ピアノを弾いている皆さん、暗譜は得意ですか?
普段、先生にレッスンをしてもらうときは楽譜を見て弾いていますよね。しかしピアノの発表会など、ホールで演奏するときは暗譜で弾きますね。
暗譜が得意な人はあまり苦労することなく覚えられると思いますが、暗譜が得意ではない人にとっては覚える作業は大変なことだと思います。
暗譜の苦手な人は初見が得意だったり、譜読みが速かったりする人が比較的多いような気がします。これはソルフェージュ能力が高いということなので、とても良いことです。
楽譜を見てすぐに弾けてしまうので、あまり覚えようと思わないのではないかなと思います。
私は比較的暗譜が速い方です。それは初見が苦手で楽譜を読むことがあんまり好きではないからです。完全にではありませんが、譜読みをしながら少しずつ覚えていきます。
私のように初見や譜読みが苦手な人は楽譜を何度も読んでいくのは面倒なので、楽譜を何度も読みなおさなくてもいいように、比較的暗譜が速い人が多いのではないかなと思います。
どちらが悪いということではありません。どちらにも良さがあります。
教える立場から言えば、譜読みは音を読むのを手伝ったり、リズムを読むのを手伝ったりできるのですが、暗譜は結局、何度も弾くしかないので、自分自身で頑張って覚えるしか方法がありません。
今回は「暗譜をするときのコツ」や本番でミスをしたり、止まったり、暗譜が飛んでしまったとしても、「ちゃんと最後まで弾けるようになる練習方法」、「本番前に緊張を和らげる方法」について書いていきたいと思います。
■ 目次
暗譜は誰が始めたのか?
演奏会や発表会などでピアノをソロで演奏する場合、暗譜で弾くのは当たり前になっていますよね。暗譜で演奏するのを始めた人がいなければ、現在のように暗譜ではなく、楽譜を見て弾くのが当たり前だったのかもしれません。
暗譜をして演奏し始めた人とは誰だったのでしょうか?
それはクララ・シューマンだと言われています。シューマン??聞いたことある名前ですよね?
皆さんが知っているシューマンの奥さんがクララです。彼女はとても才能のあるピアニストで、演奏旅行のときに自分のピアノを会場に持ち込んでいたそうです。
その彼女が暗譜で弾くというのを始めたそうです。クララが暗譜を始めるきっかけを作ったのはリストでした。
リストは即興がとても得意なピアニストで演奏会では自作の曲も弾きましたが、他の作曲家のピアノ作品だけでなくオーケストラ作品も自分流にアレンジして弾きました。そのため楽譜を見るということがなかったようなのです。
楽譜を見ないで弾くということだけを見れば、リストが最初と言えるかもしれません。
しかし、リストではなくクララが暗譜を最初に始めたと言われているのは、リストのようにアレンジして弾くのではなく、現在のようにその作曲家の書いた楽譜を忠実に弾いて再現したからだと思います。
暗譜する必要はあるのか?
私はしっかり曲想をつけられて表現が出来るのであれば、楽譜を見ても問題ないと思っています。
クララ・シューマンよりも前の時代では楽譜を見て弾いていたわけですし、絶対楽譜を見て弾いてはいけないというわけではありません。
しかしコンクールや音楽大学、音楽高校の入試などは楽譜を見ないで弾くように指定があることがあり、暗譜で弾かなくてはいけません。
難しい部分は覚えていないと弾けないと思いますし、暗譜すると楽譜を見る必要がないので、音に集中出来ると思います。
私の音楽教室の発表会では基本的には暗譜で弾かせますが、どうしても暗譜が間に合わない生徒には直前に楽譜を見て弾くことを許します。
子どもの場合、楽譜を見て弾いていいと思うと、練習量が減ったり、音楽を作りこむ気持ちが薄れたりしてしまう気がするので、暗譜をさせることにしています。
暗譜は曲の構成がどのようになっているのかを理解していないとできません。
暗譜は何度も練習して覚えていくしかありません。そのため楽譜を見て弾く場合よりも単純に練習量は増えると思います。
楽譜を見て弾くよりも暗譜をした方が曲への理解がより深くなりますし、曲の完成度が上がると思いますので、なるべく暗譜をしましょう。
暗譜をするときのコツ
皆さんは暗譜をどのようにしていますか?何度も弾いて何となく覚えていませんか?
練習時など平常心なら弾けていたのに、レッスンや本番の時になったら暗譜できていたハズなのに弾けなくなったということはありませんか?
緊張して出来なかった部分というのが暗譜の甘い箇所ということです。緊張したときのことも予想し、暗譜の練習することが必要です。
どのように暗譜をしていくのか私なりの方法を書いていきますね。
1、覚えられているところと覚えにくいところを見極める
何度も練習していれば楽譜を見なくても弾ける箇所が多く出てくると思います。逆に楽譜を見ないと弾けない部分や何となくしか頭に入っていない部分というのも出てくるはずです。
それをまず見極めます。覚えようと思わなくても覚えられているところと覚えようと思わないと覚えられないところを見つけて、覚えられていないところに印をつけていきます。
これをすると覚えられていないところがしっかり認識できます。最初から全部通すのではなく、暗譜の練習はまずこの印の部分を集中的に練習すればいいのです。
2、いつも最初から弾かない
1がクリアできたら多分通して弾くことは可能になっていると思います。それでは次の段階に進んでみましょう。
発表会でこんな状況を見たことありませんか?
途中で暗譜が飛んで弾けなくなって、最初から弾き始めたり、何度も同じところを弾きなおしたりとなかなか次に進まないパターンを…
聴いている方もヒヤヒヤしますよね。ちゃんと終われるんだろうかと心配になります。
これはいつも最初から弾く練習や、通しの練習ばかりしているからです。これを防ぐ方法は毎回最初から弾く練習をしないことです。
じゃあどこから弾くのかというと、まず楽譜をよく見て下さい。曲には必ず区切りのよい部分というのがあります。
例えばメロディーの切れ目や、調が変わるところ、テンポが変わるところ、リズムが変わるところ、伴奏形が変わるところなど、色々と区切れるポイントがあると思います。(区切り方は曲の形式に関係なく、ご自身が区切りがいいと思ったところで大丈夫です。あまり細かく区切らなくても大丈夫です。)
区切れるポイントを見つけたら、初めから番号をふっていきましょう。
(※この時に弾きにくい箇所も見つけておいて、最も難しいと思うものを1番という風に番号をふっておくと、どこを最も練習しなくてはいけないかがはっきりわかって、効率の良い練習ができます。)
区切りを見つけ、番号をふったらいつも1番からではなく、今回は2番から、さっき2番からやったから今度は4番からなど、いろんな番号から練習するようにします。
そうしていくうちに、楽譜を見なくても何番はここからだったなというのが頭に入ります。
この練習をしておくと、もし途中でわからなくなって弾けなくなったとしても、次の区切りの出だしやその周辺に飛んで弾くことができるようになります。
3、片手ずつの練習をする
2までやっていればたいてい弾けると思うのですが、もっと暗譜の練習をしようと思えば、片手ずつの練習をしてみて下さい。
右手はメロディーになることが多いので、テクニック的に難しくて詰まることはあっても、忘れるということはあまりないと思います。
しかし、左手はどうでしょうか?
なぜ止まってしまったのかを考えてみると、左手の和音がわからなくなるなど、左手に原因があることが多くないですか?
左手がどのような音になっているかというのをメロディー抜きでちゃんと聴いたことがありますか?右手と合わせて弾いてこんな音というので覚えていませんか?
それでは緊張したときには弾けなくなるかもしれませんよ。
怖がらせたいわけではないのですが、そんなことにならないためには左手の音の確認を右手以上にしておいた方がいいと思います。
音をちゃんと意識して理解しておくと弾けなくなることはありません。
どんなことがあっても必ず弾き切れるようにする方法
先ほどの3点をやっていればもう大丈夫だとは思いますが、私は緊張しいなので、まだまだ暗譜の練習をします。
ここからはこんな方法もあるんだ!くらいで見て頂けたらと思います。
1、譜面台を閉じて、自分の演奏を録音する
楽譜を閉じるだけでなく、譜面台も閉じ、録音することで普段とは違う緊張した状態を作り出すことができます。
2、イヤホンを片耳だけして全く関係ない音楽を流し、片手だけの練習をする
これは気が散ってしまったり、パニックになったりした状態を自ら作り出し、片手だけの練習をする方法です。弾く曲とは全く関係のない音楽を流すので、かなり集中力がいりますし、難しいと思います。
しかしこれができるようになれば客席の音が気になって演奏を邪魔されるということはなくなります。
3、ピアノのフタを閉じ、指だけを動かす
これも難しいです。音は鳴らさずに指だけ動かします。音は頭の中で想像します。
曲想もつけて指を動かします。普段は弾いた音を聴きますが、この練習では音は鳴らさないので、音以外のことに注目することができます。
これをすることで、自分が指や手首をどのように使っていて、どのくらいの力で弾いているのかというのもよくわかります。
これをやってみると指づかいがちゃんと覚えられていないことがよくわかり、どれだけ音を頼りにして弾いているのかもわかります。
両手ができたら、片手ずつも挑戦します。
4、指も動かさない
最後は指も動かしません。頭の中で音楽を流します。両手だったり、片手ずつだったり、最初から通したり、途中からだったり、いろんなところから頭の中で演奏します。
指を動かさないと意外と音楽が流れてこなかったりするんですよね。これができれば暗譜はもう大丈夫です。
この方法のよいところは、ピアノがなくてもどこでも暗譜の練習ができることです。もしわからなくなっても、焦らないで下さい!このやり方が1番大変なんですからね。わからなくなったら楽譜を見て確認して下さい。
ここまでやれば、どんなに失敗しようが、止まろうが、必ず弾き切ることが出来ます。私はこれらの方法を長く実践してきましたが、弾き切れなかったことは1度もありません。
緊張感はあり過ぎても、なさ過ぎてもダメ
緊張は誰もが経験することですよね。
ピアノの演奏だけでなく、スポーツでの試合や受験などの筆記テストでも緊張すると思います。
筆記テストも緊張しますよね。受験のような将来がかかっているテストはとても緊張すると思います。しかし、ピアノの演奏やスポーツの試合とは少し違う気がします。
なぜかというと、1度答えを書いたあとでもミスがあれば消してなかったことにできるからです。制限時間内であれば何度も書き直すことが可能です。
演奏とスポーツの試合は1度始まるともう後戻りはできません。失敗したとしてもなかったことにはできないのです。そのため1発勝負という点では演奏と試合は似ていると思います。
上手くいけば素晴らしいものになりますが、上手くいかなければ、何でできなかったのかと後悔することになります。1発勝負の怖さはここにあると思います。
いつも上手くいっていたのに本番でできないというのは、緊張感を上手くコントロールできないからです。
これまで本番をたくさんこなしてきましたが、私も完全にコントロールできるまでにはなっていません。頭ではわかっていても、気持ちが…ということがよくあります。
それでも昔よりはコントロールできるようになってきたと思うので、コツを書いてみます。
1、深呼吸
これはよく言われていることですよね。緊張すると呼吸が浅くなります。深く吸うのは大事です。
しかし、普通の状態なら意識して深く吸えても、極度の緊張状態では吸うのも難しい状況になります。
その時に頑張って吸おうとすると過呼吸のような状態になってしまいます。吸えない状況に、もしなっているなら逆に息を全て吐くことに意識を向けてみて下さい。
しっかり吐き切れば、必ず深く吸えます。これを何度かくりかえし、声に出して「大丈夫」と何度か言い、自分に暗示をかけます。これで緊張感が少しほぐれて前向きな気持ちになれると思います。
2、背筋を伸ばす
呼吸にもつながることだと思うのですが、猫背になっているとしっかり吸ったり、吐いたりすることができません。
最近気づいたのですが、自分の演奏している写真を見ると、背筋がちゃんと伸びているときと、きちんと伸びていないときがありました。
このうち背筋がちゃんと伸びているときは割と自分の中で納得のいく演奏ができた時で、きちんと伸びていないときは、イマイチか、失敗したときでした。
自信があるから背筋が伸びているのか、背筋が伸びていたから納得のいく演奏ができたのか、その辺はよくわかりませんが、姿勢を正すことや呼吸は結構重要なことなのかもしれません。
3、体の力を抜く、ストレッチをする
緊張すると力が入ります。力むと指、手首、ひじの動きが悪くなります。
本番に近くなると急に弾けなくなるということがあります。これは力みによるもので、決して指が回らなくなったわけではありません。
上手く力を抜くことができれば、また弾けるようになります。
緊張した状態で力を抜けというのはなかなか難しいので、本番前にストレッチをするといいと思います。
肩や首をグルグル回したり、腰をひねったり、手を背中で組んで上にあげるようにしたりと痛くない程度にやってみましょう。
体がほぐれてきますよ!!
4、自分なりの本番前の過ごし方を見つける
これには、2タイプあると思います。
それは「人としゃべって緊張をほぐす人」と「静かに過ごして集中したい人」の2つです。本番前にしゃべりたくなる人は前者、本番前は口数が減ったり、静かな場所に行きたくなったりする人は後者です。
本番前の過ごし方は人それぞれです。自分がそうだからといって、人も同じとは限りません。しゃべって緊張をほぐす人は、本番を控えている人にしゃべりかけるときは気を付けて下さいね。
練習の時は自分に厳しく、本番は自分を問い詰めない
練習のときは自分が本当に暗譜で弾けるのかをたくさん疑って、厳しく暗譜の練習をしましょう。
しかし本番の演奏の最中に暗譜は大丈夫だろうか?とか次はどうだったかな?などと考えて自分を問い詰めないようにしましょう。
問い詰めるのではなく、これまで練習をよく頑張ったと、褒めてやるくらいの気持ちで本番に臨みましょう。
最後に大切なことは笑顔でいることです。無理やりな笑顔でもOKです!
上手くいくかな?失敗しないかな?など悪いことばかり考えず、口角を上げて笑顔を作りましょう。自然と前向きな気持ちになれます!
前向きな気持ちになれれば、演奏はたいてい上手くいきます!!本番前はとても不安な気持ちになりますが、弾き終えた後はとてもすがすがしい気持ちになります。
そして本番を乗り越えると、演奏テクニックや精神力が成長していることに気づくと思います。
どんなに練習をしても、1回の本番にはかないません!
発表会に出ることをためらっている方も中にはいらっしゃると思いますが、演奏技術や精神力が必ず今よりもアップしますので、ぜひ挑戦してみて下さいね!!
まとめ
◆暗譜で演奏し始めたのはクララ・シューマン◆楽譜を見て弾くよりも暗譜をした方が曲への理解がより深くなる
◆覚えられているところと覚えにくいところを見極める
◆いつも最初から弾かない
◆片手ずつの練習をする
◆練習の時は自分に厳しく、本番は自分を問い詰めない