バッハの2声のインベンションは、クラシックのピアノ学習者にとって一度は通らなければならない道となっています。
「バッハは苦手、嫌い」と言う人が少なからずいるのですが、確かにバッハの曲は人により好みが分かれると思います。
それには大抵「バッハは弾きにくい」という理由があるのですが、なぜ弾きにくいかというと…
インベンションは2声、つまり右手と左手にそれぞれメロディーの役割があります。
今まで「右手がメロディーで左手が伴奏」という形の曲を弾いていた場合、左手でもしっかりと主張した旋律を弾かなければいけないバッハの曲は、最初は弾きにくいかもしれません。
しかしこの多旋律の曲が弾けるようになれば「左手を聴く力」が身に付くので、将来憧れの難しい曲を弾く時にも役立つはずです。
ベートーベンやショパンも、バッハの曲を練習して作曲に生かしていたそうですよ。
今回はそんなクラシックの基礎ともいえる「2声のインベンション」に挑戦する方のために、難易度と各曲のポイントをご紹介します!
■ 目次
- 1 2声のインベンション難易度順
- 2 インベンション全15曲~弾き方のポイント
- 2.1 第1番 ハ長調 BWV772 ★
- 2.2 第2番 ハ短調 BWV773 ★★★★
- 2.3 第3番 ニ長調 BWV774 ★★★
- 2.4 第4番 ニ短調 BWV775 ★
- 2.5 第5番 変ホ長調 BWV776 ★★★★
- 2.6 第6番 ホ長調 BWV777 ★★★★
- 2.7 第7番 ホ短調 BWV778 ★★★
- 2.8 第8番 へ長調 BWV779 ★★
- 2.9 第9番 へ短調 BWV780 ★★★★★
- 2.10 第10番 ト長調 BWV781 ★★
- 2.11 第11番 ト短調 BWV782 ★★★★
- 2.12 第12番 イ長調 BWV783 ★★★★★
- 2.13 第13番 イ短調 BWV784 ★★
- 2.14 第14番 変ロ長調 BWV785 ★★★
- 2.15 第15番 ロ短調 BWV786 ★★★
- 3 楽譜について
- 4 まとめ
2声のインベンション難易度順
2声のインベンションは全部で15曲ありますが、全体的な難易度は実はそれほど大差ありません。しかし今回は調性や弾きにくい左手のテクニックなどを踏まえて、★5つで難易度を付けてみました。
1~2つのものは易しめ、3~4つのものは普通、5つのものは難しめと考えてください。
難易度 番号・調・作品番号(拍子)
★ 1番 ハ長調 BWV772(4/4拍子)
4番 ニ短調 BWV775(3/8拍子)
★★ 8番 ヘ長調 BWV779(3/4拍子)
10番 ト長調 BWV781(9/8拍子)
13番 イ短調 BWV784(4/4拍子)
★★★ 3番 ニ長調 BWV774(3/8拍子)
7番 ホ短調 BWV778(4/4拍子)
14番 変ロ長調 BWV785(4/4拍子)
15番 ロ短調 BWV786(4/4拍子)
★★★★ 2番 ハ短調 BWV773(4/4拍子)
5番 変ホ長調 BWV776(4/4拍子)
6番 ホ長調 BWV777(3/8拍子)
11番 ト短調 BWV782(4/4拍子)
★★★★★ 9番 ヘ短調 BWV780(3/4拍子)
12番 イ長調 BWV783(12/8拍子)
易しめの曲から練習してもいいですし、好きな調性の曲を選んで練習してみてもいいと思います。
初めは1番、4番、8番、13番あたりを弾く人が多いです。
では次に各曲のポイントを解説します!
インベンション全15曲~弾き方のポイント
第1番 ハ長調 BWV772 ★
やはり初めは1番を弾く人が多いですね。
まさにバッハの「導入曲」です。
ハ長調で弾きやすいがゆえに、だんだんテンポが速くなってしまいがちなので気を付けましょう。
15小節目~の右手と左手の掛け合いが特徴的ですね。
右手と左手お互いの音を聞きあって、テンポが乱れないようにしましょう。
第2番 ハ短調 BWV773 ★★★★
(最初~1:53)2番はまるで「かえるのうた」のように右手と左手が輪唱しているのが特徴的ですね。
左手もかなり動きますしトリルもたくさん出てくるので、15曲の中では難しい方だと思います。
音符の流れ(上行と下行)に沿って強弱をうまく付けると、とても綺麗にまとまります。
第3番 ニ長調 BWV774 ★★★
(最初~1:15)とてもシンプルで譜読みもしやすい曲です。
逆に平坦になりすぎないように弾くのが難しい曲かもしれません。
速く弾く人が多いですが、速くても8分音符150くらいまでが良いと思います。
メトロノームを使って、3拍子の波に乗り遅れないように練習しましょう。
第4番 ニ短調 BWV775 ★
4番は1番と同じく「導入」としての練習に良い曲です。
流れに乗りやすい曲なので、1番よりも弾きやすいかもしれません。
29小節目~の左手の長いトリルが、唯一弾きにくいところです。
ここのトリルはがつがつ弾いてしまうと手が疲れてしまうので、手首の力を抜いて指の重さだけで弾くように意識してみましょう。
第5番 変ホ長調 BWV776 ★★★★
(3:17~5:03)5番はテクニック的にはそれほど難しくないのですが、意外と覚えにくいので片手ずつ丁寧に譜読みしましょう。
右手も左手も口で歌えるくらい覚えてしまえば、両手になっても怖くありません。
装飾音が入るときは、ない方のメロディーとずれないように気を付けましょう。
第6番 ホ長調 BWV777 ★★★★
右手と左手が反対方向にずれていくメロディーが特徴的で、とても面白い曲です。
個人的に28小節目から始まる右手のメロディーがとても綺麗で好きです。
ここは左手も伴奏のような形になるので、メロディーをしっかり歌うように弾きましょう。
ホ長調は♯が4つと多く、ダブルシャープも出てくるので★4つにしています。
第7番 ホ短調 BWV778 ★★★
(最初~1:42)とてもバッハらしいと言いますか…
ピアノではなくチェンバロで演奏したくなるような、高貴な雰囲気の曲です。
4番と同じような長いトリルが出てきます。
7、8小節目は右手のトリルです。
「レミレミレミ…」と2、3の指で弾くと弾きやすいでしょう。
15~17小節目は左手のトリルです。
「シドシドシド…」と2、1の指もしくは3、1の指が弾きやすいでしょう。
第8番 へ長調 BWV779 ★★
とても歯切れの良い、明るくて楽しい曲です。
8番が個人的に一番好きかもしれません。
動きを覚えてしまえばとても弾きやすいので、1番や4番と同じくバッハの導入として最初の方に弾く人が多いです。
すごく速いテンポで弾く人もいますが、両手ともに16分音符で動くところが速いと難しいので、ぐちゃぐちゃにならない程度のテンポで良いと思います。
8分音符は1音ずつ切って演奏し、16分音符はスラーで滑らかに演奏すると、メリハリが出て綺麗にまとまります。
第9番 へ短調 BWV780 ★★★★★
(最初~1:51)9番は7番と近い雰囲気の、チェンバロで弾きたくなるような曲ですね。
タイでつながっている音が多いのが特徴的で、この曲のポイントでもあります。
しっかりと音符通りの長さを伸ばして、テンポが乱れないように気を付けましょう。
へ短調という調性、臨時記号の多さ、強弱をしっかり付けて感情的に弾くのが難しいので、★5つにしています。
第10番 ト長調 BWV781 ★★
最初から最後まで、一気に流れるように弾き終わってしまう曲です。
とてもシンプルで譜読みもしやすいでしょう。
しかしまた出てきましたね、長いトリルさん(笑)
右手のトリルは「ドレドレドレ…」と始まり「シドシドシド…」に変わって、
左手に「ドレドレドレ…」と受け渡されます。
右手から左手に受け渡す部分がスムーズに聞こえるように、一瞬止まったりしないように気を付けましょう。
トリルの指使いは両手とも1、3の指が弾きやすいと思います。
第11番 ト短調 BWV782 ★★★★
ト短調の悲しい雰囲気が印象的な曲です。
テクニック的にはそこまで難しくないのですが、右手も左手も最後までせわしなく動くので集中力が必要かなと思います。
時折出てくる、装飾音が付いている4分音符の音を強調して弾くときちっとまとまるでしょう。
左手にも装飾音が出てくるので少し難しいですが、どうしても弾きにくい場合は普通の4分音符にしてしまって良いと思います。
とにかくバッハの曲は臨機応変な弾き方が必要です。
第12番 イ長調 BWV783 ★★★★★
12番は個人的に、15曲の中で一番難しいのではないかと思います。
右手と左手で鍵盤を刺繍糸で紡いでいくような…
一歩間違えたら、針で手を怪我してしまうような気持ちになる曲です(笑)
この曲には「モルデント」というトリルがたくさん出てきます。
トリルの記号の真ん中に縦線が入っているものです。
これは2度下の音を弾くトリルなので、初めの音の場合だと
「ラソ♯ラ~」と演奏します。
3小節目の左手の最初の音の場合は、トリルの記号の下に♯が付いているので
「ミレ♯ミ~」と演奏します。
右手にも左手にも、長い音符にはこのトリルが付いていますね。
いきなり正確に弾くのは難しいので、初めはトリルなしで弾いてみて、ゆっくりのテンポからトリルを入れて弾けるように練習してみましょう。
第13番 イ短調 BWV784 ★★
なぜか耳に残ってしまうメロディーが特徴的で、その曲調の親しみやすさと弾きやすさで人気のある曲です。
私もインベンションを始めて3曲目か4曲目くらいに練習しました。
曲の流れをつかみやすいので、すぐに覚えられる曲ではないでしょうか。
9小節目~右手と左手のリズムが交差する部分は、お互いの音を聞きあってスムーズに受け渡しできるようにしましょう。
11小節目~臨時記号が多くなるので、調性を感じながら丁寧に譜読みしましょう。
第14番 変ロ長調 BWV785 ★★★
特徴的なリズムが耳に残る、親しみやすい曲です。
初めは右手が主役で、6~7小節目は左手が主役になります。
32分音符が転ばずに弾ければ、比較的易しい方に入る曲なので挑戦しやすいでしょう。
14~16小節目は両手で同じリズムになります。
綺麗にハモってとても気持ちいいところなので、しっかり音を聴いて焦らずに演奏しましょう。
左手がなかなかうまく動かない…という人は、ハノンなど指の練習曲で訓練するとうまく弾けるようになりますよ。
第15番 ロ短調 BWV786 ★★★
(最初~1:10)まさにバッハの曲!と言えるような、フーガのハーモニーが美しい曲です。
※フーガとは主題のメロディーとそれを模倣したメロディーが交互に現れる、多声音楽の形式です。
15番は楽譜だけ見ると弾きやすそうですが、弾いてみると意外と弾きにくいなぁと感じるでしょう。
その原因はおそらく左手がテーマのメロディーとなった時のトリルです。
このトリルがうまく右手のメロディーと合わさると、とても綺麗な曲にまとまります。
4分音符80~90くらいの速めのテンポで弾かれることが多いので、速めだと難しいですが、少しゆっくりめなら比較的弾きやすいです。
片手ずつ確実に暗譜して弾けるように、まずはゆっくりのテンポから練習してみましょう。
楽譜について
インベンションの楽譜はたくさん出版されているので、どの楽譜を選んだら良いのか迷っている方もいるかもしれません。そこでいくつか楽譜をご紹介します!
バッハの時代の楽譜は強弱や表現記号があまり使われていないので、クラシック学習者は「原典版」という元の楽譜にほぼ近いものを使うのが一般的です。
こちらが原典版で定番の、ヘンレ版とウィーン原典版です。
シンプルなので自分で強弱など好きなように書き込めます。
しかし子供のレッスンでよく使われているのは、こちらの全音の楽譜です。
編集者による楽譜の書き込みは多少あるものの、運指が日本人向けなのでとても弾きやすいと評判です。
もうひとつおすすめなのが、カワイ出版の楽譜です。
私は子供の頃にこちらを使っていました。
解説が分かりやすいのと、トリルの弾き方が楽譜の下の方に書いてあるのでそれも見やすかったです。
バッハ初心者さんにおすすめです♪
まとめ
簡単にではありますが、インベンションの各曲の難易度と演奏のポイントを紹介させていただきました。
バッハ初心者の人は、1、4、8、13、14番あたりから練習するのがオススメです。
この5曲は比較的弾きやすいのと、親しみやすいメロディーで覚えやすいからです。
バッハは後の偉大な作曲家たちにも大きな影響を残したため、クラシック界では「音楽の父」とも呼ばれています。
バッハの曲が弾けるようになると、不思議と他の作曲家の曲も譜読みがしやすくなりますよ。
脳トレだと思って(笑)ぜひ弾きやすい曲から挑戦してみてくださいね♪
「インベンション」の無料楽譜
- IMSLP(楽譜リンク)
本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1890年にペータース社から出版されたパブリックドメインの楽譜です。
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