F.リストの「パガニーニによる大練習曲」は、最高のヴァイオリニストと謳われるN.パガニーニの作品を土台に作られた難曲集です。
リストは、パガニーニの演奏を初めて聴いた際に、とてつもない衝撃を受け、「自分はピアノのパガニーニになってやる!」と宣言し、ピアノの猛練習に励んだと云われています。
全6曲の構成で、最も有名なのが第3番の「ラ・カンパネラ」で、次に有名なのがこの第6番でしょう。この第6番のテーマは、J.ブラームス、S.ラフマニノフ、W.ルトスワフスキなど、多くの名作曲家が作曲の素材に用いています。それだけの魅力があるテーマと言えます。
難易度的には「ラ・カンパネラ」とほぼ同等ですが、跳躍など極端に難しい箇所が少ない分、「ラ・カンパネラ」よりやや易しい作品と言えます。
■ 目次
主題
この曲は全体を通して、パガニーニの原曲をとても忠実に再現しています。なので、まずはヴァイオリン原曲の楽譜通りに演奏することで曲の性格と求められているテンポを把握することが大切です。ピアニスティックな効果を求めてリストが書き加えたアルペジオが、この主題の演奏難度を飛躍的に高めています。Quasi prestoのテンポでこのアルペジオを弾くということは、アルペジオをかなり速く弾くことが要求されます。
やや厳格な雰囲気を持ったテーマですので、アルペジオを始めるタイミングはシビアになります。左手の一番下の音と第1拍目を完全に合わせ、6〜9個の音で構成されるアルペジオを一気に弾くと緊張感が生み出せます。
練習方法としては、スタッカートによる練習、右手の親指から小指の音までだけ跳躍する練習が有効です。また、練習の過程では、すべての音をかなり強めにはっきりした発音で弾いておく必要があります。軽やかさは必要ですが、強く弾ける準備はできていないと重大なミスにつながります。
もう一点、2拍目直前の同音連打が、装飾音ではなく32分音符で書かれていることに注目しましょう。もし装飾音であったなら、演奏上の自由が多少許されたかと思いますが、このような書き方をしている場合には、可能な限り楽譜通り弾くことが求められています。
バリエーション1
左右で3対4のリズムになっており、ここに広域アルペジオや重音が加わるので特に難しい変奏です。これほどメトロノームでの練習が有効な曲もそう無いのではないかと思います。左も右もリズムは機械的な正確さが必要です。(動画00:35-)
すべてのアルペジオの開始音は、拍の頭とぴったり合わせるよう注意しましょう。また、左手の2音連打は必ず異なる指を使いましょう。同じ指を2回弾くと、どうしても表情が消えやすく、力も入ってしまいがちです。これは他の曲を弾く場合でも同様ですので、指使いを選ぶ際には念頭に置きましょう。
右手の重音は、弾きにくいのですが、ミス以上に音のバランスが悪くなりやすため危険な箇所です。常に最高音に指の意識を集中しましょう。指を速く動かして鋭い音で弾くと弾きやすくなっていきます。
(動画00:43-)
バリエーション2
半音ばかりで、モヤモヤした印象の変奏ですが、弾き方までモヤモヤさせてしまうと何を弾いているのかわからなくなってしまいます。pの中ですが、半音の発音がすべて聞こえるようにゆっくり練習しましょう。テンポを上げて練習する際には、まず左手の和音を取り除いて、16分音符の動きだけで流れを作る練習が重要です。(動画00:51-)
この変奏の装飾音も、すべて拍の頭とぴったり合わせて弾きましょう。Perdendosi(消え行くように)も、左の16分音符、右手の和音が正確に発音するよう注意してください。
バリエーション3
ようやくリストらしくなってきて、energicoの指示がある荒々しい変奏です。テクニック的にはオクターヴのみで、主題では32分音符で厳密に書かれていた連打音も、ここでは16分音符になっているので、悠々と弾くことが可能になります。(動画01:18-)
唯一の問題点は10度の連続でしょうか。もしあなたが巨大な手の持ち主であれば、一掴みに弾いて何の問題も無い部分です。たいていの場合は一掴みに出来ないので、小指に意識を集中し、小指で正確にリズムを刻みましょう!親指は跳躍した先に当てていくだけです!
(動画01:29-)
バリエーション4
バリエーション3に続きオクターヴの変奏ですが、ここでは速いテンポと軽快さが要求され、半音のためミスは起こりにくいですがとても弾きにくいです。(動画01:40-)
例えばF.ショパンの練習曲op.10-2を練習する場合のように、オクターヴの上の音だけを3,4,5の指だけでとても速いテンポで練習すると上達の近道になると思います。この曲では、最高音を小指の連続だけで弾ききるような力技は向いていないように思います。
バリエーション5
この変奏の緊張感は、各小節第1拍目の音によって維持されています。テクニック的にはポジション移動にヒントがあります。3連符を弾く前には、右手が最適なポジションへの移動を終えているようにすることが重要です。また、3連音が上行の場合と下行の場合でクレシェンド、ディミニエンドの変化をつけましょう。(動画01:59-)
バリエーション6
再び荒々しい変奏が登場しました。オクターヴと3度重音のテクニックです。(動画02:20-)
リストは、強烈な音色を求める場合に、このような3度で同じ指使いを指定しています。例えば《超絶技巧練習曲集》の第4番「マゼッパ」などは有名な例です。
(マゼッパ:動画01:25-)
決して難しい技術ではありませんが、指の強度が求められます。指の速さ、つかむ力など、いろんな方向からアプローチして訓練すると良いと思います。音質的には「突く」動作が有効です!
私はとても指が強いのですが、指立て伏せなど負荷の強いトレーニングを採用したため、幾度となく腱鞘炎を発症しています。即効性はありましたが、リスクが大き過ぎるので全くお勧めできません。ピアノで必要な筋力は、ピアノの練習で身につけるのが最も有効だと今は考えています!
バリエーション7
この変奏の難しさはアーティキュレーションです。基本的に、変奏曲ではテンポを統一することが前提なので、この変奏は速いテンポで弾かなければなりません。しかし、ラシラ-シドシ-ソ#ラソ#-ミファミと3つずつ音が区切られているのが厄介です。(動画02:43-)
有名ピアニストの録音を聴いていても、アーティキュレーションを完全に無視して、速いテンポで一息に弾ききっている場合や、テンポを落として丁寧に処理するかの2通りが主流になっています。
工夫できる余地があるとしたら指使いです。リストやバルトークの作品では、技術的に不可能だと感じるほど難しいアーティキュレーションがしばしば見受けられます。こうした場合は、アーティキュレーションにふさわしい指使いを採用することで、演奏中に特別な意識をしなくても楽譜に忠実な演奏が可能になります。
この曲の場合は設定するテンポによって指使いも大きく変わってきます。
バリエーション8
この変奏では、左手が表拍にあり主導権を握っています。右手の裏拍に入れていく技術が難しいポイントだと思います。太鼓を交互に叩くような動作で、動きを音符に当てていくような意識で練習すると演奏が容易になります。(動画03:05-)
特に最後の小節に入る直前のソ#シミソ#の和音は速度が上がりすぎて飛び込まないように注意しましょう。次の変奏にアタッカ(休憩なし)で入ると緊張感が持続されるので、アタッカをお勧めします。
(動画03:17-)
バリエーション9
quasi pizzicato(ピッツィカートのように)との指示があるのがポイントです。原曲でもピッツィカートが要求されており、演奏困難ながらも独特の雰囲気を醸し出している部分です。(動画03:20-)
ピアノで演奏する際も、原曲への敬意を払って模倣するというアイデアも十分にありえます。しかし、ピアニスティックな演奏効果を求めるのであれば、このピッツィカートはレッジェーロ(軽快に)くらいの意味に拡大解釈してもギリギリ許される範囲かもしれません。
世界的最高のヴィルトゥオーゾ・ピアニストとして名高いM.A.アムラン氏は後者の方法を採用しており、その代わり極めて速いテンポで弾き、疾走感のある演奏効果に仕上げています。私個人としてはこの方法をとても好んでいます。
バリエーション10
クライマックス直前の物憂げな雰囲気の変奏です。ここでのトリルは、全て32分音符で演奏します。トリルの繊細さも重要なポイントですが、最も重要なのは旋律の扱い方です。(動画03:36-)
ヴァイオリンであればどのように弾くだろうか?ボーイングはどのようになるだろうか?ということをよく考えるのが大切です。いくつかアクセントが書かれているのでそれらの響かせ方、目立たせ方がこの変奏の魅力を引き出すきっかけになります。
バリエーション11
いよいよクライマックスの変奏です。重音入りのアルペジオ、オクターヴが多く用いられており、ヴィルトゥオーゾ的な性格が強く表れています。(動画04:18-)
テンポも速く、音数も非常に多いので音を整理することが先決だと思います。音のラインを把握するために、ラドシラ(左)-ミミソファミ(右)だけ練習しましょう。左手メロディーの後打ちは、重くなったり音が伸びたりしないように、全て2の指でとても鋭く弾きましょう。
(動画04:40-)
この難しいパッセージは、左を中心に推し進めましょう。右手は、2-3-4の音を同時に掴んで速くポジションを移動する練習を積むと良いです。もちろん、2-3-4だけで速い音階を弾く練習もお忘れなく!
まとめ
やや特殊なテクニックが盛り込まれている難しい曲ということが分かりましたね!3:4のリズム、重音を伴った急速なパッセージ、オクターヴ、10度、アルペジオに激烈な音色…どれもリストの作品で頻出するテクニックの数々です。この曲をクリアしておくと、リスト作品の攻略が捗ること間違いなしです!
この曲をマスターして、さらなる難曲たちにも挑戦していきましょう!
「パガニーニによる大練習曲第6番」の無料楽譜
- IMSLP(楽譜リンク)
本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1911年にブライトコプフ・ウント・ヘルテル社から出版されたパブリックドメインの楽譜です。「パガニーニによる大練習曲」全6曲が収録されており、第6番は33ページ目からになります。
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