皆さんが演奏している楽器は何ですか?きっと多くの方がピアノなどの一般的にメジャーな楽器を演奏されていると思います。

私が演奏している楽器はピアノやキーボードなどの鍵盤楽器です。

ピアノの場合、楽器の名前を言えば皆さんが「あの楽器ね!」と想像して下さるのでどのような楽器なのかということを説明する必要がありません。

グランドピアノやアップライトピアノを弾いたことがない方でも学校などで必ず見たことがあると思いますし、小学校の低学年で鍵盤ハーモニカを演奏すると思いますので鍵盤楽器に触れる機会がこれまでに必ずあったはずです。

ピアノの他にもヴァイオリンやフルートなどの一般的に知られているメジャーな楽器は説明が不要でしょう。演奏したことがなくても教科書やテレビで見たことがあると思います。

しかしメジャーなものばかりではなく、一般的にあまり知られていない楽器も多く存在します。音楽をしている人たちでもよく知らない楽器というものも中にはあります。

今回はあまりメジャーではないバンドネオンという楽器について書いていこうと思います。

バンドネオンとは?

バンドネオンを知らない方はこの名前からどんな楽器を想像されるでしょうか?

バンドはギター、ベース、ドラムというようなロックバンドというイメージでしょうか?ネオンはネオン管を利用した看板などを想像されているでしょうか?

バンドネオンを発明したのはハインリヒ・バンドという人です。もうお気づきですよね!バンドとは発明した人の名前なのです。

1840年代にドイツでバンドさんによって発明されたアコーディオンに似た楽器がバンドネオンなのです。

バンドネオン
バンドネオン


バンドネオンはアコーディオンに似ていますが、コンサーティーナという楽器を元にして作られています。

コンサーティーナ
コンサーティーナ


アコーディオンよりもさらに似ていますよね!コンサーティーナは元々イギリスで生まれた楽器です。小型で持ち運びやすく、旋律も伴奏も奏でられる楽器として多くの国々に広まっていったようです。

ドイツにもこのコンサーティーナは伝わっており、バンドさんはこの楽器を元にして作ったようです。楽器が鳴る仕組みは同じですが、コンサーティーナとバンドネオンは大きさや形に違いがあります。

コンサーティーナはバンドネオンよりも小さく、形は多くが正六角形や正八角形です。バンドネオンの方はコンサーティーナよりも大きく、形は四角形です。重さは7㎏くらいあるそうです。

コンサーティーナよりもバンドネオンの方が複雑な構造になっており、演奏するのもとても難しいそうです。

なぜバンドネオンは難しいのか

バンドネオンは「悪魔が発明した楽器」と呼ばれています。

発明したバンドさんが悪魔のような怖~い人だったという意味ではなく、演奏するのにかなりてこずる楽器という意味です。

何がそんなに難しいのかというとまずキーが音階順に並んでいないらしいのです。(右側に38個、左側に33個。計71個のキーがあります。)規則性があるわけではないようで覚えるのが大変なのだそうです。

たしかに配列を覚えるのは大変そうですが、これだけではまだ悪魔とまでは言えないですよね。

バンドネオンはキーを押すだけでは音は鳴りません。蛇腹を動かして楽器の中に空気を送り込んで左右にあるキーの内側にあるリードを鳴らしています。

蛇腹を動かしながらキーを押していくと音が鳴るのですが、同じキーを押した状態で蛇腹を伸ばしたときと縮めたときではなんと違う音が鳴ってしまうのです。

バンドネオンのキー配列
つまり伸ばしたときの配列と縮めたときの配列の両方を覚えないといけないということです。これが「悪魔が発明した」と言われている部分なのだろうと思います。難しすぎますよね…。

伸ばしたときはこの音だったけど…というような比較する覚え方ではこんがらがって上手くいかないと思うので、ト音記号からヘ音記号に読みかえるような感じで頭を素早く切り替えないといけないのではないかと思います。

アコーディオンとの違い

アコーディオン
アコーディオンってピアノみたいに鍵盤があって蛇腹がある楽器でしょ!バンドネオンとは全然違うじゃんって思われている方もいらっしゃるでしょう。

小学校のときに合奏でアコーディオンを弾いた方も多いのではないかと思います。大きさの違うアコーディオンが音楽室に並んでいましたよね。


鍵盤があるのがアコーディオンだと私も思っていたのですが、実は鍵盤ではなくボタンキーのアコーディオンもあるんだそうです。

ボタンキーのアコーディオン
蛇腹を伸ばしたときと縮めたときに同じ音が出るものもあれば、違う音が出るものもあるそうです。先ほどは書きませんでしたが、バンドネオンも伸ばしたときと縮めたときに同じ音が鳴るものがあるそうです。

アコーディオンは本来左手側にもボタンがついています。しかし学校にあったアコーディオンは蛇腹を動かす動作しかしませんでしたよね!

実はあのアコーディオンは簡単に演奏できるように左手で操作するボタンをなくしてあるんです。これは教育用として開発されたものなのです。

アコーディオンにもバンドネオンにもいろんな種類があるようなので、違いを明確にしろというのはなかなか難しいようです。

しかし演奏スタイルには違いがあります。アコーディオンは肩から下げるようにしますが、バンドネオンは椅子に座って楽器をひざの上に乗せて演奏します。

他に違う点は左右対称かそれとも非対称かというところでしょうか。

バンドネオンは左右のキーの個数は違いますが、同じタイプのキーがついています。アコーディオンの方は右側が鍵盤で左側がボタンというように左右が違うものになっています。(ボタン式のものもボタンの種類が違うようです。)

音にも違いがあります。

アコーディオン

バンドネオン

聴き比べてみていかがでしょうか?同じような楽器ではありますが、音は全く違いますよね。

バンドネオンが活躍するジャンル

タンゴ
バンドネオンが大活躍するジャンルはタンゴです。タンゴは150年くらい前にアルゼンチンの首都ブエノスアイレスで生まれました。

アルゼンチンは長くスペインの植民地でした。19Cにスペインから独立した後、移民を多く受け入れるという政策を国が取ったため、世界中から多くの人が移ってくるようになりました。

いろんな国から来た人達は自国の文化や音楽ももちろん一緒に持ち込んできます。例えばキューバからはハバネラ、アフリカからはアフリカ系のリズム、ヨーロッパからはワルツなどなど。そうしたものがミックスされて出来上がったのがタンゴです。

タンゴは移民たちが作り出したものなのです。元々タンゴは踊りがメインで楽器はただの伴奏という役割だったようです。初めからバンドンネオンが使われていたわけではなく、元々はギターやヴァイオリン、フルートが使われていました。

次第に音楽に注目が集まるようになり楽譜が出版されるようになると、前とは違うこと新しいことしようとする作曲家や演奏家があらわれるようになります。そのような作曲家たちによってタンゴはより洗練され発展していきました。

バンドネオンは今では主役になっていますが、実は途中から使われ始めた楽器だったのです。

バンドネオンは他の音楽ジャンルでは活躍しきれていない楽器だったので、この楽器の音色はとても新鮮に聴こえたと思います。

ドイツで生まれたバンドネオンですので楽器を作る会社もドイツにありました。ヨーロッパではあまり売れなかったため会社の経営は厳しかったようです。

しかし、タンゴが発展しバンドネオンが主役の楽器となり流行してくれたおかげでアルゼンチンからたくさん注文が来るようになりました。アルゼンチン側に楽器の製作過程などを教えなかったようで、ドイツで作って送るという形をずっと続けていました。

元々のバンドネオンをそのまま売っていたわけでなく、タンゴを演奏しやすいように改良を重ねられていったようです。

バンドネオン奏者の小松亮太さんによると第2次世界大戦後、良い楽器が少なくなっていてバンドネオン奏者は困っているんだそうです。

終戦後に楽器ではなく本当は武器を作っているのではないかとソ連軍が疑い、ドイツから資料や道具を持ち去ったというのです。そのため楽器を作ることが困難になってしまい、良い楽器がないということなのだそうです。

他の国にも製作過程を教えていたらこのようなことにはならなかったのかもしれませんね。

バンドネオンの魅力

私が思うバンドネオンの魅力は何といっても音色です。

高音はかなりキツイ音がしますが、低音はまろやかな音がします。空気をどのような速さで送るのか、どのくらいの量を送るのかでも音色が変わるように感じます。

楽器を細かくふるわせることでビブラートをかけられたり、かなり鋭くアクセントをつけたり、スタッカートしたりすることができます。蛇腹をしっかり使うと長く音をキープすることもできるので、かなりいろんな表現が可能な楽器だなと思います。

ピアノの場合、弾くスピード、指先の使い方などによって音色を変えることは可能ですが、驚くほど変えることは残念ながらできません。バンドネオンははっきりとわかるようにニュアンスを変えられる楽器なのではとても羨ましいです!

私がバンドネオンを好きになったのはヨーヨー・マーがタンゴを演奏しているCDを聴いてからです。

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ソニーミュージックエンタテインメント


このアルバムの中の曲は全て好きなのですが、中でも1番好きなのは6曲目のフガータです。この曲は最初チェロが演奏し、その後ヴァイオリン、バンドネオンと、フーガのように重なっていきます。

それぞれの楽器がメインになる部分、伴奏になる部分、打楽器的な役割をする部分、ユニゾンになる部分があり、3分48秒という短い時間の中で目まぐるしく役割を変えながら進んでいきます。

それぞれの楽器の個性がとても良く出ていて、どの楽器も必要で重要なんですよね。是非聴いてみて欲しいです!

このアルバムを全て聴くとバンドネオンの持っているポテンシャルの高さに驚くのではないか思います!

バンドネオン奏者はメジャーな楽器から比べるとかなり少ないですが、国際ピアソラ・コンクールで準優勝した三浦一馬さんが最近では話題になっています。一般的にはまだまだマイナーな楽器ですが、バンドネオンに少しでも興味を持って頂けたら嬉しいです!


The picture of the bandoneon By Tu [CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons.
The picture of the fingering chart By David Ludlow [CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons.

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