いよいよ、夏の盛りになってきましたね。
6月に公開された映画「花戦さ」の音楽を作曲された久石譲さんが夏を表現した曲、「Summer」を今回はご紹介したいと思います。
この曲を弾くと大人の方には、「優雅ですね」とお話ししていただけることが多いです。
そんな優美さをひめながらポピュラー音楽として、耳になじみのある事もこの曲の良さですね。
ピアノ歴21年の私が、演奏を深めるために、この曲の魅力をご紹介し、その表現について探っていきたいと思います。
■ 目次
ひと夏の思い出がつまった曲
まず、この曲がもちいられた映画についてご紹介します。この「Summer」という曲、北野武さん監督の映画「菊次郎の夏」の主題歌です。
小学校三年生の男の子が、夏休みに母親を探しに行くというあらすじで、チンピラのおじさんと「放蕩旅」をするという冒険の面白さ、そして、おじさんも男の子も親に捨てられているという切なさが詰まった作品です。
CMでも使用された爽やかな主題、リズミカルな中間部、ドラマチックな挿入部、といったこの曲全体で、ひと夏の印象が表現されているように感じられます。
私が演奏するときは、映画を見ていらっしゃる方がいるかもしれないので、映画にこめられた心情の変化をこの曲全体で表現することが多いです。
その一方で、感情的になりすぎないよう、また、CMや夏のノイズといったイメージをもたれている方もいらっしゃるので、熱くなりすぎず、主題は爽やかに、かつ、場面展開を切り替えて心情の変化を表現します。
曲の全体像の動画はこちら
カノン
ところで、私は、くりかえしという意味のある「カノン」という構造がこの曲と映画の魅力なのではないかと思っています。
いろいろなアレンジがあるのですが、今回は原曲でお話しすると「Summer」での冒頭で、学校のチャイムのような「シソラレ」が繰り返されます。
これは、主題のテーマを弾く際の左手のベース音へと続いていきます。
そして、映画の冒頭で、男の子が天使の羽のついたリュックを背負い、天使の鈴を鳴らしながら走っているのですが、天使の鈴は旅の途中でおじさんにもらうので、これは、映画の最後の部分とつながっているといえます。
つまり、この映画自体が円のような構造になっているといえるのではないでしょうか。
学校のチャイムと比喩表現してしまいましたが、もしかしたら天使が空から降りてくるような神聖なイメージでもあるかもしれませんね。
そして、「Summer」も主題が最初と最後に挟まれています。
このように、クラシック曲でなくとも旋律の上品さと構成の美しさで、発表の場にはふさわしい作品であり、夏のノイズ・印象がちりばめられている作品なので一般の方も聴いていて心動かされるわかりやすい曲だと思います。
また、構成として繰り返しが多いために、聴きごたえある部分を何度も時間をかけて弾けるということと、覚える部分が少なくてすむということから、弾く側としても発表しやすい作品と言えるでしょう。
「Summer」難易度
この曲を原曲で弾く場合、久石譲の作品の難易度としては、比較的易しいものだと思います。
しかし、場面転換があるので、ペダルの使い方、左手と右手の音楽記号の変化に別々に対応できる技術があると弾きこなせるようになるでしょう。
また、編曲により、主題の部分のみの演奏であれば、リズムパターンの繰り返しが多いので、バイエル程度の技量で1か月弱練習すれば弾けるようになると思います。
そういった点では、楽譜選びも重要になってきます。
どんな弾き方がいいの?~主題編~
それでは、曲の理解も深まったところで、具体的な弾き方のコツを3つご紹介します。有名な旋律は主題部だと思うので、今回は、主題部を取り上げ、①、②で初心者の方が弾くために、③では、原曲をすべて弾く方向けに、主題の弾き方をご紹介します。
① アルペジオを安定させる
前述したように、左手のリズムは基本的には繰り返されます。和音でしか弾けないひとは、一本一本の指を使って弾けるように、ハノンなどの基礎の教本で練習してもいいかもしれませんね。
一本一本の指でできるようになったら「シファシファ」の4つの音がひとつのかたまりとしてつながるようにしましょう。
和音を弾くときのように手の全体は「シファシ」のポジションにおき、リズムに合わせて指を一本ずつ押していきます。
特に、次の和音の位置に移動するときに4つ目の音が短くなってしまいがちなので、メトロノームに合わせて落ち着いて弾く練習をするとよいかもしれません。
② フレーズを意識しよう
基本的には、右手のスラーで表現されています。例えば、主題の始めで言えば、「ラレミファミレレ」まででひとつのフレーズです。
その塊は、ひとつの大きな流れとして捉えて弾きます。
特に、右手の旋律は一度声に出して歌ってみるとわかりやすいです。
ブレスをする部分が、フレーズの切れ目です。
ピアノでも歌うように弾けると音楽の流れが伝わりやすいですね。
③ 繰り返しの主題は、1回目と2回目に変化をつけよう
私が、楽器を演奏するときによく教えてもらったことは、全く同じ繰り返しはないということです。例えば、映画「菊次郎の夏」で言えば、最初におじさんと出会ったときの男の子はしょんぼりと歩いていますが、最後に、出会った場所とほぼ同じ場所で別れる際には、鈴を鳴らしながら走り抜けていきます。
つまり、原曲で弾く方は、中間部で非常にドラマティックな展開部を弾いて主題に戻ってきた際には、どこか変化した気持ちで弾いてほしいと思います。特に、ポジティブなエネルギーが必要だと思います。
推進力という意味で少しテンポを早めてもいいかもしれませんし、弾き方の輪郭をはっきりさせてもいいかもしれません。
夏の魅力がつまった作品「Summer」。これからの季節、練習してみるときっと夏の盛りにはちょうど弾けるようになっているかもしれません。ぜひ、挑戦してみてくださいね♪
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