夏です!夏ですよ!今年もこの季節がやってまいりました!吹奏楽コンクール!地域によっては地区予選が終わった所ではないでしょうか。日本全国の吹奏楽部が最も熱くなるコンクール。一年を通じて最も集中して楽器を練習できる機会ですね。

その中でも旋律を受け持つことの多いトランペットパート。練習を重ねていくうちに自分の腕が上達していくのを感じられるのもこの時期ですね。コンクールが終わっても、もっともっとうまくなりたい。そういう思いも浮かんでくる人もいるでしょう。

「トランペット奏者に!!!おれはなるっ!!!」

と夢を持つことができた人もいるのではないでしょうか。合奏ばかりではなく、ピアノやヴァイオリンのようにトランペットで自由自在にソロを吹いてみたい・・・

クラシックでもジャズでも、どのジャンルでもトランペットを吹く人がおそらく最初にソロ曲として演奏するのが、アーバンがコルネットソロのために書いた「輝く雪の歌による変奏曲(ビュティフルスノー)」ではないでしょうか。

ジャン・バティスト・アーバン(1825~1889)


非常に優れたコルネット奏者でもあったJ・B・アーバンはコルネットの技術をいかんなく発揮させた12曲のソロ曲を書きました。どれも主題と変奏曲からなる技巧的な曲です。その中でも比較的難易度が易しいのがこの曲です。

小さい頃からトランペットの先生にレッスンを受けていた方ならもう吹いたことがあるかもしれませんね。ピアノでいうなら、初めての発表会で演奏する曲のようなものです。たとえばブルグミュラーやベートーヴェンソナタ19番や20番などのような感じでしょうか。

お客さんが見守るなか、舞台上ではトランペットを持った自分と伴奏のピアノ奏者のみ。今回はそんなアーバンのトランペットソロ曲「輝く雪の歌による変奏曲」。夏も真っ只中、舞台上から練習のコツも含めてご紹介しましょう!

■ 目次

金管楽器のバイブル「アーバンの金管教則本」

トランペットを吹いている人なら必ず行き当たる練習教則本があります。ご存知の方も多いと思いますが、J・B・アーバンの教則本です。


3巻に分かれている。1巻は練習曲、2巻がソロ曲集、3巻はピアノ伴奏譜。


今は白い表紙のものが市販されています。かつては黄色い表紙で電話帳のような厚さの教則本でした。もしかしたら中学や高校の音楽室(吹奏楽部の部室)で見たことがある人もいるかと思います。

このアーバンはトランペット(コルネット)の演奏技術の発展に大きく貢献した人物です。トランペットもヴァイオリンやフルートのように自由自在にソロ曲を演奏することができることを自身の演奏によって証明しました。そしてそのための教則本は現在でも金管楽器のバイブルとして世界中で使われています。

お手上げだっ!

さあ!いよいよこの曲にチャレンジです。早速楽譜を見てみると…

フムフム、最初はキャッチーなメロディ。これは気持ちよく吹けそうだ。二曲目からこのメロディが変奏されていきます。次の曲は…

三連符に変奏されています。ムウ…なかなか難しいゾ…そして次は16分音符での変奏曲。ムムッ難しい!そして次の終曲では六連符が連続する速い変奏曲!もうお手上げだっ!

「音符メッチャ多いわー」


さらに追い討ちをかけるように技巧的なフィナーレ!

これでも技術的には12曲中最も易しい曲です。今まで合奏の中で吹いた経験しかない人にとって、長いソロ曲を一曲吹き通すことは躊躇してしまうかもしれません。しかも細かい音符が次々と連なっている楽譜なんて吹奏楽の合奏などではほとんど見かけませんね。

「主題と変奏曲」練習のコツ

でも絶望することはありません。できることからコツコツ練習を重ねていけば誰でも必ず吹けるようになります!そう、アーバンの教則本はこういう技巧的な曲を金管楽器で吹けるようになるための教則本なのです。

私自身初めてこの曲を練習し始めた時は吹奏楽での合奏の経験しかなく、楽譜を見た瞬間凍りついた覚えがあります。

今回ご紹介する練習方法は、今まで先生にレッスンを受けたことがなく、吹奏楽部などで独学で練習していて、「これからアーバンに挑戦します!」という人を想定してご紹介します。

今まではファンファーレ要員程度の扱いだったトランペットも、ヴァイオリンやフルートやピアノに負けない技巧的で芸術的な音楽を演奏できることを証明したのです。

練習するときの注意

この4つのことを守って日々練習すれば必ず吹けるようになります。

① 全曲最後まで吹き通すポイントの1つは、吹奏楽やオーケストラの全合奏の時のように息を入れすぎないこと、力強く吹こうとしないことです。長距離のマラソンのようにペース配分を考えて。そうしないとすぐバテて練習をすることすら難しくなるでしょう。

② 必ずメトロノームを使うこと。メトロノームなしで練習するのは自分の吹きやすいところだけできて、他の苦手な部分が疎かになります。つまり自己満足の演奏で終わってしまいます。

③ 第二変奏あたりから動画の演奏のかっこよさに惑わされて、すぐに速いテンポで練習しようとする人が多いですが、ここは我慢。ゆっくりのテンポで確実に練習しましょう。

④ 楽譜に書かれている速度や強弱記号、クレシェンド、スラーなどなどを、必ず正確に覚えてその通りに演奏すること。感覚やノリで演奏するのはその後。


音符が沢山連なっているのを見るとついつい焦ってしまいがちですが、どんなに速いパッセージでも焦らず柔らかい音で吹くことが大切です。

さあ!それでは練習開始ッ!


テーマ


まずはテーマ。これもメトロノームを使います。その目的は4拍子に正確に音を乗せるためです。速度は「アンダンテ クワジ アレグレット」とあります。アレグレットに近いアンダンテという意味です。

ちょっと速めに歩く、くらいのテンポということですが人によってその速さは変わってきます。練習の時は自分がちょっと遅めと感じるくらいのテンポから練習します。そして少しづつ速度を上げていきます。

最終的にメトロノームの数字なら80くらいで演奏できればいいかもしれません。ポイントはゆっくりであってもダラダラ歩かない、軽快に歩くようなテンポ感で演奏できるよう練習することです。



出だしのアウフタクトの16分音符を正確な長さで。油断するとダラっとしたリズム感になります。これはこの後の変奏曲でも注意です。簡単な旋律とはいえ、最初の主題だけにシッカリ練習して安定感のある演奏を目指しましょう。



最後にある装飾音符(1:17~)。これも正確に音を拾って、ゆっくりのテンポから練習、少しづつ速くしていきます。正確に吹かないと「噛んじゃった早口言葉」のようになって残念な演奏になってしまいます。

装飾音はなめらかに。

第一変奏曲


ここから変奏曲が始まります(1:39~)。吹奏楽など合奏での経験しかなかった人には難しい!と感じられるかもしれません。でも大丈夫!

ここでもメトロノームを使います。非常にゆっくりのテンポから(40〜60くらい)練習。ゆっくりすぎてちょっと辛いと感じるくらいがちょうどいいです。

小さな音、pの音量で練習しましょう。スタッカートも短すぎず。短くするというよりは発音をハッキリすることが大切です。

楽譜に書かれているすべての音が完璧にできるまでメトロノームのテンポは上げてはいけません。少しづつ音を作っていきましょう。


特にテーマと同様アウフタクトの16分音符は注意!3連符との区別をハッキリとつけましょう。

第二変奏曲


この16分音符だらけの楽譜をみた瞬間挫折しそうになりますね(2:34~)…でも大丈夫!これもメトロノームを必ず使って、ゆっくりから練習すればできるようになります。

最初はメトロノームの設定を♩=○○ではなく♪=○○で練習しましょう。つまり倍の長さにして音を拾って(練習して)いきます。速さは第一変奏と同じゆっくりと感じる速さで。

この曲は速い曲ですが、楽譜をよくみてみると分散和音と音階の組み合わせでできているだけです。基本をシッカリおさえれば決して難しいものではありません。

第三変奏曲

メトロノームこそ絶対の座標!


さあ、この曲が大きな壁となるでしょう(3:36~)。とても速い6連符です。通常の舌をトゥトゥトゥ(TTT)と打つシングルタンギングではなく、トゥトゥク・・・(TTK)トリプルタンギング※が必要となります。99%の人は「トリプルタンギングなんてできなーい」と頭を抱えるでしょう。

しかし!これも大丈夫です。できるようになります!

(※速い3連付はトリプルタンギングで、16部音符など速い2つ刻みはダブルタンギングを使います)

これも第一変奏曲と同じようにゆっくりからスタートです。メトロノームの設定も第二変奏曲と同じく♪=○○で。ひたすら地味で単調な3連符の練習になります。

ここで大きなポイントは、最初からトリプルタンギングで練習するのではなく、まずはシングルタンギングで練習です。音を短くしすぎないこと。テヌート気味で練習します。

トリプルタンギングをマスターする大切なポイントは、まずシングルタンギングで三つの音が均等な長さになるように吹けるようにすることです。

これができてから初めてトリプルタンギングに少しづつシフトチェンジしていきます。そしてテンポを少しずつ上げていきます。

完璧にできた所でメトロノームの数字をひとつ上げていく・・・それくらいの気長さで練習しましょう。コツコツとバカ真面目に練習を積み重ねていくうちに不思議と自然な速いトリプルタンギングができるようになります。

いきなり最初からトリプルタンギングで練習するのはNGです。不安定で未熟な状態で難しいことをやろうとすると必ずどこかで失敗します。もし鳥が空を飛ぶように自由自在に吹けるようになりたいならば、翼と羽根をシッカリ形作る事が絶対必要です。

「トリプルタンギングがー!」と言う前に、まずそこに至るまでの練習の絶対量というものが必要なのです。

第四変奏曲フィナーレ

難しい第三変奏曲の次はいよいよフィナーレ。まずは前奏から(4:44~)



一曲目のテーマよりゆったりとしたテンポです。装飾音階が多いですが、動画の演奏やアーバンの第1巻装飾音の練習曲を参考に、滑った早口言葉にならないようにシッカリと音を拾います。

キチンと楽譜通りにできるようになったらテンポ感は守りつつ、自分の自由な表現を所々に入れてみましょう。

ここからラストの速い曲となります(5:07~)


楽譜ではダブルタンギングを使って、とありますがシングルタンギングでも大丈夫だと思います。

ラストは少しアチェルランド(加速)してゆくとカッコよくなりますが、無理をしないように。最後のキメをfでシッカリ盛り上げて終わらせられる事を優先しましょう。


最初の一曲目からここまで吹き切るためにスタミナのペース配分も必要になってきます。無理に大きな音で吹かないこと。そしてひたすら練習すること。これが長いソロ曲を、緊張せず吹き切るポイントです。

簡単なものほど難しい!

この曲はアーバンの12のソロ曲でも簡単な方と言いましたが、逆にミスをするとよく目立つ曲とも言えます。また、最初に取り掛かる曲として基本的な技術を重点的に身につけることになるので苦労することも多いです。

しかしこれを乗り切ることができれば、さらに難しい他のソロ曲もすんなりできるようになります。

ここまで到達するには粘り強くコツコツと練習を重ねていくしかありません。だんだん単調な練習に飽きてきて、楽しく吹きたいと思いメトロノームのテンポを上げてみたくなりますがシッカリできるまでは我慢です。


それは本番の時に緊張のせいで失敗することがないようにするためでもあります。「安定した下地」があれば本番でどんなに緊張して震えても音はシッカリと鳴ってくれます。練習量は決して裏切りません。そしてだどりつく所は、難しい曲であってもロングトーンをするのと同じ要領で吹くということです。

以前書いた「ロングトーンの練習」の記事を読んでくださった私の超超熱狂的なファンの方ならご存知かもしれませんが、高い音や難しいパッセージであっても唇のポジションを変えず吹くことが大切です。

今まさに吹奏楽コンクールや甲子園の季節!どちらも相手があるので勝ち負けはありますが、自分自身の練習は自分自身との勝負でもあるのです。



「アーバン金管教本」の無料楽譜
  • IMSLP(楽譜リンク
    本記事の一部はこの楽譜を用いて作成しました。1879年にJ・W・ペッパー&サン社から出版されたパブリックドメインの楽譜です。「アーバン金管教本」全曲が収録されているわけではなく、「輝く雪の歌による変奏曲」は47ページから、テーマ、第1変奏、第2変奏のみ収録されています。

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