堂々たる風格を持つ「英雄ポロネーズ」は、ピアノをやっていたら弾きたい名曲の一つだと思います。
「ラ・カンパネラ」と比べるとやや易しく、「幻想即興曲」などと比べると格段に難しくなっているという、挫折する方の多い大きな壁の一つです。全音の難易度表では確実に「F」(上級上)に相当します!
しかし、弾けない原因の多くは、絶え間のないオクターヴをはじめとする、手の疲れを引き起こすテクニックに起因するものです。問題の数カ所さえ攻略すれば、後の部分は芋づる式に弾けるようになるのがこの曲です!テクニックを一つ一つ攻略していきましょう!
序奏(1小節-16小節)
多くの人が挫折するのは冒頭の連続する四度だと思います。このテクニックだけで丸々1ページほど弾くわけですから、これが弾けないとどうにもなりませんよね。有効な練習は、四度の7連続を後ろから練習していくことです。つまり、上の音だけでつなげるとRe-Mi♭、Do#-Re-Mi♭、Do-Do#-Re-Mi♭、Si- Do-Do#-Re-Mi♭、Si♭- Si- Do-Do#-Re-Mi♭、Ra- Si♭- Si- Do-Do#-Re-Mi♭のように練習するのです。
この四度の連続が一番難しいのは9小節目です。1小節目、5小節目、11小節目の四度とは指使いが異なる上、完全にレガートで弾く指使いが考えにくいのです。指使いが4-4になる部分で、いかにうまく黒鍵から白鍵へと薬指を滑らせるかが勝負です。
(動画00:14-)
またこの部分のユニークな攻略法を実践したのが、フランス人ピアニストのシプリアン・カツァリスです。彼はこの部分をFa#-Ra-Re(右)、So-Si♭-Mi♭(左)の順で左右交互に3和音でまとめて弾く方法を選んでいます。(もちろん彼は本来の指使いでも問題なく弾けるでしょうが…)
もう一点、この前奏部分の時点で考えるべき重要な要素はテンポです。冒頭にはMaestoso(堂々と)と書かれていることから、あまりに速すぎず遅すぎずということになります。冒頭以外にテンポに関する指示が全くありません。すなわち、ある程度の幅はありつつも、基本的に同じテンポを貫かねばならないのです。
このことを踏まえ、まずは主要主題を自分のイメージにある理想的なテンポで弾いてみてください。恐らく、この前奏はそれほど速くないテンポに落ち着くはずです。結果的に音楽もまとまり、四度もそれほど速くないことに気付ければ一石二鳥です!
主題部(17小節-80小節)
とても堂々とした、弾いていて気持ちのいい主要主題です。しかしショパンの書法はやや複雑に見えてしまいます。主題部分が2声で書かれている上に装飾音まで…と思われるかもしれません。でも、実は楽譜通りに弾くのが一番簡単だと気づいていただきたいのです。試しに、18小節目の右手第2音目のDoを16分音符の音価で弾いてみてください。明らかに弾きにくくなることが分かります。
特に右手に関しては特殊なアーティキュレーションは出てきていないので、必要以上に慎重に弾く必要はないように思います。むしろこの曲の場合、左手のアーティキュレーションを完璧に再現しなくてはなりません。舞曲の性格を表現するためには伴奏型の熟達が欠かせません!
また、形式的には16小節を1グループとして捉えると全体を把握しやすくなります。
主要主題(17小節-)(動画00:28-)
壮麗な主要主題(33小節-)(動画01:03-)
次の主要主題部における経過的な部分ですが、ここの32分音符を正確に弾けるテンポがこの曲にふさわしいテンポだと思います。主要主題をあまりに気持ち良いテンポで弾いていると、この部分でテンポを落とさざるを得なくなってしまいます。
経過的部分(49小節-)(動画01:41-)
このsostenutoの部分は、典型的なポロネーズのリズムのためとても重要です。ポロネーズのリズムについて紙面で伝えることは難しいですが、16分音符の間合いの詰め方と8分音符の切り方に秘密があるように思います。
(57小節-)(動画02:02-)
中間部(81小節-154小節)
冒頭の4小節は、中間部における前奏と考えていいでしょう。そうすると16小節で1セクションという捉え方がぴったりとはまります。・中間部前奏風部分1(81小節-84小節)
・中間部セクション1(85小節-100小節)
・中間部前奏風部分2(101小節-104小節)
・中間部セクション2(105小節-120小節)
・2種類の経過的部分が続くため不規則(120小節-154小節)
(81小節-)(動画02:57-)
左手のオクターヴが難しいこの部分ですが、できるだけ力を抜いて、手首を反時計回りに動かす中で上手く音を当てると演奏可能です。もう一つは、親指を機敏に動かすと、この部分の動かしにくさが軽減されます。練習では、このオクターヴを全てくっきり弾くようにした方が本番で失敗する確率が下がります。
中間部から再現部に至る経過的な部分ですが、ここはまた左手が重要です。ペダルに頼らず、指でレガートになるように努力する必要がありますが、手が固まってしまい易く弾きにくい部分です。和音で捉えて、肘のポジションを決めていくと最小限の苦労で済みます!
(129小節-)(動画04:27-)
もう一つこの箇所で危険なのは暗譜です。ここまでこの曲はほぼ和音とオクターヴで構成されていたために、動きで把握がしやすかったのですが、旋律的で半音がとても多いこの部分では完璧な暗譜と指でのレガートが求められます。練習というより、口ずさんでいる方が確実に身につくかもしれません!
再現部(155小節-170小節)
原型と全く同じ完全な再現です。壮麗な主要主題部分がそのまま使用されており、コーダに突入します。(動画05:37-)コーダ(171小節-181小節)
どんな作品でも、どこからコーダと捉えるかは微妙な問題です。この曲の場合は16小節を一つの基準として捉えることができました。コーダ部分の選択につてもこの解釈に従い、明確な再現部から16小節数えて、残りの部分をコーダとしました。(一部の部分をコーダへの経過句と捉える解釈もあるようです。)(動画06:13-)
まとめ
この曲の最も難易度が高い場所は序奏部分でした。この部分さえ攻略できれば残りはなんとかなるという見解です。この曲には揺るぎない壮麗なスタイルで弾くE.キーシンのような演奏が理想的だと思います。曲の可能性を探るヒントとして、V.ホロヴィッツやC.カツァリスの演奏などもぜひ一度聴いていただきたいです。E.キーシン
V.ホロヴィッツ「Horowitz in Moscow」
「英雄ポロネーズ」の無料楽譜
- IMSLP(楽譜リンク)
本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1878年にブライトコプフ・ウント・ヘルテル社から出版されたパブリックドメインの楽譜です。
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