混乱しました。

ここは『3連符+その後の一音』のセットで1拍という数え方をします。この曲は4拍子であるということを思い出して、4拍子の中に3連符のリズムを収めていきましょう。

どうしても上手くテンポに乗れないという場合は、メトロノームを遅めのテンポに設定して、テンポに乗れるまで片手練習を繰り返しましょう。

※ ここでは、向きの変わったアクセントは『>』というアクセントよりも強めに弾くという解釈をします。

この箇所は、アクセントの付け方に注意しましょう。(1:09~)
というのも、ここでは全体的にフォルテ(意味:音を大きく)の表記が多いため、ついついすべての音量が同じようになりやすく、そうすると何だかメリハリの無い印象になってしまうからです。

そのため、フォルテとはいえ一つ一つの音に、ある程度違いを出すことが求められます。特に、例えば右手にアクセントがついていて左手には何もついていないという部分は、右手はしっかりと音を強調させ、一方で左手の音量は少し控えめに弾くというような工夫が大事です。

細かい指示を見落とさずに、一つ一つの音を弾いていきましょう。

☆セクションD ~終盤も気を抜かずに~

セクションDからは終盤に入っていきます。(1:16~)
曲の終わりに向かって、徐々に音量を小さくしていくという意識で、繊細さを追求していきましょう。

※『cresc.』は『crescendo』の略称で意味は『だんだん音を強く』

この右手は、基本的に譜面の指番号を守ったほうが弾きやすいかと思います。(1:22~)
しかし「この譜面の指の運びよりも、自分はこうしたほうが弾きやすい」という方は、無理に譜面の指番号通りに弾く必要はありません。

左手の和音はなるべく音量を控えめにしつつも、すべての音を確実かつ均等に鳴らしましょう。

※ 『perdendosi』の意味は『だんだん弱くしながら遅く』

ここでもペダルの表記があります。この部分のペダルは、なるべく小刻みに浅く踏むことが重要です。(1:30~)
ですが、ここはペダルよりもどちらかというと、スタッカートを優先させたほうが自然な響きになるかと思うので、ペダルの踏みすぎに注意しましょう。

そして、終わりのほうに何とも不可解な表記がありますよね。そう、テヌートとスタッカートが一緒になった記号です。「これ、謎だなぁ」と思う方も多いのではないでしょうか。

この記号にはいろいろな解釈があります。中には『ノン・レガート』だと解釈する方もおられます。ですが、この曲のこの箇所においては「それぞれの音の響きを大事に保ちつつ、スタッカートで弾く」というような解釈のほうが私は適切ではないかと思っています。

というのも、この部分は極力音量を小さくしなければならず、そうするとどうしても音が不揃いになりやすくなるからです。音量が小さくなってもそれぞれの音が抜けないよう、しっかりとリズムを刻むことが重要になってきます。

『ジプシー(ボヘミアン)』とは?表題についてのコラム

ここでは、この曲の表題である『ジプシー(ボヘミアン)』についてお話ししていきます。尚、このコラムを執筆するにあたって、以下の文献を参考にさせて頂きました。

【参考文献】
平凡社大百科事典第6巻


ジプシーとは、主にヨーロッパにおける定住をしない少数民族のことを指すと言われています。しかし、最近では定住するジプシーも増えてきているそうなので、その定義は必ずしも一つにはまとまらないそうです。そして『ボヘミアン』という呼び名はフランス語で『ジプシー』を意味するそうです。

尚、この曲はブルグミュラーの一つの作品として『ジプシー(ボヘミアン)』という表題になっておりますが、最近ではこの言葉を使用する際は『ジプシー』という呼び方よりも、彼らの言葉で『人間』を意味する『ロマ』という表現のほうが適切であるとされています。

では、ジプシーとはどのような文化を持った民族なのかというお話になります。
文献によると、彼らは各地を移動しながら馬の飼育や金属加工、音楽の演奏、曲芸、占いなどに従事し、実に多彩な文化を持っている民族なのだそうです。

そしてジプシーは特に音楽の演奏を得意とし、村祭りなどのイベントには必要不可欠な存在です。また、ジプシーによる独自の音楽文化もあり、それらは昔からクラシック音楽の文化にも大きな影響を与えてきたのだそうです。

ちなみにジプシーの文化に影響を受けて作曲された作品としては、リストの『ハンガリー狂詩曲』やサラサーテの『ツィゴイネルワイゼン』などが挙げられます。有名な曲ですよね。
この他にもジプシーの文化に影響を受けて作られた作品はたくさんあると言われています。

ジプシー音楽の具体的な特徴としては、二つの感情表現であると言われています。一つは悲哀を表現し、自由なリズムとゆっくりとしたテンポで奏でられる旋律、もう一つは喜びを表現し、はっきりとした拍子を保ちつつ速いテンポで奏でられる旋律です。

クラシック音楽の中でジプシーの文化に影響を受けた作品には、このような特徴を持った曲想が多いように思います。このブルグミュラーの『ジプシー(ボヘミアン)』も、確かに曲中で悲哀と喜びがそれぞれ表現されているようだと私は思いました。

音楽には様々な文化的な背景が必ずあるものです。この曲に限らず、音楽を通していろいろな文化を学んでいくことで、その曲へのより一層の理解や新たな発見にもつながってくるかと思います。

振り返ろう!全体的なまとめ


ここまで、ブルグミュラーの18の練習曲より『ボヘミアン(ジプシー)』についてお話ししてまいりましたが、いかがでしたか?

ここで、以下に全体的な弾き方のコツをいくつかまとめました。

1. 主題を意識して譜読みをする(全体的に)
2. スタッカート、アクセント、スラーなど一つ一つの音の違いをしっかりと出す(特にセクションAセクションB
3. ペダルは自由に解釈し、適切に入れる(特にセクションC
4. 音量が小さくなっても音が不揃いになったり抜けたりしないように注意する(特にセクションD

以上の4つのコツを念頭に練習してみてくださいね。

この曲はスタッカートやアクセントなど、指示記号や演奏技術の面では、至ってシンプルなことの積み重ねです。しかし、そのシンプルなことをしっかり守って丁寧に弾くことで、初めて心地の良い響きを実現させることができるのだと思います。

私はこの曲を練習してみて、シンプルなものこそ実は大事なのだということを学びました。そして、いくら簡単だからといって一音一音を適当に弾いてしまうというのは、あまりにももったいないことなのだと痛感しました。とにかく、丁寧に心を込めて弾いていきましょう。

それでは練習、頑張ってくださいね!畑の地中から、毎日応援しております。

byピアノ弾きのもぐら


「ジプシー(ボヘミアン)」の無料楽譜
  • IMSLP(楽譜リンク
    本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1900年にシャーマー社から出版された楽譜です。「18の練習曲」全曲が収録されており、第4曲「ジプシー(ボヘミアン)」は7ページ目からになります。


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