ショパンの軍隊ポロネーズは、とても力強くて、かっこいい曲ですよね。
このポロネーズには、ショパンの思いがたくさん詰まっています。ただかっこいい曲で終わらせるのではなく、ショパンについて知るとこの曲への理解がより深まります。

ピアノを教える立場になった現在、私が思うことは、曲と作曲家への理解が深くないと、良い演奏が出来ないということです。

今回は、ショパン自身のことについても触れながら、軍隊ポロネーズの難易度と弾き方のコツについてお教えします。


■ 目次

弾けるようになるにはどのくらいかかる?軍隊ポロネーズの難易度は?


ピアノを習うとだいたいバイエル、ブルグミュラー、ソナチネ、ソナタへと進み、途中「エリーゼのために」などのペダルを使った有名な曲を挟みながら学んで行ったのではないでしょうか。

ショパンの軍隊ポロネーズは、ソナチネを終了し、ソナタを弾ける程度で弾けます。
ただし、この曲は9度や10度が出てくる為、オクターブが余裕で届く手の大きさが必要です。オクターブがギリギリ届く手の大きさでは弾けません。

ショパンのポロネーズは、この他に「英雄ポロネーズ」が有名ですよね。
この2曲では断然、軍隊ポロネーズの方が簡単です。軍隊ポロネーズは、曲の構成が典型的な3部形式でとても分かりやすく、シンプルで弾きやすい曲です。

ショパンのポロネーズの中での難易度では、1番の次に軍隊ポロネーズを弾くと良いと思います。

力強い曲だから「軍隊」はわかるけど、「ポロネーズ」って何?


ポロネーズとは「ポーランド」を意味するフランス語で、ポーランドの貴族の間に伝わる3拍子の民族舞曲のことです。この民族舞曲のリズムを使って作曲されているものをポロネーズと呼びます。

ショパンはポーランドの作曲家ですが、活躍した場や亡くなった所がパリなので、フランス人と思っている方もいるかもしれません。でも、あながち間違いではありません。ショパンの父はフランス人、母はポーランド人です。つまり半分フランスの血が入っているのです。

ショパンは20代で活躍の場をポーランドからウィーンへ、そして最終的にはパリへと移して行きます。
当時ポーランドはドイツ、ロシア、オーストリアの三国により分割統治されていました。

ショパンはフランスからパスポートを発行してもらっており、1度ポーランドに戻るとフランスへ戻れなくなる可能性もあったことから、祖国へ戻ることはありませんでした。しかし、生涯ポーランド人という自覚をもって生きていたようです。

祖国のリズムを使ったポロネーズは、ショパンにとって特に特別だったようで、演奏会ではいつも「アンダンテ・スピアナートと華麗なるポロネーズ」を弾いていたそうです。

ポロネーズの他にもポーランドには代表的な民族舞曲があり、農民の間で伝わった「マズルカ」が有名です。ショパンは、祖国特有のリズムを持つポロネーズとマズルカを多く作曲しています。

帰りたいけど、帰ることができなかったショパン。作曲すること、演奏することで祖国ポーランドへの思いを伝えたかったのではないかと思います。


イメージにピッタリだけど、軍隊ポロネーズとは言って欲しくなかった?

「軍隊ポロネーズ」というタイトルは、ショパンがつけたものではありません。
作曲家がタイトルをつけていないものは、意外とたくさんあるんです。ショパンの「別れの曲」もそうです。

このポロネーズは、もう1曲のポロネーズとセットにして1840年に出版されました。
現在では、ポロネーズを1つの曲集にし、まとめて出版しています。現在の曲集の中では、第3番(軍隊ポロネーズ)と第4番に当たります。

この2曲は1曲目の方が明るく、勇ましい曲調だったことから、軍隊ポロネーズという通称で親しまれるようになりました。2曲目の方は対照的にとても暗い曲調になっています。

ショパンは、女流作家のジョルジュ・サンドと恋愛関係にあったことはよく知られていますね。
ですが、実は彼は文学にはあまり興味がなかったようです。

ショパンは、音楽にタイトルをつけたり、つけられたりするのをとても嫌っていました。文学のようにタイトルがつくと「限定された捉え方しかできなくなる」と考えており、曲を聴いてイメージを膨らませて欲しいと思っていました。

音楽を聴いて感じたことに間違いはないと、私は思います。多くの人と違う感じ方だったとしても
全て正しいと思います。感じ方は、人それぞれ自由です。
曲のタイトルにとらわれず、自分が感じたことを大切にして欲しいとショパンは思っていたので、タイトルのことはちょっと忘れて、いろんなことをイメージしてみて下さい。



おすすめの楽譜はこちらです。パデレフスキー版を私も持っています。

ショパンの思いのたくさん詰まったポロネーズ。弾き方のコツとは?

ショパンのこと、ポロネーズのことが理解できた上で、曲を聴いてみると前とは少し違った感じに聴こえるかもしれません。

しかし、ショパンと曲について理解しただけでは、上手く弾けませんね。
この曲を上手に弾けるようになるポイントは3つです。

弾き方のコツ①リズム感

日本人は元々農耕民族で、生活の中から生まれる歌などがほとんど2拍子でした。3拍子のリズムがなかったことから、3拍子が苦手と言われています。対して、欧米人は狩猟民族で、馬に乗るなど生活の中に3拍子のリズムが自然とありました。このルーツの違いによって、リズム感に大きな差があります。

日本人の苦手な3拍子に加えてポロネーズ特有のリズムです。難しいですね。このリズムをどう弾きこなすかがポイントです。

実際にどうすれば良いのかというと、馬に乗った感覚を想像し、常に3拍子を意識することです。
欧米人達には、自然と出来ることも、私達には意識しないと出来ません。常に1拍目を意識することが必要です。

リズムの取り方は、少しの違いでも曲の雰囲気がかなり変わります。日本人の演奏と欧米人の演奏を聴き比べてみると少しリズムの取り方、感じ方が違うのが分かると思います。

軍隊ポロネーズを楽譜通りに弾くと勢いがなく、間の抜けた感じになってしまいます。
上手に聴こえるコツは、しっかり1拍目を意識することと、符点のリズムを後ろの拍につなげるようにするどく弾き、勢いを出すことです。常に音楽が前へ進んで行くようにしなくてはいけません。

この曲の場合、メロディーをあまり歌おうとするとリズムが崩れて、音楽の流れが悪くなります。リズムが大事ですので、リズムの中でメロディーを歌うつもりで弾くと良いと思います。

16分音符の3連符は、とても動きのある音形です。この部分は力強くではなく、素早くするどく弾き、音楽が停滞しないようにしましょう。

弾き方のコツ②クレッシェンド

楽譜に書いていなくても、音が上行して行く場合はクレッシェンド、音が下行して行く場合はデクレッシェンドするというのが原則です。

この他にも、楽譜に書いていなくてもやらないといけないことがあります。同じ音が連続する場合、弾き方を変えなくてはなりません。たいていの場合クレッシェンドすることが多いですが、場合によります。

軍隊ポロネーズでは、同じ音を連打する箇所がたくさん出て来ます。ここがポイントです。
この曲では、少しクレッシェンドをかけるように勢いで弾くと常に音楽が進んでいる感じが出ます。この部分を同じに弾いてしまうと、幼稚な演奏になりますので気をつけましょう。

細かいことですが、心に響く演奏とそうでない演奏は、このような細かい部分の積み重ねで出来ています。

弾き方のコツ③和音

和音を連続して弾くのは子供の場合、とても大変です。手をかなり開いて弾く和音の場合、力が入ってガチガチになっている子がいます。

軍隊ポロネーズでは、力が入った状態のまま、和音押さえて弾いているのをよく見ます。

この曲は、和音を弾くところがとても多いですね。
力を入れてガチガチにしなくても、和音は弾けます。力を抜いて手首や腕を使って上から少し落とすようにすると無理なく自然と良い音が出ます。落とすと同時に鍵盤を少し掴むようにすると、より芯のある響く音になります。

和音は、押さえつけると動きがなくなりベタっとした感じになりがちです。
符点のリズムを上手く利用し、拍頭で瞬間的に掴み取るように和音を弾くことで、飛び跳ねているような生き生きとした流れが出て、より洗練された演奏になると思います。

この3つができるだけで、ずいぶん上手に聴こえると思います。

ショパンは体が弱く、とても繊細なピアノを弾く人でした。
この曲は弱く弾く部分が全くなく、ガツガツ弾いてしまいがちですが、力任せに弾くのは良くないと私は思っています。力任せではなくペダルを上手く利用してピアノを響かせるつもりで弾いてみて下さい。大きな音でも素敵な響く音を目指して弾いて下さいね。

まとめ

◆ 難易度は、ソナタが弾ける程度。ただし、オクターブが余裕で届く手の大きさが必要。
◆ ポロネーズとは、ポーランドの貴族の間に伝わる3拍子の民族舞曲のこと。
◆ ショパンにとってポロネーズは祖国を思う大切なものだった。
◆ 自分でタイトルはつけていない。タイトルからではなく、曲から想像して欲しい。
◆ リズムが重要。ガツガツ弾かないで、大きな音でも響く素敵な音を出せるようにする。



「軍隊ポロネーズ」の無料楽譜
  • IMSLP(楽譜リンク
    1878年にブライトコプフ・ウント・ヘルテル社から出版されたパブリックドメインの楽譜です。


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