ショパンはピアノの曲ばかり書いた作曲家で「ピアノの詩人」とも呼ばれています。ショパンの曲はノクターンやワルツなど多くの曲が知られていますよね。

一般的に知られているピアノ曲がこんなにも多い作曲家はあまりいません。

曲のタイプは大きく分けると2つのタイプに分けられると思います。メロディックな曲とテクニカルな曲の2つです。(メロディックな曲の中にもテクニカルな部分は入っていると思いますが、割合的にどちらが多いかということだと思って下さい。)

ショパンの音楽は比較的歌うようなメロディックな曲が多いと思います。それには活躍していた場所がもしかすると関係あるのかもしれません。

彼は広いホールで演奏活動をしていたのではなく、こぢんまりとしたサロンコンサートで演奏活動をしていました。そのためテクニックを誇示するような曲よりも美しい旋律の曲が多いのではないかと私は思います。

その他にもショパンは体があまり丈夫ではなく、手が大きくなかったというのも理由の1つとしてあると思います。

しかし、テクニカルな曲がないわけではありません。

今回取り上げる「スケルツォ」はどちらかというとテクニカルなタイプの曲だと思います。「スケルツォ」とはどんな曲のことなのか、などに触れながら難易度順について書いていきたいと思います。

「スケルツォ」とは何か


「スケルツォ」とはロマン派の時代に多く作曲された性格的小品と呼ばれる曲の1つです。

性格的小品とは自由な発想で作曲された短い楽曲のことです。ロマン派の時代は自分の思いを表現するということに重きを置いていました。

ロマン派よりも前の古典派時代に多く作曲されたソナタはルールが多く、自分の思いを表現しづらかったため、自由な発想ができる性格的小品と呼ばれる作品が多く作曲されるようになりました。

性格的小品と呼ばれるものは「スケルツォ」の他にも「バラード」、「ノクターン」、「ポロネーズ」、「マズルカ」、「即興曲」、「前奏曲」など、多くあります。

自由な発想の楽曲とはいえ、おおまかなルールがあり、曲の特徴はそれぞれ違います。

例えば「ポロネーズ」と「マズルカ」はポーランドの伝統的な舞踏のリズムを使っていないとそのように呼ぶことはできません。(ポロネーズについては軍隊ポロネーズの記事英雄ポロネーズの記事で書いています。)

「スケルツォ」は日本語に訳すと冗談とか滑稽という意味になります。「スケルツォ」には特に決まりがありませんが、ショパンの「スケルツォ」はテンポの速い3拍子というのが特徴になっています。

ショパンは「スケルツォ」を4曲書いていますが、1番と3番がPresto con fuoco、2番と4番がPrestoとなっており、全てPrestoの指示がしてあるんです。

Prestoとは急速にという意味でかなり速いテンポで弾くことを要求しています。

多くの曲は「ノクターン→夜想曲」や「ワルツ→円舞曲」のように日本語訳で呼ばれていることも多いのですが、「スケルツォ」はイタリア語のままで呼ばれていることがほとんどです。一応、「諧謔曲」(かいぎゃくきょく)という日本語訳があります。

知識として知っている人はいると思いますが、このように呼んでいる人はいないと思います。私は今まで聞いたことがありません。プログラムなどで書かれているのも見たことがありません。

スケルツォは1つの曲として使われていなかった?


実は「スケルツォ」は初めから1つの曲として使われていたわけではありませんでした。1つの曲として「スケルツォ」というタイトルを使用し始めたのはショパンでした。

それ以前はどんな使われ方をしていたのでしょうか?

「スケルツォ」というもの自体を使い始めたのはハイドンだったようです。ハイドンは鍵盤楽器で使い始めたのではなく、弦楽四重奏の楽章の1つとして使いました。

ピアノ曲で使い始めたのはベートーヴェンのようです。ベートーヴェンもハイドンと同じくソナタの中の楽章の1つとして使いました。

ソナタとは3楽章、もしくは4楽章の多楽章の曲です。1、4楽章(3楽章までのものは3楽章)はテンポの速いもの、2楽章はテンポの遅いものというのが基本的なルールです。

4楽章ある曲の3楽章はというと、他の楽章とは少し性格の違うものが置かれていることが多く、「メヌエット」が置かれることが通常の形でした。

ベートーヴェンは通常の形を変化させ、「メヌエット」の代わりに「スケルツォ」を使ったのです。

「メヌエット」とは元々は3拍子のフランス舞踊や曲のことでした。速くも遅くもない、落ち着いたテンポの3拍子に合わせて優雅に踊っていたようですが、次第に曲に合わせて踊ることはなくなり、曲の形式だけが残りました。

このような曲の成り立ちから「メヌエット」は落ち着いたテンポの曲です。

「メヌエット」から「スケルツォ」に変更したということは、よりテンポが速く動きのあるものを3楽章に選んだということになります。

ベートーヴェンがなぜ「スケルツォ」をたくさん使用するようになったのかはよくわかりませんが、最終楽章に入る前に落ち着いた曲を挟むのではなく、ある程度動きをつけて最終楽章と一体化させたいという思いがあったのかもしれません。

ベートーヴェンがピアノ曲で使い始めたものをショパンは楽章の1つとしてではなく、それだけで曲になるように発展させていきました。

「スケルツォ」は冗談や滑稽という意味ですが、曲調から考えるとショパンの場合はその意味に必ずしも当てはまらないのではないかと思います。

ショパン「スケルツォ」全4曲のそれぞれの特徴

ショパンの「スケルツォ」は全部で4曲あり、曲の雰囲気が違いますので、難易度順の前にまずはどんな曲なのかを見ていきましょう。

スケルツォ第1番 Op.20 ロ短調



この曲は1833年頃作曲され、1835年に出版されています。この曲と同じくらいの時期に作曲された有名な曲は「エチュードOp.10-12」(革命)です。

これらの曲が作曲される少し前にショパン自身や祖国ポーランドには変化がありました。

1830年にショパンはポーランドを離れ、ウィーンへ向かっています。彼がポーランドを離れたすぐ後にワルシャワでは大変なことが起こりました。ロシアからの独立をするために市民たちが立ち上がり反乱を起こしたのです。

このようなことはショパンの作曲に直接影響があったかどうかはわかりません。しかし不安な気持ちになったことは間違いないと思います。

この第1番は最初の高音から低音に下りて伸ばされる強烈な不協和音がとにかく印象的です。

これから何が始まるのか身構えさせる和音から急にせわしなく上下へと動き回ります。そうかと思えば少し動きがゆったりする部分が出てきます。しかし、またすぐに動き回るというように動きが激しい曲です。

この曲は全体的に緊張感があり、張りつめた空気を持っています。

途中には思い出に浸るような落ち着いたしっとりとしたメロディーが出てきますが、その後はまた最初の激しい部分に戻り突き進んでいきます。

この曲は完全にテクニカルな曲です。滑稽さはほとんど感じられません。ひたむきに情熱を持って弾いていく必要のある曲だと思います。

スケルツォ第2番 Op.31 変ロ短調



この曲は1837年に作曲されています。この頃ショパンは体調がかなり悪かったようですが、同じ頃にピアノソナタ第2番「葬送行進曲付き」や「ワルツ」など多くの曲を作曲しています。

4曲の「スケルツォ」はどれも知られていると思いますが、最も有名なのはやはりこの2番です。

最初の出だしの3連符の部分が「ところてん」に聴こえるという人もいるようです。どうでしょうか?聴こえますか?

1番はかなり音数の多い曲でしたが、この2番は伸ばしておく音符や間を空ける休符が多いと思います。

伸ばす音符や休符を上手く使うことによって、聴く人にもっと続きが聴いてみたいという期待を持たせていると私は思います。飽きずに聴けるというのが人気の理由かもしれませんね。

1番では「スケルツォ」感があまり感じられないと書きましたが、2番はどうでしょうか?

滑稽とまではいかないまでも「ところてん」部分などに少し面白さが出ていると思います。急激な強弱の変化も面白い部分だと思います。

この曲の中で私が1番好きなところは左手がアルペジオの伴奏に変わり、右手が歌のような旋律になる部分です。


(0:43から再生されます)

他の3曲の「スケルツォ」にもこのような対比の部分が出てきますが、2番が最もバランスが良く素敵だと思います。

「スケルツォ」自体が割とテクニカルな曲なのですが、その中でも2番はメロディックな方だと思います。

スケルツォ第3番 Op.39 嬰ハ短調



この曲は1839年に作曲され、ショパンの愛弟子に献呈されました。ショパンはあまり手が大きくはなかったのですが、愛弟子は大きな手だったようです。

その愛弟子に献呈された曲なのでオクターブの連続が出てくるんでしょうね。

この曲はとてもカッコいい曲なので聴くのは好きですが、私にとっては弾きたくはない曲です。オクターブの連続がこれほど多いと弾くのがしんどいです…

手の大きさによって弾ける人と弾けない人に分かれてしまう曲の1つだと思います。

1番と同じく曲全体は突っ走っていく曲ですが、対比の部分はやはり素敵です。


(1:23から再生されます)

どんなに激しい曲でも途中のメロディーに素敵な部分があると心を掴まれますよね!

スケルツォ第4番 Op.54 ホ長調



この曲は1842年に作曲されました。同じ頃に「英雄ポロネーズ」が作曲されています。

「スケルツォ」はこの4番以外は短調で書かれています。(ずっと短調ではありませんが…)この曲だけが長調で書かれており、演奏時間が最も長いです。

この4番の「スケルツォ」に関しては滑稽さがよく出ていると思います。最初の部分は小さなかわいらしい妖精が飛んだり、跳ねたり、飛び回ったりしているような印象を受けます。

テクニック的にも難しいのですが、表現の上でも難しいので、かなりの難曲だと思います。

この曲が作曲されたころにショパンは社交界に出入りするようになっていました。

この曲の特徴は洗練された優雅さだと思います。社交界での経験が曲に反映されているのかもしれませんね。

ショパン「スケルツォ」の難易度順

それぞれ難しいポイントが違うので難易度順をつけるのは少し難しいのですが、2つのタイプにわけて難易度順をつけてみますね!

【テクニック的な難易度順】

★ 
スケルツォ第2番
速く動くパッセージが少ないのでテクニック的にはそれほど難しくないと思います。


★★
スケルツォ第1番
右手がとにかく動き回ります。速く弾かなければ形にならないので、素早く弾けるように練習しなくてはいけません。


★★★
スケルツォ第3番
手が大きくないと弾きづらい曲です。オクターブを力強く、そして勢いを保って弾くことができればカッコよく仕上がると思います。


★★★★
スケルツォ第4番
場面によって弾き方がコロコロ変わるのでテクニック的に難しい曲です。


【表現としての難易度順】


スケルツォ第1番
テクニック的には難しい曲ですが、指がよく動く人にとっては得意な曲になるかもしれません。バリバリ弾ければある程度の形になると思います。

★★
スケルツォ第3番
テクニック的には大変ですがオクターブの連続などをクリア出来れば、表現としてはそれ程難しくないと思います。

★★★
スケルツォ第2番
テクニック的にはあまり難しくないのですが、表現するのは難しいと思います。左手がアルペジオになって右手がメロディックになるところの表現はなかなか難しいところがあると思います。

(動画0:43~)

★★★★
スケルツォ第4番
テクニック的にも表現的にも難しいのがこの4番です。4曲の中の難易度が高いのは確実に4番です。

(動画0:09~)

この部分の表現が意外と難しいです。上がっていくようにしたいけど、重くなく、でもクレッシェンドしたい…加減を見つけるのが大変です。

「スケルツォ」はどの曲もテクニック的に難しいですが、メロディックな部分とテクニカルな部分が両方入っているので、とても勉強になります。

「スケルツォ」は同じ部分がたくさん出てくるので、譜読みはしやすいと思います。

私個人としては、最も有名な2番をまず勉強するのをオススメしますが、難しくても好みの曲の方が頑張れますし、上手にもなれます。

是非お好きな「スケルツォ」を弾いてみて下さいね。

まとめ

◆スケルツォは性格的小品の1つ
◆スケルツォは日本語に訳すと冗談、滑稽という意味
◆ショパンのスケルツォはテンポの速い3拍子というのが特徴
◆スケルツォというもの自体を使い始めたのはハイドン
◆ピアノ曲で使い始めたのはベートーヴェン
◆発展させて1つの曲にしたのはショパン
◆4曲の中で最も有名なのは2番
◆テクニック的にも表現的にも難しいのは4番



ショパン「スケルツォ」の無料楽譜
  • IMSLP
    第1番Op.20(楽譜リンク)第2番Op.31(楽譜リンク)第3番Op.39(楽譜リンク)第4番Op.54(楽譜リンク)本記事はこれらの楽譜を用いて作成しました。いずれも1879年にブライトコプフ・ウント・ヘルテル社から出版された楽譜です。

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