シューベルトというと、音楽の教科書に載っている「魔王」や「ます」の曲のイメージが強いと思います。

モーツァルトやベートーベンのように、一般的に知られているピアノソナタはないのですが…(←失礼。)

あの大人気漫画「のだめカンタービレ」でシューベルトの「ピアノソナタ第16番」が取り上げられていて、私も「あ、シューベルトってピアノソナタがあったのか」と知ったくらいです(笑)


シューベルトのピアノソナタは番号が付いているもので第21番までありますが、その多くが未完成で、作曲された当時もほとんどが出版されなかったそうです。

しかしこの第16番は1825年に作曲され、翌年1826年に出版されました。

シューベルトにとっても、このソナタは自信作だったのかもしれませんね。

今回は、のだめちゃんも弾いていた第1楽章をご紹介します♪

難易度は?

以前テレビドラマで聴いて私も弾きたくなり、挑戦してみたのですが…

一通り弾いてみた正直な感想をいうと、
「かなり気合を入れないと気持ちが沈んでしまいそうになる」曲でした(笑)

それほど難しいテクニックは出てこないので、難易度でいうとソナタアルバム1巻の曲と同じレベルだと思います。


※ソナタアルバム1巻は、古典派の代表的な作曲家、ハイドン・モーツァルト・ベートーベンの比較的易しいピアノソナタを集めた曲集です。


練習曲でいうと、チェルニー30番の中~後半程度が弾ければ大丈夫でしょう。


ではなぜ「気持ちが沈んでしまいそうになる」のかというと…


思い悩んでいるようなメロディーが、何度も何度も出てくるからです(笑)

しかもこの曲は、繰り返し記号なしで演奏しても9分弱あります。
9分弱、ずっと思い悩んでいるのです(笑)

シューベルトさん、一体何があったんですか!?
と言いたくなるような、ちょっと重い感じのする曲なんですよね。


調べてみるとシューベルトはどちらかというと内気で、引っ込み思案な性格だったそうです。
そしてこの曲を作曲した頃から体調を崩しており、3年後の1828年にわずか31歳の若さで亡くなっています。

綺麗なメロディーの曲もたくさんあるシューベルトですが、この曲は彼の「陰」の部分が表された曲なのかもしれません。


重い曲といっても、テンポを揺らして感情を表現していたり、右手と左手で交互にメロディーが出てきたり、なかなか練習のしがいがある曲ですよ。

弾き方のポイントは?

↑こちらの動画は手も映っているので、演奏の参考になると思います。

シューベルト「ピアノソナタ第16番イ短調D845,Op.42第1楽章」ピアノ楽譜1 (動画冒頭~)

まずこの曲の一番の特徴は、両手のユニゾンです。
冒頭2小節のこのユニゾンのテーマは、後に何度も形を変えて出てきます。

これが先ほど言っていた「思い悩んでいるようなメロディー」です!

独り言のようなつぶやきにも聞こえるし、誰かに何かを問いかけているようにも聞こえますよね。

ユニゾンはきっちり音をそろえて弾くのが意外と難しいので、両手がぴたっと合うように指先に集中して、丁寧に演奏しましょう。

シューベルト「ピアノソナタ第16番イ短調D845,Op.42第1楽章」ピアノ楽譜2 (動画0:07~)

続いて3小節目から始まる4分音符の和音は、先ほどのユニゾンのテーマの問いかけに答えているようなイメージです。

スタッカートが付いていますが、ぶちぶち切るのではなく、1音1音はっきりと弾くというイメージで演奏しましょう。

また、リタルダンドでだんだん遅くして十分にためてから、ユニゾンのところですぐにテンポを戻します。


この曲は、こういったテンポの揺れが度々出てきます。

譜面だけ見るとベートーベンの初期のソナタのような「古典派!」という雰囲気ですが、弾き方はショパンなどのロマン派に近い感じがしますね。

なので、ためるところは十分にためて演奏してみましょう♪


シューベルト「ピアノソナタ第16番イ短調D845,Op.42第1楽章」ピアノ楽譜3 (動画0:46~)

20~25小節目でフォルッテシモになり、次の第2テーマに向けて盛り上がります。

右手はオクターブで交互に和音を弾くのですが、ここはオーケストラが全体で演奏している姿を思い浮かべると、思いきってフォルテッシモが出せると思います!


シューベルト「ピアノソナタ第16番イ短調D845,Op.42第1楽章」ピアノ楽譜4 (動画0:56~)

26小節目から第2テーマが始まります。
この特徴的なテーマもこの曲を支える重要ポイントなので、後に何回も出てきます。

軍隊がジャッジャッジャッと行進しているようなメロディーですよね。

ここは書いてある強弱記号の通り、強く弱くをしっかりメリハリをつけて弾くとカッコイイですよ。

軍隊の整列を乱さないように、テンポも一定に落ち着いて演奏しましょう!


シューベルト「ピアノソナタ第16番イ短調D845,Op.42第1楽章」ピアノ楽譜5 (動画1:17~)

40小節目から左手の伴奏がポロネーズのようなリズムになり、少し明るい雰囲気に変化します。

ハ長調だったり二短調だったりころころ転調するので、なかなか安心できない感じが続きます。

右手はアルペジオ(分散和音)でわりと弾きやすいので、テンポが速くなりすぎないように気を付けましょう。


シューベルト「ピアノソナタ第16番イ短調D845,Op.42第1楽章」ピアノ楽譜6 (動画1:30~)

50小節目で小休止のような、4分音符と4分休符が出てきます。

ここでいったんブレスを入れて、51小節目からをp(ピアノ)で弾くために少し落ち着きましょう。


シューベルト「ピアノソナタ第16番イ短調D845,Op.42第1楽章」ピアノ楽譜7 (動画1:44~)

同じように59~62小節目で落ち着く場面が出てきます。

全休符は緊張感を持ってピタッと止まる感じで、61小節目のp(ピアノ)の部分は少しテンポを落として落ち着きましょう。

この後の63~90小節目までは、展開部へのつなぎになります。

シューベルト「ピアノソナタ第16番イ短調D845,Op.42第1楽章」ピアノ楽譜8 (動画2:39~)

87~90小節目にかけてのdim.(だんだん弱く)に合わせて、ここも少しテンポを落として次の展開部に備えましょう。

90小節目の休符にはフェルマータが付いているので、緊張感を保ったまま十分ためます。


シューベルト「ピアノソナタ第16番イ短調D845,Op.42第1楽章」ピアノ楽譜9 (動画2:47~)

91小節目(90小節目はアウフタクト)から展開部になります。

ソナタの展開部というのは、大抵ガラッと雰囲気が変わる曲が多いのですが、初めのユニゾンのテーマが形を変えて、何度も繰り返されていますね。

悩みはまだまだ解決していないようです(笑)


ユニゾンばかり弾くというのは、けっこうつまらなくなってしまうかもしれません。

例えば赤丸の低い方のメロディーは低音の管楽器、青丸の1オクターブ上になったメロディーは、バイオリンや木管楽器など優しい音色の楽器が演奏しているイメージで弾いてみましょう。


私もここのユニゾンの表現は、最初どうしたらいいか分かりませんでした…

簡単に弾ける部分こそ、強弱や音色の違いを弾き分けるテクニックが必要ですよね。

なんだか、シューベルトに試されているような気分になりました(笑)


シューベルト「ピアノソナタ第16番イ短調D845,Op.42第1楽章」ピアノ楽譜10 (動画3:34~)

120小節目~メロディーが左手に移ります。

私はこの左手のメロディーは、チェロの音色が一番しっくりくると思います。


シューベルト「ピアノソナタ第16番イ短調D845,Op.42第1楽章」ピアノ楽譜11 (動画3:40~)

124、125小節目などに長く伸ばす部分も出てくるので、シューベルトも弦楽器をイメージしていたんじゃないかなと思います。

シューベルト「ピアノソナタ第16番イ短調D845,Op.42第1楽章」ピアノ楽譜12 (動画3:56~)

134小節目のフォルテあたりから140小節目に出てくるフォルテッシモまで、感情が激しく爆発するように、ここは力を込めて演奏しましょう。

左手がト音記号からヘ音記号の低い音までものすごく飛ぶので、外さないように鍵盤をしっかり見てくださいね。


シューベルト「ピアノソナタ第16番イ短調D845,Op.42第1楽章」ピアノ楽譜13 (動画4:16~)

さて、曲が盛り上がったと思ったら、145小節目からまた落ち着いてしまいます。

ここから再現部になっているのですが、メロディーがユニゾンではなく、バッハのフーガのような形になっていますね。

再現しているようでしていないところが、やはりシューベルトに試されている気がします(笑)

とても綺麗なところなので、左手のメロディーもしっかり歌えるように、片手ずつ練習しましょう!


シューベルト「ピアノソナタ第16番イ短調D845,Op.42第1楽章」ピアノ楽譜14 (動画4:55~)

166小節目から179小節目にかけて、不安を煽るようなシンコペーションのリズムが続きます。

このシンコペーションのリズムが重くならないように気を付けましょう。
だんだんテンポが速くなってもいいくらいです。


シューベルト「ピアノソナタ第16番イ短調D845,Op.42第1楽章」ピアノ楽譜15 (動画5:16~)

180小節目のフォルテッシモになったところで、テンポが落ち着いて一定になるように調整します。

ここも前と同様、オーケストラが全体で演奏しているように力強く弾きましょう!


シューベルト「ピアノソナタ第16番イ短調D845,Op.42第1楽章」ピアノ楽譜16 (動画5:47~)

200小節目から♯3つのイ長調になっているので、注意して譜読みしましょう。

この曲の中で唯一「希望の光」が見えるような明るい部分なので、今までの「不安な空気」を一変させるような気持ちで演奏しましょう!


シューベルト「ピアノソナタ第16番イ短調D845,Op.42第1楽章」ピアノ楽譜17 (動画6:23~)

223小節目からまた初めのイ短調に戻ります。

やっぱり不安はまだ消えていなかったようです(笑)


シューベルト「ピアノソナタ第16番イ短調D845,Op.42第1楽章」ピアノ楽譜18 (動画7:11~)


247小節目から悩みのユニゾン、再びです。
ヘ音記号のとても低い音が、不気味な雰囲気を表していますね。

音のイメージは、やっぱりコントラバスでしょうか。


シューベルト「ピアノソナタ第16番イ短調D845,Op.42第1楽章」ピアノ楽譜19 (動画7:32~)

261~263小節目にかけてのクレッシェンドに合わせて、テンポを少し前のめりに速くしましょう。

264小節目のフォルテッシモに入ってから、テンポを安定させます。


シューベルト「ピアノソナタ第16番イ短調D845,Op.42第1楽章」ピアノ楽譜20 (動画8:02~)

280~282小節目も先程と同じように、283小節目のフォルテに向けてだんだんテンポを速くしていきましょう。


シューベルト「ピアノソナタ第16番イ短調D845,Op.42第1楽章」ピアノ楽譜21 (動画8:22~)

295小節目以降は最後までずっとフォルテッシモです。

付点2分音符の長い音を弾いたあとに一瞬脱力して、力を入れっぱなしにしないように気を付けましょう。
(手が痛くなってしまいます!)


シューベルト「ピアノソナタ第16番イ短調D845,Op.42第1楽章」ピアノ楽譜22 (動画8:33~)

最後、303小節目~の両手オクターブのユニゾンは、ペダルを一音一音踏みかえて、全ての音がはっきり聞こえるように演奏しましょう。

まとめ


・中級レベルでも、持久力と表現力が必要な曲!

・ためるところはしっかりためる!テンポの揺れが大事!

・オーケストラを思い浮かべて、ピアノ以外の音色をイメージする!


以上がポイントになります。

漫画の中でのだめちゃんもこの曲の表現に苦労していたように…
少し気難しい雰囲気の曲ではありますが、メリハリがあってカッコイイ曲だと私は思います!

漫画で気になっていた方も、ぜひ挑戦してみてくださいね♪



「ピアノソナタ第16番D845,Op.42」の無料楽譜
  • IMSLP(楽譜リンク
    本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1888年にブライトコプフ・ウント・ヘルテル社から出版されたパブリックドメインの楽譜です。

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