シューベルトの珠玉の名曲である即興曲。楽譜を見ながら「何番を弾こうかなぁ」とわくわくしてしまいますね。
そして選んだ第4番。いざピアノに向かって練習を始めたのはいいけれど……。
「あれ? 何かちょっとこれ……弾けない?」
そんな、今にも心がポキッとなりそうな方々は必見です!
その「弾けない?」の「?」が「!」にならないうちに、サクッとコツをつかんで早いうちに不安を払拭してしまいましょう。
こんにちは! ピアノ弾きのもぐらと申します。
突然ですが、畑は私の庭! そして畑の主役はもぐら!……というのは冗談です、すみません。畑の主役は管理してくれている畑の主さんです。最近、そんな畑の主さんがなかなか心を開いてくれないのがちょっぴり悩みなもぐらです。
毎日いろいろありますが、それでも音楽は心を癒し、そして元気を与えてくれます。
そんな音楽の素晴らしさをより多くの方々に知って頂きたいという思いで、ピアノを教えております。
■ 目次
難易度自体はそれほど高くはない!
さて、本題に入っていきましょう。
シューベルト『即興曲第4番op90-4』の難易度としては、だいたいツェルニー30番から40番の最初くらいをマスターしていれば充分弾けるかと思います。人によっては、そこまでマスターできていなくても弾ける方もおられるかもしれません。
しかし、これはあくまで私個人の考えですが、この曲はただ「全部通して弾けるようになりました!」というだけで終わりにしてしまうにはあまりにももったいない曲です。
この曲の醍醐味は、弾くことも確かにそうなのですが、弾けるようになればなるほど楽譜を見つめて発見できることがたくさんあるというところなのです。
つまりは、ぜひ何度も弾き込んでほしいのです。スルメイカのように、噛めば噛むほど味や発見が出てきます。そして欲を言えば、いろいろな調についての知識もあると一層面白い発見ができると私は思います。
ここで言う調の知識というのはざっくり申しますと、長調と短調について理解するということです。でも調については「へぇ、こういうものもあるのか」と、さらっとかじっておくだけでも充分です。調の理解が少しあるだけでも楽譜の見え方というか捉え方は全然違ってきます。
私はかつて調の勉強がとても苦手でしたがピアノを弾けば弾くほどに、あのときやっておいて良かったなぁと今になって思います。そして、この曲に関しては特にそう感じさせられるところが多いのです。
全体的な構成は小分けにして考えれば難しくない!
先ほど難易度のところで「調の理解」と申しましたが、区切りとしては「変イ長調→嬰ハ短調→変イ長調」というような区切りです。つまり、一般的には構成は調号を目安に考えることが多いかと思います。至ってシンプルですよね。
では、次に下記の動画を聴いてみてください。
尚、上記で調号を目安にと申しましたがこの記事では説明の都合上、下記の通り1曲をいくつかのセクションに小分けにしております。
セクションA(最初~1:28)
セクションB(1:28~2:12)
セクションC(2:12~2:34)
セクションD(2:34~3:41)
セクションA(3:41~5:08)
セクションB(5:08~終わり)
※カッコ内の時間は動画に沿った時間です。動画をよく視聴して曲の構成を予め理解しておくと練習しやすいかと思います。
※動画では繰り返しは省略されています。
もぐら式!弾き方のコツ
☆セクションAの弾き方 ~右手はとにかく繊細に~
ではさっそくセクションAから見ていきましょう。※「Allegretto」の意味は「やや快速に」
※この楽譜では右手の指番号が、上と下で2パターン用意されています。これは自分で弾きやすいと思ったほうを選んで弾きましょう。
さて、冒頭ですが、さっそく疑問に思われた方もおられると思います。というのもこの曲は、楽譜の始めに指示された調号をパッと見ると変イ長調なのに、なぜか響きは変イ長調ではないのです。
そう、この冒頭というのは実際に弾くと変イ短調なのです。
かつてこの曲を練習しようとしていた私は、ちょっと大げさかもしれませんがこの部分を見ただけで、何かとてつもない挑戦状のようなものを受け取ったような気分になりました。
まあ要するに、最初からいきなり調号に沿わない響きになっているところからして、何だかすごく難解な曲に思えたということなのでしょう。
でも大丈夫。コツさえわかれば私のように弾く前から怯む必要はありません。まずはあまり堅苦しく考えずに弾いていきましょう。
この部分では右手をいかに繊細に弾けるかが鍵となってきます。このような形のフレーズはこの部分に限らず、ほぼ常に出てくるのでしっかりと音の粒を均等に揃えて弾けるように、丁寧にメトロノームを使って片手練習をしましょう。
そして速く弾くことよりも、まずは音が消えてしまわないように遅めのテンポで確実に弾くように心がけましょう。
そしてこの部分、またしても疑問に思う方もおられるかと思います。
「スタッカートなの? それともスラーなの? どっちなんだよ!」
と、私も思いました。(0:06~)
これはスラーとスタッカートを半分ずつ守って弾くという解釈になります。「あまりスタッカートは跳ねすぎない程度、だけど音を適切に切る」という意味合いです。つまりは、ノン・レガート(意味:音をつなげない)とほぼ同じような意味だと捉えると一番わかりやすいかと思います。
この部分では左手が主旋律になりますね。とは言えやはりここでも右手が鍵です。というのも右手次第で左手の音を活かせるかどうかが決まるからです。(0:58~)
左手については案外弾きやすいかと思います。右手は先ほど出てきたように、しっかりと音の粒を揃えて、なるべくさりげなく軽快に弾くのがコツです。
☆セクションBの弾き方 ~集中して弾こう~
この記事では練習を簡単にやりやすくするために、あえてここでセクションを区切りましたが、セクションBはセクションAの続きのようなものです。なので曲の雰囲気にそれほど大きな変化はありません。(1:28~)今度は三連符を弾きつつ、右手で主旋律を奏でていきます。
このとき、三連符は主旋律部分を際立たせるために、他の音は小さく弾くように意識しましょう。そして、主旋律は譜面を見てみると4分音符の役割も担っているので、旋律がしっかりとなめらかにつながるようにも心がけましょう。
この部分は一見するとこれまでと同じような形のフレーズが、そのまま下降していくだけのように見えますが、意外とタイミング的につまずきやすい部分だと私は思います。というのも、ここはちょうどセクションBの終盤、そして特に右手がそろそろ疲れてくるところなのです。(2:04~)
個人的な感想ですが。今まで細心の注意を払って繊細に弾いてきた右手が、なぜかここにくると音が不揃いになったりリズムが崩れたりしてしまうのです。それはおそらく、もうすぐセクションが終わりそうという、安心感からくるちょっとした気の緩みだと私は思っております。
なので、ここはとにかくセクションの最後の音まで集中力を持続させて綺麗に弾くという気持ちが大切です。何だかこの部分はどちらかというと、技術的というよりも精神的なところですね。
※「decresc.」の意味は「だんだん弱く」
この部分の右手も先ほどのように崩れやすい箇所です。さらにこの部分は16分音符を繊細に弾きながら「ラ♭」をしっかりと押さえなければならないので、けっこう右手がきついと感じられる方も多いと思います。(2:09~)
ですが、ここはちょうど区切りの部分で抑揚を多少入れても良いと私は思います。なので、多少テンポが遅くなってもあまり不自然には感じません。その分、右手にも余裕が出てくるかと思います。
☆セクションCの弾き方 ~嬰ハ短調に変化~
ここから曲の雰囲気がガラッと変わります。調も変イ長調から嬰ハ短調に変わりますね。調号がどの音にいくつ付いているのかをよく理解しておくと弾きやすいかと思います。(2:12~)※「Trio」の意味は「中間部」
ここでは右手の主旋律をしっかり際立たせることが大事ですが、それにつられてそれ以外の和音まで音が大きくならないように調節しながら練習しましょう。
連続した和音が多く見られますが、このような和音もやはり一つ一つの和音の音量を均等に揃えるように心がけましょう。
私はこの中間部がとても苦手です。何と言ってもここは右手がきついのです。主旋律を弾きながら他の指では和音を弾き続けなければならず、どうしても余計な力が入りやすくなるところだと思います。
ここであまりにも右手が疲れてきてつらいと思ったときは、無理をせずに一旦弾くのを中断しましょう。そして腕と手首にたまった力を抜くために、手をぶらぶらさせてください。そして力が抜けてきたと思ったら練習を再開しましょう。
この部分はフレーズの最も盛り上がる部分です。このとき当然主旋律は盛り上げますが、やはりそれ以外の音はなるべく音量を抑えて、ごちゃごちゃした響きにならないようにしましょう。(2:29~)
☆セクションDの弾き方 ~場面の移り変わりに注目~
このセクションDもセクションCの続きのようになってきますが、場面的には少し変化があるところかと思います。変化を意識しながら練習していきましょう。(2:34~)♯や♭などの臨時記号も増えてくるので、混乱しないよう譜読みの段階でよく音を確認しておくと楽です。そして、途中で響きが長調になる部分も出てきます。抑揚をつけて自分なりの個性で情緒豊かに表現していきましょう。
そして譜面の通りセクションDの終盤で調がまた変イ長調に戻り、最初の場面の再来を予感させるようなフレーズが出てきます。もちろんここでも右手の繊細さを心がけましょう。(3:33~)
☆残りのセクション(AとB)の弾き方 ~あとはほぼ繰り返し~
さて、あとはセクションA(3:41~)とB(5:08~)の繰り返しです。しかし繰り返しということは特に右手、あの繊細なフレーズの連続が再び出現するということなので、くれぐれもここで気を緩めないようにしましょう。私はこの部分にさしかかると、最初に同じセクションAとBを弾いたときと比べて、手首や腕に疲れを感じます。
そうならないためには、やはり曲全体を通しての適切な脱力が大切になってきます。弾くときにいつも手や腕に余計な力があると、最初は良くても終盤になるとどうしても疲れてしまうのです。
この脱力というのは、本当に言葉では説明しづらい部分ではありますが、曲を全部弾き終わったときの疲労感がより少ないほど、適切に脱力できている証拠であるということは確かです。
そのために先ほどのセクションCで触れた、力が入ったとわかったときに弾くのを中断して手をぶらぶらさせるという方法を繰り返していくと、だんだんと脱力の癖というか感覚が体に染み付いてくるので、これはぜひとも根気よく試して頂きたいところです。
要点をしっかり確認!全体的な弾き方のコツのまとめ
さて、ひと通りお話をしてまいりましたが、いかがでしたか?
以下に、シューベルトの『即興曲第4番op90-4』の弾き方のコツについての大事な部分をまとめました。
1. 調の変化に注目する(特にセクションA、セクションB、セクションC)
2. 右手は繊細に、そして音の粒が均等になるようメトロノームを活用して丁寧に練習する(特にセクションA、セクションB、セクションD)
3. 中間部の和音は、和音ごとに一つ一つ音量が均等になるように弾く(特にセクションC)
4. 力が入っていると感じたら無理せず中断し、手をぶらぶらさせて一旦脱力してから練習を再開する(特にセクションC)
5. 弾く前に細かな指示や臨時記号をしっかりと読み取っておく(特にセクションA、セクションB、セクションC)
以上の5つのコツを踏まえて練習に臨みましょう。
そして、ここでお話は終わりかと思いきや、実はまだ続きがあります。尚、これからお話することには理論的なことも盛り込まれていて、けっこう難しいお話になってしまいますが、どうかご了承お願い致します。
そして且つ、ここからのお話はだいぶ私の主観が多く盛り込まれておりますので、必ずしもこれがすべてということではありません。「ああ、またもぐらが勝手なこと言ってるよ。」と軽く捉えるくらいの感覚でお読み頂けたらな、と思います。
なぜミステリアスで奥深いのか?もぐら的観点からの考察
ここでは主に、私がタイトルで「奥深い」だとか、本文でも「噛めば噛むほど」だとかいろいろと大げさに語ったその理由とは何ぞや? という補足的なお話になります。ここからは、あくまで私個人の疑問とそれに対する自分なりの考察です。
先ほどセクションAでも触れましたが、この曲の調号は変イ長調なのになぜか変イ短調の響きで始まります。やっぱり何度弾いても謎は深まるばかりです。そこでこのコーナーでは、その謎に焦点を絞っていろいろ自由に考えてみたいと思います。
もしも今、この曲の楽譜がお手元にある方はぜひご覧になってみてください。
ちょっと難しいお話になりますが、この曲は最初に指示された調号のことを抜きにして考えると実際の響きとしては、だいたいフレーズごとに「変イ短調(1小節目から)→変ハ長調(13小節目から)→ロ短調(19小節目から)……」とコロコロと調が変わっていきます。
ちなみにロ短調の後は嬰へ短調、そしてヘ短調となってその後にようやく初めて変イ長調の旋律が出てきます。調号では変イ長調を語っているにもかかわらず、曲がかなり経過した頃にやっと変イ長調が出るというのが私には何とも不思議でなりませんでした。
そしてこの謎で行き詰った私は、まずは一つ一つのフレーズの調について、改めてじっくりと考え始めました。
で、まずはわかりやすくそれぞれの調号ごとに、実際いくつ臨時記号がつくのかというのを、曲中に出てくる順番で以下にまとめてみました。
・変イ短調→♭が7つ(鍵盤上では、『嬰ト短調→♯が5つ』と同じ鍵盤の位置)
・変ハ長調→♭が7つ(鍵盤上では、『ロ長調→♯が5つ』と同じ鍵盤の位置)
・ロ短調→♯が2つ
・嬰へ短調→♯が3つ
・ヘ短調→♭が4つ
・変イ長調→♭が4つ
そしてこの後一時、へ長調(♭が1つ)になって、その後また変イ長調に戻り、中間部は嬰ハ短調(♯が4つ)となります。
※ 中間部にも調が変わる部分がありますが、説明がこれ以上ややこしくなるのを防ぐため、あえて中間部についての詳細は割愛させて頂きます。とにかく中間部については「嬰ハ短調」と捉えておくだけで大丈夫です。
ここで注目したのは、変イ短調と変ハ長調のカッコの部分です。実際に音階を弾いてみるとおわかりになると思いますが、鍵盤上では変イ短調は嬰ト短調と同じ位置、そして変ハ長調はロ長調と同じ位置。つまり、この二つの調は確かに♭系なのですが、調の呼び方を変えれば♯系の調という解釈もできるのです。
なので、楽譜だけを一見してみるとこの曲は♭系のイメージですが、上記のように考えてみると、けっこう♯系の要素も随所に見えてくるのではないかという発見がありました。
まあでも、弾くにあたってはそれがわかったからと言って特別楽譜の見方を変えるとか、難しく考えるなどという必要は全く無いので、これはあくまで理論上の知識として頭の片隅に置いておく程度で大丈夫です。
じゃあ調の謎についてはどうなのかという部分に戻りますが、どういった意図でこのような楽譜にしたのか。長々と説明しておきながら、結局はシューベルト先生のみぞ知るところだという結論に落ち着きました。ですが、少なくとも「弾く者に何かを考えさせたい」というような思惑が存在するところは確かだと思います。
そしてこれまた勝手なお話ですが、もしも私がシューベルト先生だったら、この曲の始めの調号は♭系の変イ長調ではなく、初めからややこしくならないように♯系の嬰ト短調にするのになぁと、ついつい想像してしまいます。
ですがその反面、もしもこの曲特有のややこしさが全く無かったら、きっとこの考察という名の醍醐味も、おそらくほとんど無かったのだろうと思います。
というわけで改めてまとめますと、この曲は弾けば弾くほどにいろいろな発見、そして新たな謎もまだまだ湧いて出てきそうな奥深さがあります。それはさながら新境地を開拓するような感覚で、だからこそいつも新鮮な気持ちをキープしながら弾きたい名曲だと私は思います。
ですので、ぜひとも何度も弾き込んでこの曲の魅力を存分に味わってください。そして未知なる謎を発見してその都度自分なりにいろいろ考えを巡らせ、そして自分にしかない個性をもってこの曲とじっくり対話してみてください。
それでは練習、頑張ってくださいね。畑の地中から、晴れの日も雨の日も風の日も毎日応援してます!
by ピアノ弾きのもぐら
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