「歌うように弾いて」ってよく言われるけど…
ピアノを習ったことのある方は一度は言われたことがあるかと思います。私も長年言われ続けて悩んでいました。「心の中ではしっかり歌っているのに…」と言うと「本当!?全然伝わらないんだけど!!」と当時の先生に怒られていました。
今回は歌うように弾くとはどういうことなのか私なりの考えをベルティーニ作曲の「ロマンス」を例に説明します。
■ 目次
ちょっとまって!ベルティーニって誰?
アンリ・ベルティーニ(Henri Bertini)は、1798年にイギリスに生まれた後、フランスで活躍したピアニスト&作曲家で、ピアノの教本で有名なツェルニーやクレメンティとほぼ同時期に活躍していた方です。父親と、ソナチネで有名なクレメンティの弟子であった兄から音楽教育を受けました。13歳の時に父親の演奏旅行に同行し、ベルギー、オランダ、ドイツで演奏している天才少年でもあります。500曲もの練習曲を作曲しており、ピアノソロだけでなく室内楽の作曲もしていました。
「ロマンス」ってどういう曲?難易度は?
「24の小品集」という曲集の中に入っています。1ページのみ、1分ぐらいと短い曲です。難易度はピアノの教本でいうとツェルニー30番前半ぐらいで、オクターブが届けば大丈夫です。技術的にはそんなに難しくはないのですが、「ロマンス」というだけあって表現力がかなり重視される曲です。
ちなみに今年、2018年グレンツェンピアノコンクールの大学・一般の部の課題曲になりました。
私は全音の楽譜で演奏しました。
調べてみると、全音以外では特に販売されていないようです。ベルティーニはあまり知られていない作曲家ですが、ロマンス以外にも演奏映えするような曲がありますので、是非他の曲にも挑戦してみてください。
さあ、「ロマンス」を練習していきましょう!
今回は技術面と表現について分けて説明します。※YouTubeの動画が見つからないので譜面のみでの解説となります。
技術面で気をつけること
①左手のオクターブの音量何回も登場するこのオクターブ。強弱記号はpとppが付いています。あるあるなんですが、必要以上に大きい音が出てしまうんです。
私の練習法ですが、一番最初の練習は強弱を気にせず弾きます。しっかりとしたタッチを身につけるためです。タッチが身についていないと弾いても音が抜けて鳴らないことがあります。
イメージとしてはしっかりと弾けるようになってから、だんだん音量を絞っていく感じです。
「ロマンス」なのでドーン!って弾くのではなく、優しく低音がなっている感じです。
②メロディーを響かせる
例えばこの部分
右手も左手も和音になっています。全部しっかり弾いてしまうと、伴奏の音が邪魔してしまいます。
左手は全体的に音量を抑えて、右手はメロディーに当たる指に力を入れます。(力を入れると書きましたが、力を多く流すという感じが近いかもしれません。)執筆者はメロディーの音を出すために肘を打鍵するときに外側に出しています。
曲に表情をつけるために気をつけること
①自分なりの「ロマンス」のイメージを作るどんな曲でも自分なりのイメージを持つことが大切です。
「ロマンス」っていうと大半は恋を連想するかと思います。
でもどんな恋?この曲の雰囲気に合う恋ってどんな感じでしょう?
私は片思いが楽しい時期の恋をイメージしました。春、桜が咲いている中、好きな人を遠くに見つけて嬉しくなっちゃう…なんでもない時に好きな人をちょっと思い出してにやけてしまう…そんな感じ。決して寂しいとか辛いとかマイナスなイメージは私は持ちませんでした。
もちろん私と同じでなくても構いません。ちょっと寂しさもありそうだな、と思ったらそれを表現できるように練習していきましょう。100人いたら100通りのイメージがあって、100通りの演奏ができます。多少違っても問題ありません。
②メロディーを歌ってみよう
ピアノ教室に通っているとよく言われるフレーズですが、これが一番手っ取り早いです。ただ、私は鼻歌ではなくしっかりと声を出すことが大事だと思います。練習環境によっては難しい面もあると思いますが、鼻歌よりも大きい音量で歌ってみてください。
例えばこの部分
実際に歌ってみると高いシの音を出すのに少し時間がかかると思います。なのでピアノで弾く時もこの高いシを弾く時は少し時間をかけて弾きます。
それともう一つ。自分が歌っている時にどこで息を吸っているか楽譜に印をつけてみましょう。
例えばここで息を吸っているなら
息を吸う時間が必要なので、ピアノで弾く時はメトロノームの拍よりも少しずれたタイミングになります。ある程度弾けるようなったら歌いながら合わせて弾いてみてもいいでしょう。
息を吸わなくてもピアノでは簡単に音が出せてしまうので、「演奏が機械的」みたいなことを言われる方はまず歌ってみて、テンポ通りでは歌えないところと息を吸っているところを探してみるといいでしょう。
何回も歌っていると、盛り上げて歌ったり、ちょっと溜めて歌ってみたり、自分流に気持ちよく歌えるようになります。
「ここを盛り上げて歌いたいな」→ピアノでもその部分を盛り上げる。
「ここはちょっと溜めて歌うのが好きだな」→ピアノでもその部分を溜めて弾く。
というようにピアノで弾けるように練習していきましょう。
③演奏を聴く・聴いてもらう
自分の演奏を録音して聴いてみましょう。そして自分のイメージ通りに弾けているか確認しましょう。
また「こういうイメージで弾いてるんだけど、そう聴こえる?」と他の人に伝わっているか感想をもらったりしましょう。いつも習っている先生の言葉とは別に、友達の何気ない一言が次のステップにつながることもあります。
気づいたところ、指摘されたところは修正して表現力を高めていきましょう。
まとめ
①自分なりのロマンスのイメージを作る。②メロディーと伴奏のバランスに気をつける。
③メロディーを歌ってみよう。歌いながら弾くこともオススメ!
④自分の演奏を聴いたり、他の人に聴いてもらって修正・改善していこう。
これだけができれば表現力はクリアというわけではありません。他にも曲が作られたときの作曲家の状況や曲に合う音色の出し方の研究など表現を突き詰めていくとやることがたくさんあります。ですが、表現力に悩んでいる方に少しでもヒントになれば幸いです。
「ロマンス」の無料楽譜
- IMSLP(楽譜リンク)
本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1903年にシャーマー社から出版されたパブリックドメインの楽譜です。「24の小品集Op.101」全曲が収録されており、第16番「ロマンス」は29ページからになります。