中学校の音楽の教科書でもおなじみの、シューベルトの歌曲「魔王」をF.リストがピアノ・ソロへ編曲したものです。ピアノだけで聴き映えするように技巧を凝らした編曲となっています。


歌詞はゲーテの詩を採用しており、「もう死んでしまいそうな子供を父親が抱え、嵐の中を馬に乗ってひた走る。子供は魔王の幻覚を見て恐れおののき、ようやく嵐が晴れたところで息絶えてしまう」という内容です。

駆ける馬の蹄の音、吹き荒れる風の音などはシューベルトの書いたピアノ・パートで見事に描写されていましたが、リストはさらに多く音を加えることで嵐の激しさをより鮮明に描いています。

難易度はかなり難しい部類で、ショパンのエチュードに匹敵するレベルだと思われます。しかし、避ける人の多いこの曲をマスターすれば観客受けは間違いなしなので是非挑戦してみましょう!



原曲と何が違う?
原曲の難しさは、オクターヴの連打が続き休憩する暇が無い点にありますが、歌のパートも全てピアノで弾くこの編曲の場合、オクターヴだけの部分は少なくなっています。必要なテクニックの種類は豊富になっていますが、オクターヴの連打という体力勝負の点では容易になっています!

何が難しい?
歌のパートも弾くために、音の数が増えているのが技巧上の難点です。たくさんの音のバランスを整理しつつ、各部分のキャラクターを正確に描いていくのが難しいポイントだと言えます。歌曲の場合、歌詞があるので各部分の解釈は比較的容易ですが、その分自由に演奏する余地はなくなっています。

弾き方と詳細の解説


オクターヴの同音連打が「蹄の音」を描き、左のオクターヴ音階が「吹き荒れる風の音」を描いています。原曲では左手は通常の音階でしたが、リスト編ではオクターヴに書き直されています。吹き荒れる風を描写するという目的から考えると、左のオクターヴが重くなってはいけません。親指が機敏に動くようよく練習しましょう!

オクターヴの高速連打を練習する際は、速度に振り回されず、やや遅めで全ての音を明確な発音で弾くように心がけましょう。その中で、強拍の音と弱拍の音の差をつければリズムがより安定して弾きやすくなると思います。

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メロディーが続いていくよう、長い音を明確に弾きましょう。内声の「蹄」を描写する伴奏形はできるだけ軽快に!この部分では「蹄」「風の音」にメロディーが加わり、3つの役割をこなさなければならないので難しいです。

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この部分に関しては難しいというより、手が小さい場合は演奏不可能と言えます。(そもそもあまりに手が小さい場合はこの曲に挑戦するのはオススメしません。怪我の原因になります。)

どうにか弾こうとする場合は、最初だけFa#-Re-Raのアルペジオで弾き、第2音目からはRe-RaもしくはFa#-Reだけで同音連打する方法が考えられます。

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魔王が囁く部分は、恐ろしい本性を隠しているため明るく軽快な雰囲気です。実はこの箇所は技術的にとても難しいのです。左手部分は原曲では両手で弾いていたものなので、片手になると弾きにくいわけです。左手は手首を時計回りに回す動きで弾きましょう。また、右手もかなり広範囲なアルペジオになっていて難しいため、ゆっくりとポジションを定めていく練習をしっかりやりましょう。

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子供の恐怖感を描く劇的な部分です。広域にわたるReの連続は大きな波のように一息で弾きましょう。冒頭の吹き荒れる風をさらにパワーアップさせるイメージです。

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この箇所は左手が難しいです。左手の理想的な音のバランスを見つけるために、左パートだけを両手に分けて練習しましょう。そのイメージに近づけるように、左手の音をよく揃え、ポジションを決めていくと弾けるようになります。左が自由に弾ければ問題なく演奏できると思います。

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ようやく嵐を抜け出て一時安堵する場面です。伴奏形で徹底して描いていた疾走感を緩めるべきポイントです。全体的に穏やかで明るめの雰囲気を演出しましょう。

そして、Rechtatifの部分は最後の「語り」です。テンポの枠組みから完全に外れてしまって良い箇所です。原曲では歌手のみでピアノがない箇所なので、一度自分の声で歌ってみるとやりやすいと思います。最後のAndanteのカデンツで一気に緊張感を出しましょう。8分休符を強く意識することで緊張感が生まれます。

まとめ

一つ一つのテクニックが難しい曲で、体力勝負な一面を持っています。しかし、曲の内容自体はシンプルで、また繊細な曲ではないのである程度弾けているだけで様になると思います!無理をして怪我をすることがないように、あまりに音が多い箇所は思い切って音を省くことも重要です。


「魔王」の無料楽譜
  • IMSLP(楽譜リンク
    本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1845年にリショー社から出版されその後コンスタラ社から再版された楽譜です。