ドビュッシーの名前は知らなくても「アラベスク第1番」は聴いたことがあると思います。
TVやCMでクラシックの曲はたくさん使われていますが、この曲はとても柔らかな響きがするからなのでしょうか、本当によく使われていますよね。最近では、auのCMで使われていましたね。

ドビュッシーは、今では大好きな作曲家の1人ですが、音大時代の私はドビュッシーがあまり好きではありませんでした。それまで学んで来た弾き方ではどうしても上手く行かず、かなり悩んだからです。あることがきっかけで弾き方のコツがわかった時はとても嬉しかったです。

小・中学校の音楽の授業では、だいたいロマン派の音楽までを取り上げていて、その後についてはあまり学ぶ機会がありません。ドビュッシーは、ロマン派以降の作曲家なので、曲は聴いたことはあるけど作曲家については知らない人がとても多いです。

ドビュッシーは、ロマン派までとは少し違った音楽を取り入れて作曲しているので、弾く時はそれを理解していなくてはいけません。

今回は、ドビュッシーが活躍した時代についても触れながら、難易度と弾き方のコツをお教えします。



ドビュッシーってどんな人?優秀だけど、模範生ではなかった!?



ドビュッシーは、ロマン派以降の近・現代と言われる時代に活躍したフランスの作曲家です。
1862年にパリ近郊で生まれ、ショパンの弟子だったモテ・ド・フルール夫人にピアノ習い、72年にわずか10歳でパリ音楽院に入学しました。小さい頃から優秀だったようです。

音楽院での彼は、模範生ではなかったようですが、個性的な才能を見せていました。
84年には、カンタータ「道楽息子」でローマ大賞を受賞しました。

受賞者には、3年間の留学が義務づけられていましたが、ドビュッシーにとってこの留学は、とても窮屈なものだったようで、2年で切り上げ、パリに戻ってしまいました。

「音楽は、窮屈な形式で縛るべきではない。もっとおおらかに作るべきだ。」とドビュッシーは言っていたそうです。この様に考えていたドビュッシーにとって、これまでの決まりきった作曲方法を学ぶのは、とても退屈だったのでしょう。

この時期は、ロマン派までの調性のはっきりしている音楽から、和声を崩して音の様々な可能性を考え、新しい音を作り出して行こうと試みている頃でした。

当時は多くの作曲家がワーグナーから影響を受けていました。調性音楽はもう限界を迎えていて、これ以上の発展はありえない所まで来ていました。これ以上変化する為には、他の作曲方法を考えるしかありませんでした。

ドビュッシーもワーグナーから影響を受けていましたが、ワーグナーの音楽はあまりに雄弁で押しつけがましいと感じていた為、自らの美的感覚とは合わないと思っていたようです。

どのように作曲すれば良いのか悩んでいたドビュッシーですが、1889年のパリ万博で突破口を見い出します。

パリ万博で初めて聴いた東洋の音楽に魅了され、これならロマン派の調性音楽から脱却出来ると確信します。特にジャワのガムラン音楽に強い影響を受けました。

ドビュッシーはパリ万博以降、「全音音階」、「五音音階」、「教会旋法」など、調性を感じない音階と、民族的な自由なリズムを使って作曲するようになります。

パリ万博では、日本の浮世絵や版画も紹介され、とても人気だったそうです。浮世絵や版画は、この時期に活躍していた印象派の画家達に大きな影響を与えました。

ドビュッシーも自室に版画を飾っていたそうです。
自身の代表作である、交響詩「海」の楽譜の表紙に、葛飾北斎の作品をプリントし、出版してしまう程、浮世絵や版画がとても気に入っていたようです。

もし、パリ万博で日本の音楽が紹介されていれば、日本らしい曲がドビュッシーによって作曲されていたかもしれませんね。

みんなで切磋琢磨!!いろんな分野の才能ある人達から影響を受ける。


ドビュッシーを知るには、この時期の美術界のことを少し理解しておく必要があります。

この頃、美術界でも変化があり、写実主義から脱却しようとする画家達が、保守的な画家や批評家から激しく批判されながらも、展覧会を開催していました。

この展覧会を見て、新聞記者のルイ・ルノワが、クロード・モネの作品「印象・日の出」のタイトルから皮肉を込めて「印象派」と呼びました。それ以降、写実主義から脱却しようとする画家達のことを印象派と呼ぶようになりました。

印象派は、光の動きをいかに表現するかに重きを置きました。
現実をありのまま、細かいタッチで描く写実主義と違い、印象派は自然な光を大切にした為、野外で描くことが多く、絵全体が明るく、写実主義の画家達よりも荒々しいタッチになりました。

このように、ほぼ同時期に美術界での運動「印象派」があったことから、この時期の音楽も印象派と呼ばれています。

ドビュッシーの活躍した時期は、大きく区分すると近・現代ですが、近・現代だとあまりにも幅が広すぎるので、その時代をまた細かく分類し、印象派と呼んでいます。

同時期に文学にも、変化がありました。
この時期は、美術界、文学界、音楽界がそれぞれ変化しています。
パリには、才能ある画家、詩人、音楽家達が交流する「火曜会」という場があり、彼らは分野を越えて良い影響を与えあっていました。

どの分野にも共通して言えることは「前の時代とは、違うことをした」いうことです。
同じ分野だけでなく、様々な分野の人達と出会い、話す機会があったということで、良い刺激となり、創作意欲も湧いたのではないかと思います。

難しそうには聴こえないけど「アラベスク第1番」の難易度は?

月の光 ~ドビュッシー / ピアノ名曲集

この曲はただ弾くだけなら、そこまで難しくありません。
譜面上の難易度としては、中くらいです。

しかし、近・現代の作品を弾くには、ロマン派までの弾き方がしっかり出来ていることが大前提です。そのような理由から教本のソナタアルバムが弾ける程度の技術は欲しいです。

印象派の作品は、特にイメージが大事になります。感じたことを表現するには、様々な弾き方が出来ていないといけません。

強弱だけでなく、高低差などもイメージとして表現できるようになると、とても素敵な演奏になります。立体的に音楽を作れるようになるには、ある程度の曲を弾き、経験していることが重要なのです。

ドビュッシーのピアノ曲の中で「アラベスク第1番」の難易度は低めです。「子どもの領分」の次に弾くのがオススメです。

この曲はピアニストも弾くことがあります。
さすがにプログラムのメインではありませんが、アンコールで弾くのを聴いたことがあります。
演奏時間が短く、曲調が穏やかで、みんなが知っている曲なので、アンコールに選ばれることがあります。

「アラベスク」ってどういう意味?上手に演奏する弾き方のコツは?


このアラベスクは「2つのアラベスク」として2曲セットで1888年に作曲され、1891年に改訂されました。

アラベスクとは、アラビア風の模様のことです。ドビュッシーは模様をイメージしてこの曲を作ったと言われています。

アラベスク第1番は、彼の初期のピアノ作品にあたる曲で、全音音階や五音音階はあまり出て来ませんが、既にドビュッシーらしさが出ています。

弾き方のポイントは3つです。

ポイントその①リズム

この曲で、まず最初に克服しなければならないのは、右手3連符に対し左手8分音符のリズムです。右手と左手のカウントの仕方が違うので最初は戸惑うと思います。

右手は3つ、左手は2つのカウントで進みます。まずは、このズレに慣れましょう。
机を叩く練習をしてみると良いと思います。右手と左手が合う所は最初だけです。
そして、右手の3連符の2つ目と3つ目の間で左手を入れるという感じで叩いてみて下さい。

しかし、このままだと多分、右手の3連符の真ん中が他の所よりもアクセントがついてしまっていたり、リズムが長くなっている状態だと思います。

均等に3つに分割出来ていないと3連符ではありませんので、3連符がきちんときれいに叩けるように右手を意識し、左手は機械的に動かすようにします。

これが出来たら、実際に弾いてみて下さい。きっと上手く行くハズです。

ポイントその②イメージする

右手がメロディーのように感じると思いますが、左手はただの伴奏ではありません。
上行したり下行したりする音形をただ弾くのではなく、2人が別々に歌っているようにちゃんと意思がある弾き方をしなくてはなりません。

途中で、声部が増える箇所があり、3人、4人になる所があります。どの音もイメージを持って弾くことが重要です。

右手と左手がだんだん近づいて来て一緒になるかと思えば、また離れて行く。
この行ったり来たりがアラビア風の模様を表しているのではないかと私は、思います。

真っ白で何もなかったところに何人かで模様を描いて行き、だんだん模様が出来て行くイメージで私はいつも弾いています。

イメージは、人それぞれで良いのですが曲を感じ、想像し、それを表現することを忘れてはいけないと思います。

実際に、音を出して表現するのはとても難しいことです。まずはイメージし、どのような音がその場所に相応しいのか、どうしたらその音を出すことが出来るのかを練習して探るしかありません。

ドビュッシーの時期くらいから、作曲家が自分の思いをほとんど全て楽譜に書き込んでいるので、書いてある指示は必ず守らなくてはいけません。このことも頭に入れおいて下さい。

ポイントその③スタッカートで練習すること

ドビュッシーの曲は、フワフワと漂っているように聴こえると思いませんか?
確かに曲全体としては、ふんわり聴こえます。しかし、1つ1つの音は重みのかかっていない、芯があるキラキラした音です。

何となくふんわり優しく弾くと、何を表現したかったのか分からない、ぼやけた演奏になるんです。
私は、これに気づくのに時間がかかりました。

音大時代、ドビュッシーを勉強していた時に先生に、「もっとしっかり音を立てなさい」とよく注意をされていました。注意を守ろうとすると、しっかり弾こうとして重みがかかってしまうんです。
そうすると、ドビュッシーではなくなるんです。

レッスン中に、CDばかり聴くんじゃなくて同じ頃の印象派の絵を見てみなさいと言われたことがありました。何で先生は、音楽と関係ないものを見ろなんて言うんだろうと疑問に思いましたが、図書館で見てみることにしました。

印象派の画家の絵をたくさん見ました。
どれも素敵な絵でしたが、あまり参考にはなりませんでした。

しかし、たくさん見て行くうちに、1つだけ参考になった絵がありました。
スーラという画家の「グランド・ジャット島の日曜日の午後」を見た時にこれだ!!と思ったのです。

この絵は、点描という技法で描かれている作品です。遠くでみると普通の絵ですが、近くで見ると細かい点だらけ。気の遠くなるような作業をして描いた絵です。

ドビュッシーの音楽もこれと同じなんだなと思ったのです。
全体は、ふんわり柔らかく聴こえても、1つ1つは芯のある音。でも、重みはいらない。

この弾き方を実現させる為の練習方法は、1つ。

腕や指の重みをいっさいかけないように注意しながら、とにかくスタッカートで練習することです。出来る限り短いスタッカートで瞬間的に音を掴む練習をすると、だんだん思い通りの音が出せるようになりました。

このことがきっかけで、ただ弾くだけでなく、作曲家の時代背景も調べるようになりました。

どこにヒントが隠れているかはわかりません。より深く曲を知ろうと思ったら、作曲家にも目を向けるべきだと私は思います。

この曲をただパラパラと弾いて、きれいな曲だけで終わらせるのはもったいないと思います。

人それぞれ感じることは違うと思いますが、イメージを膨らませて表現するところまで、持って行けるように深く楽譜を読み込んで見て下さい。

きれいなキラキラした音が出せるように努力し、自己満足ではなく、人に伝わる演奏を目指しましょう。

まとめ

◆ドビュッシーは、近・現代の印象派を代表するフランスの作曲家
◆ロマン派までの調性音楽から脱却するために、全音音階や五音音階を使って作曲した
◆同じ時期に活躍していた詩人や画家達からも影響を受けていた
◆右手と左手のリズムのカウントの仕方が違う箇所が出てくるので、ズレに慣れる
◆イメージを持って弾く
◆重みのかかっていない、芯があるキラキラした音が必要


「アラベスク第1番」の無料楽譜
  • IMSLP(楽譜リンク
    1891年にデュラン社から出版された楽譜です。
  • Mutopia Project(楽譜リンク
    最近整形されたきれいな楽譜です。

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