ピアノを学習する者なら誰しもが弾いてみたいと思う曲のひとつ、ラ・カンパネラ。「鐘」ですね。少し前に、フジコ・ヘミングさんの演奏で一躍有名になりました。しかも、あのリスト作曲!リストといえば超絶技巧の難曲揃いで、多くのピアノ学習者もなかなか弾けない、あるいは弾かせてもらえない作曲家といえるのではないでしょうか。

映画『フジコ・ヘミングの時間』予告編



しかしもはや一般人も知る曲となった名曲中の名曲、弾かずに人生を終えるわけにはいきません(ちょっと大袈裟ですが…)。

■ 目次

ラ・カンパネラの難易度

ラ・カンパネラも例外ではなく難曲で、全音の難易度でもE(上級向け)となっています。

どこまでの完成度を求めるのか、にもよりますが、人前で弾くにはかなりの勇気が必要です。筆者はピアノ歴40ン年の大ベテラン。子供の頃には神童と思われた・・・かもしれなかったのですが大学は別の道に進み、現在しがない会社員をしながら細々と演奏活動をしております。

一時はプロを目指していたプライドあり、そしてプロの友人たちにも聴かれる可能性あり。それに耐えられるよう曲を仕上げるとなると、それなりにまとまった練習時間、あるいは毎日の継続練習が必須なわけですが、アマチュア演奏家にとってそれは至難の業。

ガラスのハート、または豆腐メンタルな筆者が、過酷な状況のなかでこの曲を弾きたい、とお師匠さまに伝えるときのドキドキ。まずはその壁を乗り越えなければ!

楽譜はどうやって入手する?

次の演奏会でこれを弾くぞ!と決心したらまず楽譜。ん?楽譜?なんだか買ったことがあったような・・・。しかし探す時間もないし、意思が変わらないうちにとネット購入(最近、楽器屋さんなどの楽譜コーナーの品揃えが貧弱で、取り寄せが必要だったり、ネット注文の方が早かったりといったことが多いんですよね)。

ネットの場合はいろいろな出版社が楽譜を出しています。ヴァイオリンの編曲も有名ですが、ピアノ向けの編曲だけでもいくつもあるようです。よく作品番号を確認して注文する必要があります。

すぐに弾いてみたい初心者の方にはこういうのがおすすめ!?




筆者が取り組んだのは『パガニーニによる大練習曲S・141の3』です(全音だと『パガニーニ練習曲 第3番(ラ・カンパネラ)』という記載)。

リストの楽譜を買うならブダペスト版、ということですのでこちらを使いました。




そしてこの初稿と言われるのが『パガニーニによる超絶技巧練習曲S・140の3』。これは音数がますます多いので参考まで。




楽譜が届き、休みの日に早速弾いてみます。

ラ・カンパネラの弾き方


さて、まずは全体を眺めて…何ページあるかを確認。ふむふむ、こんなものか…。ちょっと音も出してみましょう。

リスト「パガニーニによる大練習曲第3番「ラ・カンパネラ」嬰ト短調S.141-3」ピアノ楽譜1
有名なこの出だしは問題なく(さすがにオクターヴもこのくらいのテンポなら余裕)。
(動画0:00~0:10)

しかし5小節目から右手の跳躍が・・・。ものすごく距離があります。筆者の手は決して大きくはないため余計に負担がかかります。仕方ないので左手でお手伝いする算段を。この曲をよく知っている方が演奏しているところを見たなら、

「え?左手であの音取るの?へぇ~~~」

とおわかりになるかもしれませんが、音を外して弾くよりはずっとマシ!と信じて、指使いを研究します。
動画0:10~0:19(ただしこの動画ではちゃんと右手で弾いています))


しかししかし、1ページ目の下の方になると早くも左手は低い音域に。

リスト「パガニーニによる大練習曲第3番「ラ・カンパネラ」嬰ト短調S.141-3」ピアノ楽譜2 (動画0:20~0:38)

さらに進んでいくと、両手ともにオクターヴで別々の動きで跳躍!両腕を広げていく場面も。

リスト「パガニーニによる大練習曲第3番「ラ・カンパネラ」嬰ト短調S.141-3」ピアノ楽譜3 (動画3:53~3:57)

そこはもう仕方がない。何度も反復練習(と睡眠学習)で距離感を体に覚え込ませ・・・本番はその音を念じて弾くしかありません。

不安との戦い

なんとかつらい譜読みにも耐え、少しずつ弾けるようになってくると、次に襲ってくる恐怖は身体の痛みと暗譜です。肩凝り腰痛はもちろん、歯を食いしばれば顎が痛くなるし、眠れなくなることもあります。そんなときはまずマッサージへ。


暗譜については、できる!と自己暗示をかける必要がありますが、
「この楽譜の表紙だけでも見えていると安心できるのに・・・」
と言った人もいました(私は中身も見たいです。ただし、この曲の場合は、楽譜を見ていると鍵盤を見る余裕がなくなるので、目玉をあと2つか3つ調達する必要がありますが…)。

まじめに解決法を考えると、これはもうひたすら練習あるのみ!通勤時間にもずっと自分やプロの演奏を聴いて、頭に叩き込みます。できれば楽譜を眺めるというのもよいでしょう(実践はなかなか難しいですけど)。

そしてさらに。ズバリ!レッスンを受けること!!!おそるおそるお師匠さまに連絡します。いえ、本来ならばレッスンは定期的に受けておくべきです。多忙を言い訳に、本番直前しかお師匠さまにお会いしないのはいけません(自戒を込めて)。

久しぶりのレッスン!

まだまだ不安いっぱいのラ・カンパネラを持って、いざレッスンへ。本番以上の緊張のなか一通り弾き終わると、まず感想を言い渡されます。

「あら。面白い指使いね。これはいいわ。外さないもんね。今度私も真似しよう。」

これね、褒められていません。こんな邪道な指使いしちゃってまったく!と内心がっかりされているに違いありません。でも、でも。迫り来る本番はもう目の前。今から修正はムリ!なので、メロディーの聴き方だとか、オクターヴを弾くときの力の抜き方を教えてもらいました。

そうか、力んでいたのね!!!!!(目から鱗)

ピアノを弾く、ということが非日常なため、大きな黒い塊(楽器)に立ち向かうときにはついつい全身に力が入ってしまっているのでした。大きく跳躍したり、手をいっぱいに広げて演奏する必要のあるこの曲、どこかにへんな力が入っていたのではいい演奏にはなり得ません。音色にも影響します。

レッスンおわりにお師匠さまから、『楽しんで弾いていらっしゃい』と暗示をかけていただき、本番までにもうひとがんばりする決意をします。

どこまで宣伝するか

演奏するのが演奏会なのか、発表会なのかにもよりますが、当日あまりにもお客さまが少ないのもなんだかさみしいですよね。人に来てもらうのが大好きな方はバンバン宣伝されますし、プロならチケットが売れないと困りますので(といっても、演奏活動だけで生活が成り立つプロというのはほんのわずかですが)、これまた勇気を振り絞ってSNSに告知します。

すると予想外の反応が…。

「うちの娘もこの曲弾いてます!」
「私も練習してま~す!」

え~。私がこんなに頑張って弾いてるのにそんなにみなさん取り組んでいるの!?

と、思ったら。前述したように、易しい編曲版や連弾でした。ふぅ。今回使用した楽譜の半分もないのもあるみたいですね。

いざ本番!


まずは持ち物チェック。ドレスは持ったか、靴は持ったか、ハンカチは…。はたまた音符の記憶は忘れていないか確認して出発します。

思い切ってこれまでの練習の成果を出し切ろう!とポジティブな気持ちと、音を外さずに弾きたい、という思いが交錯します。そこで悩んでも仕方ないのでできるだけメロディーを追うようにして演奏!

結果、最終ページはやはりだいぶ楽譜にない音が出てしまいましたが、終了直後はアドレナリンが出ていて大満足。この爽快感がたまりません。


この記事を書くにあたってその時の演奏を振り返ってみました(録音を聴くのは本当にツライ作業です。現実を突き付けられ、逃げる場所がありません)。

なんと…。テンポがだいぶゆっくりでした。本番は、緊張から心拍数が平常よりもかなり高くなってしまうので、テンポ感が狂ってしまうのですよね。でも最後の部分はそれなりに(音を外しながらも)盛り上がっていたようです。



いずれにしても、チャレンジしてよかった!自分を褒めたいと思います!(笑)
みなさまもぜひ弾いてみてください!!!



「ラ・カンパネラ」の無料楽譜
  • IMSLP(楽譜リンク
    本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1913年にペータース社から出版されたパブリックドメインの楽譜です。「パガニーニによる大練習曲」全6曲が収録されており、「ラ・カンパネラ」は22ページからになります。

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