「英雄ポロネーズ」はショパンの中でも人気の高い曲の1つですよね。

私もこの曲は大好きな曲です。
しかし、練習するのは良いのですが、この曲は私にとっては本番で弾きたくない曲の1つでもあります。聴くのは、とてもかっこよくて素敵なのですが、弾くのが大変なんですよね。

この曲には難所がたくさんあって、弾くには体力と気力が必要です。

曲全体を通して力強く弾かなければならないところばかりで、指を休ませる部分がほとんどないんです。

でも1度は挑戦してみたい曲ですよね!!

以前、ショパンについてとポロネーズについては、書かせて頂きましたので、今回は「英雄ポロネーズ」の曲の仕組みと難所に触れながら、難易度と弾き方のコツをお教えします。



「英雄ポロネーズ」の曲の仕組みを知る為に、楽曲分析をしてみよう!


音楽を聴いていると、全く同じ部分や似ている部分が繰り返し、聴こえてくることがありませんか?
それは、音楽に形式があるからです。

作曲家は音楽の流れが停滞しないようにする為に、1つの曲の中に全く違う曲想のものを入れて作曲します。

しかし、違うものばかりを入れると、曲としてのまとまりがなくなり、聴いている人に同じ曲だ
とわかってもらえないので、同じ部分、似ている部分も入れながら、曲を作っています。

「英雄ポロネーズ」にも形式があります。早速、曲の仕組みを見て行きましょう!!

この曲の形式は、複合3部形式で、構成は、このようになっています。

序奏

主部

中間部

主部

コーダ

この曲は全体が16小節ごとに区切られています。
16小節の中をもっと細かくすると4小節単位に区切ることが出来ます。

中間部分はこの形がやや崩れますが、形式としてはとてもわかりやすい作りになっています。



「ポロネーズ」というのは、このリズムを使って作曲された曲のことです。

しかし、曲の始めからポロネーズのリズムが出て来なければならないというわけではありません。

[序奏]


この曲は始まってすぐにはポロネーズのリズムを刻んでおらず、16小節の序奏が代わりについています。この部分は、もっと短く出来たハズですし、曲の構成的にはなくても良い部分のようにも見えます。

しかし、この部分があるからこそポロネーズのリズムが生きてくるのです。

16分音符で書かれている右手の4度の音程は不安定に聴こえる響きです。
そこに、左手が半音ずつ上がってさらに不安感を煽っています。

この序奏の部分には半音がたくさん使われていて、調性が分からないように出来ている為、全体がとても不安定に聴こえるんです。

安定した音(1小節目の4分音符、2小節目の8分音符と4分音符)と不安定な音(16分音符部分)が順番に出てきて、方向性がよく分からないまま進んで行きます。


そして、序奏の最後の4小節で同じ音形を何度も繰り返し聴かせることで次に何が来るんだろうと期待を持たせています。


その後、待ちに待ったポロネーズのリズムを聴くことがようやく出来るのです。

[主部]


やっと主題が出て来ましたね。
しかし、楽譜を見ると、左手がポロネーズのリズム刻んでないんですよね。

でも、曲を聴いてみると、確かにポロネーズのリズムが聴こえますね。
どこにあるかというと、実は右手と左手に分かれていて、合わせるとポロネーズのリズムが完成するという作曲テクニックが使われているんです。

主部では、この主題が3回出て来ます。
1回目(簡易版)→2回目(1回目とは少し変化、通常版)→経過句(主題とは別のもの)→3回目(2回目と同じ通常版)

[中間部]


中間部の途中から左手のオクターブが動くあの有名な部分が出て来ます。
楽譜だけみると、下行している16分音符がずっと連なっているように見えると思います。
弾いてみるとわかるのですが、この部分、実は動きが途中で変わっているんです。

最初は鍵盤を白→黒→黒→白と弾きますが、
途中から、黒→白→白→黒と弾かなくてはいけません。
白鍵からだと、反時計回り
黒鍵からだと、時計回りになります。
つまり、白鍵から弾くか、黒鍵から弾くかで、手の動きが変わるのです。

しかもこれが、2回あるんですよね。
あぁ~大変!!

この部分がこの曲の中で1番大変です。
弾くにはコツが要ります。コツと練習方法については、後で説明しますね!

オクターブが終わった後から主部に戻るまでの間は、これまで出てきた部分とは全く違ったものが2つ出て来ます。

1つ目は、ポロネーズのリズムをしっかり刻む部分です。

2つ目は、ここでは左手はリズムを刻みません。そして右手のメロディーは、ふわふわと漂っているような感じです。ここは、これまでずっとあったリズムの刻みがなくなって、落ち着く部分です。

序奏部分と同じようにこの部分があるから、主部の主題が戻って来た時に、「来た~」という感じになるんです。

[主部]


通常版の主題が再現されています。

[コーダ]


主部の後、8小節のコーダがあります。


初めて弾く曲はすぐに弾き始めるのではなく、弾く前にこのようなおおまかな曲の分析をしてみると良いと思います。

分析をすると良い点が3つあります。
●曲の全体像が分かり、同じ部分や似ている部分を見つけることができる為、譜読みがしやすい
●形式が頭にしっかり入っている為、暗譜もしやすくなる
●曲の全体の頂点をどこに持って行けば良いのかわかるようになる

すぐに譜読みに取り掛からないのは、遠回りしているように思えるかもしれませんが、自分なりに楽曲分析をすることは、最終的には、近道になると思いますのでやってみて下さいね。

「英雄ポロネーズ」の難易度はどれくらい?

「英雄ポロネーズ」の難易度は、間違いなく上級です。

この曲は、オクターブが届かないと弾けません。オクターブが無理なく届く手の大きさがないと、弾くのは無理なので、届かなければ諦めた方が良いです。

手の大きさがクリア出来た人には、次の難関があります。

この曲は芯のある、しっかりした音が必要です。腕や手首を使わなくても、指だけでしっかり音を出せる人でないと、この曲の曲調から考えると、弾くのはキツイかなと思います。

人それぞれ骨格や筋力が違いますよね。その為、出せる音は人によって違います。
演奏者が元々持っているタッチの違いによって、この曲の完成度は左右されると思います。

説明が難しいのですが、芯のある音というのは、力を入れて上から押さえつけて弾くのとはちょっと違うんですよ。

芯のあるしっかりした音にするには、瞬間的に鍵盤をストンと叩くような感じで、一瞬だけ力を入れてその後すぐに力を抜くんです。この曲には、この弾き方が絶対に必要です。

この弾き方は時間をかけて練習すれば出来るようにはなりますが、元々のタッチが柔らかい人だと、苦労されるかもしれません。

「英雄ポロネーズ」にあった芯のある、響く音を出せるよう努力してみて下さい。

この曲の難所はどこ?弾き方のコツと弾きこなす為の練習方法!!

この曲の難所を出て来る順番で説明して行きます。

難所その①(序奏)右手に出て来る16分音符で書かれた4度音程


最初から弾きにくいですよね。同じ音程が連続して出て来ると弾きにくくなります。
ここは、地味に弾きにくい部分です。出だしで失敗するのはカッコ悪いのでよく練習しましょう!!

ここは、まず4つセットの16分音符と次の小節の8分音符までを練習します。
弾く時に手首の位置が上下しないように、指だけで弾けるように気を付けましょう。
(版によって指使いが異なります。自分に合った指使いを探して下さい。)

1つずつしっかり弾くのではなく、4つセットの16分音符は一気に弾いて行けるようにしましょう。

それが出来たら、2つセットの16分音符をくっつけましょう。

難所その②(主部)左手がとにかく動きまくる


右手だけでも大変なのに、左手はというと…さらに難しい…

しかし、規則性があるのでまだ良かった!!
ここは、左手の練習をひたすらしましょう。音の跳躍を外さず、上手く弾くコツは、跳躍する時に、横に飛ぶように練習し、素早く次の準備をすることです。

上に飛んでしまうのは、パフォーマンスとしては良いかもしれませんが、次の音へ跳躍する為の時間をムダ使いしていることになります。

外さない為に、横に素早く飛ぶ練習をしましょう!!

難所その③(主部)ユニゾンで駆け上がっていく音形


ここは、指使いが間違っていては絶対に弾けません。
指使いをしっかり守って、まずはゆっくり練習しましょう。

この部分は、クレッシェンドがかかっていますが、指でクレッシェンドをあまりし過ぎない方が良いと思います。それよりも、素早く弾きとばすようにする方がカッコ良く聴こえると思います。

そのように弾くには、くぐらせる指とくぐらせた後の指に注意を払う必要があります。

右手⇒くぐらせた1の指の重みがかからないようにしましょう
左手⇒4の指を素早くかぶせるようにしましょう

別々によく練習してから、両手で練習しましょう。ずれないように、よくタイミングを合わせましょう!

難所その④(中間部)左手のオクターブ


楽曲分析のところでも少し書きましたが、ここが1番難しい部分です。
この部分は、人によって弾き方が違います。

手の大きな人は、オクターブ部分を全部左手で弾きます。そして、人によっては、4の指も使いながら弾きます。

手のあまり大きくない人は、メロディーが出て来ない部分(2小節)を右手と左手に分けて弾きます。そして、途中から左手だけに換えます。少しでも左手の負担を減らす為の工夫ですね!

この部分は、疲れないように機械的に動かすのがポイントです。
力で弾くと疲れますので、力は抜きましょう。

この難所をすぐ練習するのではなく、まずはオクターブをたくさん弾き、手をずっと開いておく感覚に慣れましょう。こんな練習が役に立つかもしれません。

●オクターブをばらして1-5と何度も動かす練習
●オクターブをばらして5-1を何度も動かす練習
●オクターブで同じ音を連打する練習
●オクターブで半音ずつ上がったり、下がったりする練習
●オクターブで全音ずつ上がったり、下がったりする練習

オクターブを弾くコツがだんだんつかめてくると思います。
オクターブを弾くことに慣れたら、次は楽譜通りに弾いてみましょう。

前にも書きましたが、この部分、手の動きが最初は白→黒→黒→白反時計周りで、途中から黒→白→白→黒時計回りになります。

動き方は変わりますが、弾き方は基本的に変わりません。
どちらも白鍵と黒鍵を両方弾かなくてはいけませんね。

疲れず弾くコツ①

黒鍵の方が白鍵よりも、位置が上にありますよね。
黒鍵と白鍵を交互に弾くと、手の位置が上下するのが分かると思います。

この難所部分を試しに、黒鍵をピアノのふたに近い方で弾いて、白鍵を逆に鍵盤の端の方で弾いてみて下さい。

どうですか手を動かす範囲がとても大きくなってしまいますよね。この弾き方では、ムダな動きが多いので疲れてしまいます。

手への負担を少なくする為には、手を動かす範囲をなるべく小さくなるようにすることが重要です。
つまり、鍵盤のどこを押さえるかが、カギになるということです!

実際にどうすれば良いかというと、白鍵、黒鍵のどちらとも弾く時になるべく真ん中で弾くようにするんです。そうすると、弾く時の移動範囲が最小限で済む為、疲れにくくなります。

本当は弾くのにあまり良いポジションとは言えないのですが、疲れない為です。挑戦してみて下さい。

手の大きい人はそれ程、気にする必要ありませんが、手のそれ程大きくない人にとっては、疲れるようなムダな動きはなるべくしたくありません。

疲れず弾くコツ②

もう1つのコツは、16分音符の最初だけを少し、しっかり弾いて後は残りの力で弾くということです。
この2つのコツでかなり、力を温存出来るのではないかと思います。

クレッシェンドをかけなくてはいけないところがありますが、ここはあまり左手で大きくしようと思い過ぎないことが重要です。

確かに、出来たら音量が欲しいところではありますが、右手につられて自然と大きくなって行きますからそこまで気にすることはありません。

大きくし過ぎて割れた音になったり、無理にクレッシェンドしたせいで左手が疲れることの方が、問題です。

あまりガツガツと速く弾き過ぎなくても大丈夫です!!それよりも、リズムに乗って弾きましょう!!

同じ曲でも、ピアニストによって弾き方が全く違う?!比べてみよう!

「英雄ポロネーズ」はピアニストもプログラムに入れたり、CDに収録したりする曲です。
それだけ、曲としても優れていて、弾きごたえ、聴きごたえがある曲ということになります。

前に書いた通り、骨格や筋力の差で弾き方に差が出ます。
ピアニストでも同じです。演奏者自身の骨格や筋力の差+演奏者それぞれの曲の解釈によって、同じ曲でも雰囲気はかなり違います。

《ピアニストの演奏を比較》
力強い、リズム重視
ランラン
標準小山実稚恵
アシュケナージ
優しい、メロディー重視カツァリス
仲道郁代


他にも素敵な演奏をするピアニストはたくさんいますが、今回はこの5人のピアニストの「英雄ポロネーズ」の演奏を比べてみました。

●ランラン
ほんとうに力強くて圧倒されます。
しかし、鋭すぎる程のリズムは、好き嫌いがあるかもしれません。

ラン・ラン ライブ イン ウィーン
ラン・ラン ライブ イン ウィーン

●小山実稚恵
とても力強く、リズムがとてもよいです。
女性でこれだけ弾きこなすのは、なかなか出来ないことだと思います。

アンコール
アンコール

●アシュケナージ
標準的な演奏だと思います。
この曲を学習する上で、アシュケナージの演奏は参考になると思います。

ショパン:ポロネーズ集 第1番‾第7番
ショパン:ポロネーズ集 第1番‾第7番

●カツァリス
力強さはあるけど、のびのびとした演奏。
普通は目立たせない音を強調して弾くなど、ユニークな演奏をします。
(私は、カツァリスの演奏が好きで、この演奏が理想と考えています。)

ショパン:ポロネーズ全集

●仲道郁代
4人の演奏とは違った演奏をします。
リズムよりもメロディーを重視しているような感じを受けます。

左手のオクターブの部分は、ショパン自身はあまり速く弾く必要はないと考えていたようなので、この演奏が一番ショパンが考えていたものに近いのかもしれません。
(このCDは、ショパンが使用していたプレイエル社製のピアノで演奏しています。)

永遠のショパン(DVD付)
永遠のショパン(DVD付)


ピアニストによってこんなにも違うんです。
いろんなピアニストの演奏を聴き比べて、自分の目標を決めてみるのも1つの方法だと思います。

ある程度は弾かなければなりませんが、とにかく力強く弾くというだけが正解ではありません。
難所をよく練習して、自分らしく演奏できるように頑張りましょう!!

まとめ

◆弾く前に、曲の分析をしてみよう。利点が3つ。
①曲の全体像が分かり、譜読みがしやすい
②形式が理解でき、暗譜もしやすくなる
③曲の全体の頂点がわかる
◆難易度は上級レベル
◆オクターブが余裕で届く手の大きさと芯のある音が出せる指の強さが必要
◆英雄ポロネーズは複合3部形式
◆難所は4点
 ①(序奏)右手に出て来る16分音符で書かれた4度音程
 ②(主部)左手がとにかく動きまくる
 ③(主部)ユニゾンで駆け上がっていく音形
 ④(中間部)左手のオクターブ
◆演奏する人によって演奏の仕方は違う