この曲はチャイコフスキーの12曲からなるピアノ曲集、「四季」の中の一つで、「白夜」をイメージして作られた曲です。
「白夜」とは太陽が沈まなくなり、一日中昼のような状態が続く、高緯度の地域で起こる現象のことです。
もちろん日本では起きない現象なので、馴染みがないかとは思いますが、「今が昼なのか夜なのかもわからない中で、うっすら靄がかかった沈まぬ太陽がぼんやりと浮いている・・・。」そんな少々気怠い雰囲気をイメージして弾いていただきたい曲です。
テンポの指定はアンダンティーノです。一般的にはアンダンテより少々速くとなっていますが、8分の9拍子のゆったりとした曲ですので、白夜のぼんやりとした情景を表すには、あまりテンポは意識せず、のんびり弾いてもよいかと思います。
難易度は?
全音ピアノピースにこの曲の難易度はありませんが、私の感覚で当てはめてみると、C(中級)といったところでしょうか。
先にも記述した通り、8分の9拍子のゆったりとした曲ですので、比較的難しいメロディやリズムがあるわけではありません。
ツェルニー30番を弾いたことがある或いは弾いているという人であれば、充分弾くことができると思いますよ。
しいて言うならば曲者は20小節目から始まる4分の2拍子の場面でしょうか。
テンポが上がることもさることながら、私自身もこの変拍子に苦戦しました。
それまで8分のリズムから急に4分のリズムに変わる曲を弾いたことがなかったということもあり、頭が追い付かなくなってしまったのです(笑)
前半部分と変拍子後の部分にメリハリをつけて、美しい白夜を表現してみましょう。
美しい白夜の情景を連想して
1小節目は1拍目から6拍目の終わりまでがレガートで繋がり、また7拍目から小節をまたいで3拍目の終わりまで・・・と流れが続いていきます。レガートの切れ目は確実に行いましょう。
7小節目から8小節目にかけては、だんだん音階が上がってき、気持ちが高揚してきますね。しかし、頂点に到達する8小節目の4拍目はピアニッシモになっています。気持ちが高ぶってしまいがちですが、ここはしっかり強弱記号を守りましょう。
9小節目の9拍目は8分休符がついています。思わず適当にあしらってしまいそうですが、次から始まる新しいメロディのために今までのメロディは一旦お終い。
新たな気持ちで仕切りなすためにしっかり指を離して休符を味わいましょう。もちろん、ペダルを踏む足も離すこともお忘れなく!
10小節目からは右手と左手の掛け合いが続きます。
私の場合は10小節目、12小節目は音をクリアにしたかったため、最初はあえてペダルを踏まず、7拍目になってから浅くペダルを踏むようにしていました。
また、このような静かな曲ですので、ペダルの踏みかえにも細心の注意を払いましょう。ガチャガチャとペダルを踏みかえていては、せっかくの白夜の雰囲気が台無しです!
また、11小節目、13小節目の頭の8分休符はしっかり休みます。フッと短く息を吸うとよいと思います。
14小節目からは最初に出てきたメロディが1オクターブ下で始まりますね。だからと言って始まりと同様に弾くのではなく、まるでテノール歌手がお腹から声を出して歌うように、深みを持って弾いていただきたいです。
あくまで強弱記号はピアノであることをお忘れなく!
雰囲気を180度変えて前半部分とメリハリを!
先にもお伝えした通り、20小節目からはテンポも変わり、尚且つ変調もしています。
20小節目、22小節目・・・と同様のリズムが続きますが、ここで注意していただきたいのが、1拍目・2拍目の頭は4分音符だということです!
つまり、次の16分音符を弾くときにもまだ指は押さえたまま、伸ばし続けなければなりません。
同様に左手も付点8分音符になっておりますので、1拍目の最後まで音を伸ばします。
私はこういう「こっちは休符でこっちは伸ばして・・・」というのが大の苦手で、ここの部分を弾くときも当時苦戦して、レッスンの時によく先生に叱られたことを覚えています(泣)
そしてここはパリッとした雰囲気で弾きたいので、あまりペダルを多用しないことをお勧めします。
私の場合は、20小節目、22小節目・・・は左手の伴奏に併せて浅く踏み21小節目、23小節目・・・はペダルを踏みませんでした。
それに加えて、ここはテンポも上がりますし、右手も伴奏を弾かなければならなかったりします。さらに濁らないようにペダルを細かく踏みかえて・・・と考えると頭が混乱してしまいそうなので、そういった意味でもこういった踏み方を強くお勧めします(笑)
また、28小節目の2拍目の4分音符、30小節目の2拍目の4分音符は、こちらの楽譜では小指で弾くように指示がされていますが、薬指で弾きたい!と言う方が多いかと思います。
しかしここは次を弾きやすくするために薬指で弾き、小指に変え指をするという方法をお勧めします。
小指に変え指をすることで、次の小節で薬指をなめらかに使うことができ、とても便利ですよ!
42小節目から44小節目にかけては、だんだんクレッシェンドかつリタルダンドをして、頂上である45小節目に到達します。この曲の中でここの小節からがこの曲の中で唯一のフォルテで弾く場面です。
だからといって力任せなフォルテはこの曲には不似合いです。強く弾くというよりかは、威厳があるように弾くよう心がけましょう。
唯一のフォルテで弾く場面も本当にわずか。49小節目からは徐々にディミヌエンドをしていきます。ここで気を付けたいのが、右手のメロディパートと8分音符の伴奏を一緒に弾くところ。2拍目のラストには16分休符があるですが、そこはしっかり休み、伴奏の8分音符は拍の最後まで鳴らします。
先にも似たようなことを書きましたが、休符というのは結構適当にされてしまうことがあります。今まで休符を意識していなかったかも・・・という人は
休符を、つまり「音が鳴っていない状態を聴く」ことを実践してみていただきたいです。
ピアニッシッシモで静かに幕を・・・
そして、68小節目からは最初の場面に戻ってきましたね。ここからはまた気持ちを切り替えて美しい白夜をイメージしていただきたいです。
前半とほとんど同じなのですが、違うのは84小節目からラストにかけてです。
右手のメロディに左手が応えるようなイメージで、左手は付点4分をしっかりと伸ばし、次の8分音符はふわりと浮かぶように弾いていただきたいです。
しつこいようですが、後の休符はしっかりと休みます!
そして白夜の儚げな太陽を連想するかのように、ピアニッシッシモで静かに静かに幕を閉じます。
まとめ
1、前半部分は白夜の美しさをイメージして弾いてみること!2、転調部分は前半部分と雰囲気を変えてメリハリをつけること!
3、休符はしっかり休んで、音が鳴っていない状態を聴くこと!
いかがでしたか?技巧的な場面はないものの、だからこそ雰囲気で聴かせることのできる曲だと思います。ピアノで表現力を磨くにはうってつけの曲だと思いますので、ぜひ挑戦していただきたいと思います。
「五月の夜(白夜)」の無料楽譜
- IMSLP(楽譜リンク)
本記事はこの楽譜を用いて作成しました。1909年にシューマー社から出版されたパブリックドメインの楽譜です。チャイコフスキーの「四季」全12曲が収録されており、第5曲「五月の夜(白夜)」は21ページ目からになります。
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