※ショパン自筆のサイン

みなさんがお好きなショパン。
若くしてその生涯を終えてしまった偉大すぎる作曲家。
ピアノを学習しようとすれば誰しもが一度は弾いてみたいと憧れる作品群。

そのショパンの作品の中に、なんと連弾曲があることは実はあまり知られていませんよね。

今回、ピアニストの友人からこの曲の紹介を受け、演奏までご一緒することができましたのでご紹介してみようと思います。

孤独になりがちなピアニストの楽しみ…連弾

ピアノは1人、あるいは1台でオーケストラのような演奏効果が得られるといわれる楽器。迫力ある曲でも自由に演奏して楽しむことができます。

しかし時として、弦楽器のようなアンサンブルをしてみたくなったり、誰かと一緒にステージに立ってみたくなることも…。もちろん伴奏もできる楽器ですので、その場合はあらゆるパートナーと共演できるわけですが、プロでもない限り、なかなかそのオファーはきません。

そんな時に手っ取り早いのが連弾。曲は豊富にあります。難易度もいろいろ。好きな作曲家の好きな曲を選びたい放題です。

連弾といってもいろいろな形式があります。1台のピアノを2人で弾いたり3人で弾いたり、最近では、1曲の中でパートを入れ替わったりして曲芸的に演奏しているのも目にします。

連弾のむずかしさとは


連弾の何が難しいか。自分の指がどのくらいまわるのか、というのももちろんなのですが…。

一番気になるのは物理的に狭いこと!いつも弾きやすいように勝手に動きまわっている腕や足、体を伸ばすスペースがありません。その場合は、椅子をこの写真のように縦に置いて距離を縮めたり、腕の高さを変えたり、少し前後に移動して調整する必要があります。

なんと連弾用の椅子も販売されています!(普通はそこまで必要ありませんが)
ピアノ椅子 連弾親子タイプ 甲南 Konan No.3W (黒)
ピアノ椅子 連弾親子タイプ 甲南 Konan No.3W (黒)


もう1つ難しいのはハーモニーの聴き方。ソロで弾く場合は自分のことだけを考えていればよいわけですが、連弾となると、すぐ近くで別の人が動いて、自分が弾いていない音も耳に飛び込んできます。私は普段からよく音を聴いて弾くタイプなので、いつもと違うものが聞えてきただけで頭の中が混乱してしまったりします。これは何度か練習して慣れるしかありません。

家族や仲良しのパートナーと演奏する場合でも少々気を遣うところ、他人と演奏をともにするとなると、それはまた別の緊張もあります。

今回の私のパートナーは割と毛深い男性。普段から仲良くしていただいている、尊敬するピアニストです。恋仲でもなんでもないのですが、ちょっと肌が触れ合うとドキッとしてしまったこともありました(今は慣れて、何とも思わなくました(笑))。

女性同士でも、先輩と一緒だったりすれば最初は遠慮しますが、そうしていると、自分でも、こんなはずじゃないんだけど?と思うほどに弾けなくなってしまったりします。

音域が重なることは度々あるので、お互いの指を指で踏んづけてしまうことはもうしょっちゅうあります。時には爪が当たってひっかき傷ができたり。ここはお互い様なので、あまり気にする必要もないのですが、初めてパートナーを組む場合はある程度一緒に練習する回数を持った方がよさそうです。

ムーアの主題とは

今回取り組んだこの曲はごく一般的な、1台のピアノを2人で演奏する1台4手の作品です。すべての繰り返しを演奏してもだいたい8分半。テーマが、おそらく多くの方がどこかで聞いたことのある『ムーアの主題』なので、とても聴きやすい曲です。

ムーアの主題、と謳ってはいませんが、「ヴェニスの謝肉祭」としていろいろな楽器で演奏されるメロディーです。

(0:22~)

(0:13~)

ムーアという人が編曲して発表したのでこの名前になっていますが、もともとはヴェネチア民謡「愛しいお母さん」だったり、アイルランド民謡として発表されていたり、とにかくポーランドでも親しまれていたテーマだそうです。主題自体はかなりやさしいので、編曲もしやすいのかもしれません。上の動画はなんだか超絶技巧を競っているような曲ですね。


この主題(テーマ)を、少し華やかにしたり、悲しい短調にしたり、短い変奏曲としたのがこの4手のための曲です。

初めて聴いた時は、「あれ、これ本当にショパンの曲?」と思うほどに、なんだか地味というか、単調なように思いました。

練習していくうちに、それぞれのバリエーションの特徴、味がわかってきましたが、それでもちょっと物足りない感じ?聴いているほどに弾きやすいわけでもなく、16歳という若さで作曲され、ずっと出版されていなかった理由も少しわかるような気がしました。つまり、なかなかに弾きにくい、ということです。ピアノ初心者や中級者にはちょっと難しいかもしれません。

パートを決めます

1台4手の連弾では、上のパート(プリモ)がメロディーラインを、下のパート(セコンド)が伴奏的な下支えを担当することが多いです。もちろん途中ではそれが入れ替わるところが出てくる曲が多いのですが、誰と組むかにより、それぞれの持ち味を生かしたパート分けが必要です。

私はどちらかというと、普段からセコンドが得意ですし、相方がブリリアントな音色を持つ演奏家なので、彼にプリモを頼もう!と意気込んでいたのですが…まあプリモの方が少々ややこしい譜面だということで(多くの曲を日々こなさなければならない彼にしたら譜読みが面倒だったのかと推測)、「男性と女性が組む場合は女性がプリモを弾くことが多いし…」とか言ってうまく丸め込まれました。

実際のところ、音色などの特徴に性差はないはずですし(体格差は多少、いえ、かなり出ますが皆さんなんとかカバーして弾いています)、女性がセコンドを弾くケースももちろんあるんですよ!


これはお姉さんと弟さんのDuo。どうしてこのパートなのかはわかりませんけれど。。

いよいよ譜読み

曲が決定するまでは楽譜を買い揃えるのも大変です。特許などの関係で入手困難なものもありますし、お値段もピースなのか全集なのかでバラバラ。また、特にショパンについては、複数の出版社から譜面が出ていてそれぞれ音が全く違っていたりしますので、どれを選ぶのかはなかなか難しい問題かと思います。

今回はこちらを購入(ポーランド音楽出版社)。
ショパン : ムーアの民族的な歌による変奏曲 ニ長調/ポーランド音楽出版社/ピアノ連弾(1台4手)
ショパン : ムーアの民族的な歌による変奏曲 ニ長調/ポーランド音楽出版社/ピアノ連弾(1台4手)

こちらの中に、J.Ekierと書かれた箇所があります。

残念ながらこの曲の譜面は保存状態があまりよくなかったようで、後にいろいろな編者による校正が施されているようです。Ekierといえば今ではショパンコンクールでも使用が奨励されているエキエル版を編集した方ですので、これならいいかと思っていました。

ところが、プリモの一番最後のこちらの箇所(下の動画7:58~)。

速いパッセージ、しかも3度ということで、おそらくこの曲の中で最も弾きにくいところですが、ここが単なる1オクターヴ違いのユニゾンになっている版もありました。それがこちら。
ショパン:ムーアの民謡風な歌による変奏曲 ニ長調(連弾)/ロンド ハ長調(2台ピアノ)/エキエル編/ポーランド音楽出版社/ピアノ連弾(1台ピアノ4手)
ショパン:ムーアの民謡風な歌による変奏曲 ニ長調(連弾)/ロンド ハ長調(2台ピアノ)/エキエル編/ポーランド音楽出版社/ピアノ連弾(1台ピアノ4手)

両方弾いて試してみたのですが、私はどうしても3度の方が好きだったので、そちらで演奏することにしました。相方さんは、「本当にそんなに華やかな曲だったのかなあ?」と最後まで(今でも)言っていますが。たしかに、楽譜がきちんと残っていないとなると、想像も膨らみますね。

バリエーションの弾き方



出だし部分は、セコンドから始まったフレーズをプリモが引き継ぎます。


この動画では、プリモの一番高い音を左手で取っていますが、私はcisを左手の小指で取り、gisまでを左手、その後右手で人差し指→親指→小指としました。

00:51~のところも、同じメロディーをまずプリモが高いところで弾いて、その後に続いてセコンドが2オクターヴ低いところで弾きますので、そのコントラストというか、受け渡しをよく意識するとよいと思います。

00:57~のところが最初のプリモの腕の見せ所。


Leggierissimoと書かれています。音数も多いので、ジャカジャカしないように弾きたいですね。

01:24~
いよいよムーアの主題です。あまり力まず、8分の6拍子に乗って子守唄のように弾いてもいいかもしれません。


01:55~
Var.Ⅰは華やかなプリモの右手のキラキラが目立ちます。しかし実はテーマがプリモの左手のところに書かれています。


これ、実はセコンドの右手とかなり近い音なので、とても弾きにくいのです。


この動画のDuoも、プリモは右手だけで弾いていますよね。実は、プリモの左手の音をセコンドが弾いています。大切なテーマを省略するわけにはいきませんし。こういう工夫も時には必要です。

02:39~
Var.Ⅱは少し元気な感じ。ここもテーマは2人でやり取りします。プリモもセコンドも八分音符の和音が続くので、ひとつひとつの粒はそろった方がよいのですが、全体の音が大きくなりすぎないようにしましょう。一番大切なのはあくまでもテーマです。

03:08~の後半部分は少ししっとりと雰囲気を変えます。繰り返す場合は2回目で少し盛り上げ方を変えてみるなどの変化もつけたいですね。

03:42~Var.Ⅲは短調なので、思い切り悲しい感じを出してみるのもおもしろいかもしれません。全体としては明るい曲なので、こういうところはより大切に。このDuoは、繰り返した後に装飾音を増やしています。ゆっくりしていることもあり、ちょっと長く感じることもあるかもしれないので、私達は繰り返しをカットしました。

04:57~Var.Ⅳはまたプリモが細かくて弾きにくい部分。ただしセコンドもそのプリモに寄り添うように、絶妙のリズム感でサポートが必要です。ちょっと難しければ、テンポは落としてもよいかなと思います。

05:38~Var.Ⅴ
このDuoはしっとり目に弾いていますが、はじめからf(フォルテ)ですし、ヴィルトゥオーゾ風というか、威厳に満ちた感じに弾いてよいのではないでしょうか。ちょっとかっこよく、ですね。

06:56~
Var.Ⅴのおしまいにはたっぷり時間を取って、ここからは終わりまで一気に駆け抜けます。そういえば、譜面にVar.Ⅵとは書かれていませんので、ここからコーダ(終結部分)と捉えてもよいのかもしれません。

Vivace(活発に)、かつleggiero(軽やかに)、なので、気負わずに始めます。

7:30~繰り返しのカッコ2以降は少し盛り上がりたくて、私達はテンポを上げました。f(フォルテ)とp(ピアノ)のコントラストをつけると面白いです。

ムーアのテーマがまた出てきたところで少し落ち着いたら(07:50~)、その、版によって音の違うプリモの歌を一気に歌っておしまいまで!(こちらの動画のDuoは途中テンポを落としていましたが、お好きなように)。きちんと弾けて、最後の和音が揃った時はやった!という爽快感で演奏を終えられます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。だいぶ細かくイメージができたのではないでしょうか?
若い頃の作品ということもあり、演奏する方もあまり悩んだりせずに演奏できそうでしょう?

ショパンにはもう1曲、2台ピアノのために編曲された曲もあります。


しかし2台ピアノとなると、練習する場所の確保なども必要になり、ますます大がかりになってしまいます。まずはこの4手にトライしていただくことをおすすめします!


「ムーアの民俗的な歌による変奏曲」の無料楽譜
  • IMSLP(楽譜リンク
    本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1965年にポーランド音楽出版から出版された楽譜です。

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