吹奏楽部で、オーケストラで、ジャズバンドで、様々なジャンルで活躍するトランペット。音を出せるようになるまでが大変な楽器ですが、日々上達してゆくのが感じられるようになるとこんなに楽しい楽器はないと思えるでしょう。
ある程度上達してくると、今取り組んでいる曲ばかりではなくアーバンの教則本や色々なエチュードに挑戦してみたくなってきますね。
しかし同時に学生さんも社会人さんもトランペットを練習している人120%の人が必ず、絶対、間違いなく最初に当たる壁。それは
「高い音が出ないィィ!」
そしてもう一つ
「吹いてるとすぐ唇がバテるゥゥ!」
でしょう。そしてどうしたらそれらを克服出来るかを模索することになるはずです。
なぜかはわかりませんが、トランペット吹きの人のほとんどはストイックにそれを追い求めます。勉強や仕事以上に「高い音を吹けるようになる」ことと「スタミナをつけること」をなぜか異様に、熱心に探し求めるのです。病的といってもいいでしょう!私もそうです( ゚д゚)これを「ラッパ吹きたいよ症候群」と言います。多分。
さて、今回はそんな諸症状の峠を越え、そろそろガチで熱い大曲を吹きたいゼ!という挑戦者達が選ぶであろう屈指の名曲を取り上げてみたいと思います。
曲はドイツの近代作曲家、パウル・ヒンデミットの「トランペットソナタ変ロ調」。トランペットという楽器の音の性質と性能を余すことなく表現するソロ曲です。そしてこの曲はトランペットだけでなく、伴奏のピアノにもかなりの技術が求められます。
また、この曲の最も難しい点はなんといっても、トランペットにとっては長いソロ曲であり、バテずに最後まで吹き切ることが非常に大変だというところです。第1楽章でも6分弱、全曲を通すと16分ほどの曲です。
トランペットとピアノの熱い表現がぶつかり合い、時には緻密で繊細な駆け引きが展開されるヒンデミットの「トランペットソナタ」。はたして最後までバテずに吹ききれるのか!?もう逃げ場のない土壇場のステージ上からご紹介しましょう!
(今回はヒンデミットのトランペットソナタの事と、トランペットのバテ問題についての記事です。早くバテ問題を知りたい!もうバテに葬り去られたくない!という方はどうやったらスタミナがつくの?へGO!)
■ 目次
逃げないでェ〜!
私が最初にこの曲に挑戦したのは、ある音楽大学の、いわゆる期末試験の時でした。第1楽章のみです。ピアノ伴奏付きでの演奏が必要なのですが、伴奏者は自分で探さなければいけません。アーバンなどのトランペットが主体となる伴奏ならばピアノ科の人達にお願いすれば快く引き受けてくれるのですが・・・このヒンデミットの曲、意外にもピアノ科の人達の間でも超難曲の一つとして知られており、中々引き受けくれる人がいません。藁にもすがる思いで、伴奏譜片手にピアノ科の人達にお願いします。
「あの、伴奏お願いしたいのですが・・・曲はヒンデミットです」
○ピアノ科女子A「いやー難しいね!アタシも試験があるから・・・ゴメンなさい」
ピアノ科の人達も自分の課題があるし、大変だな・・・
○ギャル風ピアノ科女子「うわッ!なにこれ?いかにもドイツって感じー?マジダサ!さらいたくない!」
た、確かに!特に最初の出だしはゴツゴツしてる・・・
○ピアノ科女子B「…」
私を見た瞬間逃げだした!・・・こ、これはもしかして伴奏以外の問題か?!号泣ゥゥゥ!囧
その後ようやく快く引き受けてくれる素晴らしい伴奏の方が見つかりました。非常に素晴らしいピアニスト!偶然声をかけたピアノ科の人でしたが、何と実は校内でもトップクラスの実力者!
その後まずは自分のソロをひたすら通し練習。スタミナが必要な曲はとにかくひたすら通し練習あるのみ!そして伴奏合わせの練習と、いまだかつてないほどに練習を重ね、試験では良い成績を収めることができました。今でもその方には感謝しています。
ヒンデミットは打楽器以外の全てのオーケストラ楽器それぞれのソロ曲を残しています。また、ブラスアンサンブル曲をはじめ、交響曲やオペラ、合唱曲、アマチュア音楽家のための音楽なども数多くの作品を残しています。
近代音楽の作風ですが、無調音楽のようなものではなく、難解ながらも旋律やリズムのハッキリした、ドイツ的なガッチリした音楽です。先程のあるピアノ科のギャルが表現した「いかにもドイツっぽい、ゴツい!さらいたくない」というのは的を得ていると思います。
まるでハンマーで叩きつけるようなリズムと言ったらいいでしょうか、悪く言えばガチガチしたリズム。とても個性的な音楽となっています。
さて、ここから私なりの各楽章の練習のコツ、全楽章をバテずに通すための心得などをご紹介しましょう。
ヒンデミット「トランペットとピアノのためのソナタ変ロ調」の解説とバテない吹き方
この曲は数あるトランペットのソロ曲の中でも、かなり難しい曲の一つだと言えます。楽譜そのもの、いわゆる譜面ヅラは難しくは見えません。速いパッセージもないし特別高い音もない。しかし!あなどるなかれ!最後まで吹き切る耐久力と息の長さ、トランペットらしい力強い音色と、ピアノ伴奏と絡めたかなり高いレベルの表現力が要求されます。ある程度吹けるようになって挑戦する曲ではありますが、私はトランペットを始めて日が浅くても、もしあなたがこの曲に惹かれるものがあったならば、触りだけでもドンドン積極的に挑戦すべきだと思います。
曲のレベルが自分より少し上の曲から奏法や良い音のイメージをマスターしてゆくというのも上達の秘訣です。
第3楽章(8:15~)をこんなにゆっくり演奏しているのに余裕がある!
この曲は知っているけれどこれから練習する人、初めて聴く人はきっと気づくとおもいますが、パッと聴いただけでもピアノ伴奏が恐ろしく難しそうです。実際ピアノにとっても、とてつもない難曲です。
この曲の正式な名称は「トランペットとピアノのためのソナタ変ロ調」。そう!2つの楽器で演奏する変ロ調のソナタなのです。
第1楽章
トランペットらしい、非常にわかりやすい単純明快な旋律から始まります。ピアノもパワフルで、ダs…ゴツゴツしたハンマーのような3連符のリズムを刻みます。この最初の出だしが全てを決めます。この最初の部分をしっかり良い音で吹くことが非常に重要です。この1楽章のっけからスタミナ、パワー重視の曲となっています。楽譜にもズバリmit Kraft、力を持って、と書かれています。いきなりトランペットらしいメリハリある輝かしい音を出さなければなりません。試験でも本番でも、待ち時間の間に唇が鈍って出だしがこもった音になることがあります。これはオーケストラでも長い休符の後にいきなり吹く時と同じです。
待ち時間、ステージ袖では音は出せないのでこれもトランペットの難しい点です。できることは
・楽器が冷えると音程が下がってしまうので、息を吹き込むなど、楽器を温めておく。
・長い休みから急に吹く時、音がこもらないようにするコツとしては、頭の中で「こもらない音、輝かしい音」を強くイメージしているとうまくいきます。そして実際に吹く時はためらわず恐れず、思い切って吹くことです。不思議とそれだけでうまくいきます。
ちなみに楽譜に書かれている表記は必ずGoogle翻訳でもいいので日本語に訳して、理解して練習しましょう。
最初のクライマックスの後、練習番号④から⑤までクレシェンドしてゆく箇所(1:32辺り~)、音はズルズルとしたテヌートで。短い音ではなく、地を這う大蛇の如く威圧感のある音と表現を目指します。
その後12/8、9/8拍子のリズム感も正確に(1:59~)。3つの8分音符(3連符)のリズム感を疎かにすると、次に来る4/4のクライマックスがカッコよく決まりません。
このクライマックス(2:48~)、breit(幅広く)と表記されている4/4のところがきっと練習で特に苦労する箇所でしょう。ここまででも結構バリバリ吹いてきて、さらにフォルテシモで、幅広くクライマックスを吹く!ミーラシー♪
長いクライマックスのフレーズ。激しいピアノのトレモロを伴い最大の盛り上がりを見せます。さらにフレーズの終わりは長ーいロングトーン(3:30~)!こういった所々に出てくるロングトーンはオルガンのようにまっすぐな音で吹きましょう。音を後押ししたり、減衰させたりしないように。
もうここで口がバテて、音がかすれて出ないか、弱々しい音になってしまうと思います。というか必ずそうなるでしょう!
「ここだけ取り出して練習するとシッカリ音が出せるのに、最初から通して吹いてくると、ここでバテる!」
ズバリ!これがトランペットの「スタミナ問題」の本質です。
この曲に限らず、トランペットの練習曲も含めた、ありとあらゆる曲がそうだと思います。しかし!そのことを感じる事が出来たならばOKです。つまり、ここは難所だということです。
山登りで言うなら頂上付近の急な登り坂。ならば1番最初からここまでのペース配分を考える必要があるということです。出だしは力強く吹かなければならないけれど、ここほどではないはずです。出だしは緊張感を持ってシッカリ狙いを定めます。その後は?
そこまで必死に吹くことはないでしょう。ほとんどがp(弱く)でたまに出るfはちょっとしたアタック(最初の出だしだけ強く)と思って。ただ、練習番号⑦からの(2:38~)、クライマックスに向かってクレシェンドしてゆく箇所のダイナミックレンジは聴き手に伝わるように、大袈裟なくらいに取りましょう。
リズムでもう一つシッカリ区別をしなければならない所(4:58~)。ここの16分音符はついついモッサリしてしまい3連符になりがちなので注意です。この辺の3連符と16分音符の吹き分けは後の第3楽章でも沢山出てきます。
この曲の最も強く盛り上がり、非常に難易度の高い箇所、練習番号⑭から、最後のテーマをフォルテシモで吹きます(5:27~)。最後の最後で最大の音量とパワーで吹くのですがそれだけではありません。伴奏のピアノがメチャクチャに難しいパッセージを弾きます。一応3連符のリズムですが、かなり複雑なので正確に伴奏と合わせるのはかなり難しいでしょう。
練習番号⑮のソ♯のロングトーンでようやくピアノと合います(5:51~)。それまでは各々バラバラに演奏し、そのポイントで合わせるのが1番やりやすいでしょう。まさにピアニストと息を合わせる必要があるアクロバットな部分ですが、バッチリ決まるとこれほどカッコいいものはありません。
そして最後はトランペットのB♭の力強いロングトーンとピアノのハンマーのような叩きつける降下音で締めくくります。
この時点でもう満身創痍であります・・・
こちらはピアノ伴奏のみの演奏です。これでたくさんカラオケ練習できますね!素晴らしい時代です。
第2楽章(6:14~)
ここから先を練習するということは、かなり腰を据えて取り組む必要があるということです。第1楽章でもうヘロヘロにもかかわらず、さらにこの先にも体力が削られる数々の難所があります。山は一層高く、一歩ずつ登り続けるしかありません。
前楽章とは対照的に、軽快な音楽となります。が!とても不思議な、独特な世界観の音楽です。
一見簡単そうな曲ですが次々に現れるピアノのパッセージとの掛け合いの楽しさ、これもヒンデミットの魅力です。まるでバッハの対旋律を実践するかのような奥ゆかしさを聴かせましょう。第1楽章とは違い、リズムが重苦しくならない様に注意です。
難しい箇所はまず、人によっては難しいリップスラーが連続するところ(7:35辺り〜)。ここまではガッチリした、金属的な曲想だったのがここでは滑らかな、のびのびした音が求められます。しかしながら金管楽器らしい張りのある音が大切です。そしてきらびやかなピアノとの掛け合いが聴かせどころ!
私は未だにうまく出来ませんが( ;´Д`)
そしてこの曲の最大の見せ場、(7:59~)からのスーパーロングトーン!「ソ」!8小節間「ソーーーーーーーー」と伸ばします。間違い無く!聴いているお客さんは祈っていることでしょう。「音が消えませんように」と!
さらに最後の追い討ちの如くこの楽章のテーマを吹いてまた「ソー」で終わります。シュールだわ!!
第3楽章(8:15~)
もうここまでくると本当に深い世界まで降りてきてしまったな、と感じます。深遠な曲です。さらには演奏時間も約8分強と、全楽章の半分を占めています。しかし!最も音楽的な表現力が求められる大曲と言えます。そして!演奏する吹き手としてはもう地獄です。ここまで激しい第1楽章と、シュールなスーパーロングトーンの第2楽章を吹いてきて、体力はもう限界!はたして最後まで吹ききれるのか?大丈夫!ほとんどはピアノが活躍する曲だ!なんて油断しているとエライ目にあいます!
非常にゆっくりとしたテンポのピアノによる深遠な前奏から、遠くから響いてくるようなファンファーレで始まります(8:57〜)。楽譜にはズバリ「葬送音楽」と記されています。
ここまでくると、もう難しい注文なのかもしれませんが、トランペットは、壮大に、ピアノに負けない音量で盛り上げる必要があります。私が演奏した時、この曲を完璧に吹き切ることが出来たならば、その後は葬送されてもいい!と思いました。まぁ葬送されませんでしたが。つまり完璧にできなかったorz
(10:00~)ここからややテンポが上がります。第1楽章のような12/8拍子。地べたを這うような、重厚さが特徴です。ミドルトーンからハイトーンまで、太い音で楽器を鳴らせるといいですね(遠い目)・・・
ここからまた曲想が変わり、より深遠な音楽となります(11:58~)。機械的なピアノの符点音符。さらに長いロングトーンで体力は消耗されていくのです。
最後のコラール「Alle Menschen müssen sterben」(13:59~)
「燃えたよ……真っ白に……燃え尽きた」と言いたい所ですがまだ楽譜には音符が書かれています。しかもドイツ語で「全ての人類は滅びなければならない」と書かれています。
長い沈黙の後、最大の聴かせどころ、長いコラールで最後を締めくくります。葬送、それはもう自分が葬られるんじゃないか?と思うほどの最後の追い討ちです。
トランペットは単純な、息の長い旋律。もう体力も限界を越しています。そんな中、ピアノが付点音符のリズムをゆったりと刻みます。
さらには1番最後の締めのロングトーンもピアノが終わるまで伸ばさなければならないのです!
最後の望み!自分が葬られないようにピアノ伴奏者との駆け引きが必要なのです!
そして世界の深淵に消え入るように、曲は静かに、長いロングトーンで終わります。永遠に、世界の終わりまで続くかと思われるピアノ伴奏が終わるまで・・・・・
参考演奏と名盤
ホーカン・ハーデンベルガー(TP)/ローランド・ペンティネン(PN)
たっぷりのお肉がギュッと詰まったソーセージのような、パンチのある音色がこの曲とピッタリ合う演奏です。まさにこの曲の最も理想的な演奏ではないでしょうか。
ハーデンベルガーはまさに練習の鬼。「トランペットは1日8時間は練習するべき」と、ある講習会に参加した時に教えていただいたのを覚えています。
ウィントン・マルサリス/ジュディス・リン・スティルマン
ジャズトランペッターとしてもずば抜けたマルサリス。マルサリスの使用している楽器は「モネット」と呼ばれるブランドの楽器で、最低でも100万円以上する楽器です。楽器本体も非常に重く、吹きこなすのも大変ですが、非常に太い音が特徴です。
この演奏も最初から最後まで、太いレーザー波動砲のような、スキのないパワフルな、それでいて重厚なキラメキを放っている完璧な音色と演奏です!
オーレ・エドワルド・アントンセン/ヴォルフガング・サヴァリッシュ
伴奏者に注目!!指揮者としての超巨匠の1人、サヴァリッシュがピアノ伴奏です。非常に意外で初めてこのCDを見た時はビックリしましたが、サヴァリッシュはピアニストとしても有名な奏者なのです。
そして、壮大に広がってゆくような高音域がアントンセンの音の魅力です。第1楽章のクライマックス、「breit」(動画2:48〜)からの音と表現は絶句するほどの素晴らしさです。私は個人的にこの様な演奏がしたいと夢見ています。
プロの実力とはこれほどのものかッ!
ギャルに罵られ、女子にキモがられ逃げられ、それでも素晴らしい伴奏者に出会い、満身創痍でこの「ピアノソナタ」の第1楽章だけでも吹き切った試験から数年後、ある演奏会で一曲まるまる演奏する機会をいただきました。かつてはこの曲が吹けたらいいなーくらいに思っていましたが、まさかこの様なチャンスが訪れるとは・・・間違いなく!失敗する!第1楽章だけでもこれほどの強敵!第2、第3楽章はこれを上回る難易度、しかも全曲を通して吹くのです。大勢のお客さんの前で!
とにかくひたすら練習しました。気を抜けばバテる、音がかすれる、貧弱な音になる・・・そして少しでもいい加減な練習、演奏をすれば、本番ではもはや公開処刑となるでしょう( ;´Д`)
そして、今回ピアノ伴奏を務めていただいたのはプロのピアニストの方。数々の著名ソリストの伴奏を務め、今現在でも演奏者として活躍されている実力者です。私なんかの伴奏をしていただけるなんて・・・何かの間違いか!?私ではない他の人の伴奏なのでは?と思ったほどです。
実際に伴奏合わせをしてみると、圧倒的な表現力!ハンマーの様な力強いアタック、音量!特に第1楽章のラストの難しい箇所(動画5:27〜)は本当に圧巻で、本来トランペットの音量がピアノの音量に負けることはないのですが、私は完全に気圧されてしまいました・・・
ピアノに飲み込まれた!これがプロの実力か!
演奏は第2楽章の最後のロングトーンや、やはり第3楽章のラストで、音が落ちそう(バテて音が消えそう)になってしまいましたが、いや!実際音が何個か消えてしましたが!!どうにか吹き切ることができました。バテずに、あるいはバテたとしてもそれが音に出ないように、最後まで余裕のある良い音で吹きたかったものです。課題はまだまだ多く・・・
本当にこのヒンデミットの「トランペットソナタ」とはあまりにも深く、底知れない音楽なのです。
トランペットに限らずどの楽器でも、全力でその曲に打ち込んだとしても「これで完璧な演奏!」となるには非常に遠い道のり、本当にゴールは遠いものです。でも、音楽に触れることができることに日々感謝ですね。
どうやったらスタミナがつくの?
インターネットが発達した今の時代、ポチッと検索してみれば、高い音とスタミナの解決方法について様々な情報が簡単に見つけられます。また現在、昔に比べて非常に良い管楽器練習方法の書籍が数多く出版されています。これから楽器を始める子供達、若い人達はとても恵まれた時代に生きているのかもしれません。
しかし、たとえ完璧なマウスピースを選び、完璧なアンブッシュア、完璧な息の使い方を再現したとしても問題は解決されないでしょう!
どんな難しい曲であっても、何を言っても結局は自分が吹かなければなりません。自分で実践してぶつかって行く!いつの時代であっても、たとえ数多くの情報や知識があっても、この点だけは絶対に変わりはありません。
バテやすさを克服したい!スタミナをつけたい!それにはズバリ、取り組んでいる曲をひたすら通して練習するしか方法はありません!全体を通して吹いてみて、初めてペース配分をすることができるのです。
どのような形でもいいので、途中の音が出なかったり、難しくて吹けなかったとしても最後まで吹いてみることが大切です。
難しくて譜読みができない、音が出せない所は後で徐々に練習していきます。
全体を俯瞰し、体で曲を体現します。曲全体を見回しどこに何があるのか?自分にとってどこが難所か?頂上は?
その上でここは力を抜こう、スタミナを少し消費して音をきらめかせよう、というペース配分を自分で考える必要があります。というかこれしか方法はありません。先程も言ったように結局は自分が吹くのですから。
この曲、ヒンデミットの「トランペットソナタ」のように高い音が連続し、演奏時間が長く、トドメと言わんばかりに最後にロングトーンが待ち構えている、しかもピアノと合わせるのも難しいという神曲を克服するには、とにかくひたすら「通し練習する」しかないのです。それがトランペットのスタミナを克服するための練習の大きな基本だと私は断言します。
もし完璧なマウスピースの圧力やアンブッシュア、息の使い方、諸々のバランスをマスターしたとしても、それはその場面だけのこと。それだけでは全曲を通すことはおろか、間違いなく途中でスカー!と音がかすれすぐにバテるでしょう。
どんなことでも絶対的な練習量というのは必要です。奏法や技術、バランスなどの必要性は全体の10%で残りの90%は日々の練習の積み重ねです!日々の練習がなければコツを発見することも絶対できないでしょう。
極端に言えばアンブッシュアや奏法が完璧だけどあまり練習しない人と、多少間違った吹き方をしていてもコツコツ練習を重ねてきた人とでは後者の方が遥かに良い演奏をします。
例えば、最先端のコンピュータ技術を使って世界的なマラソン選手のランニングフォームを解析し、そのフォームを完璧に再現したら、その人はそのマラソン選手と同じ走りができるでしょうか?マラソン選手は常に完璧なフォームを考え、そのフォームでまず「目標の距離を完走」します。そして何度も何度も練習を重ね、その上でさらにタイムを縮めることを目指すのです。
漫画、アニメのドラゴンボールを思い出してみて下さい。孫悟空はかめはめ波を誰にも教わることなく、亀仙人の見よう見まねで、すぐに放つことができました。はじめは小さな威力でしたが、その後修行を重ね、足から出したり、発したあとに自在に曲げたりと、様々に展開していきました。地球を救うほどに。
どんなことでも「方法」だけでは不十分で、それを現場の実戦で耐え得るものに仕上げる必要があります。
今、曲の途中でバテて、スタミナがなくて悩んでいる人は悲観することは全くありません!それはプロの人でも、世界的な奏者でも皆克服しようと今でも努力しているのです。
これが私ばかりでなく、皆さんも「スタミナがー!」と悩んでいる本質ではないでしょうか?
ならば、最初から吹いてきてその問題の箇所に来た時、どうするか?いや、その前にそこにたどり着く前にバテないように、フレッシュな高音をキメるためには何ができるか?
この答えは何度も通し練習をしてはじめて見えてくるはずです。それをしなければ絶対に見えては来ないでしょう!山の頂上に登るまでどこにどんな難所があるのか?実際に自分で登って見なければ決して知り得ないのと同じように。
まとめ
ヒンデミットの「トランペットソナタ」はスタミナ、耐久力の良い勉強になる曲であるばかりでなく、他の楽器との(この場合はピアノ)アンサンブル力、掛け合い駆け引きの鍛錬になる曲でもあります。でも難しいことは後でいいのです!このような大曲に挑戦する時、1番大切なことほど非常にシンプルで、忘れられがちなものです。
・譜面ヅラは簡単に見えても、とてもむずかしくて大変な曲なので、頑張る!
・何度も「通し練習」をする。
・疲れたら休む(これ1番大切)。
・素晴らしい伴奏ピアニストに感謝する。ラストのコラールの伴奏をあまりゆっくり弾かないで!と全力でお願いする。
Second picture of Paul Hindemith (painted by Rudolf Wilhelm Heinisch (1896-1956)) By Hermann-at-wiki [CC BY-SA 3.0 de], via Wikimedia Commons.
Last picture of Paul Hindemith By Roland Schmid [CC BY-SA 3.0 de], via Wikimedia Commons.