ドビュッシーについては以前、アラベスク第1番について記事を書いたのですが、今回は「子供の領分」について書いていきたいと思います。

彼は結婚もしていて子供もいましたが、子供が生まれる前までは女性関係がとんでもないことになっていて、波乱万丈でした。

それはもう軽蔑するくらいのやらかしようです…。あんなに素敵な音楽を作曲する人なのに…。

今回はドビュッシーの女性関係にも触れながら「子供の領分」の難易度や難易度順について書いていきたいと思います。

■ 目次

ドビュッシーはどんな人だったのか

クロード・ドビュッシー(Claude Debussy/1862-1918年)
クロード・ドビュッシー(Claude Debussy/1862-1918年)


ドビュッシーについてはアラベスク第1番の記事で少し書いているのですが、今回は彼の女性関係について書いていきます。

彼の音楽はとても素敵なのですが、私は人としては好きにはなれません。なぜならドビュッシーは浮気癖のある男性だからです。しかもちょっとの浮気ではありません。

何かを作り出すというのは大変なことで、全く新しいものを作り出すのはさらに大変だということは理解できます。何かを作り出すときはいろんな経験とインスピレーションが必要だということも理解できます。

ドビュッシーの場合は特にイメージしたものや見たり聴いたりしたものを音に置き換えていくような作風なので他の作曲家よりもより一層インスピレーションというものが必要だったのかもしれません。

作曲の何かヒントとなるものを得るためにインスピレーションを与えてくれる存在が必要な部分があったということは理解できても、女性をとっかえひっかえするのはいかがなものかと私は思うのです。

別の人に興味が行ってしまうのは仕方のないことなのかもしれませんが、きちんと関係を解消してから次に進むというのが相手に対しての最後の優しさなのではないかと私は思います。

破局や離婚してしまうことは誰でも起こりえることですが、ドビュッシーは2人の女性を自殺未遂させるまで追い込んでいます。

1人目は同棲をしていたガブリエル・デュポン、2人目は結婚していたマリ・ロザリー・テクシエです。両者ともピストルで自殺未遂をしました。

ガブリエル・デュポンが自殺未遂をした翌年にマリ・ロザリー・テクシエと結婚をしています。しかも2人は友人だったそうですよ。

気が知れない…。

ドビュッシーはマリ・ロザリー・テクシエと結婚しましたが、その後も浮気がおさまるわけもなく、エンマ・バルダック夫人(教え子の母親)と不倫します。

マリ・ロザリー・テクシエが自殺未遂騒動を起こすとドビュッシーはエンマ・バルダック夫人と逃げるように駆け落ちしました。(このときにはすでにドビュッシーとの子供を妊娠していたようです。その後エンマ・バルダックと再婚します。)

その頃にできた曲が「喜びの島」です。なんて残酷な曲なんでしょう…。

画家ワトーの作品「シテール島への乗船」にインスピレーションを得て書かれた作品ではありますが、自らの気持ちとリンクさせていた部分は絶対にあるでしょうからね…。

この曲はとっても素敵で大好きな曲の1つなんですけど、経緯がね…。

素敵な作品を多く書いた作曲家ドビュッシーですが、女性関係では不倫や二股をくり返すどうしようもない男でした…。

このような女性関係や自殺未遂騒動を起こしたことで親族や音楽界からも見放されてしまいました。そのため安定的な収入を得ることは難しく、経済的には苦労していたようです。

ドビュッシーが43歳のときにエンマ・バルダックとの間に女の子(クロード=エンマ)が生まれます。

こんな彼が子供をかわいがれるのかと不安に思いませんか?心配はいりません!ドビュッシーは自分の娘にシュシュ(キャベツちゃん)という愛称をつけて溺愛します。

シュシュと一緒にいる写真が残っており、手紙も残っています。仕事でシュシュと離れないといけないときには娘に会えない寂しさや、早く会いたいという思い、シュシュのことしか考えられないなどの思いを手紙に綴っては送っています。

結構な溺愛ぶりだったようです。それまでとは少し違う感情を愛娘から学ばせてもらっていたのかもしれませんね。

「子供の領分」とはどんな曲なのか



鋭い方はもう勘づかれているかもしれませんね。「子供の領分」は愛娘クロード=エンマ(シュシュ)に捧げられた作品です。

この曲は6つの短い曲からなる組曲です。1906年に第3曲目である「人形へのセレナード」がまず作曲され、その後残りの5曲が作曲されました。完成したのは1908年で、シュシュが3歳の時でした。

どの曲もシュシュや子供を思い浮かべながら書いた作品と言われています。しかし、シューマンの「子供の情景」と同じように小さな子供が弾ける作品というわけではありません。

「子供の領分」が作曲された同じ時期に「映像」第1集(1905年)と2集(1907年)が作曲されています。そのように考えると「子供の領分」は聴きやすく書かれているんだなと感じます。


「子供の領分」の各曲を簡単に解説していきますね。

第1曲「グラドゥス・アド・パルナッスム博士(Doctor Gradus ad Parnassum)」


グラドゥス・アド・パルナッスムとはラテン語で「パルナッソス山へ登る階段」を意味します。クレメンティが「グラドゥス・アド・パルナッスム」というタイトルの練習曲を書いているのですが、それを子供が退屈そうに弾いている姿を皮肉っている作品だと言われています。

第2曲「象の子守歌(Jumbo’s Lullaby)」


シュシュが大好きだった象のぬいぐるみをヒントにして書かれた曲で、象に子守歌を歌ってあげていたのに、自分が眠くなってしまう様子を描いた作品です。

第3曲「人形へのセレナード(Serenade of the Doll)」


こちらもシュシュのお気に入りの人形をイメージした曲です。お人形にセレナードを歌って聴かせている様子を描いた作品です。

第4曲「雪は踊っている(The Snow is Dancing)」


窓の外を見るとちらちらと雪が降り始めてしまい、外に出られない子供のちょっと憂鬱な様子を描いた作品です。

第5曲「小さな羊飼い(The Little Shepherd)」


これもシュシュの人形からイメージして作られた曲です。羊飼いが角笛を吹いているような牧歌的な部分とリズミカルでせわしなく動き回る部分が交互に出てきます。

第6曲「ゴリウォーグのケーク・ウォーク(Golliwogg’s Cakewalk)」


ゴリウォーグとは黒人の人形のことで、その人形が踊っている様子を描いています。

ゴリウォーグのケーク・ウォーク
ケーク・ウォークとはアメリカのダンスの1つなんだそうです。ドビュッシーは当時このダンスに興味を持っていました。そのため作品の中にケーク・ウォークを取り入れて作曲しました。

6曲の中で最も有名な曲はこの「ゴリウォーグのケーク・ウォーク」です。

この曲にはワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」が何度も引用されています。その後すぐにちゃかすような笑い声がきます。

(1:15から再生されます)

「子供の領分」の難易度はどれくらいか

ドビュッシーの作品はソルフェージュ能力が高くないと弾くのは中々難しいと私は思います。彼の作品の中ではこの「子供の領分」は比較的わかりやすく、譜読みもしやすい作品ではないかなと思います。

しかし、ブルグミュラーやソナチネ、ソナタといった作品とは大きく違い、ドビュッシーの作品は機能和声から離れていこうとしていたり、それまでとは違う音階を使ったりしています。

機能和声の中で作られた作品ばかりになれていると予測がつけられないような音の運びになっていると思いますので、しっかりと楽譜を読み込む力が必要なのではないかと私は思います。

もし近現代の音の響きに汚い、気持ち悪い音だというような違和感をおぼえるのであれば、そのように聴こえないようにいろんな音源を聴いて耳を慣らすということも必要かもしれません。

音や音の重なりを楽しむということがドビュッシーの場合はとても必要になってくると思います。ぶつかった音、あまりきれいとは言えない音も楽しめるようになってくると演奏するのもだんだん楽しめるようになってくると思います。

弾き方も違ってくるためどの曲集が弾けたら弾けますとは中々言いづらいのですが、ソナタが一応弾けるぐらいのレベルでないといけないのかなと思います。

そこまで弾けるようになっていれば楽譜を読む力もついています。最初は譜読みが大変かもしれませんがドビュッシーと頑張って向き合って下さい!

「子供の領分」6曲の難易度順と弾き方について

「子供の領分」に私なりに難易度順をつけてみましたので参考になさって下さい。

★      第5曲「小さな羊飼い」


31小節という非常に短い曲ですが、対比があってとても面白い曲です。譜面上ではこの曲集の中で1番読みやすいのではないかと思います。この対比が上手く弾き分けられたら面白い演奏になると思います。

最初の角笛を吹いているような部分
ドビュッシー「子供の領分 第5曲「小さな羊飼い」」ピアノ楽譜1
その後のリズミカルに動く部分
ドビュッシー「子供の領分 第5曲「小さな羊飼い」」ピアノ楽譜2

★★     第2曲「象の子守歌」


この曲も譜面は読みやすい方だと思います。象の子守歌というタイトルだけあってかなり低い音域が使われています。しかし、子守歌なのでほぼPかPPで書かれています。

ドビュッシー「子供の領分 第2曲「象の子守歌」」ピアノ楽譜
象のようなのそのそ感はありつつ、やわらかい音を目指したいですね。

★★★    第6曲「ゴリウォーグのケーク・ウォーク」


この曲は「象の子守歌」とは真逆のはつらつとした曲です。シンコペーションが多く使われています。このリズムをしっかり生かし、アクセントはしっかり強調し、スタッカートはより鋭く、そしてレガートはスタッカートとの対照になるようによりなめらかに弾けるようにすると面白い演奏になると思います。

ドビュッシー「子供の領分 第6曲「ゴリウォーグのケーク・ウォーク」」ピアノ楽譜

★★★★   第4曲「雪は踊っている」


タイトルを知らなかったとしてもこの曲を聴けばきっと雪が降っているようだと感じてもらえると思います。どのように雪が降っているのか、子供たちはどのように感じているのかなどのイメージを持つことが大切だと思います。

ドビュッシー「子供の領分 第4曲「雪は踊っている」」ピアノ楽譜1 最初はこのような楽譜です。

ドビュッシー「子供の領分 第4曲「雪は踊っている」」ピアノ楽譜2 途中はこのように入り組んだ形になります。雪が重なっていき積もったような状態になっているのかそれとも子供の憂鬱な状態がピークにきているのでしょうか。

★★★★★  第3曲「人形へのセレナード」


この曲を素敵に弾くポイントはリズムを正確に刻むことと、重さのない鋭いスタッカートで弾けるようにすることだと思います。

ドビュッシー「子供の領分 第3曲「人形へのセレナード」」ピアノ楽譜
リズムを刻むときにただ同じように弾くのではなく、どこが表の拍でどこが裏の拍なのか、1拍目はどこなのかなどを感じながら弾くようにすると音楽に動きが出て生き生きとした演奏になります。

★★★★★★ 第1曲「グラドゥス・アド・パルナッスム博士」


この曲はとにかく最初から最後まで動き回ります。1つずつを押さえつけて弾くのではなく、4つを1つのまとまりとして考えて弾くようにすると動きが出ます。

ドビュッシー「子供の領分 第1曲「グラドゥス・アド・パルナッスム博士」」ピアノ楽譜
テンポの速い曲ですが、ゆっくりの練習をたくさんしましょう。ゆっくり弾けないのに速く弾けるはずがありません。まずはゆっくり弾けるようになってから徐々にテンポを上げていきましょう。



今回は「子供の領分」について書いてきましたが、いかがだったでしょうか?ドビュッシーの女性関係に驚きましたか?

作曲家や音楽家は少し変わった人が多いというのはよくある話なのですが、彼はかなり激しい人生を歩んでいますよね。

自分の気持ちに正直な人、本能のままの人だったのでしょうか?そんな彼だったからあのような曲が書けたのかもしれません。

しかし、振り回された女性たちや周りの人たちはとても大変だったでしょうね…。



「子供の領分L.113」の無料楽譜
  • IMSLP(楽譜リンク
    本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1908年にデュラン社から出版されたパブリックドメインの楽譜です。


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